妖精村の宴(改)
グゥゥゥゥゥゥ!
不意に、シルクのお腹の音が鳴った。
「ヒャー。 なっ、何の音かしら? オホホ。アイビー、お腹空いたの?」
「ワフー。ワンワン」
『はぁー。シルクのお腹でしょ』
皆の前でお腹が鳴るのは、シルクでも恥ずかしかったのだろう。
アイビーのせいにしたが、皆にバレているのでシルクがモジモジしている。
なので、俺がフォローに入ってあげた。
「そう言えば、お腹すいたね。スノー?」
「うにゃーん」
俺がお腹を摩っていると、妖精王が声をかける。
「女神様、今日は日暮れてからかなり経っております。出立するのでしたら、明日でも宜しいのでは? それにもし宜しければ、私どもでお食事のご用意致しますが如何ですか?」
妖精王の申し出に、最長老妖精がさらに盛り上げる。
「女神様、それがよいじゃろーて。今夜は宴じゃ宴じゃ!」
俺が妖精王達と話しをしている間に――いつの間にか大広場には、沢山のテーブルや椅子が妖精メイド達によって並べられていたようだ。
多量の食材をオープンキッチンに持ち込み、妖精料理人達が料理を作り始めていた。
俺は妖精王と最長老妖精のお言葉に甘えて、ご馳走になる事にした。
ただ、戦闘後の気疲れもあるはずだ。
妖精達だけに、夕食の準備を頼るわけにはいかない。
邪魔にならない程度に、俺も少しお手伝いをしよう。
俺の元いた世界の、おもてなし精神の血が騒ぐ。
厳密に言えば、俺がおもてなしされる側であるが……それに、確か職に絶級シェフがあったはずだ。
その能力を、試してみたい。まあ、それが本音なわけだが。
俺は職から絶級シェフを、スキル【マウスLV1】で選んでスキル【キーボードLV1】でエンター。
詳細情報
職業 絶級シェフ
← →⇖
【システム 絶級シェフの全スキルをコンプリート 限界突破しました】
【システム 絶級シェフの限界突破スキルが使用可能です】
【システム 限界突破スキルはアクティブ及びパッシブに移動可能です】
【システム 移動する事で別の職でも使用可能です】
俺の頭の中に、スキル名が浮かぶ。
その中の一つ、絶級料理変換を選ぶ。
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【絶級シェフスキル】
-
全スキルコンプリート
使用食材の質向上(極)
食の自動温度調整(食す前まで)
食材及び料理鑑定
アイテムボックス内における食材の質向上(極)
【絶級シェフ専用限界突破スキル】
-
味・盛り付けデザイン料理及び飲料水等自動変換
- 絶級料理変換
他料理の質の向上
- 絶級他料理自動向上(他職でも可能)
⇖【詳細】
他人が作った料理の質と味を、手を翳す事で自動向上させるスキル
特殊
-
全絶級シェフ・限界突破スキル習得
―――――――――――――――――――――――――――――――――
俺はアクティブスキルに、絶級シェフのスキルの一つ絶級シェフ専用限界突破スキルである絶級料理変換を追加する。
【アクティブ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【聖女専用限界突破スキル】
完全回復
+
→
範囲完全回復
- エリクサーレイン
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【絶級シェフ専用限界突破スキル】
味・盛り付けデザイン料理及び飲料水等自動変換
- 絶級料理変換 ⇖【詳細】・詳細説明欄を参照
―――――――――――――――――――――――――――――――――
このスキルの仕様が不明なため、スキルのマウスを呼び出した。
そして、スキルの上にポインターを持って行くと説明文が現れた。
【詳細説明欄を参照】と書いてあるのでクリックしてみる。
すると、長い文章が現れる。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【詳細説明欄】
このスキルは普通の食材のみで、食材の質を超絶に向上させる。
調味料やトロミの元等の片栗粉や固める為の凝固剤等も一切必要とせず、
更に、長時間かけて熟成させないと作れない物さえも、熟成や発酵工程も
一切必要とせず、前世から現世に及ぶ世界の現代料理の全ての神髄を極め
た味付けが可能。
絶妙な焼き加減、冷やし加減の温度調整なども可能。
独創性と料理技術を極め、尚且つ、皿に前世から現世に及ぶ現在デザイン
宛らなモノで飾られる――美しいアートの様に飾り付けされた状態で
盛り付けられる事が可能。
それら全てを、指定した場所に出す事が出来るスキルである。
尚、飲料も同様に実行可能。
つまり【素材の質、調理技術の高さ、独創性、全体の価値、料理全体の
整合性を向上させ――玩味する為に、是非にと足を運び、手をださざるを
得ない極めて価値がある卓越した料理及び飲料を創造する】…………
―――――――――――――――――――――――――――――――――
文章が、まだまだ続いているが――
超長かった今までの文を要約すると、所謂完全料理及び飲料チートだよな。
