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神送りの夜  作者: 千石杏香
第四章 寄神
32/41

4 夜に潜む者

給食時間が終わる。


美邦と由香の席へ、「放課後探偵団」のメンバーがいつも通り集まった。席順に変化はない。美邦の正面に坐り、頬杖を突きながら顔を逸らす冬樹も同じだ。


変わった点と言えば――「団長」と書かれた四角錐が由香の前に置かれているところか。明らかに手製である。段ボールを切ったりつなげたりして、黒く塗ったとしか思えない。


芳賀がバッグを開き、白うさぎの入った箱を机に置く。そこへ由香が手を伸ばした。包装を解き、箱を開け、「白うさぎ」を配り始める。


続いて、何枚かのコピー用紙を芳賀が取り出した。机の上に拡げたあと、いつも通り茶を入れ始める。幸子が、コピー用紙に手を伸ばした。内容を少し眺め、手を離して(けわ)しい顔をする。


「とりあえず、スレは読んだけどいな――誤チャンの書き込みとか、うかうか信じられるん?」


紙コップを置きつつ、分からんけど――と芳賀は答えた。


「でも――仮に作り話だったとしても、モデルは平坂町でない? 三方を山に囲われた港町で――しかも、神送りと御忌があるっていうにぃ。」


美邦も、コピー用紙に目をやる。


一目で、先日のスレッドを印刷したものだと判った。


実話系の怪談を語るスレッド――その半ばに、七レスに亘って問題の文章は続いていた。投稿されたのは十二年前の三月だ。一応、作り話だとは書いていない。


書き込みによれば――。


投稿者が、小学生のとき――冬休みに入る直前のことだ。親戚に不幸があり、葬儀のために田舎の町に何日か滞在したという。


しかし、葬儀の途中から大雪が降る。三方を山に囲われた港町であり、しかも、この地方にしても大雪となってしまった。結果、町から出られなくなってしまう。なので、除雪作業が終わるまで親戚の家に泊まることとなったのだ。


家には、同年代の従兄弟がいた。


二日目の夜、大人たちから注意される――今夜は外に出てはいけないし、外を見てもいけない、決して見てはいけないのだと。何でも、海の彼方へ神を送る儀式があるというのだ。しかし、送られる神の姿を見れば祟りがある。


だが、投稿者と従兄は好奇心を抑えられなかった。なので――家人が寝静まったころ、恐る恐る外を覗き見する。すると、カーン、カーンと鐘を打ち鳴らす音と笛の演奏が聞こえてきた。そして――。


闇の中、発光ダイオードのような二つの瞳が動くのを見た。


その直後、投稿者と従兄弟は家人に見つかってしまう。結果、殴られた挙句、散々怒られたのだそうだ。


ただし、他に変わったことはなかった。その翌日には、無事に町を出られたという。


そうして十年以上が経った。


書き込みの少し前のこと、投稿者は久しぶりに帰省する。だが――。


従兄弟は亡くなっていた。


儀式には、一年神主という特殊な役職を立てなければならない。五年ほどまえ――従兄弟はそれに選ばれたのだ。しかし、儀式を終え、一年神主の役職を解かれた年――海に身を投げて自殺した。


――一年神主に選ばれた者には、このような祟りがしばしばあると言われる。


そう話は結ばれていた。


恐らく、この港町は平坂町なのだろう――そうは思う。ただし、書き込まれた場所が場所だ。幸子の言う通り、うかつに信じられるのか分からない。


確認するように、冬樹へ言葉を向ける。


「冬休み前――っていうことは、冬至なのかな?」


手の平に頬をうずめつつ、困り顔を冬樹は浮かべた。たしかにそう言えるのだが、確証も持てないのだろう。実際、神迎えに関することや、一年神主の詳細なども全く書かれていない。


