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王子の帰還

 王妃様と話をしていると、第一騎士団長が駆け込んできた。

 王妃が俺を下に降ろし、第一騎士団長を見据えると第一騎士団長は口を開く。



「王妃様、ご報告致します。南西の大洞窟の地下で、魔物の大群と遭遇。第一騎士団は半壊しました。私の指示で、即時撤退。殿下は魔物の攻撃により重傷。現在、城の全回復術師により治療中です……」



 南西の大洞窟に遠征に行っていた、第一王子と護衛騎士団総勢百名の内、四十名が大怪我をして城の診療広間に運ばれて来たと連絡が有った。

 王妃が狼狽えて気絶しそうになり、側付きメイドに支えられる中、俺達はパープル王女と騎士団長と共に診療広間に向かった。


 騎士団長の案内で着いた診療広場では、傷だらけの護衛騎士達がいた。

 そしてその奥には、アプリコット王子と重症の護衛騎士達四十名が瀕死の状態で横たわっていた。

 回復術師の治療は難航しているようで、怒声のような声も辺りで響き渡っていた。



「回復魔法の効果が打ち消される! なぜだ! お前達、もっと治癒力を上げろ!」

「衛生騎士長、王子の呪いを打ち消せません。重傷者には全て呪いが付与されており我々では……」

「くっ……。回復魔法で治療し続けろ! 一番重傷な王子を優先! もっと回復術師を呼べ!」



 辺りはまるで、戦争映画でも見ているようであった。

 キメラの蹂躙も酷かったが、妖精達の回復魔法でどうにか死人を免れていた。

 しかし、この状況……回復魔法の魔力が尽きれば、呪いで死人が出るだろう。



「回復術師の皆様、軽傷者は妖精の王女シルクの前に。重傷者は、私の前に! 今すぐ、お願いします」



 俺の言葉を聞いた回復術師は軽傷者をシルクの前に移動させ、重傷者であるアプリコット王子の元に担架のようなものを持って行った。

 すると、騎士二名の肩を借りて王妃が血だらけの王子の手を握り、涙を流しながら俺の元に……。

 パープル王女も王子のもう片方の手を握り、



「お兄様、お兄様、しっかりしてください。パープルは、ここにおります。お母様も、ここに、おいでです。気をしっかり持って下さい。お兄様」



 と泣き叫んでいた。

 俺は、担架で俺の側に移動した王子と重傷者全員に手を(カザ)す。

 そして、聖女限界突破スキルを言う前に願いを込めて……



「回復の力を持つ、全ての精霊さん。私の願いを聞いて。私は今から皆に全てを回復させる回復魔法を行います。だから、少しで良いの手伝ってね」


 

 すると、微精霊達が辺り一面に光と共に顕現し俺の身体(カラダ)を包み込む。

 これなら……妖精の村でおこなったエリクサーレインより威力や範囲効果が広がるかも? 

 その光を纏い俺は回復魔法を口にする。



「【【エリクサーレイン】】」



 【システム 微精霊が力添えを行いました……失敗しました】

 【システム 微精霊の呼びかけに精霊が力添えを行いました……失敗しました】

 【システム 精霊の呼びかけに大精霊が力添えを行いました……成功しました】

 【システム 大精霊が更に世界の精霊達に呼びかけを行いました……進化を受託】

 【システム 進化を受託し……範囲が限界突破に成功しました。範囲を国全体に拡大】

 【システム 限界突破スキル エリクサーレインが、天より舞い降りし、聖なる光 アルティメット ベネディクション セレモニー に進化しました】



 天空より、聖なる光がフォレストムーン王国を全て包む。

 そして、瀕死の王子と護衛騎士団達四十名全員を虹色に輝く粒子が包み込む。

 すると、重傷者達に纏わり付いていた靄がかき消され傷が全て元通りに戻っていく――奇跡を見た王妃とパーフルと騎士達は、俺の前に跪き両手を合わせて頭を垂れた。

 聖なる光が消え去ると共に、全ての重傷者と負傷者達が息を吹き返すように目覚めていった。

 王妃が俺の元に来て跪く。



「女神リリー様、本当に感謝致します。国王オレンジ・パンジー・フォレストムーンに代わり私が誓いをたてます。私、ホワイト・パンジー・フォレストムーンの名の元に、女神リリー様への絶対の信仰をここに……」



