冒険者ギルド2
俺は中古武器の長槍と剣と短剣を見て、どれにするか迷った。
仕方がないのでアイテムボックスに収納してから持ち運び、現場で決めようかと思った。
が、槍と短剣はアイテムボックスに収納して、確かめるために剣のみ手に持って付いて行く事にした。
ギルドマスターに案内され、その後ろをトコトコついて行く。
そして、自身の身長よりも大きな剣を両手で持ち必死に引きずる。
「うんしょ、うんしょ」
眦を下げた屈強な冒険者が俺の側に着て小声で、
「お嬢ちゃん、手伝おうか?」
と言ってくるが、
「うんしょ。お兄ちゃん、ありがとっ。でも、大丈夫です」
と笑顔を向けて断ると、他の冒険者達もポワポワした顔になって眦を下げた。
ギルドマスターは、少し先で振り返り待ってくれている。
優しいなと、俺が笑顔を向ける。
すると、何ともばつが悪そうに頭をかく。
そして、俺が近づくと今度は歩幅を小さくしてゆっくり歩き出した。
自身より大きな剣を引きずり、小休憩を挟みながら勘考する。
俺は、実際に武器なんて扱ったことは無い。
しかも、学校の授業で剣道を少し齧った程度の素人だ。
女神サラの身体は慣れきたが、まだ油断をすると平で何も無い所で何故か転ぶ。
剣を持ち、いざ試し切りする場で転倒するなんてドジっ子ぶりを発揮してはたまらない。
それに、異世界で定番といえば剣と魔法である。
魔法に関しては、回復魔法を使用できるので異世界感がある。
しかし、このままでは回復魔法が使える格闘幼女だ。
身体が身体だけに、絢爛に武器を使用したい。
それに、徒手空拳だけでは、剣と魔法が織り成す異世界ファンタジー感が半減するよね。
まあ、俺の異世界での拘りとも言えるのだが……。
そう言えば確か、剣聖の職が有ったよな?
職から剣聖を【マウスLV1】で選んで【キーボードLV1】でエンター。
【システム 剣聖の全スキルをコンプリート 限界突破しました】
【システム 剣聖の限界突破スキルが使用可能です】
いつもはこの後に、システムさんが【限界突破スキルはアクティブ及びパッシブに移動可能――移動する事で別の職でも使用可能です】とお知らせをしてくれる。
しかし、何度も説明は不要なので項目を探したら不要な説明にチェックをして下さいと有ったので、チェックしておいたのだ。
おかげでシステムの説明が、少しスッキリした。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【剣聖スキル】
・全スキルコンプリート
・全武器知識獲得
・全武器の能力向上
・武器鑑定
【剣聖限界突破スキル】
-
剣聖剣技無双スキル
- 絶剣無双
特殊
-
全剣聖・限界突破スキル習得
―――――――――――――――――――――――――――――――――
俺の頭の中にスキル名が浮かぶ!
その中の一つスキル【絶剣無双】を選んだ。
アクティブスキルに絶剣無双を追加するが入らない。
あっ、これパッシブスキルだったか。
【パッシブ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【剣聖スキル】
・全スキルコンプリート
・全武器知識獲得
・全武器の能力向上
・武器鑑定
【剣聖限界突破スキル】
-
剣聖剣技無双スキル
- 絶剣無双
⇖【詳細】
どんな武器や道具等の木さえも聖剣同様の力を発揮し
取り扱う事が出来る
特殊
-
全剣聖・限界突破スキル習得
―――――――――――――――――――――――――――――――――
俺はパッシブスキルに絶剣無双を入れて、説明を見ながら歩いた。
すると、急に立ち止まったギルドマスターの脹ら脛に衝突した。
「ほぇ? ひゃ、あっ」
脹ら脛にぶつかった事で、素っ頓狂な声音をだし剣を落としてから後ろにコテっと転んだ。
すると、野次馬の様に付いて来た冒険者達が慌てて俺を助け起こしてくれた。
「お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとっ」
俺が冒険者達にお礼を伝えると、皆が挙って可愛いなと呟く。
それを見ていたギルドマスターが、額を抑えて俯いてから俺を見据える。
「お嬢ちゃん……本当にそんなので、魔物を倒したのか? 俺には、信じられん。前に訓練用の木が有るから、その剣で切ってみろ」
俺は自身の身長より大きな鉄の剣を、引きずって持って来た。
しかし、自身の身長よりも大きいが故にバランスが悪いのかも知れないと思った。
仕方がないので、鉄の剣を近くの冒険者に、
「お兄ちゃん、これいらないから持ってて?」
と言って、小首を傾げると
「ああ、勿論だとも」
そう言って、満面の笑顔で嬉しそうに持った。
何故か周りにいる冒険者から、その冒険者は羨望の眼差しで見られいる。
この冒険者達、大丈夫か?
