リリーvs澱みの魔獣3(改)
澱みの魔石と思われる黒い闇のような光がより一層輝き、頭部が回復した途端、急激に胸腹部の回復力が上がった。
恐らく、頭部と腹腹部は連動し頭部は回復の指示を出す器官だが――弱点である澱みの魔石に危機が迫った場合、頭部を集中的に回復させ弱点である胸腹部の再生能力を飛躍的に上げるのかもしれない……
くっ、このままではじり貧だ。
僅かな希望を信じ、俺は自身のステータスの詳細情報を確認する。
その時、とても懐かしく暖かい『小さな囁き声』が……
『鈴様、オマケですの』
え……今のは、声音か?
俺の、魂の奥底から――微かに、聞こえてきた気がする……。
ステータス画面が自動で起動し、神楽舞のような音色と共に――
【システム起動……】
【ご応募ありがとうございます】
【申請を全て承りました】
【キャンペーンにつき特典がプレゼントされました】
【プレゼントの一つ封印一部開放を承りました】
【能力の一部を開放致します………………成功しました】
【天狐八尾狐特殊能力解放 +AP 10%加算されます】
【能力解放後、AP能力を使用すると、10秒後に再封印されますのでご注意下さい】
+AP(封印)0.01%の下が輝きだし、文字が現れ――
魂を縛る鎖が、一つ音を立てて粉砕する。
そして――
AP /////
+AP(封印)0.009%【サラティー・L・ホワイト・M・ライラック】
天狐八尾狐特殊能力解放 +AP 10%
すると、画面の右端に小さな金色の文字で【天狐八尾狐特殊能力解放】と言うスイッチのようなものが出現した。
+APって何だ? 能力解放10%……でもこれなら、どんな事さえも出来る気がする。
まあ、システムの物言いは意味不明だが――背に腹は代えられない。
そういえば、ゲームか漫画アニメ……何か忘れたけれど。
拳法家? みたいな人が、気を操作する事で――
内部を破壊しつつ、衝撃で背部も破壊していた技があった。
経験が無くぶっつけ本番になるが、見様見真似でやるしかない。
俺はまだ、この世界における魔法を知らない――元いた俺の世界には、魔法の存在すらなかった。
女神サラ曰く、職により魔法を使用可能であると――しかし、この世界に突然飛ばされた俺の魔法知識は皆無である。
しかも、職は空欄……。なので、現時点で魔法は放てない。
だけど、自身の神力? 魔力の様な物? 何かは、身体にひしひしと感じる事ができる。
「私の世界の技をアレンジして私の中に確かに感じる、神力か魔力の何かを使ってみる。だから、スノーはサポートお願いね!」
「うにゃん!」
俺はキメラを、見据える。
そして――
「来なさい、バカキメラ! やーい、やーい、こっち、こっち、パン、パン、アッカンベー」
俺は後ろを向いてお尻をフリフリさせて、お尻を二度叩く。
そして、目の下に右人差し指を添えて舌を出した。
あまりにも時代遅れな、古典的な仕草でキメラを挑発した。
しかし、何故かこの挑発に異常に怒り狂い反応――
キメラは大きな牙を見せて涎を垂れ流し、血走った目で俺を睨みつけ遠吠えを上げた。
そして左右に身体を振りつつフェイントを入れ、時にはバックステップを織り交ぜ突進してきた。
「ワオーォォォン!」
キメラは、雄叫びをあげつつ攻撃――俺はその突進に舞を舞う様な華麗な動きで、右に左に下にと攻撃を躱す。
そして身体の中の神力か魔力に似た何かを、集めては吐き出し身体に巡らせ調節を繰り返した。
呼吸法と身体の中を巡る感覚、それに集める感覚を研ぎ澄まし繰り返し何度も続ける。
うん? 慣れてきた?