しかも俺の元居た世界の味さえ再現可能か……。
よし! これでパッシブスキルにセット完了っと。
次にパッシブっと。
【パッシブ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【聖女専用限界突破スキル】
特殊
-
全聖女・限界突破魔法習得
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【絶級シェフ専用スキル】(絶級シェフの時のみ自動でパッシブに追加)
全スキルコンプリート
⇖【詳細】
・絶級シェフの全スキル使用可能
・絶級シェフの全スキル能力1段階向上
・職を絶級シェフにしている時、触れた食材を最高級食材に変換
使用食材の質向上(極)
食の自動温度調整(食す前まで)
食材及び料理鑑定
アイテムボックス内における食材の質向上(極)
【絶級シェフ専用限界突破スキル】
他料理の質の向上
- 絶級他料理自動向上(他職でも可能)
特殊
-
全絶級シェフ・限界突破スキル習得
―――――――――――――――――――――――――――――――――
俺は絶級シェフのスキルが使いたくて妖精王に申し出る。
「妖精王、食材はどんな物を使われるか、見学に行っても良いですか?」
「女神様のお口に合うか分かりませんが、私達の一番良い食材を使います。女神様がお望みでしたら、食材をご確認して頂いても構いません」
「妖精王、ありがとね! 私もちょっと見て、手伝ってくるね」
俺が手伝ってくるという言葉を使ったせいで、妖精の王妃が慌てだした。
「あっ、いえ。女神様の、お手を汚させるわけには……」
「気にしないで、私の趣味みたいなものよ」
俺は食材も置いてあるオープンキッチンに行くと言って駆け出した。
すると、妖精の王妃が慌てだしたような気がするが気にせずに料理人を探して奥に入っていった。
忙しく料理をしている妖精料理人達が見えたので、俺はお礼を伝える。
「調理場の皆様、忙しいのに私達のために料理を作ってくれて本当にありがとね」
妖精料理人達が、俺のありがとうという言葉に一斉に声をそろえて反応する。
「「「いえ、とんでも御座いません。女神様に食べて頂けると思うと、感謝の気持ちで一杯です」」」
「えへへ、ありがとう。それでね、少し相談なんだけど……私もお料理を作ってみたいの。少しで良いので、食材を分けてもらっても良いかな?」
「「「勿論です! どうぞお好きな食材をどうぞ」」」
と、目の前で跪いた妖精料理人達が一斉に頭を垂れてきた。
「跪かなくてもよかけんね? 皆感謝しとうよ。この食材少し、貰うけんね」
「「「どうぞ、女神様の思うままに!」」」
俺は幾つかの食材を分けてもらった。
すると、ちょうど妖精王と王妃が慌てて駆けつた。
続いて、アイビーとシルクも妖精王に呼びだされたのか駆けつけてきた。
そして、シルクが機嫌悪そうな顔をする。
「ちょっと女神様! 料理も作った事が無さそうな手と顔しているのに、何勝手に調理場に入ってるのよ。おかげで、パパとママに大慌てで呼び出されたじゃない!」
シルクの暴言に、妖精王と王妃が慌てる。
「これ、シルク! 女神様に失礼だぞ! 申し訳ありません女神様」
「女神様、娘が申し訳ありません」
「あははは、騒がせてごめんね。確かに、見た目では作れそうに見えないよね。それに、実際に作るんじゃないのよ。見ててね!」
俺は木製の食器を調理テーブルに広げ、食材に右手を翳し、左手を食器に翳しスキルを口にする。
「【【絶級料理変換】】」
すると木製の食器に、王宮でも見た事が無いであろう俺が元居た世界、その技術推移で創作され、豪華な飾り付け施された、美しく色鮮やかで、芳醇な香りと食欲をそそる料理の数々――それに飲料類が一瞬で、できあがた。
それを見た妖精王と王妃、シルクにアイビー――それに、妖精料理人達の目が白黒したと思うと、開いた口が塞がらなくなり涎を垂らしだした。
一瞬早く気が付いた妖精の王妃が、自身の口元の涎を皆に気づかれぬようにサッと拭いた。
そして妖精王の涎を拭き――
「はしたない」
と呟いた。
すると――
「そなたもであろう」
と妖精王が王妃のドレスを指差していた。
妖精王と王妃の気まずい空気に、俺が声をかける。
「皆お待たせ。食事と飲み物が出来たので運びましょ」
俺の料理と香りで、自信をなくした妖精料理人達が項垂れて言葉にならない言葉を発する。
「女神様……」
「勿論、貴方達が愛情込めて作ってくれた食事も食べたいわ。だから、必ず持ってきてね」
俺がそう伝えると、妖精料理人達は感謝の涙を流し喜んでテーブルに食事を運びだした。
俺は料理人達を気遣い、一緒になって笑顔で食事を運んだ。
妖精王と王妃が申し訳ないように、二人佇んでいたが……。
まあ、それは後で俺が妖精王達をフォローする。
食事を運び終え。さらに妖精王達をフォローし終え。
妖精料理人に案内されて、席に着くと妖精王が乾杯の音頭をとる。
「皆の者。女神様に感謝を! そして、我らのこれからの繁栄に……」
