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南西の大洞窟調査1

 でもね、ちょっと自然に対する被害がね……と、熟々勘考させられたリリーであった。

 爆走したスノーと、皆の協力【アイビーが震えて俺に抱きつき、シルクが気絶して騒がなかった事】も有り予想していたよりかなり早く【自然の木々の尊い犠牲もあったが】南西の大洞窟に着く事ができた。

 俺は来た道を振り返り、手を合わせる。



「手と手を合わせて……なむー」



 そう言って、黙祷を捧げた――思わず口走ったのはご愛敬です。と、心で訴えつつであるが……



「木の精霊ちゃん達、ごめんね。後でスノーに、めっ! って言っておくからね」



 俺がそう呟くと、『め、め、滅相も御座いません。あのお方を、お叱りにならないで下さい』と子供達の震える様な声音が聞こえた気がした。

 あれ? もしかして、スノー精霊達に恐れられている? 



「こんなにも、可愛いのにね?」

「うにゃん?」

「スノー、ここまで走ってきてくれて本当に感謝するわ。ありがとっ。でもね、もう少し周りに気をつけてあげてね。ほら、木々が大変なことになちゃっているもの。木の精霊ちゃん達には、私が謝っておいたから」

「リリー様、申し訳ございません。うにゃん」

「ううん、いいの。私も対策を考えるからね」

「うにゃん」



 微精霊達が震えるような気配を不思議に感じつつ、俺はアイビーの上で気絶していたシルクを起こし、アイビーをスノーの上から降ろした。

 すると、スノーが元の大きさになったので美味しいミルクを与え労うことにした。

 アイテムボックスから、スノー専用の器とアイビー専用の器を出して、そこに俺のスキルで上質化した美味しいミルクを与える。



「スノー、お疲れ様。美味しいミルクたんとお飲み」

「うにゃん」

「シルクとアイビーもお疲れ様。アイビーもミルクで良いかな?」

「ワン、ワオーン」

『リリー様、ありがとうございます』



 スノーとアイビーが、ミルクを飲んでいる姿を見つめていると思わず言葉が出てしまう。



「はぁうー、スノーもアイビーもペロペロ愛らしかー。いつまでも、見ていられるばい」



 動画サイトでも動物が食べたり飲んだりしているシーンがよく有るが、今がまさにそのシーンだ。

 元の世界でも感じた事だが、日頃職場や対人関係であった嫌なことや苦しいことも、このような光景を見ていると癒やされて全て忘れ去ってしまう。

 この世界に来てからは――毎日が新鮮で本当に楽しい日々の連続だ。

 でも、どんな時でも癒やしは本当に良い物だと熟々思う。

 可愛い動物達は、その存在だけでヒーリング効果が有るのかもしれない。

 俺なら、この至福の時を二十四時間は余裕で見ていられる自信がある。

 ……トイレには、行くけれどね。でも。その時は一緒に連れていけばいい。



「ふにゃー」



 自然と口元が緩んでしまう。口を開けて見ていたら、思わず涎が……

 あれ? 誰か忘れているような……首を傾けるとスノー達の後ろに、ミルクを飲みたそうにしている小さなものと目が合った。

 あっ……完全に忘れていた。シルクも気絶していたとはいえ、労ってあげないとね。



「シルクは飲み物、何が良かね?」

「リリー、やっと気づいてくれたのね。幸せそうにしていたから、声かけられらなくて。そうね……」



 シルクが飲み物を見ていたのに、自制心が働いたなんて……あっ! そうか。食べ物じゃなかったからか。



「えっと……シルク食べたい物もある?」



 俺は小首を傾けて、皆飲み物を飲んでいる時にシルクも食べ物は遠慮してしまうかな? と言う気持ちで尋ねてみた。



「リリー、私食べたい。いーっぱい、食べたいわ! フルーツタルトとクッキーを大皿に天こ盛りで果物はマシマシね。パンケーキも、別の大皿で蜂蜜と数種類のジャムをマシマシでお願い。それに、果汁ジュースとロイヤルミルクティーを私専用ではなくて、普通の人達が飲む大きなコップでマシマシスレスレで……」

「シルク、今の呪文? でも、今からそんなに食べたり飲んだりするとお腹チャプチャプになって洞窟内の戦闘に差し支えるかも?」

「チャプチャプって……リリー、寧ろ腹が減ったらなんちゃらよ」

「シルクの場合は、腹が減っては戦が出来ぬと言うことかな? うーん……うん、分かったわ」



 シルクの未曾有のブラックホールのようなお腹なら、たぶん平気かな? 

