リリーとスミレの実技試験
なので、剣神の攻撃スキルは使用しないが剣の腕前は剣神だと思ったのだ。
「私はEランク冒険者のリリー・ヴァリーです。えっと、武器はどんな物でも使用できます。カトレア先生、木の棒か木の剣等は無いですか?」
「えっ? ……」
カトレア先生が小首を傾げていたが、辺りを見回すと遠くに纏められた訓練用の木や大小様々な長さを持つ木が数本合った。
俺はそこまでトコトコ走っていき、手に馴染む背の高さに丁度いい長さと太さの細い枝を選ぶ。
「あっ、この子コエダちゃんみたいに手に馴染むわ。良い感じ。カトレア先生、この木を貸して頂いても良いですか?」
「貴女がその枝を使いたいのなら止めはしないけれど……そんな細い棒切れでは、Sランク冒険者の剣聖でさえ何も出来ないわよ? それに、これは試験なのよ? 本当に良いのね?」
「はい」
俺は先生が居る位置にまでトコトコと走って戻り、木の棒切れを持って身構える。
「では、参ります」
俺はその場から一歩も動かず木の棒を左手で持ち、右手で木の柄を持つようにして抜刀する。
鋭い暴風が起り、一瞬で離れた位置に有る十本の木や的が全て真空の刃により鋭く切り落とされ砕け散った。
更に、後ろに有る訓練用の木と大木が全て斜めに切り落ち砕け散った。
眼に見えるほどの真空の刃を放つつもりはなかったのだが、念の為に壁際と放った直後に的の木を囲うように前面に無詠唱で防壁を張っていて正解だった。
防壁のお陰で、どうにか真空の刃と衝撃は上に逃げたようだ。
まあ、空に見える雲を切り裂いてはいたが……
以前の職であった剣聖の時より、格段に威力が向上していた。
危なかった……防壁を張っていなかったら、その後ろの壁を突き抜けて町や家屋まで破壊していただろう。
それと、ユグドラシルが風の微精霊達や他の微精霊に
「貴方達、余計なことをしないようにね……」
と言って、圧を飛ばしていたので今回は微精霊の悪戯は無かったようだ。
剣神のスキルを使用していなかったが、木の棒を振るっただけで眼に見えるほどの真空の刃になっていたし……
「あれ? ちかっぱ手加減してスキルも使わんかったとに、ちょっと手加減間違えたんやろか」
「リリーちゃん凄いです」
スミレちゃんだけが、拍手して感想を述べていた。
俺は、前面の防壁だけを解除した。
驚愕していたカトレア先生と試験官達だったが、カトレア先生が駆けだした事で我に返ったようだ。
慌てて、砕け散った木と大木を総出で端に寄せ倉庫から訓練用の木を新たに持ってきて立て直していた。
「次は、スミレちゃんの番ね! 頑張って」
「はい」
カトレア先生が帰ってきたので「先生ごめんね」と言うと、「あはは、いいのよ」と言っていたが額に汗が滲み出ていた。
俺はスミレちゃんの剣技を見る為に、再び前面に防壁を張る心構えをする。
勇者になりたてで、殆どスキルは憶えていないが俺は二つのスキルを教えてあげた。
ただ、俺も勇者になりたてで自身でも使用したことはない。
恐らく、俺のように馬鹿げた威力は無いとは思うが威力が不明なのだ。
勘考していると、係の人達により木の的の準備ができたようだ。
カトレア先生が、スミレちゃんに武器を選ばしている。
「貴女は、武器はどれがいい?」
「片手剣を、お願いします」
カトレア先生が、小さな片手剣を渡そうとすると
「そちらの、片手剣がいいです」
と、鉄の片手剣を指さしていた。
「重いと思うけれど、大丈夫?」
「平気です」
そう言って、鉄の片手剣を軽々と片手で持っていた。
恐らく、勇者ではなかった以前では持てなかっただろう。
攻撃スキルは俺が教えたもの以外憶えていないが、勇者のパッシブスキルに筋力を上げるものが有るのだろう。
「私は、リリーちゃんの使徒スミレと申します。では、参りますね」
スミレちゃんは鉄の剣を持ち神経を集中する。そして……
「【【氷撃花吹雪】】」
俺の左にいるユグドラシルが、なぜか光った。
そして、前方に氷の結晶で出来た美しい花吹雪が舞い散り、十本の木が的ごと凍りつき全てが砕け散った。
スキルを放った瞬間に周りに被害が出ないように防壁を張って正解だった。
スミレちゃんが放った勇者のスキルは、どうやら必殺技の一つだったようだ。
俺が防壁を張らなかった地面が凍結して、雪の花が辺り一面に咲き誇っていた。
