スキル キーボード
小休憩したので、再び村に向かって歩き出す。
ワールドマップはある程度把握したが、他の能力についてはまだ不明だ。
「ねえ、スノー? 今のうちに、他の能力の使い方を試そうと思うのだけどいいかな?」
「うにゃん」
改めて俺はスキル一覧を確認すると、一覧の横にスキルセットがあった。
それをクリックすると、ゲームの様にパッシブスキルとアクティブスキルが右側に二つ開いた。
スキル一覧 →
―――――――――――――――――――――――――――――――――
【アクティブ】 |【パッシブ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「パッシブスキルとアクティブスキルが開いたけど、これはどう使うの?」
「通常スキルを使う場合は、パッシブスキルとアクティブスキルに使いたいスキルを改めてセットしてください。うにゃん」
アクティブとパッシブ――これ、やっぱりゲームか?
しかし、これは自分の能力で間違いない。
手を動かしてキーボードやマウス等を動かす必要がないのだ。
画面と言って良いものなのかは不明だが、思考する事で開く。
VRゲームでも思考では動かない。操作は必要だ。
アニメ等にある、フルダイブゲーム等に近いのか?
しかしアニメ等のフルダイブゲームでも、システム等を呼び出す場合は手を振りかざす事が多い。
俺の場合、思考する事で全て可能なのだ。
つまり、思考型ゲーム? イヤイヤ、もういい加減現実逃避しなくていいよ俺。
俺はスノーの説明に返事を返す。
「はい、スノー先生」
「スキルはセットする事で、いつでもスキル欄を開かない状態でスキルが使用可能となります。うにゃん」
「ほほぉー」
俺は歩く事に慣れたので、スノーの後をトコトコついて行く。
「但し特別スキルの【文字言語自動変換・無限アイテムボックス・ワールドマップ】は、今はセットできません。うにゃん」
「ふむふむ」
スノーが俺のことを心配し、ついて来ているのか後ろを振り返る姿がとても愛らしい。
「それに【特別召喚】は身体スキルなので、これも今はセットする事はできません。うにゃん」
「ふむふむ」
先ほどから受け答えが単調なのは、スノーの可愛い尻尾も気になるのだ。
「その代わり【特別スキル】は思考する事で使えて、【リンク管理者権限スキル】は一度召喚すると召喚したままになります。うにゃん」
「ほっ、ほぉー」
先ほどから俺の受け答えが気になったのか、スノーが首を傾げている。
スノー、安心して――スノーの愛らしい姿を双眸に焼き付けながらも、説明は訊いているからね……
「もちろん召喚は戻れと思考する事で戻り、再びスキル欄よりクリックするように思考する事で、すぐに再召喚可能です。うにゃん」
スノーは特別なスキルに対して、今はセット出来ないと言っていた。
と、言うことは……
特別スキルである【文字言語自動変換・無限アイテムボックス・ワールドマップ】――それに、リンク管理者権限スキルである【特別召喚】――それらは何らかの方法や何かの出来事で、セット可能になると言うことだ。
俺はスノーの説明に理解を示すように、マウス&キーボードをセットする。
「なるほど、なるほどー。異世界スキルのマウス&キーボードは、動かせるね。これはパッシブに、動かせないのね。アクティブスキルのみ、セット可能ね」
「つまり、移動できるスキルのみセット可能です。うにゃん」
「ふむふむ、それで半透明なのだけど、異世界隠しスキルの限界突破LV0って有るけどこれは何かな?」
「……不明です。うにゃん」
「はい? 不明スキル……」
自身で試しにアクティブやパッシブに移動させようと試みたが、半透明で移動もできない。
更に試行錯誤してみたが、何をしてもウンともスンとも反応しないのだ。
説明してくれるスノーさえも不明……なら、今は考えても仕方が無い。
「スノー気にしないで。不明なら今は考えても仕方が無いしね」
「うにゃん……」
俺は落ち込んでいるスノーを歩きながら抱き寄せて、色々な愛情表現をする――
スノーの尻尾を、指で巻き付けて遊ぶ。頬と頬でスリスリする。顎を撫でつつ、頭と背中を撫でる。モフモフのお腹を、手の指を動かしてワシャワシャしてあげる。耳と尻尾、それに背中ををハムハムする。お腹に顔を埋めてスリスリする。肉球をプニプニする。
俺が愛情表現をする度に、スノーが「うにゃん、うにゃん、うにゃん」と悶えるように喜んでいる。
「クゥゥゥゥゥゥー! モフモフ、ハッピィー・フェスティバール」
どれをとっても、端から見れば俺の欲望をただたんに満たしているだけだと感じるだろうが――
スノーも自信を取り戻して、落ち着いてくれたようだ……たぶん。
女神サラから授けられた権能――無限アイテムボックス・文字言語自動変換・シュミーロの愛情セットボックス・スキル マウス&キーボード・ワールドマップ・特別召喚の白銀虎の六つのうち、使用したのは特別召喚の白銀虎とシュミーロの愛情セットボックスとワールドマップだけだ。
その中で今使用できないものは、シュミーロの愛情セットボックス。
女神サラの身体に合う素敵な羽衣との事だが、第一級下位管理者の権限が必要らしい。
その他の残り三つのうちの一つ――使い道が不明であり、アクティブスキルとして登録できた使用可能スキル。それは、マウス&キーボードだけだ。
それに女神サラが、俺の魂に自然と能力化したと言っていた。
つまり、女神サラやスノーさえ説明不可能であり、自身で試す他は無いと言うこと。
であるならば――自身で試す他は無い。
ともあれ、俺は使用可能なマウス&キーボードを使用することにした。
【アクティブ】
―――――――――――――――――――――――――――――――――
異世界スキル
・マウス&・キーボード
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「【【スキル マウス&キーボード】】」
眼前の手が届く場所に、半透明な元の世界で使用していた【マウス&キーボード】が出現。
それと同時に、眼前の左側にチャット欄と中心にマウスポインターが出現した。
もちろん、キーボードには鼻水と涎等は付いてないから安心だ。
俺はスノーに確認のため、キーボードとマウスに触ってみるように伝えたが小首を傾けていた。
つまり、マウス&キーボードは自身以外は視認や接触する事が出来ないと言うことだ。
ただここに来て、ゲームでもしているかのように錯覚しそうな物が能力として現れた。
俺が、手で触れる事が可能なスキル【マウス&キーボード】だ。
不思議なのは、手で持たなくても左側にキーボードが浮いている事。
そして、右側にはマウスが浮いている事だ。
これらの事から物理的に現物があるのではなく、能力によるモノだと確定できる。
いつも見慣れていたマウスとキーボード――俺の能力なのだが、奇天烈な気分だ。
まあ、マクラや抱き枕として毎日のように使用していたから愛着はあるが……。
位置的に左側のキーボードは入力を左手で行い、右側のマウスは右手で使用する。
慣れたら【右手でマウス・左手でキーボード】の両方を扱うには良いかもしれない。
しかし、普段そんな使い方はしない。
そんな器用な使い方をするのは、ゲームをする時くらいだ。
右手で常にマウスを使用しつつ、左手でキーボード入力を行う。
しかし、俺はそんな器用な使い方はできない。
うーん……キーボード、両手打ちの位置に移動出来るかな?