 俺はそう思うことにして、シルクのためにフルーツタルトやクッキー、パンケーキ、それに、果汁ジュースとロイヤルミルクティーをふんだんに振る舞った。

 レジャーシートのような大きめの布に、目一杯広げた大量のデザートはまるで今から大食い大会が始まるのかと思わせる一齣であった。

 シルクが多量のデザートを食べだしたので、スノーとアイビーにも軽い食事を与え俺も少し食べることにした。


 いくらワールドマップで正確な最下層まで最短で行ける道のりが分かっても、初めての大洞窟である。予想とは、違うかもしれない。

 魔物の位置が正確に分かるレーダーが有っても、大洞窟内ではやはり何が起こるか分からないのだ。

 それに、俺が先頭に立って全ての罠を自ら受け、何をされても無傷で大洞窟内で、有りと有らゆる危機的状態が皆無だとしてもだ……不安要素って何だろう? 


 いやいや、スノー達の事が心配である。

 シルクとアイビーは、知見する事で進化する。その事を勘考し、連れてきた訳である。

 スノーの知識も、この大洞窟の攻略に必要不可欠である。

 しかし、一番はスノーとアイビーが可愛いので一緒に連れていきたかった。が、本音である。つまり、己の欲望が全てだったと……。



 ポムポム、プニプニ



「ひゃっ!」



 スノーとアイビーが、シートの上で女の子座りをしてデザートを食べながら勘考していた俺を前足で現実世界へと引き戻してくれた。

 でも、その触れている所はまだ主張するほどでもない膨らみだからね。

 少しだけ、ビクッとなってしまった。

 まあ、二匹の体躯からして前足の届く場所がそこなのだけれどね……。

 俺達は食べ終わり、南西の大洞窟の中に入ると早速ゴブリンとオークの洗礼を受けた。

 シルクが魔物を指さし、



「リリー、オークとゴブリンよ」

「ふぇ? シルク、どうしたの?」

「ちょっと、リリー?」



 俺は、スノーの鼻にくっ付いていた食べ屑を拭き取っている最中だった。

 実は、簡易レーダーで魔物の位置は把握していたがシルク達の実力が知りたかったのである。

 それに、何か有ったとしてもその瞬間に魔物の攻撃を防げば良い。

 つまり、お惚け幼女を演じたわけである。



「もぉー、リリーは……仕方がないわね。森を守護する風の精霊よ、我は妖精の王女シルク、我が命に従い力を示せ! 風の刃で幽閉し、切り裂き滅せよ! ウィンド プリズン カッター!」