ここで、シルクが妖精王の言葉を遮る。
「もぉーパパ、そういうのは良いから早く食べましょ」
シルクは両手にフォークとナイフを持って、今にも料理に手を伸ばそうとしている――シルクは先の戦いで魔力を多量に消費した。
なので、もしかしたら魔力補給に食事を必要とするのかもしれない。
しかし俺は、傷だけでは無く魔力や体力すらも完全に回復するエリクサーレインを放った筈だ……
シルクが妖精王のありがたい言葉を遮ったので、怒られる前に俺がフォローをいれる。
「そうね、私もお腹ペコペコよ。皆、食べましょ。いただきます」
俺は食べる前にいただきますといつもの挨拶をすると、シルクが不思議そうに聞いてきた。
「女神様? いただきますって何?」
「食事を食べる前の挨拶。そうね、天の恵みと、食材を育ててくれた者、食材を料理してくれた者たちへの感謝の言葉よ」
俺の世界……。いや、正確に言えば元居た世界の国。
そこでは普通だった食べる前の挨拶である言葉。
ここが異世界であり、異世界の風習では、食事前の挨拶が無い事を改めて感じた瞬間だった。
俺の元居た世界でも、食文化の違いで、挨拶も、マナーも違う。
王国に行った時は、その国の風習に注意しなければならないと改めて感じたのだった。
俺が作った料理と飲料等は大好評で、瞬く間に妖精と妖精狼達の胃袋に消えた……。
シルクは、他の妖精達の倍以上――俺が作った料理を食べている。
しかし、ケロッとして更に食べようとして王妃に止められていた。
どこに、あんな量の料理が入るんだ? シルクって、食いしん坊だったんだ……
俺は先ほど、シルクの魔力が枯渇して――もしや、まだ回復していないのでは? という懸念が、晴れたので、胸を撫で下ろした。
俺は、妖精料理人達の愛情のこもった料理を食べた。
でも、あれだけ作った自身の料理が少し気になった。
しかし、料理を作っても作っても、自身が食べる前に消えていく。
何度も調理場に向かい【絶級料理変換】を使用した。
スキルを百回以上使用した所まで覚えているが、その後はもう覚えていない。
お腹がいっぱいになり、そのまま眠る者が出てきた。
そこで、ようやく自身のスキルで作った食事を食べる事ができた。
あ……これは旨すぎて中毒になるな。
皆の食べる勢いが収まらなかったのが、分かった気がする。
勿論、妖精の料理人達が作ってくれた料理は一番初めに食べたので、料理人達は終始笑顔だったのは言うまでもない。
俺はスノーとアイビーを膝の上に乗せて、モフモフを堪能しつつ舌鼓を打った。
スノーとアイビーにも、スキルで使った特別な肉料理を食べさせてあげた。
スノーは普通に美味しそうに食べていたが、アイビーの食べるスピードが尋常ではなかった。
スキルで作った料理、ちょっと考えないと可愛いアイビーが太るかもしれないな。注意しないと……。
俺は、二匹の美味しそうに食べる姿を見てほっこりとした気分に包まれ宴を楽しんだ。
大好きなモフモフの幼狼と妖精狼達に囲まれ、澄み切った夜の空気が美味しく感じられた。
※ ◇ ※
【サラティーSIDE】
私は秘密の部屋に入ると、ベッドに鈴君の身体を横たわらせた。
冷静になりなさい、サラティー。
秘密の部屋に入ったからと言って、鈴君の身体を見てだらしない顔をしてはなりません。
貴女は、第一級上位管理者なのですよ。
「でも鈴君は、お兄様に似すぎていらっしゃるのですもの。自然と笑みが漏れるのは仕方がない事だもの」
サラティー、裏の貴女がこの時間に出て来られると、鈴君の身体を私が詳しく調べられないです。
だから、表の私と早く変わりなさい。
「そうは言いますが、貴女もサラと言われて鈴君にデレていましたよね」
それは、貴女が鈴君にサラと言わせたからです。
サラティー、もうその事は良いですから早く表の私と変わって下さい。
「サラ、鈴君に変な事しないで下さいね」
サラティー、貴女と違うのですからしません。
実は私には、幾つかの精神が存在致します。
それは最上位管理者であるお兄様が、この世界を管理する上で必要なものだと考えたからです。
お兄様が仰るには、「一つの精神では、偏った世界になってしまう」との事です。
ですので、このように精神が同時に発現することがあるのです。
「コホン! では先に、平行異世界からの侵略を試みている、澱みの者達の不可解な動きを見てみましょう……」
私は、鈴君の身体の髪をそっと撫でてから、この世界に押し寄せる澱みを見ることにしました。
なぜか大きな澱みだけが、激しい侵攻を停止させています。
この世界全てを取り囲む結界を、正常化させる事は容易になりました。
ですが、それこそが不可解なのです。
大きな澱みの改変を、私が全て修復し正常化させてきました。
だからこそ、大きな澱みの侵攻停止は明らかに不可解なのです。
私は、私の中で議論することにしました。
「ライラ、貴女はどう考えますか?」
あたいは、一気に相手の元に行き全てを破壊すれば良いと思うぜ……いますわ。
また、始まったよ。
ライラの、力任せでの解決。
そう言うラックは、どう考えるんだ……ますの?