スミレちゃんが、俺の元に来て笑顔になる。
「スミレちゃん、私の使徒と言うのはちょっと恥ずかしかばい」
「だって、本当に凄く嬉しかったんだもん」
そう言って、スミレちゃんは俺をひょいっと抱き上げて顔を擦り付けてきた。
先生達がまた驚愕し、開いた口が塞がらなくなっている生徒や尻餅も付いて震えている生徒達もいた。
カトレアは思た――今回の生徒は、私達の予想を遥かに超えている生徒が居るようね……気合を入れなくちゃ。
「次は、魔法の試験よ」
カトレア先生の号令に従いエレモフィラ君を先頭に、一人ずつが前に出て魔法を見せる。
エレモフィラ君は、低級炎魔法であるファイアーダガーを詠唱する事で放つ事ができた。
しかし、小さい……爪楊枝位の火が、的に当たって的を燃やすだけだった。
それに比べ、シルクの魔法は威力も大きさも凄まじかった。
比べる対象が、妖精の王女では流石に酷かもしれない。
次にエレモフィラ君は、長文詠唱する事で身体強化魔法を使い筋力向上が可能だった。
しかし、あれでも身体強化だろうか? 力が上がったように感じられない程、脆弱な身体強化だった。
ただ、他の先生達が担当している受験生は、魔法を放てたとしても的に行く事すらなく消滅していた。
いや、魔法を具現化することすら出来ずにいる。
アザレアちゃんは、火、氷、水、風、地の下級属性魔法を落ち着いて詠唱する事でそれら全てを使えた。
アザレアちゃんは、エルフの血筋が混じっているだけあって魔法が得意なようだ。
しかし、エレモフィラ君よりは威力があるようには見えるが、やはりシルクと比べると小さく威力がない。
でも、俺とスミレちゃんを含めなかったらかなりの魔法の使い手なのだろう。
バレリアン君は、風属性魔法の初級攻撃魔法と身体強化魔法で素早さとジャンプ力の向上が可能だった。
ルピナス君は、地属性魔法の初級攻撃魔法と身体強化魔法で腕力向上と防御力の向上が可能だった。
ブルメリアちゃんは、地属性魔法の初級攻撃魔法と身体強化魔法で腕力と素早さの向上が可能だった。
しかし、誰もが小さく威力もなく戦闘に使用できる魔法ではなかった。
ここで、一つの疑問が生まれた。
アザレアちゃん以外……いや、アザレアちゃんも含めた方が良いかもしれない。
誰もの魔法が、使い物にならないほど弱々しいものだったのだ。
女神サラがこの世界の事について説明をして頂いた時――
「一部の者が、魔法やスキルを使用可能です」
と言っていた。
しかし俺はフォレストムーン王国に来てからこの学園に来るまで、魔法を使用している人を見たことがない。
騎士達でさえ魔法を使用せずに戦っていた。
いや、騎士長は身体強化を使用していたかもしれないが……
つまり一部の者とは、生まれ育った環境にもよるが、裕福な貴族など魔法を学べる環境の者であって、普通に生活する者は魔法を使用できないということなのだろう。
生活魔法もなく、未だに桶に水を入れて身体を拭いたり水浴びをしているということから魔法が一般的ではない事が垣間見られる。
勘考していると、俺とスミレちゃんの番がやってきた。
なので俺は、職を真の大賢者に変更した。
「リリーちゃん、先に魔法を披露しても良いかな?」
「いいよ」
スミレちゃんは、天に指を差してから詠唱しだした。
「天空を統べる雷の神よ。我が行く手を阻む木々を、光りの花で舞い散らすがいい。我が契約に遵い力を示せ!」
そして、ターゲットの木に目がけて手を振り下ろして魔法スキルを口にする。
俺も少し早くスミレちゃんに聞こえるようにシールドを展開させる。
「【【グレートダブルシールド】】」
【システム エクストラダブルシールドが展開されました】
またもユグドラシルが光り、その直後スミレちゃんは魔法を放った。
「【【雷神雷花】】」
天より雷の光が複数差すと木が跡形もなく消え去り、辺りに爆風と破片が散り雷花の光りが防壁で囲まれている地面を覆った。
この勇者の魔法も、どうやら必殺技の一つのようだ。
光と衝撃の直ぐ後に、雷の轟音が辺りに響き渡ったが防壁を張っているので防壁を張っていない地面以外は無傷のようだ。
カトレア先生や試験官達まで、今度は開いた口が塞がらず暫く放心状態であった。
それにしても、なぜユグドラシルが光ったのだろう?
