表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

男女の友情は成立するかで揉めてたらおっぱい揉んでた

掲載日:2025/12/29


 ――月曜日。


 ほんのり塩素の匂いが漂う部室で、向かい合って座る。


「あーあ、なんで練習がない日にこんなとこ来なきゃいけないんだか」


「仕方ないだろ。練習計画を立てるのは部長のやらなきゃいけない仕事だ」


「……不正解」


「は? どういう意味だよ」


「正論が必ずしも正解じゃないってこと。いい加減お勉強以外のことも覚えなよカタブツ」


「カタブツだと⁉ 俺はカタブツじゃない……堂島だ!!!」


「名前間違えたんじゃないからアホ!」


「テメェの方がアホだろうが!」


「「ぐぬぬぬぬぬぬ……ふんっ!」」


 睨み合い、やがて視線をそらす。


 正面に座る赤髪の女――赤星とはいつもこうだ。

 中学から些細なことで喧嘩して、同じ水泳部ということもあってその頻度は思春期時の親より多く。


 しまいには高校も同じで、さらには男子部長と女子部長になったもんだから、未だに喧嘩は頻発している。


「……はぁ、そんなんだから彼女がずっといないんだよ」


「お互い様だ」


「あ?」


「あ?」


 ダメだ、やっぱりすぐにカッとなってしまう。

 ……どうしても、赤星にだけは。


「そういえば、あかねちゃんと高山くん付き合ったらしいよ」


「へぇ、あの二人が」


「やっぱり、男女の友情は成立しないんだ」


 赤星が頬杖をつく。


「いやいや、成立するだろ。あの二人は昔から幼馴染で、友情って言うにはちょっと特殊だ」


「はぁ? それでも友達は友達じゃん」


「友達っつーか幼馴染だ。話聞いてんのか?」


「聞いてますけど。というか、聞いてあげてますけど!」


 赤星が不機嫌そうに鼻を鳴らす。


「ってか、堂島は成立すると思ってんの? 男女の友情……とか」


「当たり前だろ」


「……フッ」


「なんだその人を馬鹿にすることに特化した息の吐き方は」


「だってそうでしょ? カタブツの堂島が男女の友情に幻想抱いてるとか、めっちゃウケるし」


「ウケねぇからカタブツじゃねぇから」


 昔からこいつ、俺のこと面白くないだのカタブツだの言いやがるんだよな。

 どこかカタブツなんだ。ちょっと頭が硬いだけだろ。物理的に。


「そういう赤星はどうなんだよ」


「成立するわけないじゃん。男女だよ? 一歩踏み込んじゃえば崩れるような脆いもんでしょ」


「へぇ、よく知ってるな? 生まれてこの方、誰一人として付き合ったことがない、そういう経験もないお前がなぁ?」


「っ! そ、そういう堂島こそないでしょ⁉ ってか女子と話すらマトモにできないくせに、成立するとか断言しちゃうの笑えるんだけど。どういう冗談なわけ?wジョークすら面白くないんだけど!」


「くっ……だ、だから! 成立するって言ってんだろ⁉ これは間違いないんだよ! 学校にもいんだろ⁉ 仲いい男女が!」


「どうせすぐ付き合うか、どっちかが告白して気まずくなるから! そういうもんなの男女の関係って!」


「なわけねぇだろ! 男女の友情は成立する! 間違いない!」


「はぁ⁉ 根拠ないくせに何マジに言っちゃってるわけ⁉ 成立しないから! ほんとに! マジで!!!」


 狭い部室に、俺たちの言い争う声が響き渡る。


 だんだん声に熱が入っていって、暑くもなってきた。

 でも、絶対に退くわけにはいかない。退くわけにいかないのだ。


「それはお前が世の中を知らないだけだ! なんも知らないくせに、知ったような口利くんじゃねぇ!」


「っ! 堂島もしんないでしょ⁉ 常識もあわせて!」


「常識ないのはテメェだアホ!」


「アホっ……!」


 顔をどんどん赤くさせる赤星。

 

 俺は知っている。

 コイツの怒りのボルテージがマックスになったとき、こうして顔が真っ赤になることを。


「色んな男女の関係を見て、学んでから出直してくるんだな世間知らず少女漫画脳女(笑)」


「っ! この……!!!」


 バン! と机を叩き、赤星が立ち上がる。



「じゃあ、これでも男女の友情は成立するって言えるわけ⁉」



 赤星が俺の腕を強引に取り、引き寄せる。

 その直後、確かにあの効果音が聞こえた。






 ――ぽいんっ。






「ッ⁉⁉⁉⁉」


 手のひらに感じる、柔らかな感触。

 想像していた通り小ぶりだが、間違いなくアレだった。


 そう――おっぱいだ。


「ななななななななにして……!!!!」


 赤星が俺の手を無理やり自分の胸にあてている。

 そして俺は、赤星の胸をがっしりと掴んでいた。


 もちろん、胸を触るなんて初めてのことである。

 つまり、脳が激しく揺れていた。


「……こ、これでもまだ言えるわけ?」


 赤星が顔を真っ赤にして、口先を尖らせながら呟く。


(赤星の小さな胸……でも、今は半端なく大きく感じる……じゃないじゃない!)