うちは、そうは思わないね。
「ラック、でしたら貴女はどう考えるの?」
うちは、全て運に任せる。
管理者は、動向を見守れば良いの。
ラック、それは我らが手出ししなくても解決出来る時だけだ。
「ワイト、でしたら貴女の考えは?」
我ら全てで、不可解な行動に眼を向けることだ。
我らは、幸い十の精神がある。
その精神で、澱みの全ての動向を見れば簡単なこと。
ワイト、私はそれは合理的ではないと思います。
「ホワイト、貴女の意見を聞きたいわ」
私は、システムとセキュリティーの強化が必要だと思います。
システムとセキュリティーの強化は、その他にも役立つ事が多いですので。
「確かに、システムとセキュリティーの強化を推し進める事は急務だと私も思います。システムとセキュリティーの強化に、異議がある者はいますか?」
僕も、ホワイトに協力するよ。
「Lも、ホワイトに協力してくれるのなら助かります」
僕はその他に、澱みの思考パターンと行動パターンを探りシステムに取り入れるよ。
相手の立場になれば、見えてこなかった中身が見えてくる事も有るからね。
クックック、悠久の時を過ごしてきた我の知識も必要なようだな。
「M、貴女もホワイト達に協力してくれるの?」
クックック、我が手を貸せば闇のシステム改変など容易い。
L、どう思う?
ホワイト、厨二病の彼女は必要ないよ。
クックック、Lは照れ屋さんだな。
「ラティーとライラックは、どう考えます?」
私は、ホワイト達の意見だけではなくワイトやライラの意見も重要だと存じます。
ラティーも、ライラックお姉様に同意見です。
十の精神があるラティーやお姉様達は、その為にお兄様が十に精神を分けたのです。
「分かりました。では、行動をそれぞれ起こすことにしましょう。サラティー、貴女は?」
サラ、私はいつも貴女と同意見です。
ですが、一つだけ言いたいです。
「何でしょうか?」
お兄様に似ているからと言って、いつまで鈴君の身体を撫でている気ですか!
私はサラが、ちゃんと調べる気が有るのか聞きたいのです。
「――議論が終わったら、直ぐに調べます」
こうして十の精神を持つサラ達は、それぞれが行動し対処する事になったのである。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
アイビー「ワン、ワフ……クウーン?」
『訳 女神様、僕……臭かったですか?』
リリー「え……くっ、くっ、臭くないよ? どうしたの、アイビー?」
アイビー「ワン……クウーン、ワン、クウーン、クウーン」
『訳 作者さんが……妖精狼達が匂ったので、女神様が神聖魔法で洗浄
したと仰っていたので』
リリー あのポンコツ作者――ポンコツなことバラされたからって、
余計なことを……
リリー「アイビーはね、凄く良い薫りなの。だから私、いつもアイビーの
匂いを嗅いでいるでしょ」
アイビー「ワフ、ワン、クウーン……」
『訳 でもシルクが、女神様は匂いフェチだって……』
リリー「あは、あはははは……」
もう、笑って誤魔化す事しか出来なかった。
教訓……【バラすものは、バラされる】である。
そして、もうこれ以上アイビーに嫌われたくないので、二度と作者の
失態はバラさないと心に誓ったリリーであった。
チャン、チャン。