おっ、移動できる。
自由に移動出来るから、これなら両手打ちも可能だ。
キーボードを入力するのに、歩いていると酔いそうになる。
「うぷっ……。ごめんね、スノー。今スキルのキーボードを入力しようとしているのだけど、歩くと酔いそうになるからちょっと待ってね」
「うにゃん」
俺は立ち止まり、キーボードで文字入力を試みる。
眼前の左下には、チャット欄のようなものがある。
枠をマウスのマウスポインターで触ると、矢印がでてきてチャット欄を大小変化させる事ができる。
最小枠もあるようで押すと、-で表示される。
もし、チャット機能があり登録できるのならチャットを使用してみたい。
しかし現在、俺にはこの世界でチャットができる相手がいない。
当然である。
俺はこの世界に来て――召喚獣であるスノー以外は、言葉を話せるものと出会えていないのだ。
今現在、友達がいないとも言う……
つまり、登録が出来るかも不明であるため、基本と早口言葉くらいしか試せないのだ。
なので、無難に基本と早口言葉を――【キーボードで入力 あ、い、う、え、お、生麦生米生卵、焼肉定食、ジューシー唐揚げ弁当、特性ハムカツサンド、メイドさんが作った愛情たっぷりオムライス】
焼肉定食のあと色々と食べ物を入力しているが、勿論早口言葉ではないと理解している――そして、エンターをポチッとな。
↑
――――――――――――――――――――――⇖――――――――――
↓ - □ ×
―――――――――――――――――――――――――――――――――
あ、い、う、え、お、生麦生米生卵、焼肉定食、ジューシー唐揚げ弁当、
特性ハムカツサンド、メイドさんが作った愛情たっぷりオムライス
―――――――――――――――――――――――――――――――――
■/■ページ ■文字 ■%
―――――――――――――――――――――――――――――――――
「あ、い、う、え、お、生麦生米生卵、焼肉定食、ジューシー唐揚げ弁当、特性ハムカツサンド、メイドさんが作った愛情たっぷりオムライス」
入力した言葉を正確に、ただ早口で話しただけだった。
最後は、今食べたい物を考えて入力したけど――
「って、えっ? 何かないの? スキルだから言霊とかで……」
「うにゃん?」
「気にしないで、独り言よ」
生麦とか生米とか卵とか焼肉定食とか――食べ物が出ると思って期待したんだけど、出ないんだ……
いやお前、本当に出たらその量食べきれるんかい? しかも、茶色い食い物多過ぎ! って突っ込まれそうだけど……
元は、男の子なんだからね。いや、おっさんだろ! ――でも、今は美少女です。
「きゃるるーん」
俺の妄想に対する表情の移り変わりと一昔前の物言いに、スノーが不思議な顔をしてきたのでジェスチャーで何でもないと伝えた。
それにしても、この能力――
「ゲームのチャット機能と同じかよ!」
連続する俺の意味不明な物言いに、スノーが双眸をぱちくりさせていた。
でも仕方が無いんだよ――大阪で勤務していた頃、ボケとツッコミの両刀使いの友人がいて面白くなくてもついつい妄想しちゃうんだよね。
いや、ノリツッコミにボケとツッコミが口から漏れていたが……
この性格は、絶対に封印しないとな――女神サラのイメージが崩れてしまう。
お口チャック……出来るだろうか?
スノーが俺の奇天烈な様子に心配しているので、抱き上げて顔を埋めて――
「何でもないわ。少し以前のことを思い出していただけなの」
と言った。
「うにゃん」
ただ、俺のこの意味不明な言動……恐らく、ストレスが原因だろう。
俺のこの発作とでも言える言動は、転勤で実家近くに戻ってきた五年で終息していたはず。
なのに、発作を起こした。やはり、異世界に来ての不安からだろうな。
でも、ストレス発散や度重なるモフモフチャージで完治できた……ことにしよう。
そんなことより、自信の妄想に浸っていたら日が暮れてしまう……
「スノー、休憩はこれでお終いにするね。もうお昼近いと思うから、村を目指すね」
俺は気を取り直し、再び小さな村を目指し歩き出した。
最後までお読み頂き、ありがとうございます。




