表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神送りの夜  作者: 千石杏香
第二章 神無月
17/41

7 放課後探偵団

放課後、図書室へ向かった。


先頭を歩むのは冬樹と芳賀だ。二人の男子から美邦は距離を取る。隣には由香が歩み、目の前では幸子が歩んだ。ポニーテイルの後ろ姿は、男子たちとの緩衝材のようだ。


つまづくと、癒えない傷を負うことが多い。だから男子は苦手だ。しかし――転校初日に二人と行動を共にすることとなるとは。


――けど、五目竝べって。


碁盤に向かう冬樹を見たとき、印象どおり棋士なのかと思った。しかし、囲碁ではなく五目竝べだ。勝手に想像したのは自分だが、気の抜けた感じがする。


今朝とは違い、昇降口から遠い方の階段を下りた。


「まず、郷土誌を当たらぁと思う。」冬樹が口を開く。「ネットだって何でも書いてあるわけでない。でも、郷土誌になら何か書いてあると思う。」


一階に下り、突き当りにある図書室へ這入る。


その奥へ案内された。いくつか書架を通り過ぎる。冬樹は足を止め、迷うことなく一冊の本を引き出した。緑色の厚い本――それが郷土誌らしい。


椅子に坐ることなく、テーブルの上に本を開いた。


冬樹から距離を取りつつ、郷土誌を覗き込む。


目次が開かれていた。その項目を目で追う。歴史、経済、自然と地理――。そうして進み、ある文字に目が止まる。


 民俗と信仰

  町内の神社

   平坂神社…………………………二〇五

   入江神社…………………………二〇九

  町内の寺院


無意識のうちに文字を読み上げた。


「ひらさか神社?」


えっ――と言い、冬樹は振り返る。


なぜか、酷く怪訝な顔だ。その反応を恐れ、ページへ視線を戻す。ところが、読み上げた文字は黒い線に変わっていた。


 民俗と信仰

  町内の神社

   ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎…………………………二〇五

   入江神社…………………………二〇九

  町内の寺院


慌てて目を(すが)める。ページの上の異物は消えない。どうやら、黒塗りのほうが現実らしい。


恥ずかしさから俯く。


「――見間違いだったみたい。」


気を逸らすように幸子が尋ねた。


「でも、なにぃこれ? いたずら?」


不安げに由香も言う。


「黒く塗らりょーるね。」


黒塗りを冬樹はなぞった。そして、何かを考える。


「町内の神社の次――入江神社の前か。」


二〇五ページ――とつぶやいてページをめくり始める。文脈から察するに、神社に関する何かがあるはずだ――そのことに、かすかな期待を美邦は抱く。


やがて、同じページが何度か繰り返された。


冬樹の手が止まる。


「ページがない。」


意外な言葉に、郷土誌を覗き込む。そしてページ番号を探した。


見開きの右上に204とあり、左上に209とあった。四ページ飛んでいる。


町から抱く違和感が、目の前で形となったように感じる。何かが欠けていると感じても、具体的な言葉にするのは難しい。だが、ページ番号は明らかな欠落だ。


渋い声で幸子が問うた。


「落丁?」


その言葉を受け、郷土誌のあちこちを冬樹は確認した。しかし、何かに気づいたように手が止まる。いや――と冬樹は言い、ページの根元へと指を這わせた。


「切り取られとるな、これ。」


そこにあったらしいページの痕跡が浮き出る。カッターか何かで丁寧に切ったのだろう――ぱっと見ただけでは気づけない。だが新しいものではない。切り口は黄ばんでいる。


違和感が輪郭を浮き上がらせた。


「――どうして?」


さあ――と言い、郷土誌を冬樹は閉じた。振り返り、同じ形の本を書架から引き抜く。郷土誌は二つあったらしい。同じようにテーブルの上へ開き、目次を確認する。


こちらにも同じ黒塗りがあった。


――郷土誌からも消えている?