――春分に迎えられるまで神様はいない。


セルロイド製の吹き上げパイプを手に、由香は問うた。


「でも、一年神主とか御忌とか書かれとるにぃ。少なくとも、この書き込みがされた十二年前には、平坂神社や御忌を知る人がおったってぇことになるでない?」


そして、パイプをふかす探偵のように球を吹き上げる。


女子に似た顔に、冷えた笑みが浮かんだ。


「それは分からんに。『子供の頃』とか『このあいだ』とか書き方も曖昧だぁが。十二年前もあった――なんて断定できん。もちろん、どっかで聞いた情報を元にした作り話って可能性もある。」


吹き上げパイプを口から離し、由香は唇を尖らせた。


「もうっ、芳賀君ったら――自分が見つけたスレだぁが? そんな否定的にならぁでも。」


「それとこれとは別だに。」


きっぱりと芳賀は言う。しかしその直後、冷たい顔を融かした。怪訝そうな目が由香の手元へ向かう。


「ってか、その『団長』って? 自分で作ったん?」


「うん。――探偵団の団長。」


芳賀の顔が元に戻った。


「実相寺さん、何もしとらんが。団長って言ったら、藤村君の方がそれっぽいにぃ。」


由香は黙り、吹き上げパイプを軽く吹いた。


冬樹はと言えば、頬杖を突いたまま何かを考えている。先々週から正面に坐っているものの、やはり目を合わそうとしない。ただ不愛想なだけなのか、それとも別の思いがあるのか――いまだよく分からない。心情を探るように、おずおずと美邦は尋ねる。


「一年神主になった人に祟りがある――っていうのは、本当なのかな?」


黒い瞳が一瞬だけ向く。


そして、困ったような顔を冬樹は再び見せた。


ほかのメンバーたちも、答えを期待するような視線を冬樹に向けてゆく。それを受け、ますます困り顔が深まった。


「いくら俺でも、何でもかんでも知っとるわけでないに。郷土史家さん()ぇ行ったとき訊くしかない。」


「――そう。」


様々な意味で何も分からない。


――生贄を取るのか。


常世の国から来た神は。


ひょっとしたら、平穏な世界ではないのかもしれない――死者の国へと人々を連れ込む場所なのかもしれなかった。


一息つき、冬樹は続ける。


「でも――もし、芳賀の言うやに平坂神社が破産したんなら官報に載っとるはずだ。それを調べりゃ分かると思う。」


「かんぽう?」クールな顔で芳賀は問う。「小青龍湯とか防風通聖散とか?」


「違うがあ。」呆れたように由香は言う。「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつてこの地位は――」


幸子が慄然とした。


「――憲法。」


二人の間に流れる空気を感じ取る――実は、由香と芳賀は仲がいいのではないか。


無視して冬樹は続けた。


「官報ってったら政府の機関紙だが。破産者の氏名や住所はそこに載る。平坂図書館に問い合わせてみたら、十年前までの官報を保存しとるって。」


希望が見えたように感じる。


「じゃあ――それを調べれば。」


「ああ。」うなづいた冬樹の顔は暗い。「でも、官報は平日毎日発行されて号外もある。一年全て調べるだったら、最低でも二百五十部見ないけんだけど。」


怪訝げな声を芳賀が挟んだ。


「公式サイトなとで検索はできんの?」


「個人情報が載っとるのはすぐ消されるみたいだ。図書館にあるってぇなら、調べてみたいが――」


無視されたにも拘わらず、親身に由香は尋ねた。


「独りじゃ大変ってこと?」


「ああ。」


「私だったら手伝うで?」


由香に続き、幸子も同意する。


「そういうことだったなら。」


見えかけた希望に、美邦も首を縦に振る。


「私も。」


しかし、芳賀だけが何も答えない。ただ、中性的な顔をじっと冬樹に向けている。その様子を幸子は不可解に思ったらしい――眉をゆがめて問うた。


「芳賀? ひょっとして忙しいとか?」


いや――と、芳賀は軽く首を横に振る。


「別にええだけどな――でも、他に調べたいことが藤村君にはあるでないの?」


冬樹は芳賀を一瞥した。目を逸らし、気まずそうに黙り込む。考えていることを言い当てられたようだ。何も答えようとしない態度に幸子は唇を曲げた――芳賀へ向かい再び問いかける。