俺がそう思い小首を傾けると、小声で可愛いや尊いと聞こえてくる……。
周りを見渡すと、少し離れた薪置き場に丁度手に合うサイズの木の棒があった。
その木の棒を取りにトコトコ向かい、その木の棒を手にした。
うん、これならしっくりくる。
俺がニコニコして、その場でいると
「お嬢ちゃん……流石にその木の枝じゃ、木は切れねえぞ?」
と、ギルドマスターが言ってるようだが俺には丁度いい長さの棒だ。
職種も剣聖にしてある。それに、絶剣無双はどんな武器や道具等の木さえも聖剣同様の力を発揮し取り扱う事が出来る。
俺は訓練用の木がある少し離れた位置までトコトコ歩いて、その場で眼を瞑る。
すると、様々な剣聖の技が頭に浮かぶ。
しかし、正直言って街中で剣聖の技を使うのは止めておきたい。
素手で、あの異常ともいえる強さだからだ。
まあ、戦闘モードでなければ只の幼女の筋力しかない。
なので、先ほどのように鉄の剣一本で大変な思いをしてこの訓練所に来たのだが……。
俺は自信のスイッチを戦闘モードに切り替え、木の棒を右手に持ち、左手に鞘を持つようなイメージで添え構える。
そして、剣聖の技名ではなく適当な技名を口にしてその棒を抜刀する。
「花楓院流・役枝・使の型・不知火・烈風斬」
俺は花楓院流の華道における使の型と、適当に作った技名を言い抜刀。
そして、素早く後ろを振り返りつつ刀を納めるように手元に木の棒を納め――刹那、少し離れた場所にある訓練用の木が斜めに鋭く切れ激しく燃え上がる。
さらに後ろに有る巨大な岩が斜めにユックリと崩れ落ち、鋭く切れた断面が燃え上がり辺りに突風が吹き荒れた。
俺は轟音と業火に驚き、振り返る。えっ? ……なぜ、燃えたの?
巨大な岩の近くに、火を灯す壊れた松明らしき物はあるが火は灯されていない。
突風は剣聖の能力により凄まじい衝撃波が起こったのだろうと、おおよそ理解できる。
しかし、魔法や剣聖の剣技である炎を伴う技など使用してはいない。
俺は不安になり、スノーに『眷属テレパシー』をする。
『「ねえ、スノー? 魔法もまだ覚えていないし、剣聖の技も使用していないのに……なぜか、木と巨石が燃え上がったの。何故か分かる?」』
『「リリー様、しばらくお待ちください。うにゃん。――――。――――。――――。調査結果のご報告を致します。うにゃん。冒険者ギルドの周辺に存在する、微精霊達がザワついています。うにゃん。それに、火の魔力が辺りを漂っているようです。うにゃん」』
『「火の魔力?」』
『「巨石近辺にある松明に宿る火の微精霊が、リリー様に良いところを見せたかったようです。うにゃん」』
『「……スノー、教えてくれてありがとっ」』
俺はスノーと眷属テレパシーを終了させた。
そして手加減したつもりだったのに『どうしようかな?』と冒険者の方を振り返ると――心配して様子を見に来てくれたスノーとアイビーが、冒険者ギルドの裏口から見えた。
俺は正直言ってそっちの方が気になり、スノー達の方へ駆けて行く。
しかし、シルクがいつものようにアイビーの上に乗っていないのに気がついた。
あれ? シルク、どうしたのかな? 辺りを見渡すと、どうやらいつの間にか冒険者達と一緒に見に来ていたようだ。
そして、シルクが徐に――
「リリー、貴女やるわね」
と、呟いていた。
横目でギルドマスターを見ると、周りの冒険者同様に開いた口が塞がらなくなっており、銜えていたタバコが下に落ちていた。
冒険者達より、一瞬早く正気に戻ったギルドマスターが俺に問う。
「おっ、お嬢ちゃんは、一体何者だ?」
「うーんっと。幼女?」
俺が小首を傾けて自身の事を幼女と言うと、ギルドマスターは大笑いして頭を撫でてきた。