 無意識のうちに、視線だけじゃなくて思考すら胸に持っていかれていた。

 これが真の万乳引力か……。


「あ、あたしの胸ばっか見て……成立してないじゃん」


「っ! …………別に」


「は、はぁ?」


「……見てないし、今の状況でも成立してるって言えるし」


「な、何言ってんの? ……あたしの胸触って興奮してるくせに」


「し、してねぇわ! こんなちっさい胸で!」


「ッ!!!! この……!」


 怒りに震える赤星。



「こ、これでもまだ言えるわけ⁉」



「っ⁉」


 赤星がまたしても強引に、もう片方の腕を胸に押し当ててくる。

 

 両手で赤星の胸を揉んでいる状況。

 いや、揉まされているという状況。


(な、なんだこれは……柔らかすぎる……!!!)


 体が石になったみたいに硬直して動かない。

 って、何胸に意識持ってかれてんだ俺は! バカか! マジでバカか!!!


「ど、どうよ」


「どうってなんだよ……アホ」


「アホじゃないし! わ、私の胸両手で触って興奮してる方がアホでしょうが!」


「興奮してねぇから!」


 断じて? 別に? してないし?

 いや、ほんとにしてない。というか、するわけにいかない。


「早く認めたら? 体は正直みたいだけど?」


「……別に」


「っ! 私の胸触っといて別になわけないでしょ!」


「……しょ、所詮赤星だし」


「はぁ⁉ つ、強がんのもいい加減にしたら?」


「強がってねぇし」


「強がってるから!」


「強がってねぇから!」


 ありふれた部室で、胸を両手で揉まし、揉まされの男女が二人、言い争っている。

 きっと人類史を振り返っても、このような場面はなかったと思う。

 

 初出しに違いない。


「くっ……」


「…………」


 お互いに顔をそらし、事態は硬直する。


(は、早く認めろ……引くに引けないでしょ……)


(は、早く諦めろ……認めたらただのエロい奴になるだろうが……)


 それに、俺はどうしても男女の友情は成立すると主張しなければいけない。

 特に、赤星に対しては……。


 お互いに出方を伺い、意味が分からない状況のまま沈黙が流れ。


 そして――





「なぁ、知ってる? 最近黒瀬と太一付き合ったらしいよ?」

「マジかよ! まぁお似合いだったしなー」






「「ッ!!!!!!!!」」


 部室の前を通る足音と話し声。

 

 この状況を見られたらマズい、と思い慌てて動き出す。

 しかし、赤星も同時に動き出したがために、さらなる混乱を生み。


「きゃっ」

「うわっ」


 体勢を崩す赤星を咄嗟に庇おうと机に身を乗り出す。

 その結果、ガシャン! と大きな音を立てて、二つの椅子ごと倒れ。


「「っ⁉」」


 地面に倒れ、赤星に覆いかぶさるような体勢になる俺。

 顔が近づき、くっつく寸前だった。


「なっ……」


 至近距離で目が合う。

 

 赤星は顔を真っ赤にさせ、瞳をうるうるとさせていて。

 意識せざるを得ない。

 さっきまで胸を両手で触っていたわけだし。ほんとに。


「か、顔あっっか」


「そ、それはお前もだろ……」


「何それ。い、意識してんじゃん……あたしのこと」


「それは……」


 言い訳が思いつかない。

 この状況で誰が頭をフルに回転させられるというのか。


「……ねぇ、堂島」


「な、なんだよ」


 赤星が妙にしおらしく訊ねてくる。



「男女の友情が成立するんじゃなくて……私のこと、女として見れないってこと?」



 弱々しく吐き出された赤星の本音。


「――それはねぇよ!!!」


 思わず、俺も本音で返していた。


 だって赤星が、今にも泣きそうな顔をしていたから。

 コイツにそんな顔はさせたくない。


「俺はお前のこと…………女として見てるに決まってるだろうが……」


「っ! 堂島……」


 ここまで言ってしまったら、全部言うしかない。


「……でもお前、中学のとき言ってただろ? 俺とのこと同級生の奴にからかわれたとき、ただ部活が一緒なだけの奴だって。だから俺は、お前の気持ちを尊重して、成立するって思って、ずっと……」


「……なにそれ。カタブツのくせに女々しい」


「う、うっさいなぁ」


 確かに、赤星の言う通り俺は女々しい。

 

「……バレバレだし」


「はぁ?」


「あたしの胸揉んで、めちゃくちゃ動揺してたじゃん」


「してねぇから! だ、誰がお前の小さな胸で……」


「こ、これから成長するし! ってか、小さいって言うならはぁはぁ言って興奮しないでくんない⁉」


「興奮してねぇって言ってんだろアホ!」


「アホは堂島だアホ!」


「このヤロォ……」


「――でも」


 唐突に、赤星が俺の頬に両手を添え、顔を近づけた。







 ――ちゅっ。







 音がして少し経って、唇に柔らかい感触を感じる。


「っ⁉」


 やがて赤星が唇を離すと、そっぽを向いて心底恥ずかしそうに言うのだった。



「男女の友情は成立するって、まだ言える?」



「…………どうだろうな」


「なっ……! アンタまだそんなこと言って……!」


「――ただ」


 赤星の言葉を遮り、じっと目を見る。


「……ただ、俺と赤星の間では……成立しない、かもな……」


 そう言って、今度はこっちから顔を寄せた。


 ほんと、コイツはどこまでもムカつく奴だ。


 …………ほんとうに。



 おしまい。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