「調べたいこと?」


「うん。例えば――このあいだ新聞記事を調べたときに調べきれんかったこととか。」


美邦を含む女子三人の視線が、一斉に冬樹へ向かう。


困り顔を冬樹は浮かべていた。答えを渋るように黙り込んだが、やがて、頭を搔きながら答える。


「まあ、それだな。――本当は、十年前の新聞記事を全て調べたい。できれば十一年前と九年前のも。」


暗算し、異様な分量に驚く。


「三年分も――?」


目を逸らしたまま、ああ、と冬樹はうなづいた。


「平坂町で何か変なことが起きんかったか――どんな些細なことでも探し出してリストアップしたい。」


少し静かになった。廊下から響く喧騒が大きめに聞こえる。


幸子は眉を曇らせ続けた。


「十年前は分かるけどいな。でも、十一年前と九年前は?」


「不審死や失踪に増減があるか知りたい。もっと()や――不審死や失踪が、神社の消失と関係があるかどうか知りたい。なんせ、十年前は神社が焼けたに――じゃあ、その前後にゃ何が起きたか。何か起きとったのか――何も起きとらんかったのか知りたい。」


珍しく、冬樹の黒い瞳が美邦を捉えた。しかし、すぐに逸らされてしまう。それでも、自分と深く関わる話なのだということは察せられた。少し考え、思いついたことを声に出してみる。


「火事の原因が、十一年前にあるということ?」


「いや。」


言葉を渋るような顔をし、冬樹は首を横に振った。


「このあいだ、大原さんに言ったが――この町は交通事故が多いって。」


「うん。」


窓から差す光が急に弱まった。机の上で薄まる影を眺め、雨の日に由香から聞いたことを思い出す。


「死亡事故が三件、起きてるんだっけ。あと、失踪も多いって聞いたけど。北朝鮮とかから船が来て、さらっていく――って。」


「実は――事故そのものは(おお)ないに。」


矛盾を感じた。


「えっ?」


「交通事故でなあて、死亡事故が多いだが。」


周囲を見回す。左眼が見えないので、幸子と芳賀しか視界に入らなかった。しかし両者とも、さして驚いた顔はしていない。


冬樹は慎重に言葉を選んでいった。


「しかも三件だけでない――正確な件数は俺も知らんだけど。でも、事故だけでなあて、自殺とか、餓死とか、何で死んだか分からん奴とか――そんなんが、だいたい一年に二、三回くらい起きる。」


不安が形になったように感じ、動揺する。


補足するように芳賀が相槌を打った。


「去年もあったでな――。入江のほうで水死体が上がった――しかも、この学校を卒業した女子高生の。溺れ死んだって話だけど。それと、上里でも交通事故で一人なぁなったはず。」