冬樹は、難しい顔でページを捲りだす。やがて手が止まった。美邦は紙面を覗き込む。やはり、四ページ分番号が飛んでいた。


芳賀が顔を向けた。


「藤村君――郷土誌は何度も見てきたでない? こがにぃなっとるって気づかなんだ?」


冬樹は眉を寄せ、ああ、と答えた。


「市立図書館のは?」


眉間へ手が当てられる。やや苦しそうな顔だ。美邦は察する――本気で分からないのだろう。詳しい人だと紹介されたのに、立場を失ってしまったに違いない。


「ちょっと分からん。」


それかぁ――と言い、芳賀は少し得意げな顔となった。


「じゃ、ネット検索だでな。」


「おう、任せた。」


そう言って郷土誌を片付け始めた。


男子たちに聞こえないよう、そっと由香へ耳打ちする。


「郷土誌にもなかったのにネットで出てくるの?」


ささやき声が返された。


「芳賀君、こがなぁの得意なだけぇ。」


それから、図書室の隅にあるパソコンへ移動した。


画面の前に、芳賀が腰を下ろす。


カーソルが動かされ、ネットが開かれた。検索欄へ、「⬜︎⬜︎市」「平坂町」「神社」と素早く打ち込まれる。そうして現れたものは、美邦の知る検索結果だった。


「まあ、これじゃ出んわな。」


そう言い、芳賀は振り返る。


「大原さん、さっき『平坂神社』とか言わなんだ?」


忘れたいことに触れられ、ふたたび美邦は俯く。


「――え――。うん――。そう書いてあるように見えたの。」


女子的な顔で、乾いた態度を芳賀は見せた。


「まあ、ありさーな名前だでな。」


そうして、「⬜︎⬜︎市」「平坂神社」と検索欄へ打ち込まれた。


しかし、出てきた結果は変わらない。ふたたび芳賀は振り返った。


「大原さんが平坂町に住んどったのって、西暦何年ごろえ?」


唐突さに戸惑う。


「――えっと。」今年から十年を引いた。「二千⬛︎年から⬜︎年だと思うけど。」


芳賀は画面へ向き直る。


先ほどの検索欄に、「before:200*-1-1」と書き加えられた。エンターキーが押される。そうして現れたものは、十年前の一月の検索結果だ。


芳賀の手で、画面が手早くスクロールされた。ぱっと見たところ、今までの検索結果とあまり変わりない。


自分の役割に芳賀は没頭し始めた。画面を次々切り替え、何もないと判ると、月日をずらしてすぐに検索しなおす。手早い動作で、それが何度か繰り返された。やがて、スクロールされる画面が止まる。


あった――と芳賀は言った。


検索結果の中、「平坂神社 ⬛︎⬛︎県⬜︎⬜︎市」と一行だけある。


驚くより先に、冬樹が画面に喰い入った。


「あったんか!? 本当(ほん)に?」


動揺しつつ、動きゆくカーソルに注視する。


クリック音のあと、随分と古いサイトが現れた。原色に近い緑色を背後に、神社の簡単な説明が書かれている。次の文字のほかは何もない。


【平坂神社】⬜︎⬜︎市平坂町大字(おおあざ)伊吹⬛︎⬛︎‐⬛︎


【主祭神】

三輪大物主命みわのおおものぬしのみこと


【配神】

八重事代主命やえのことしろぬしのみこと

少彦名命(すくなひこなのみこと)

武御名方命(たけみなかたのみこと)

天稚彦命あめのわかひこのみこと

下照姫命(したてるひめのみこと)

味耜高彦根命あじすきたかひこねのみこと


【例大祭】

神嘗祭(かんなめさい)(秋分)


難しく長い神の名が竝ぶ。


これらを、あの神社が祀っていたのか。


郷土誌の欠けたページには、平坂神社の説明が書かれていたかもしれない。そうでなかったとしても――たしかにある神社を、なぜ、誰もが知らないのだろう。なぜ、郷土誌も切り取られていたのか。


由香が、何かに気づいたように幸子へ顔を向けた。


「ここの住所ってな、伊吹山でない?」


だでな――と幸子はうなづいた。


気になって美邦は問う。


「伊吹山の中にあるの?」


「うん」と幸子は答えた。「しかも結構近いに。」


では、何かを感じた境内は伊吹山だったのだろうか。


――私の左眼を奪った存在は。


愕然としたまま冬樹は画面を眺め続けていた。


だが、やがて口を開く。


「海を(てら)して()り来る神()り――」


奇妙な言葉に、顔を向ける。


「え?」


冬樹は何も答えなかった――ただ画面を睨み続ける。


「祭神と配神がずりょーる。」


それって――と問おうとしたとき、サイレンが聞こえた。


ウゥウゥゥゥ――――ゥゥゥ―――――――――。


窓の外に映る薄紅(うすべに)の空に、警報に似た音が吹鳴(すいめい)する。力強さを拡げつつ単調に響き渡り、途端に弱まっていった。


ゥゥゥゥ――――ゥゥ―――ゥ。――――。――。


十数秒ほど残響が尾を引いた。


「暗くなるがぁ。」芳賀がネットを閉じる。「暗くなる前に帰らないけん。」


冬樹は軽く息をつき、だな、と言った。


美邦は何かを問おうとする。しかし、言葉がまとまらない。


――サイレンが鳴ったら、


詠歌と千秋の言葉が混ざる。


――人さらいが来るって。


由香の声が明るく響いた。


「だけどその前に――」スマートフォンを取り出す。「LIИE交換せん?」


芳賀は首を傾げた。


「何で?」


「放課後探偵団だぁが! 大原さんの言うやに、神社はあっただら? でも――消えてなぁなったみたい。郷土誌だって黒塗りされて切り取られとる。――私、すごい気になるにぃ。」


幸子はうなづく。


「確かに気になるけど――」


「じゃ、LIИEグループ作って情報交換した方がよかぁない?」


「ええけど――」芳賀は冬樹を一瞥する。「藤村君、LIИE持っとらん。」


「ええっ?」


冬樹がスマートフォンを取り出した。


「スマホは持っとるけど?」


「ああ――よかったあ。」


操作を芳賀に丸投げして冬樹はLIИEに登録する。


それから、由香の作ったLIИEグループに四人は加わった。名前は「放課後探偵団」だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