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冒険者ギルドの執務室

 確かに、目線を下げるとお胸で見えないよね……



「あっ! この髪の色ね、装いの鮮やかな色彩にも負けないよう変えてみたの」

「エッ、エェェェェェェー! どうやってー?」

「クスッ。それは、乙女の秘密なの!」



 俺はそう言って小首を右に傾けて左手でピースを作りピースの間から左目が見えるようにして左肘を高い位置に持ってきて笑顔を向けた。

 一昔前のアイドルがしていた、雑誌の表紙のポーズのような姿で……



「「「可愛い……」」」



 俺とロベリアの様子を、窺っていた冒険者達が呟いていた。

 しかし、ロベリアの悲鳴にも似た声音でかき消される……



「キャー、可愛いすぎー! リリーちゃん、髪の色が変わっても凄く可愛いわ。って、もうー。驚きすぎてー、忘れる所だったわー。昨日はー、本当にありがとー。とてもー、とても美味しかったわー。ギルマスもー、絶賛していたわよー。ほらほらー。噂をしていたらー、いつもは中々表に出ないギルマスが出て来たわー」

「おお! リリーちゃん、よく来たな。いつ来ても、歓迎するぞ! ロベリアと話す声が聞こえてきたから来てみたぞ。って、エェェェェェェ!」

「ギルドマスター、ありがとっ。でも、驚きすぎですよっ」



 そう言って、今度は膝に手を置き上目遣いでギルドマスターに伝えた。



「……可愛い。くっ……だがな、その髪の色――冒険者の秘密を聞くのは、御法度だと承知はしている。しかし、流石に気になるぞ。似合ってはいるが……」

「気にしないで下さい。たまに気分で変更するので、驚かないで下さいね」



 ギルドマスターとロベリアが、まだ不思議そうに見ていたが俺は南西の大洞窟の件を聞く事にした。



「ギルドマスター、南西の大洞窟の件なんですが――」



 俺がそう言いかけると、



「リリーちゃんその話は奥で」



 と、言われた。

 なので、俺はスノーとアイビーを抱っこしてモフモフクンクンしながら歩く。



「はぁうー、スノーとアイビー愛らしいばい。クンクンクン、スンスンスン……癒されるぅー。モフモフ、ハッピー・フェスティバール」



 シルクは俺の行動を何度も見ているので、いつものように俺がスノーとアイビーを抱き上げる前にアイビーの上から俺の肩に移動したようだ。



「ひらりと華麗に避ける、美少女シルク。そう何度もアイビーごと抱きつかれたりはしないわ。リリーの行動は、全てお見通しよ」

「クウーン、ワン、フゥー……」

『飲み込みが悪い、シルクに言われてもね……』


「五月蠅いわね、バカ犬。リリーに匂い嗅がれて、尻尾振りすぎよ。変態犬」

「ワフ、ワフ」

『僕、狼だもん』



 そんなシルクとアイビーのやり取りに笑顔を向け、俺はいつもの調子で幸せな気持ちに浸っていた。

 すると、ロベリアがスノーとアイビーを私が代わりに抱っこしてあげるから触らせてと言ってきた。

 ロベリアの言い回しが変だったが、スノーとアイビーの触り心地は最高だ。

 それに、モフモフ好きな同志が増えるのなら俺としては大歓迎――そう、俺は思っていた。

 名残惜しい気持ちを抑えて、スノーとアイビーを下に降した次の瞬間ロベリアが俺を不意に持ち上げる。



「ひゃー」



 俺は急に視界の高さが変化し両脇の擽ったさも加わり思わず口走ると、ロベリアが――



「驚かせて、ごめんね」



 と言って、抱っこして撫でてきた……。



「あはっ。可愛いくて幼い虎ちゃんと狼ちゃんも良いけれどー。リリーちゃんもー、可愛くて凄く抱き心地が良いわー」



 ……スノーとアイビーじゃ、なかったのかよ! 

