1 雑音の多い電話
「はあ――平坂神社のことについてお調べですか?」
電話越しに聞いたのは、しゃがれた老人の声だった。
「ええ。」冬樹はうなづく。「それで、図書館で資料を探したわけですが、全くなぁて困っとったんです。」
放課後――家に帰ってきたところ、図書館から連絡があったと祖母から伝えられたのだ。なんでも、郷土史家の名前と電話番号を田代が教えてくれたという。ゆえに、さっそく電話をかけてみた。
――だが。
気にかかって冬樹は尋ねる。
「平坂神社のことについてご存じなんですよね?」
当然のように彼――菅野は答えた。
「ええ、知っとりま よ。」
初めての反応だ。期待すると同時に、いささか不安にもなる。知らないと言われるのが今までは普通だった。つまり、普通ではない反応を菅野はしている。
「平坂神社は倒産したと聞きましたが――」
倒産――と妙な声が返ってきた。
「あれは、なぁなったんじゃない ですか?」
「なぁなった――?」
「なかったんですよ。」
思わず首をひねる。どういう意味か分からない。
尋ね返そうとしたものの躊躇する――見ず知らずの家に電話をかけ、時間を取らせているという負い目があったのだ。ゆえに、ひとまずは本題を切り出すこととする。
「とりあえず――平坂神社のことと、そこで行なわれとった神迎え・神送りについて訊きたいことがあります。今、お時間はよろしいでしょうか?」
菅野は、ううん、と困ったような声を出した。
「なにぶん、私は歳のせい 身体が不自由でしてね――。平坂神社に関する資料ならば部屋にたくさ あるのですが、 れを見ながら電話を掛けるのは辛いのです。」
どういうわけか、受話器からは激しい雑音が聞こえている。菅野の声も随分と聴き取りづらい。
迷っていると、菅野はこう尋ねた。
「学生さんですか?」
「ええ、今、中二です。」
「ははあ。お若いで なあ。学校の課題か何かですか?」
「いいえ、ちょっと、個人的に気になって、調べとるだけです。」
「それでしたら、学校がお休みのと にでも、家に来らぇてはみませんかね? 写真などもありますので、実際に ちらへ来て見ていただいたほうが解りやすいと思います。」
「あっ――。ありがとうございます!」
思わず頭を下げる。
「あの、できればクラスメイトも誘いたいですけれど、大丈夫ですか?」
「ええ、全く構い せんよ?」
「では、彼らの予定を確認してから、折り返しお電話を掛けたいと思うんですが――」