歩行時に認識障害の時にも感じたが、女神サラの身体は――
慣れる? 学ぶ? いや、適応能力か――それらが、不思議に早い。
これなら――
相手にわざと見えるように往なし続け、瞬時に肉薄しキメラの懐に潜り込み視界から消える。
そしてジャンプして刹那、分厚い毛皮と筋肉に覆われた胸腹部に息も吐かせぬ怒濤のラッシュ――
「刹那・暴風・滅・爆・拳」
ゴォォォォォォ ドドドドドドドドド バズバズバズバズ
両手で百連続マシンガンコークスクリューパンチを叩き込み、風切音をたて無数の穴を開けた。
因みに、この技名や後に続く技名は適当に考えた技名だ。
なんせ俺はまだ、この世界の技は全く知らないからだ。
あまりの激しい攻撃に下を向いたキメラの顔を嘲笑うかの様に回り込み――
「飛翔・破砕・地・獄・蹴りぃー!」
ドゴドゴドゴドゴドゴォォォォォォ バキメキボキベキィィィィィィ ドドガーン!
ジャンプしキメラの頭を両手で掴み額に連続で膝蹴りを叩き込む。
更に、無数に陥没する額に追い打ちでダブル踵落としを叩き込んだ。
キメラは顔面から落ちて、地面をバウンドすると共に俺がそれより早く着地する。
真下に潜り込みキメラが地面に伏せる――
「真・昇、ゲフン、ゲフン、炎帝・飛翔・空嵐蹴り!」
ドゴー! バギッ! ベギッ! ドガーン!
刹那、膝を曲げ強烈な左ブローを食らわせ――瞬時にジャンプし、右拳、肘、膝と叩き込み、最後に後転して巨体なキメラごと上空に蹴り上げた。
危なかった、もう少しで有名格闘ゲーム技名言いそうだった……無理やり蹴り上げたけど。
更に、キメラが落下するより早く着地し、上に吹き飛んだままのキメラに向かって――
「瞬、ゲフン、ゲフン、刹那・覇王・連撃!」
ドゴォォォォォォ バキメキボキベキィィィィィィ
ドゴォォォォォォ バキメキボキベキィィィィィィ
残影を残すようにジャンプし、キメラの全身に蹴り拳を怒涛のラッシュで二百連撃叩き込む。
そして、空中で背を向けて決めポーズ!
『我、モフモフを極めし者』
と、心の中で呟いた。
ヤバ! ……また言いそうだった、でもジャンプ中だし大丈夫か!
更に追撃、上空で身体を捻りキメラの頭上に移動し――
「煉・獄・脚!」
ギュルゥゥゥゥゥゥ ドガーァァァァァン!
落下と共にキメラの頭を土台に、スクリュウキックを叩き込んだ。
そして――高速回転で炎を巻き上げ、そのままキメラの頭を大地に減り込ませた。
大地にクレーターが出来、クレーターの中心でキメラの頭は地面に減り込み、身体中に無数の小さな穴が出来ていた。
キメラは地面に伏すと、怒涛のラッシュの連続ダメージ過多で再生力を超えたのか、再生が著しく低下し痙攣して動きが止まっていた。
本当に――この攻撃で、キメラを倒せるだろうか?
俺は心配な気持ちを落ち着かせる為、言葉にして願いを込める――
「私の拳に、皆の思いと願いを込めるわ。だからお願い……」
俺は瞬時に肉薄し動けなくなり頭が地面に減り込んでいるキメラの下に潜り込み――
心臓あたりに丁度衝撃が斜め上方を向く様に位置取りし、両手の指を重ね合わせ――
先ほどから練習で集め吐き出し身体に巡らせ続ける事で、コツを掴んだ神力か魔力を練り上げ――
力の塊を、重ねた両指先からキメラの心臓部に叩き込む。
「花楓院流・役枝・神の型」
刹那、足先から足首、膝、腰、肩、肘、手首と回転の力を伝達させ――天狐八尾狐特殊能力解放、スイッチオン!
異常とも思える力が爆発的に増大し、その更に大きく練り上げた塊を――先ほど叩き込んだ心臓部に追撃させ、力の伝達と共に加速させる事で、両手指をクロスし押し込む様に両掌から叩き込む。
「流水・華道掌波!」
ボォブバァァァァァァ ゴォォォォォォ バギィィィィィィ
ふっ! 今の俺はきっと、リリー的に超絶格好良い筈だ!