 グガガガ! グオー! グァー……



 シルクは風の精霊に力を借り、オークを風で切り裂く檻に閉じ込め倒した。

 すると、アイビーもシルクに連携するように駆け出す。



「ワン、ワン、ワオーン」

『シルク、ゴブリンは僕にまかせて』



 ギャギャギャー! ゴギッ! グフ……



 アイビーがゴブリンの首筋に噛みつき、重力を操る力を駆使して首を折り倒した。



「アイビー、まだまだ来るわ。連携して倒すわよ」

「ワン、ワン」

『シルク、了解』



 数体のゴブリンとオークが、アイビーとシルクを目掛け襲いかかってくる。

 しかし、そのゴブリンとオークはアイビーに上手く誘導されていた。

 恐らく、自身が囮になるだけではなく重力による魔力誘導も駆使しての事だろう。

 そして、誘導されたゴブリンとオークは後方で詠唱し終わったシルクが魔法を次々と直撃させ倒していった。

 アイビーが前衛になり牽制しつつ、シルクが後衛で魔法攻撃を行うという見事な連携攻撃だった。



「二人とも、凄ーい」



 プニ、プニ、プニ



 俺はスノーを抱いて、両手でスノーの肉球で拍手するように、座ってシルク達を応援していた。

 数体のゴブリンやオークなら、シルクとアイビーだけで余裕で倒せるようだ。

 しかし、次はシルクとアイビーだけでは難しいだろう……通路の奥にある開けた場所に、溢れる牙蝙蝠と大鼠とゴブリンとオークの大群が蠢いていた。

 異常な光景で、数える気力すら生まれない状態だった。

 シルクが眼前の状況に震えだす。



「何あれ? 気持ちが悪いくらい群がっている魔物」

「確かに、一ヶ所に集まり過ぎているね」

「リリー。私可愛いから、見つかったら食べられちゃうわ」



 チラっとシルクが俺を見ている。

 しかし、ここまで走って乗せてくれたスノーの肉球を、マッサージしているので俺は忙しい。



「はぁうー、スノーの肉球をプニプニして、マッサージかーらーのーモフモフー。アイビーも、一緒にモフモフー」



 アイビーも一緒に抱きしめ、モフモフを堪能しているのでシルクを見ている余裕はないのだ。

 つまり、俺にとってモフモフキャッキャウフフが最優先事項なのだ。

 シルクは、溜息をついてから今度はアイビーを見る。



「アイビーも、私をしっかり守ってね」



 アイビーも、俺にモフモフして撫でて貰っている事が嬉しくて尻尾をフリフリして聞いてない。



「もお! 何で、皆私が言ってる事聞いてくれないのよ! モゴッ」



 シルクが切れ気味に訴えてきたので、俺は慌ててシルクの口にクッキーを放り込んだ。

 どうやら、シルクの叫び声は魔物たちには聞こえていなかった様だ。



「シルク、ひょくっと大声出したらつまらんばい」



 ぽっぷん! 



 俺の頭の中で、眼鏡をかけた女神サラの女教師バージョンが出てきた。



「私の説明が必要なようね」



 今度は俺の頭の中で、子供の頃の俺が出てきた。



「先生おねがいしまーす」

「今日は【ひょくっと】について教えるわよ」

「はーい」



 子供の俺が席に座ると、女教師バージョンの女神サラが説明する。



「【ひょくっと】とは、簡単に言うと【突然】という意味よ。お復習いになるけれど【つまらんばい】とは【ダメよ】という意味。つまり【突然大声出したらダメよ】と言う意味なの。分かったかなー?」

「あーい」

「説明は以上よ。また少し難しいと思われる方言が出たら説明するわね」

「はぁーい。先生ありがとーございまーす」



 妄想説明劇場が終了し、現実に戻る。


 すると、シルクの口がクッキーでリスの頬張りすぎた口のようになっていた。



「モゴ、モゴ」

「あんなにも、魔物が居るんだからね。シルク、静かに話してね……」



 魔物の様子を見ていると、シルクが怒ってポカポカと叩いてきた。

 これは流石に、一匹ずつの相手は面倒である

 ならば――俺は職から賢者を【マウスLV1】で選んで【キーボードLV1】でエンター――

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シルク「リリー、見た? 見た? 美少女シルクの、華麗なる魔法」

リリー「うん、凄かったよ。シルクって、四属性全て使えるのね。しかも、風

    魔法は小さな精霊が顕現して、風の刃でオークを閉じ込め倒してたね」

シルク「うふふ。あれは、私達妖精族が契約している風精霊よ。パパのは、もっと

    大きな風精霊なの」

    成る程、個人の成長度合いで精霊の大きさや強さが変わるのかもしれない。

リリー「じゃー、シルクが成長すれば凄い精霊が見られるようになるのね」

シルク「そうよ。えっへん、凄いでしょ」

    今まで、微精霊や精霊の声が聞こえた気はしていたが、シルクのように

    今度は自身で顕現させてみたいと、密かに思うリリーであった。

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