女神の奇跡
妖精狼の負傷者達と、魔力切れで倒れている妖精達の全員の周りに――
暖かなオーロラの様な光が照らすと共に、虹色の雨が降り注ぐ――
「えっ? なんだこれは? 光の帯と、虹色に輝く雨? ……魔力が、回復していく? 力が、戻って来る? ……き、奇跡だ!」
なんだこれはってか? ん? ――聞いたことがある、フレーズだな。
これじゃなくて、チミか……このフレーズは、よそう。
女神サラの、イメージが壊れる。――まあ確かに、幼い子が踊れば可愛いけれどね。
「ワン、ワン。ワフ、ワフ……ワオォォォン!」
『傷が、塞がっていく。身体の疲れも、嘘のように消えていく……女神様の奇跡だ!』
うんうん。モフモフ達は、疑いもせずに素直に奇跡と言ってくれている。
かーわぁいぃーなー。あとで、皆モフモフしてあげるからね。
虹の雨が止むと、倒れていた者達が次々と立ち上がり抱き合い喜びあっていた。
更にエリクサーレインの範囲内にあった木々や花々さえも回復され、妖精達が暮らす木々も元の状態に戻っていった。
結果、エリクサーレインは範囲内の負傷者だけでなく、範囲指定された場所一帯の生き物や植物さえも回復する事が分かった。
しかし、古い植物など――妖精達が住んでいる木の虚に、扉として作った物や中にある家具は回復されなかった。
もし回復されるのなら、それは回復魔法ではなく時空魔法の逆行再生だ。
時空を逆行させて、元の状態に再生する。
聖女が得意とする魔法ではない。もし有るとすれば、賢者の魔法だろう。
賢者にもなれるが……今は聖女でいい。うん。これでいいのだ。
俺は傷ついていた妖精狼の母親が全快したので、赤ちゃん幼狼を返しスノーと一緒に切り株の上に座った。
「うんしょ」
暫くすると、アイビーの上に乗ってシルクが男女二人を案内する様にこちらに走って来た。
青年は他の妖精達よりかなり大きく、人の様な姿で羽は無いが人より耳が少し長いエルフの見た目であり、宝石の付いた杖と王冠、それに豪奢な衣を纏った優し気な表情の眉目秀麗の美青年だ。
美青年の少し後ろを歩くのは、様々な色合いの宝石を散りばめたティアラを付け、シルクより髪が長く、ロングスカート丈の豪奢なドレスを着飾り、シルクにそっくりな容姿端麗で、普通の妖精より大きな美少女だ。
そして美男美女の後ろに少し遅れて、傷と魔力がそれぞれ回復した妖精達と妖精狼達が、揃って俺を目指してやって来た。
美青年と美少女二人は、優しい表情で、俺に一礼をしてきた。
シルクを乗せたアイビーが、側に来る。
「ワン。ワン、ワン、ワオーン」
『女神様。妖精王と王妃を、お連れ致しました』
「エッヘン! 女神様、私のパパとママよ」
「シルク! 女神様に失礼ではないか! 娘の失礼を詫びよう」
妖精王と王妃は深く頭を下げてきた。
そして、シルクにも謝る様に言い訊かせている。
俺は慌てて、妖精王が無理やりシルクに謝らせようとさせるのを止めた。
「共に戦った仲間ですので、どうぞ、お気になさらないで下さい」
妖精王と王妃は申し訳なさそうな顔をした後に、二人とも佇まいを正してから俺に跪いた。
「私は妖精王、アラビアン・ジャスミンと申します」
「私は妃の、マダガスカル・ジャスミンと申します。娘達がお世話になりました」
「女神よ、この度は妖精族と妖精狼族の両民を救って頂き、両民一族の代表として感謝致す」
妖精王と王妃が跪く中、アイビーとシルクも俺の前に跪き、感謝の言葉を述べて頭を垂れてきた。
少し後ろに控える妖精達も一斉に跪き頭を垂れ、妖精狼達も一斉に伏せて頭を垂れた。
俺はスノーに『小声』でヒソヒソと相談する。
『スノー、どうしよう? 皆、私を女神サラ様と勘違いしているみたい』
『リリー様、魂は違いますが身体はサラ様ですのでよろしいのでは? うにゃん』
いやいや、中身も女神サラ様でないとダメでしょう。
でもまあ、こうなったら代理人で通すしかないか……
「残念ながら、私はあなた達が信仰する聖堂の女神サラではございません。
私は女神サラの名代リリー・ヴァリーと申します」
妖精族と妖精狼族が控える中、皆が少しざわついた。
「皆の者、静まるのじゃ」
と、妖精王達に続き一名の年老いた口調の妖精が妖精王達の後ろから前に来て跪く。
妖精の姿が似通っているので、この妖精は最長老妖精と呼称しよう。
「女神様、お久しぶりで御座います。二千年前にかつて御降臨された御姿より……【僅かに成長】されております。が、わしに見間違いは御座いません。その御姿は正に、女神様じゃ」
最長老妖精、今のまは何だ? それに、胸の辺りをマジマジと見つめるのは失礼だろ。追い打ちに【僅かに成長】されてと言ってから、顔を見上げるなよ……これって女神サラの名誉の為に、突っ込んだ方が良いのか?