俺は、花楓院流神の型と、適当に考えた技名を叫んだ。
神の型とは、花楓院流における華道の役枝の事だ。
花楓院流の役枝には神、使、民がある。
花楓院流では、宇宙間の万物の基礎「天・地・人」三才になぞらえて3つの役枝で構成している。
役枝とは、簡単に言うと華道における基本だ。
その基本のルールに則り主役となる花材を組み合わせ作品を生み出す。
っとまあ華道の事はさておき、今はまだ戦闘中。
追撃させた巨大な力の塊が、心臓付近に先に放っていた力の塊とぶつかり炸裂!
キメラが一瞬膨らむと内部と背部を破壊させ、背部が吹き飛び――勢いが収まらない衝撃が空に向かって雲をうみ、その雲を巻き込み満月に照らされる空が割れる。
そして、空間に歪みが幾つもの渦と稲妻を呼び――そのブラックホールかと思わせる渦の中心が、黒く光り刹那――白く輝くと、渦巻き状の雲となって月に照らされる穏やかな空となった。
衝撃の隙間から淡く黒い光る極小の魔石が飛び出たのが見えたが、澱みの魔石は衝撃の渦で粉々になり砕け散り煙の様に消えていった……
「ワレ……イチ……」
消え去る瞬間、音なのか声なのか不明な何か? そんな何かが、風にかき消された気がした。
澱みの魔石を失い再生出来なくなったキメラは、見る見るうちにドロドロに溶けて萎んでいき元の幼狼リーダーの亡骸となった。
空が異常なほど変化した己が放った衝撃が怖くなり、咄嗟にスノーを見ると白銀の美しい毛並みを持つ巨大な虎となっていた。
そして、凄まじい形相で必死に辺り全体に煌く雪の結晶の様なシールドを張っていた。
辺りが元に戻ると小さな子猫の姿に戻り、コテっと転がった後、ゆっくりと伏せて寝転がる。
「えぇぇぇぇ! ス、スノー? スノー大丈夫とー?」
コロンとした表情のスノーが、起き上がる。
そして――
「サラ様からのリンクで、力が補充できたので大丈夫です。うにゃん」
苦しそうな表情をしていたスノーが心配になり声をかけたが、元気そうな声が返って来た。
※ ◇ ※
【サラティーSIDE】
鈴君の身体を調べてみて、分かった事。
それは、お兄様の能力を使用して創られたものだと分かった事だけでした。
それ以上調べるには、最上位権限にアクセスする必要があります。
最上位権限にアクセスするには、お兄様に直接解除してもらうか、秘密の部屋で解析する必要が有ります。
実は、鈴君の魂にも最上位の管理者が拘わっている痕跡が有りました。
その為、あの魂だけしか存在不可能な空間で鈴君の魂が急激に成長したのだと考えられます。
私は念のため、鈴君の魂に管理者の能力を最大限減少させる封印を施しました。
その封印により、鈴君の魂は第三級下位管理者以下の能力となりました。
そして管理者以下の能力でも何不自由しないよう鈴君に権能を授け、私の能力でやり直せる大陸に送ったのです。
私の封印が施されている間は、魂の成長もほぼ止まりますが、上位の管理者の何か意図が有るのなら、その封印も解かれてしまうかもしれません。
それに、約束の年数までに身体を再構成するには、鈴君の身体をもっと詳しく調べる必要が有ります。
やはり、鈴君の魂と身体に最上位の管理者が拘わっている以上、秘密の部屋に行かなければならないようですね。
私は、隣の部屋にいる白銀虎にテレパシーで伝える事にしました。
「白銀虎、私は鈴君の身体をもっと詳しく調べる必要があります。ですので、後のことは任せますが良いですか?」
「はい、承りましたサラティー様。うにゃん」
守護者である白銀虎達に任せておけば、中位の澱みまでなら何とかなるでしょうし、私は秘密の部屋で鈴君の身体を調べつつ、大きな澱みを対処すると致しましょう。
この所、並列異世界からの澱みの者達が進攻してくる勢いが不可解なのです。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。
誤字脱字をご報告下さる皆様方も、本当に感謝致します。




