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フォレストムーン王国へ帰ろう

 俺達が地上に出ると、ちょうどお昼位だったので、お昼を食べてからフォレストムーン王国に戻る事にした。



「んぅーん、やっと外に出られたね。空気が美味しいわ」



 大洞窟を出て空を見上げると、フワフワとした白い雲と暖かい日差しが心地良かった。



「リリー、普通こんなに早く外に出られないわよ。通常の冒険者なら準備万端の状態でパーティーそれぞれの役割をこなし、慎重に魔物を少しずつ討伐しながら、時には野営して目的の魔物を討伐し、持ち帰る事が可能な素材を厳選し、それぞれがその素材を背負ったりしてやっとの思いでこの大洞窟を出るはずなの。それが……行きも感じたけれど、道は迷わないし片手間に魔物を討伐しつつ、私達を服の中に入れたり、片方の手で持ったりして常に走って移動……おまけに、帰りはスノー様に騎乗して槍を振り回し爆走……。たぶんだけれど、行き帰り合わせると一週間以上はかかる道のりよ。リリーの出鱈目な魔物討伐の早さと、スノー様の爆走が異常すぎるのよ」

「そうかな? 私は、スノーとアイビーの功績が一番だと思うわ。モフモフが私に力を貸してくれたのよ。スノー、地上までお疲れ様ありがとね」

「うにゃん」



 スノーを見ると爆走後であるのに、息が全く乱れていなかった。

 帰り道を見渡すと、昨日のスノーの爆走で出来た痕が残っていた。

 俺はそれを舗装するように、近辺に土魔法をかけてみた。



「うん、うん。この魔法なら地面が綺麗に平らになるから、馬車で来てもお尻痛くならないかな」

「リリー、貴女器用ね。土魔法にこんな使い方が有ったなんて……」

「憶えると簡単よ。シルクも今度教えてあげるね」

「……こんなの絶対無理。憶えられたとしても、リリーの周辺を整えるだけで魔力が尽きるわよ。それに、精霊の力を借りたとしても難しいと思うわ」

「そうなんだ……私、変梃かな?」

「変梃って……女神だからでしょ?」



 シルクの言葉で、ユグドラシルのことを思い出した。

 魔力は、安定したのだろうか? もし安定しているのなら、折角なので一緒に食事をしたい。



「シルク、ユグちゃん魔力安定したかな? どう思う?」

「私に聞かれても……リリー、自身の胸に手を当ててみて」

「うん……」

「感じない? 精霊の鼓動。私は風精霊の鼓動を感じるわよ」



 自身の胸の奥底に感じる、自身とは別の鼓動のような感覚……感覚を探っていくと、俺の魔力とは違う感覚が僅かに不整脈のように感じられる。

 やはり、急激な進化は微精霊であったユグドラシルには負担が大きかったようだ。

 しかし、この様子であれば明日には回復するだろう。

 それとなく、ユグドラシルの寝息が聞こえてくるような気がする。

 ならば、寝かせてあげるのが一番である。



「ユグちゃん、今はまだ眠っているみたい」

「そう。なら、呼び出さずに静かにしてあげると良いわ」

「シルク、ありがと。そうするね」



 俺はそう言ってお昼の準備をする。

 先ほどまで、俺の膝の上で眠っていたアイビーも今は起きて元気になったようだ。

 それに、ここまで爆走してくれたスノーも労ってあげないとね。

 俺達は暖かい日差しの中、食事を楽しんだ。

 帰りもできるだけ早く宿屋に帰りたいので、全く疲れている様子が見えないスノーに高速移動をお願いして爆走する事にした。しかし、その前に準備を……



「シルク、今日はゴーレム戦で疲れたね」

「そうね。私もリリーの空言(ソラゴト)……別の意味で疲れたわ」



 俺がある準備をするために、シルクを言葉巧みに誘導しようとしたら、シルクが空言(ソラゴト)と言い出した。

 しかし、あれは俺が勢いで言った言葉だ。

 それに【レーヴァティン】や【グングニール】は持っていないが、それにも劣らない武器はある。

 今は権限の問題で使用できないが、完全に空言(ソラゴト)とは言い切れない。

 実際俺は鉄の中古の武器で、未知の鉱石の生命体であった澱みの巨大ゴーレムをいとも簡単に貫いた。

 もし、ミスリルやアダマンタイト、オリハルコン等伝説の素材で出来た武器を使用したらどうなるのだろう。