――溺死。


しかも餓死もあるという。今の日本では普通の死に方ではない。しかし、一年に何回かあるのだ。それを口にした二人の黒い学生服が目に焼き付いた。


こめかみに手をやり、何かを冬樹は思い出そうとした。


「一昨年は――伊吹で火災だったと思う。確か、二人が一度に亡くなられたでないかいなあ。」


今度は焼死者だ――母と同じ死因の者が二人もいた。


胸元へ目を落とす。緑青(シアン)のスカーフが、軒に連なる紅い布を反転させたように感じられた。自分と同じ歳の頃、どの教室に母が通っていたか知らない。


――町について私は何も知らない。


一方、通学路でいつも目にする光景を思い出す。


鞘川を渡ってしばらく進んだ海側に、焼け爛れた家が見えるのだ――真っ黒な骨組みだけになり、瓦礫や灰が前庭にせり出した姿が。


「――俺の父親もだ。」


美邦は顔を上げる。


「俺が幼稚園の時――いきなり帰ってこんやになった。後になって、崖の上から車ごと転落したって聞いたけど。以降、行方不明だ。」


窓の隙間から、冷たい風が差し込む。


「――行方不明?」


「遺体が車になかっただが。今も見つかっとらん。」


生徒たちのはしゃぐ声が再び強く響く。


机の傷に目をやった。


恐らく、冬樹の父もこの学校を出ている――美邦の父と同じで。だが、遺体すら冬樹は見ていない――その意味では、自分と母との関係に似ている。


吹き上げパイプを()き、ゆっくりと由香は尋ねた。


「藤村君な――不審死や失踪が神社に関係あるって思っとるだかぁ?」


「ああ――。不審死や失踪は、みんな夜に起きとるに。」


新聞記事の文面が網膜に浮かぶ。


――二月二十日。午前五時ごろ。焼⬛︎跡⬛︎⬛︎女性⬛︎遺体⬛︎発見。大原夏美⬜︎⬜︎⬛︎⬛︎⬛︎身元⬛︎特定⬛︎急⬛︎⬛︎⬜︎⬛︎、出火⬛︎原因⬛︎⬜︎⬛︎⬛︎。