「それは、リリー様の使徒であるスミレ様のスキル威力をユグの能力が向上させた為です」
「えっ? ユグちゃんの能力?」
「はい。私は、花の名前が付いたスキルの魔力消費を抑え、威力を自身の意思に関係なく向上させてしてしまうのです」
「成る程ね、だからまだ初心者勇者であるスミレちゃんのスキルが、あそこまでの威力になったのね……」
ユグドラシルの説明を聞いていると、試験官が的の方に行こうとしていたので防壁を解除した。
それにしても自身の属性とは無関係なのに、花という言葉があるスキルの効果を向上させるとは……シルクが、珍しいとは言っていたが確かにね。
ユグドラシルが、誇らしげな顔をして「嬉しい」という感情が伝わってきた。
ユグドラシルの事を勘考していると、木の的の準備ができたようだ。
「次は私の番ね」
俺は真の大賢者に職を変更した事で、様々な極大魔法や古の魔法さえも使用可能だ。
「リリーちゃん魔法防壁ありがとう。私でこの威力だから、リリーちゃんは凄く手加減しないと危ないよね?」
「うん、分かった。一応辺りに被害が出ない様に、エクストラダブルシールドかけておくね」
スミレちゃんと話をしていると、カトレア先生が俺の行く手を遮った。
「リ、リリーちゃん? ちょっ、ちょっと待って……」
「え? カトレア先生、何ですか?」
「さっきの上位魔法防壁といい、それにエクストラダブルシールドって何?」
「あっ! えーと、ですね……私の魔法は、知り合いによるとですね。最低魔法の、ファイアーダガーがファイアーストーム以上の威力何ですって? でも、ファイアーストームも使えるのに、今まで使う機会が無かったの。だから、ここでエクストラダブルシールドを張れば平気かなと思って。なので……」
俺が説明を続けようとすると、カトレア先生が
「リリーちゃんは、魔法試験の中止……いえ禁止にします」
「エェェェェェェ! なして?」
「ファイアーストームは最上級魔法の一つです。賢者でさえ使える人は限られる特別な魔法なんですよ?」
「でもエクストラダブルシールドを張れば、たぶんブルーインフェルノ、ブループロミネンス、ブルーワールを放っても周りに被害が出ずに使用出来ると思いますよ? それに爆裂魔法系のホーリーフレア、ヘブンズゲートエクスプロージョンも使用できるし、シューティングスター、メテオシャワーなど様々な魔法が有るので凄く楽しみで迷いますぅ」
「リリーちゃん、私、古の極大魔法見たいです」
スミレちゃんだけが、俺に期待の眼を向けていた。
「二人共冗談は止めて! A級冒険者の私ですら聞いた事も無い魔法何て……。確かに、私は魔法の専門家ではないから分からないけれど……リリーちゃんが言葉にしていた魔法って、神話級の火魔法や爆裂魔法ではないの? だって、スミレちゃんの魔法も書物で記されている勇者の雷魔法で異常な威力だったし……」
カトレア先生の必死な説明に、楽しみにしていた限界突破で取得した魔法を放つのをやめる事にした。
「そっかー、残念だけど止めるね」
俺は、真の大賢者になった事で様々な限界突破魔法を覚えた。
限界突破魔法を確かめてみたかったが、あれだけ必死に止められたら仕方が無い。
「リリーちゃんの推薦状が、国王様直筆の推薦状と、冒険者ギルド特級推薦の二つの推薦が有る理由と、その二つの推薦状に示されている能力を示す色が金色だった事がよく分かりました……。と言いますか、なぜリリーちゃんの能力が金色を示す推薦状を書いているのに冒険者ランクがEのままなのよ。冒険者ギルドのギルドマスターの基準が可笑しいんじゃない?」
カトレア先生が激しい勢いで俺に言ってきたので、少しギルドマスターを少し立ててあげることにした。
「えっと、そこは私がフロックスギルドマスターに頼んでEランクにして貰ったので……。私、魔物とかの知識とか全然ないですし。いきなりA~Cの好きなランク選べと言われてもね?」
今度はカトレア先生が、スミレちゃんの方を向いた。
「それに、どうして王国の推薦状まで、スミレちゃんの能力度合いを示した色が青なのよ? 二人の推薦状変じゃないの?」
「えっと、その推薦状は宰相が発行してくれて……。あっ! 何でもありません」
スミレちゃんは、少し呟いて下を向き黙り込んだ。
「はぁー……まあ良いわ」
カトレア先生が疲れ切った表情で、担当した受験生の前に立つ。
「実技試験の、結果をお伝えします。今回私が担当した人達は優秀で不合格者は無しよ。皆、後ろの掲示板に受験番号が書かれているわ。そこに書かれた寮に各自行って下さいね」
各生徒が寮に荷物を置きに行く中、俺はカトレア先生を呼び止めて確認する。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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アイビー『リリー様! ぽふ!』
リリー「アイビー、どうしたの?」
シルク「アイビー! リリーのスカートに、頭隠すな! エロ犬!」
リリー「シルク? アイビーどうして怯えているの?」
シルク「アイビーは、雷が怖いのよ……っていうか、リリー? 貴女、少しは
恥ずかしがりなさいよね」
リリー「アイビー、尻尾抱いて丸まってる。可愛い」
シルク「そこの、変態幼女! スカートを、捲り上げるな!」
変態幼女とエロ犬に、苦労するシルクであった。
アイビー『僕、犬じゃないもん』