周りの見物している冒険者からは、可愛くて美しくて強い――幼女戦乙女と絶賛の嵐だ。
一部が「尊い」や「俺の天使」だとか「ギルマス俺の嫁に手を出すな」等言っているが、聞かないふりをした。
裏口の扉が勢いよく開かれ、驚いた様子のロベリアが血相変えて走って来た。
「ギ、ギルドマスター、す、凄い音がしましたがー。な、何か有ったのですかー?」
「いや、お嬢ちゃんの実力を見ただけだ。問題は……無い」
「ギルマス! 前の隕鉄で出来た巨岩が、斜めに割れて燃えているのですが……」
「何も聞くな! 後で、事情は説明する。ロベリア、お嬢ちゃんの冒険者登録を頼む」
「えっと冒険者ランクはー、規定通りFからで良いのですかー?」
「いや、まだ実力を出して無さそうだが――俺は、この目でお嬢ちゃんの実力を見た。しかも王様直筆の書状もある。AランクからCランクの内、好きな物をお嬢ちゃんに選ばせても構わん。お嬢ちゃん、ロベリアに付いて行って登録を済ませてくるといいぞ」
「ギルドマスター、ありがとうございます」
俺はギルドマスターに返事をして、ロベリアに付いて行くとシルクが飛んできて俺の肩に乗り『小声』で――
『「ねえ、リリー? 今の職業は何になったの? ど派手に燃え上がったから、少し驚いたけれど……」』
『「剣聖になってみました。でもね、手加減したつもりだったのだけれど微精霊ちゃんが悪さしちゃったみたい……」』
『「何よ、微精霊って……」』
『「あはははは」』
シルクに説明はしたものの、俺も微精霊の行動にもう笑うしかなかった。
俺は癒やしを求めスノーとアイビーの姿を探し後ろを振り返ると、俺の後ろを追いかける様についてきている所だった。
ギルドの中に入ると、ロベリアが先ほどの子供用の背の高い椅子の前まで案内してくれた。
俺が椅子によじ登ろうとすると、脇を抱えて持ち上げ椅子に座らせてくれた。
そして、冒険者登録用の用紙を眼前に置き、
「ではー、こちらにお名前、性別、得意なスキルと魔法が有ればー、その主なスキルを使用可能な職を書いて下さーい。例えばー、魔法が得意なら、魔法使いとかー。武器が得意ならー、戦士等でーす」
と言ってきた。
なので、俺は冒険者登録用の用紙を記載することにした。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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シルク「リリー、貴女冒険者達にえらく気に入られているのね?」
リリー「シルク、小さな子には冒険者の皆さんはやさしいのよ」
シルク「私の方が、小さいじゃない? なのに、皆私をあまり構って
くれないのよ。リリーだけ狡くない?」
リリー「小さくて、幼いからじゃないかな?」
シルク「私も小さくて幼くて、しかも美人でしょ。なのに冒険者の皆、
構ってくれないのよ。初めは構ってくれたわよ。なのに……」
リリー「シルク、なのにの後が気になるのだけど……」
シルク「えっ? ちょっとお強請りしただけよ」
リリー「シルク……冒険者ギルドに来る前に、足りないって言うから
私の分もサンドイッチあげたよね?」
シルク「足りるわけないでしょ。だからちょっと十人前くらいの料理を、
ギルドのお食事処で注文して払ってもらっただけよ。それなのに……」
リリー「……シルク、払ってもらった冒険者の人達の事を後で教えてね」
シルク「仕方がないわね。だから、リリーお腹空いたから何か作って」
リリー「うん……」
リリー 妖精村でもらった食材……一週間もつかな? 少し、心配になってきた。
どこかで、食材仕入れないと……