 王妃の宣言に続き、傷が全快した第一王子も俺の元に跪いた――



「俺も女神リリー様に誓う。フォレストムーン王国第一継承権を持つ者として……私、アプリコット・パンジー・フォレストムーンの名の元に、女神リリー様へ絶対の信仰をここに……」



 第一王子に続き、パープル王女が王子の腕に抱きつき、



「リリーちゃん、私も誓うわ」



 と言った。



 【システム 信者増加によりボーナスが加算されました】

 【システム ボーナス加算が限界突破スキルにより限界突破しました】

 【システム これよりレベルアップ時に多重ボーナスが追加加算されます】


 

「エ? エェェェェェェ。そこまで二人して誓わなくて大丈夫ですよ」



 って言うか、システムさん今の何? 

 俺が王妃と王子と王女の行動やシステムの物言いに驚愕していると、スノーが俺の元に来て、



「リリー様、信仰者が増加する事で神力が向上しランクが上昇傾向になります。うにゃん」



 シルクも俺の元に来ると肩に乗り、



「リリーはモフモフ好きの困ったちゃんなんだから、気にする必要ないわよ!」



 そして、アイビーが俺の足下に来て、



「ワン、ワオーンワン! ワン、ワオーン」

『シルク、そこで水を差さない! リリー様、回復魔法美しかったです』



 あれぇー? 今スノーが何か気になる事を言ったよね? 

 今よりランクが上がったら、どうなるんだろう? 

 しかし、魔物の大群が現れた南西の大洞窟か……なんか、気になるな。



「アプリコット王子、少しお聞きします。南西の大洞窟で、何が有ったのでしょうか?」

「実は……通常、南西の大洞窟は四階層有り、魔獣魔物の類いは、一階~地下二階に牙蝙蝠と大鼠、地下三階~地下四階にゴブリンとオークがおり、それぞれの階に階層主がいます。それに対して、王国精鋭騎士団で五十名もいれば安心して最下層まで進める事が可能だった筈なのですが……」



 因みに地下一階の階層主が大型牙蝙蝠一体、地下二階の階層主が巨大鼠一体、地下三階の階層主がゴブリンチャンピオン一体、地下四階の階層主がゴブリンロード一体と取り巻きのゴブリン十体であり、通常階層主は討伐後に数日かけてリポップするらしい。



「しかし、今回は突然魔物魔獣が増えたと知らせを受け過剰とも言える通常の倍の百名体制で調査に当たりました。ですが、通常より牙蝙蝠、大鼠、ゴブリン、オークが増えているだけではなかった……。南西の大洞窟に存在しないはずの、アイアンゴーレム、スケルトンナイト、オーガゾンビが奥に出てきました。我らは地下四階で、オーガゾンビの集団に見舞われ、我々では対処不能となり撤退致しました」

「冒険者ギルドには、要請はしたの?」

「はい。Bランク以上の冒険者パーティーの応援を要請中です。しかし、A及びBランク以上の冒険者は、数が少なく遠方にいる事が多いのです。その為、全く集まり切れていないのが現状です」



 俺は南西の大洞窟の話を、傷が癒えて血色がよくなり寧ろ精気あふれるアプリコット王子から確認した。

 ただ、気になる点が一つある――なぜ俺の腰掛ける椅子は、王族の膝の上なんだ? 

 俺は王子の話を聞き終えるまで、王妃とパープル王女と王子にまで取っ替え引っ替えで膝の上を渡る羽目になったのだった……。

最後までお読み頂き、ありがとうございます。

誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

シルク「ねえ、リリー? 私の華麗なる、奇跡の回復魔法見た?」

リリー「えーと……うん見たよ」

シルク「城の回復術師が、私の回復魔法見て度肝を抜いてたわよ」

リリー「ええ、そうねー」

シルク「……ねえ、リリーさっきから何でスノー様とアイビーの肉球弄ってるのよ」

    実は、シルクが回復魔法で軽傷者を回復し感謝されたと同時に、俺が

    エリクサーレインを発動してしまったのだ。

    そのため、シルクの手柄を横取りする形になってしまいどうしようか

    と、スノーとアイビーの肉球にお悩み相談をしていたのだ。

    現実逃避とも言うが……

リリー「シルク、これからも私の手に負えない事態が起こった場合は、今回みたいにお願いするからね」

シルク「えっへん! この麗しき回復魔法の使い手シルク様に任せなさい」

    シルクが何も気づかずに、喜んでいるのならそれで良いと思うリリーであった。

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