「――私のお母さんも。」


「それだ。未明に亡くなっとる。」


母の死も、不審死の一つだったのだ。恐らく、全てつながっている。不気味な夜に連れ去られるような事件は、神社の消失と関係があるに違いない。


手の平へ、冬樹は深く頬を沈める。


「どうあれ、不審死だとか事故だとか失踪だとかが夜に起きる。だけん、みんな外に出たがらん。」


今まで言えずにいたことを、ようやく声に出した。


「御忌と似てる。」


「それだが。でも――昔からそうだったんかいな?」


全く同じことを自分も気にかけていた。


――お父さんがいた時からそうだったんだろうか。


なぜ、町を否定したのだろう。


芳賀が反芻した。


「――昔から?」


「御忌は二日しかないに――つまり、冬至の夜と春分の夜だ。この日の他に、夜に出たらいけんとか、祟りがあるとか――そんなことは郷土誌になかった。」


言われてみればそうだ。


一方、スレッドの書き込みを思い出す。一年神主に選ばれた者に不幸がある、と書かれていたのだ。それは、特定の夜に関することではないのではないか。


「なら、不審死や失踪が夜に起きとるのは何でだ? そのせいで、夜に出るなって言われとる。それは十年前も同じだったんか? しかも神社は今ない。」


美邦は少し気にかかる。この町に住んでいても――この町のことには詳しくないのだろうか。その疑問が言葉となっていった。


「おうちの人には、何か訊いたの?」


直後、恥じ入る。自分でさえ――神社のことについて叔父夫婦に訊けていない。


「訊いてはみたが――」頬づえの上で眉が歪む。「昔からだ――としか祖母ちゃんは言わなんだ。それどころか、あの紅い布について訊いてみても同じだったに。」


ひとつの光景がフラッシュバックする。


「――紅い布。」


紅い布が連なるシャッター街で、冷たいアスファルトの上を歩いていたのだ――紅い光を明滅させながら遮断桿を下ろす踏切へ向けて。


――夢の中で私は死のうとしてた。


冬樹は言葉を続けた。


「間違いなく、紅い布と神社は関係あるはずだ。紅い色は――天然痘から身を守るための色だけん。」


半ば知ったような顔で由香は尋ねる。


「てんねんとうって何だったかいなあ?」


正面から幸子が答えた。


「そういう病気だぁが。今は絶滅したけど――流行りだすと止まらんとか、罹ると死ぬ可能性が高いとかっていうけど。」


その説明から、先日の話を思い出した。


「平坂神社の神様――大物主命は疫病を流行らせたんだっけ?」


冬樹は顔を上げ、意外そうに目をまたたかせた。この表情を見るのは二度目だ。


「よう覚えとるな。」


うん、と言ってうつむく。


一応、妙な部分で記憶力はいい。それどころか、冬樹の話はほとんど覚えている――自分の過去とも深く関わるのだから。いや――理由はそれだけか。


「でも――天然痘に限らず、共同体の外から疫病は来るに。町の外からも国の外からも。特に、天然痘が日本に来たのは飛鳥時代――新羅(しらき)からだ。」


町へ来たとき、崖の上で見た海原を思い出す。その彼方から――天然痘は来た。目に見えない猛威である以上、古代人にとって祟り神も疫病も同じではないか。


――常世の国は死者の国。


「そんな天然痘の神様を祀る風習が、日本国中にあるだけん。天然痘の神様は村の外から迎えられて、歓待されて、ご機嫌を取られた後――送り返されるに。」


不可解な物を見た顔で幸子が問うた。


「歓迎したあと――送り返す?」


「ああ。疫病神を福の神として祀る儀式だ。散々歓迎した後は、もう来んでなって送り返すに。」


「わ、嫌味。」


美邦の隣から、ほわっとした声が響く。


「けど――それ、神迎えや神送りと似とるやな。」


「ああ。しかも、あの紅い布は、最初は天然痘よけだったもんだ。それが、あらゆる魔除けに変わったんだと思う。平坂神社の祭神が大物主で、定期的に招かれては送り返されるとなりゃ――あの風習が神社と関係ないわけない。」


けれども――と冬樹は言葉を区切る。


「いま――神社はない。それなのに紅い布はある。しかも、みんな夜を恐れ、不審死や失踪も起きとる――まるで御忌の夜みたいに。」


一つの予想を当てたように幸子は問う。


「祟りだって言いたいん?」


「それは分からんが――。そもそも、事実関係がはっきりしとらん。だけん、平坂神社が消えた後と前とで変化はないか調べたいに。」


空想を戒めるように芳賀が水を差した。


「でも――三年分の新聞記事と一年分の官報を調べるだら? 正気? 日本海新報は一日に一部。官報を合わせば六百十五部。五人で分担して調べるとして、一部を調べるのに二分なら四時間、三分なら六時間になるにぃ。」


淡々とした言葉が、事実のみを伝えた。


――五人で分担して調べても六時間。


休みなく調べても一日は潰す。こんな作業は、芳賀でなくとも躊躇する。


――でも。


自分が生まれた地を探してきた。しかしそれが分かった途端――母の死因を知り、神社の消失を知り、叔父夫婦が隠し事をしていることまで知った。自分の過去は全て不確定だ。それを知らないまま、自分はどうなるのだろう――どこへ行くことになるのだろうか。


――⬛︎⬛︎なきゃいけないのに。


あきらめるように冬樹は言った。


「まあ、できればって話だに。できればって。」


芳賀は軽く息をつく。


「だいたい――こういうんは日本海新報の公式サイトで検索できるでないの?」


「日本海新報の検索サービスは月額二千五百円もかかりよる。俺の小遣いじゃちょっと足りんな。お年玉も、色々と本を買って遣い果たした。」


「それかぁ。」


懐事情を美邦は考える。当然、詠歌からは小遣いなどもらっていないし、もらえるかも分からない。


「できればでええだが。できればで。」


――できれば。


できれば――美邦も知りたい。神社のことも、海の彼方にある国のことも。閉ざされたその扉を冬樹と共に開ける気がする。だが、距離は未だ空いていた。自分から、もう少し縮めることはできるのだろうか――自分が知るはずない何かを知るために。


カップの中に、色違いの瞳が映る。それを見つめた瞬間、なぜか恐れが消えた。


「私は――調べてもいいよ。」


冬樹は目を瞬かせる。


「ほんに?」


「うん。」褐色の水面へ再び目をやる。「代わりに――」


常世の国のこと教えてくれるなら――と美邦は言った。

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