 この世界の聖剣――ロリコンヤロウの武器――俺は、この世界を救う救世主ではない。

 女神サラに身体(ウツワ)を借りたのは、やむを得ない事情が有ったからだ。

 なので、返すまでは出来る限り平和に暮らしたいだけなのだ。

 しかし、自身が平和に暮らす為には、偽善かもしれないが周りに困っている人がいて俺自身で助けることが出来るので有れば手を差し伸べてしまう。

 モフモフ好きな俺としては、やはり非情にはなれない。

 いや、今はそんなことを考えて悩むよりシルク達とフォレストムーン王国に戻ろう。



「スノー、また大変だろうけれど王国までいいかな?」

「うにゃん」



 スノーは俺の足下に来ると、騎乗できる大きさになってくれた。



「スノー、いつもありがと」

「うにゃん」



 スノーが嬉しそうな声音で、答えてくれた。

 もしかして、スノー……俺達の世界でも、車を運転すると性格が変わる人がいるけれどまさかね……。

 スノーが双眸をキラキラ? ギラギラ? させて走り出した。

 ならば、期待に応えてあげないとね。

 それに、筒状の防壁を作りつつ後ろ側は土魔法で舗装すれば、周りに被害が出ずに安全で舗装された良い道が出来上がるので一石二鳥である。

 序でに、取り残していた木々を回収すれば完璧。それに、あの計画も実行せねば……



「じゃあ、早く宿でゆっくりしたいから、王国まで最速でスノーに走ってもらうね」

「うん。リリーに任せるわ」

「じゃあシルクは胸元で、王国に着くまで眠っていると良いよ」

「リリー、ありがとう。そうさせてもらうわ」



 シルクに疲れているだろうからと、上手く誘導できた。チャンスだ。

 シルクを、胸元の奥の方にインする。そして、アイビーにも声をかける。



「アイビーも、眠ってて良いからね」

「クウーン」

『ありがとうございます』



 これで、準備は万端だ。そして、あの言葉をシルクに聞こえないように『小さく』叫ぶ! 



『「アイビー、ジャストォー・イーン!」』



 シルクに気づかれない様に、姫ロリ服セット(薄紫色)のスカートの中にアイビーを静かに入れて小さく呟く。



「モフモフー、ハッピィー・フェスティバール!」

「……変態幼女さん。何しているの?」

「……モフモフを、少々」



 シルクにバレた……。なぜだ? さっきまで寝息を立てていた筈なのだが。



「はぁー……もういいわ。でも、知らない人の前では絶対に控えなさい! いいわね?」

「はぁーい、シルク先生ー」



 シルクはモゾモゾとまた胸元の奥に入って行った。

 よし、シルク先生の許可がおりた。

 アイビーを起こさない様に、優しくモフモフしながら高速移動開始! 



「スノー、王国まで高速移動お願いね」

「うにゃん!」



 そう言えば、俺は他にも多種の職業を持っている。

 賢者の魔法だけに、頼らなくてもいい。

 それに、出来ればスノーが普通に走っても耐えられる道にしたい。

 職業もグレードアップしたことで、多種の職業のスキルを同時使用して確認したい。

 賢者の魔法も混合できたのだから、他の職業のスキルと混合出来るかもしれない。

 俺は舗装された道を、土魔法と絶級から神級建築士になった能力で道路を作成しつつ、瞬時に賢者から真の大賢者になった強化魔法と防壁魔法を舗装された道路に永続付与を行う混合スキルと混合魔法を行った。



「よし、うまくいきそうね」



 前方に筒状の防壁を構築し、スノーのソニックブームを防止して、ソニックブームで起こった衝撃を吸収。そして行きに回収出来なかった木々もせっせと収納していき、片手間に道を舗装し道路を構築。更に、永続魔法を付与。その工程を、何度も繰り返し進んでいく。暫くすると、シルクが胸元から顔を出してきた。

 アイビーも起きたようで、薄紫色のスカートから顔だけヒョコッと出した。



「本当にリリーとスノー様まで、出鱈目(デタラメ)ね。この速さで風の抵抗受けないし、倒れている木々はリリーが収納してるし、道は見る見るうちに修復され舗装された道になっていくし、舗装された道はよく分からない魔力を帯びて強化されているし……」