まあ、いいけど……。
最長老妖精が、さらに話を続ける。
「二千年前――月の狼マナグルムを始祖に持つ月狼王と、妖精王はかつて争っておった。しかし、月狼王と妖精王は、女神の恩命を受け争うのを止めた。今では、月狼を改名し妖精狼と名を変え、我ら妖精族と互いに助け合い共に平和に暮らしておる。これも女神様の、お導きのお蔭じゃ。本当に感謝致しますぞ」
妖精族と妖精狼族の歓喜の声が巻き起こる。
「おおぉぉぉ! やはり女神様だ」
「ワオォォォォォォン」
『女神様バンザイ』
小さな妖精は全て美少女の見た目であるが、性別はあるようだ。
恐らく、口調が男よりな妖精が男妖精なのだろう。
男妖精の数人が僅かな成長って呟いている……。
コラ! そこの男妖精! 胸見るな!
益々皆が女神の降臨(一部は違う所に興味を示しているが)にヒートアップしていく様子が目に見えて分かる。
俺は、スノーに「どうしたら良いかな?」という表情で訴えかけた。
すると――
『リリー様は既に第一級下位管理者の魂を持っています。うにゃん』
スノーが『小声』で、俺にアドバイスをくれる。
『サラ様が身体を再構成される約二年間。その御姿で生活されるのですから、世界を見て回ると良いと思います。うにゃん』
スノーの答えはこの状況に対して言っている物ではなかった。
が、何となくこの状況から場所を移す意味合いも込めて言っている気がする。
『ふにゅ? 世界を見る? 〇門様みたいに?』
『〇門様の意味が、分かりません。うにゃん』
幼少期テレビで見た〇門様は、のんびりと旅をしつつ旅先で悪を裁くヒーローに見えた。
何より俺の願いは――【女神の身体を借りたので、出来る限り平和に暮らしたい】だ。
ともあれ、平和に暮らせる場所を探すまでは――のんびりと旅を楽しめば良いかと、気軽に考えた。
「私は、この世界で生きる者達の幸せを心から願っております。困っている方達を助けに行くために、この場を去り旅に向かわねばなりません」
アイビーはシルクを乗せたまま、重い足取りで俺に近づき寂しそうな面持ちで潤んでいる目を向けてきた。
「クウーン……」
『女神様……』
俺はアイビーの潤んだ瞳に見つめられ、我慢の限界を迎えシルクごとアイビーをギュッと抱きしめた。
そして本音をぶちまける。
「うちも、ちかっぱ愛らしい子と離れたくないけん。ヤダァ、連れて行きたいっちゃ」
シルクが何やら苦しいとモゴモゴ言っている。
しかし、俺はもっとモフモフを楽しみたくて、シルクごと顔をアイビーのお腹に埋めた。
俺がアイビーのお腹に顔を埋めていると、妖精王が語りだす。
「強く美しい女神よ! 妖精王として嘆願する。妖精の王族とエルフの王族の混血である私の血を引くシルクは、知見する事で私の様に見た目がエルフの様に進化する。そして、さらに魔力が大幅に増大し多彩な魔法が使用可能になる。妖精狼の王であるアイビーも、知見する事により他のものより強大な力と魔力が手に入る。今回の件も加え、シルクとアイビーは世界で知見を深める必要があると私は考えます。できれば女神様の旅の従者として、二人を連れて行っては頂けないだろうか?」
アイビーのお腹に顔を埋めて、モフモフを堪能中だったことも有って俺は何も考えずに――
「よかよ」
と、返事をした。
返事したものの、少し戸惑いが有った。
繰り返すが……
俺の願いは――【女神の身体を借りたので、出来る限り平和に暮らしたい】だ。
そう、旅立つ本当の理由は、静かに暮らせる場所を探す旅なのだ。
