大浴場2
「うん。確認済んだらリリーも早く来てね」
「はーい」
俺は独り外に出て、再び中に入る。
また外に出る、そして中に入る。
念のために再々外に出て、勘考しながら中に入る。
おかしい――大浴場の施設は、宿屋より大きい。
それは、分かっている。
しかし、外の外見と中の広さが噛み合わないのだ。
恐らく、入り口から中に入ると別空間になっているのだろう。
しかし、普通に窓から外を見るといつもの風景が広がっていた――よし、考えるのをやめよう。俺は、そう思うことにした。
「リリー、早く来てよー。この先も何かあるのでしょ」
「はーい、シルク今から行くねー」
俺は距離感が違う休憩所の中を走り、シルクの元に行く。
「皆お待たせ。この扉の向こうが大浴場の脱衣所だから」
「うにゃん」
「ワン」
『はい』
「リリー、私何かワクワクするわ」
俺は大浴場の片方の入り口である、女湯の扉を開けた――
大浴場の中に入ってみると脱衣所があり、その奥の扉を進むと大きなお風呂が幾つかあった。
所かしこに蛇口が有り、赤い魔石が付いている方のボタンを押すと、お湯が出て暫くすると止まり再び押すと出る。
同様に、青い魔石の付いたボタンを押すと水が出た。
赤と青二つの蛇口の中心には、シャワーホースが付いておりボタンの部分には赤と青の魔石が付いており、押すと丁度良いお湯が出て暫くすると止まる。
これも蛇口の付いている部分と構造が同じ原理の様だ。
各蛇口の前には、檜の良い薫りがする桶と椅子が置いてあった。
排水等がどの様になっているかは不明だが、排水口に流れたお湯や水は自動で消えるみたいだ。
恐らく、お湯等を消滅させる魔石が排水口に有るのかもしれない。
外にも大きな岩盤で作られた温泉が幾つも有り、お湯が常に湧いている。
どこから湧いてるかは不明であるが、温泉特有の匂いが漂っていた。
上を見上げると、空が見えており外の様子が窺える。
しかし、この大温泉とも呼べるここも、外から見た広さと中から見た中の広さが噛み合わないようだ。
成る程……考えちゃダメだ、考えちゃダメだ、考えたら負けなんだ。
その他には備え付けで外す事が出来ない作りで、シャンプー、リンス、コンディショナー、ボディソープ等の薫りが違う物が、各場所に設置しており種類は豊富であった。
消耗品を使用してみると、使用した後しばらくすると元の量に何故か戻る。
そして中に誰もいなくなると、自動で風呂の清掃をしていつも清潔に保つ機能も有るようだ。
先ほど、ボディソープを試しに使用して床に落ちていた痕が、綺麗さっぱり消えていた。
更に十数人は入る事が可能なサウナ室もあったが、俺達は暑くて直ぐに外に出てきたので中は確認しなかった。
「ふあぁー、暑かったね」
「うにゃん」
「ワン、クウーン」
『リリー様、ちょっと暑くて怖かったです』
「アイビー大丈夫よ。年を重ねたダンディーな大人になれば、あの部屋を気持ちよく感じることが出来るわ」
「リリー、あの部屋暑すぎ。私を、干からびさせる気? もぉー、死ぬかと思ったわよ」
「シルク、さっきの部屋はサウナと言うの。大人の女性にも実は人気があるのよ。美容にも良いみたい」
「へー……でも、私は無理」
「あははは」
脱衣所は小休憩場になっており、自動空調も寒すぎずに丁度良く、中央にはテーブルと椅子が幾つか有る。
壁際には大きな鏡が何枚も備え付けられ、各々に洗面台も設置されており、各々の右側にはドライヤーが備え付けられている。
ドライヤーには小さな赤い魔石と、緑の魔石が付いていた。
恐らく赤い魔石で熱を発生させて、緑の魔石で風を発生させているのだろう。
そして極めつけが、女性の小休憩場にのみ有るパウダールームだ。
パウダールームには、空調付きの個室部屋が二十室あり個室には全て持ち出し不可能な自動補充付きの化粧品が数多く配置してある。
化粧水。乳液。ボディケアプレミアムローション。美白オールインワン プレミアムゲル。日焼け止めジェル。口紅。アイシャドー。etc。化粧品は、ハッキリ言って限が無い。
しかし、限が無い筈の化粧品――俺が知りうる限り全てのブランド化粧道具までが有った。
構造は不明だが、全て魔石による高度で精密な魔法具による物であろう。
俺が以前インターネットで旅行気分を味わいたいが為に、色々検索して想像した通りだ。
流石女神の身体が持つ職のスキルだ。半端ないよ……ホントに。
勿論、小休憩所や大休憩所には個室トイレも完備してあった。
全てトイレは洋式水洗トイレであり、ウォッシュレット機能、便座温度調節、強力消臭機能、トイレの音防止である無音機能も完備してあった。
勿論、トイレットペーパーは自動で補充されるのは言うまでも無い。
無音機能が気になり、実際に水を流してみるとトイレ内の音が全て遮断されていた。
これ……何気に凄くない?
実は、元世界のホテルで擬音機能付きトイレを使用したことがあるのだが普通に音はしたのである。
しかも、擬音を使用すると余計に気になったのだ。
まあ、非常識な程に無理が有る施設ができてしまったが理解しようと思う。
俺が、創造したのだけれどね……
「リリー様、該博深遠です。うにゃん」
「リリー、貴女とんでもない能力ね。……私、もう訳が分からないわ」
「ワン、ワオン」
『流石、リリー様です』
「皆ありがとっ」
俺達は、お腹が空いたので宿屋に戻ると丁度キノットさんの家族と一緒になった。
一緒になった事もあり、食事をスキルで素早く作り皆で美味しく食べた。
そして、温泉と大浴場の事を宿屋の御主人と女将に知らせる事にした。
「キノットさんライムお姉さん、大浴場が出来たので食事も終わった事ですし一緒に如何ですか?」
「リリーちゃん、大浴場ってなんだい?」
「私も分からないから、リリーちゃんに水場の近くなら広いし作って良いって言ったの」
「キノットさん、では案内しますので宿の裏に一緒に行きましょう」
俺はスノー達と共に、キノット夫妻を宿屋の裏に案内した――
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリー、さっき出たり入ったり繰り返してたよね?」
リリー「うん、ちょっとね」
シルク「もしかして、お花を摘みに行きたかったの?」
シルクに詳しく話しても仕方がないから、そういう事にしておくか……
リリー「えっと……まあね」
シルク「我慢しすぎると、お腹痛くなるわよ?」
リリー「シルク、心配してくれてありがと」
アイビー『我慢しないシルクは、たまに僕の上で粗相するからね……』
シルク「何言ってるのよ! あれは聖なる滴よ。感謝しなさいよね」
アイビーが溜め息をついて、遠い目をしていた……
リリー「そう言えば、たまにアイビーの首筋の薫りが……」
シルク「リリー、お願いだからそれ以上言わないで……」
強気のシルクが、たまに恥じらいを見せる瞬間だった。
何このオチ……下ネタかよっ!