 俺が心の中で突っ込みを入れていると、ギルマスの部屋に着いた。

 ロベリアが俺を下に降ろし、扉を開けて中に入りお茶の用意をしだした。

 俺の顔を見てからギルドマスターが部屋のソファーを指さすと、



「リリーちゃん、そこに腰掛けてくれ」



 と言って、自身の書斎に書類を取りに行った。



「はい」



 俺は返事をして、素直にソファーに腰掛ける。

 すると、ソファーはバネがへたっているようで俺はソファーに少し埋もれ、大きなテーブルで前が見えないことに気がついた。

 しかし、ギルドマスターに言われたことに従ったので問題は無いだろう。

 ギルドマスターが振り向くと――



「ん? ロベリア、リリーちゃんどこ行った?」

「ここに、いますよ」



 俺が声をかけると、ロベリアが慌てて座布団を持ってきてくれた。



「リリーちゃんごめんねー。はい座布団」



 そう言ってソファーに座布団をひき、俺を抱っこして自身が座った。



「…………」



 ギルドマスターは俺が見えるようになったので、自身も向かいのソファーに腰掛ける。



「リリーちゃん、そのままで良いから聞いてくれ。南西の大洞窟の件を冒険者から新たに知り得た情報を伝える」



 ギルドマスターはロベリアが途中で放り出した自身の飲み物の見て――ため息をつき、自身で用意をし再びソファーに座り語り出した。

 ギルドマスター曰く――南西の大洞窟は、途中に有る階層主の中部屋を通らずに一階から四階まで行く事も可能らしい。

 そして、常駐クエストのゴブリンやオークの討伐が有るので、冒険者達がよく行くスポットになっているとの事だ。


 それで異変を早く掴んだ事もあり、国に調査を依頼したらしいのだ。

 フォレストムーン王国は元々危険な魔獣や魔物が少ない為、Cランクの冒険者が殆どである。

 そのためBランク以上の冒険者は遠方にいて、こちらに帰ってこないらしい。

 今回は新たに仕入れた情報により、遠方の高ランク冒険者を呼び寄せる通達をしている。

 しかし、高ランク冒険者は遠方で依頼を遂行している事が多く到着に時間がかかるらしい。


 ただ異常な魔物の増え方と高ランクの魔物の存在が確認された為、スタンピートが懸念されており一刻も早く調査と対策が必要との事だ。

 折角フォレストムーン王国で、平和に安定した暮らしが出来ると思っていたのに、スタンビートなんて起こってもらっては困る。


 確認された高ランクの魔物は、城で王子様から俺が直接聞いた情報と同じ、アイアンゴーレム、スケルトンナイト、オーガゾンビということだ。

 通常存在する牙蝙蝠、大鼠、ゴブリン、オークが上階に逃げており、大洞窟の入り口に施された結界がいつ崩壊するか不安である。

 ギルマスの話を聞いていると、俺の心の中を見透かした様にギルマスが言う。



「リリーちゃんの実力は、この目で見て知っている。それに、あの巨大岩を切り裂いたのを間近で見た冒険者からは、幼女戦乙女(リトルバルキリー)とも言われ実力を高く評価されている」

「幼女戦乙女は、呼び名恰好が良いから良いけど、この前一度聞いただけでリリーちゃんの方が多い気がするよ」

「まあ、強さより可愛さが際立っているという事だろうな。ガハッハハッハー。まあそれだけ認められ実力が有るリリーちゃんだが、調査に行くのはギルドマスターとして見過ごせない。だから調査したいのなら、高ランクの冒険者が集まってから一緒に行くという話だ」



 ギルドマスターは笑っていたが、俺が一人で調査に行くのは絶対に許可しないだろう。

 一通り内容を聞くと、徐にロベリアとギルドマスターが両手を合わせた。

 そして、酒の空瓶十本と大きなバスケットと大きな皿を目の前に出してきた。

 情報量だと思い、葡萄酒をギルドマスターにクッキーと甘みを抑えた上品なフルーツタルトをロベリアに渡すと二人とも大喜びしていた。

 俺達は、笑顔のギルマス達と別れを告げて冒険者ギルドを後にした。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

リリー「スノー、アイビーお疲れ様」

スノー「リリー様、任務完了致しました。うにゃん」

アイビー『リリー様、上手くいきましたね』

リリー「そうね、大成功。二人とも、ありがとっ」

    実は俺がギルマスから情報収集中、二人は密かにミッションを遂行

    していた。

    そのミッションとは、情報収集している間スノーとアイビーの首から

    提げているバスケットの中身をシルクに食べさせること……

    食べている時のシルクは、その場から動かないし話そうとしない。

    なので、一石二鳥なのだ。

    因みにバスケットの中身は、シルク用に俺が丹精込めて作った一欠片

    で満腹感が続くクッキーである。

    しかし、ギルドマスターの話が終わると同時に全て無くなった。

    ギリギリの、攻防だったのだ。シルクのお腹、恐るべし……

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