この子達を本当に連れていって良いのか? と、一瞬考えが浮かんだが……
モフモフ成分堪能中の俺は、思考が幼児並みに低下してるため深く考えなかった。
モフモフ成分をエネルギーチャージ完了した俺は、アイビーとシルクを手元から降ろし本人達に確認する。
「ねえ? アイビーとシルクは良いの? 私に付いて来ると、色々な事が、もしかしたら起こるかもしれないのよ?」
「ワン! ワン、ワフー」
『勿論! 女神様に、付いて行きます』
「そうね、アイビーの事も心配だし。仕方がないから、私も一緒に付いて行ってあげるわ!」
俺は妖精王と王妃、妖精族と妖精狼族達に伝える。
「妖精王と王妃、シルクとアイビーは私がしっかり鍛えてきますね」
「女神よ、迷惑をかけるかもしれんが、娘とアイビーの事を宜しくお願い致す」
俺は妖精族と妖精狼族に向けて思いを伝えた。
「妖精族と妖精狼族の皆様、今回の教訓をふまえて強大な敵が現れても共に助け合ってください。女神サラ様の教えを守り、平和に生きていかれる事を心から願っております」
「はい、女神様」
「ワン、ワン」
『はい、女神様』
「そして、女神サラ様の名代、私【リリー・ヴァリー】も皆様が幸せで有りますように心よりお祈り致しますね。テヘッ、ペロ」
俺も皆が幸せである様に伝えた後、急に恥ずかしくなり最後は古い時代の照れ隠し、下顎に右人差し指と中指を斜めに添えてテヘッペロっと舌を出した。
所謂テヘペロである。
「うわぁぁぁぁぁぁ! 女神リリー様! 可愛いです! 美しいです!」
「『惚れてまう!』」
「ワオオオォォォォォォン! ワフワフワフ! クウゥゥゥゥゥン!」
『女神様バンザイ! 女神様女神様! 女神様モフモフして!』
妖精から妖精狼まで大絶賛である。
一部「『小声』」で変な事言っているのがいるが……。
この時代は、こんな古い照れ隠しが人気なのか! と、密かにメモをするのであった。
余談だが、エリクサーレインの後、すぐに無詠唱で唱えた魔法 ブレスド ピュリフィケイション セレモニー は、神聖魔法の清浄化魔法だ。
実は、アイビーはそれほどでもなかったのだが、妖精狼の大人達が匂ったのだ。
妖精達もだが、風呂は貴重で水浴びが一般的だからだろう。
それに妖精狼というが、水浴びが嫌いな者が多いのは容易に想像できる。
この機会に俺は、妖精達も含めて妖精狼達を神聖魔法で洗浄したのだ。
この事は皆に内緒だぞ。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。
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リリー「ねえ、スノー知ってる? 作者さんね……最近まで読んで頂いている
方々は、ブックマークされている方々のみだと思っていたそうよ」
スノー「リリー様なぜですか? うにゃん?」
リリー「実はね……私が教える最近まで、作者さんこのサイトの使用方法も
よく知らないポンコツさんだったの」
スノー「では、リリー様に感謝されているのですね。うにゃん」
リリー「うん。それに、読んで頂いている方々にも心から感謝しているそうよ」
スノー「うにゃん」
リリー「私とスノーそれにシルクとアイビー共々、読んで頂いている方々に、
感謝をお伝えすると共に、これからも応援宜しくお願い致します」
シルク「女神様……これって最後じゃ無いよね?」
リリー「まだまだ続くよ」
スノー「うにゃん!」