「シルク、このアイテムボックスは便利よ。シルクにも、分けてあげたい位よ」

「リリー、私は遠慮するわよ。小さい収納魔法は習得しているから、ドレスを入れるだけで十分よ。それに【私凄く綺麗で、可憐で小さくて可愛い妖精でしょ】間違えてアイテムボックスに入ってしまったら、悲しむ男性が堪えないじゃない」

「あーね」

「ワン、クウーン ワオーン?」

『シルク、あまり大げさに言わない方が良いよ?』


「何よ、リリー? その空返事は! それにバカ犬は、リリーのスカートから顔だけだして、腹が立つ言い方するわね! 変態犬」

「ワン、ワオーン」

『僕、狼だもん』


「うっさい、バカ犬!」



 シルクとアイビーの仲良しコンビは健在なようだ。

 スノーの高速移動のお蔭で、夕方近くにフォレストムーン王国まで到着できそうだ。

 スノーに乗って走いると遠くで検問が見えて来た。

 スノーのスピードを落として貰って、検問の前に行く。

 すると、中隊長と騎士達が走ってきて跪いた。



「女神リリー様、御無事で何よりです」

「中隊長に騎士の皆様、ただいま戻りました。南西大洞窟の最下層まで行って、全ての魔物を討伐しました。それに巨大なゴーレムも倒したので、大洞窟内の魔物の状態も、元に戻りました。ですので、もう心配しなくても良いですよ。この道を、騎士団の皆様で守って頂いて、ありがと」



 俺はそう言って中隊長達を労い、有り余っているオーク肉をふんだんに使ったオーク肉料理を作ってあげた。

 すると、中隊長が部下に指示を出し俺の元に来る。



「女神リリー様、現在城で騎士団総長が騎士団を再編成中です。ですので、今早馬で向かわせました」

「私が知らせに行かなくて良かったの?」

「女神リリー様の、お手を煩わせる訳には参りません。それに、これも我ら騎士団の勤めでございます故」

「うん、じゃーお任せするね」

「はい」



 中隊長と騎士達が佇まいを正し、全員の目線が俺を見据える。そして、



「「「この度は我が国の危機を救って頂いたことを心より感謝致します」」」



 と言った。

 俺達は、中隊長と騎士達が見送る中フォレストムーン王国に向かった。

 スノーが爆走する前に、王国の門にが見えてきた。

 なので、スノーに西門の少し手前でスピードを落とし近づいて行くと西門の歩哨達が見えた。

 手を振ると、歩哨達も手を振ってくれた。

 俺は歩哨達に今日の夜食にでもどうぞと言って、さっき作ったオーク肉料理を取り出した。


 すると、大の大人が泣いて喜び【女神様有難う御座います】と言ってきた。

 俺は歩哨達に南西大洞窟の調査は終わり、検問の中隊長達にも伝えた事。

 最下層の巨大なゴーレムを倒した事で、通常の状態に戻った事を伝えた。

 すると、早馬で城に向かっていた筈の騎士がこちらに向かって走って来た。

 どうやら、スノーが途中で追い越していたようだ。



「ハァー、ハァー、ハァー。女神リリー様、早馬を追い越すとは恐れ入りました。今から、城に向かいます」

「知らない間に、追い越してごめんね」



 俺はそう言って、回復魔法をかけてあげた。



「女神リリー様、恐れ入ります」



 そう言って、早馬に乗った騎士は城に向かって走り出した。

 早馬に乗った騎士を見送り、西門の歩哨達に別れを告げようと空を見ると夕日になっていた。

 なので、西門の歩哨に明日改めて城に報告する事を伝えてからスノーに乗って宿屋に戻る事にした。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

リリー「シルクって王女様なのに、お風呂一人で入れるよね?」

シルク「それねー、初めは妖精メイド達が洗ってくれていたわよ。でも、アイビー

    をパパが引き取ってから妖精メイドがアイビーの事を洗っているのを見て

    いると、なぜかモヤモヤしてきて……それで、自身でも洗えるように

    なったの。自身でも洗えるようになってから、アイビーも私が一緒に

    入って洗うようになったわ」

リリー「成る程ねー」

    シルクのことを、応援しようと思うリリーであった。

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