52.賢者と愚者
更新していない内に、レビューを二つも頂いていました。本当にありがたい事です。
これからもどうぞ宜しくお願いします!
「はぁ……着いたばかりなのにもう帰りたくなってきました。ソフィー、もう帰っていいですか?」
「だめに決まってるでしょ。あなたがついて来てくれるっていったから帰省したのに……私一人になったら、適当に話を流されて終わりよ」
「えぇ〜、ソフィーは口が達者なんですから、いつも通り話せば大丈夫ですよー」
「適当な事言わないで。確かに私は交渉は上手いけど、お母様が相手なら話は別。私に交渉のいろはを教えてくれたのはお母様なんだから、あなただって自分の師匠には勝てないでしょう?」
「ぐぬっ、まあそうですね。何度挑んでもあの人には勝てませんでしたから。年季の差ですね」
「それと同じよ。だから今回あなたに助けを求めたの。だから、頼むわよ」
「はいはい。頑張りますから、今はご飯を頂きましょう。スープが冷めちゃいます」
「ええ、そうね。勝負は夕食の後よ」
リーナさんから解放された私たちは、ちょっと早めの夕飯にありついていました。
重役たちの会議で使われそうな、縦に長いテーブルの上に並べられた数々の高級料理に、リベアの手が止まりません。
「美味しい、すごく美味しいです師匠! こんな美味しい料理食べたことありません!!」
もぐもぐもぐと、口いっぱいに頬張る弟子はどこか小動物のようでした。
「一流の料理人が、高級な食材をふんだんに使って作っていますから。田舎じゃ絶対に食べれませんね」
かくいう私も、久し振りに食べる高級料理に涙を流していました。
「……あんた、なんで泣いてるのよ」
「ふぁって、ひゅごくぼいびぃばら」
「呑み込んでから喋りなさい」
彼女には素で引かれましたが、だってこの料理すごく美味しいんですもの。
ソフィーは貴族なのでなんとも思わないでしょうが、庶民にとってこの味は一生に一度味わえるかどうかというものです。
これを毎日食べれるなんて、幸せ者の他ありません。
私なんて師匠がいる頃はまだ良かったですが、師匠が亡くなってしまってからは、お湯を入れたら食べれる物とかそのまま食べれる物ばかり口にしていました。
自分で作ったものといえば、キノコスープと肉をただ焼いたものしかありません。
リベアが弟子になってくれたお陰で、最近は庶民的な料理にありつけていますが、やはり私の舌は一度食べた高級料理の味を忘れていないようでした。
一口食べた途端、舌の上で食材がとろけるように喉を通り、私の空腹を刺激しましたから。
「ん? リベア、口元にソースが付いてますよ」
「え、どこですか?」
「ここです、ここ。あー待ってください、服で拭かないで下さい。汚れちゃいますから」
私はスッと椅子を近づけて、リベアの口元をハンカチで拭ってやります。
「ありがとうございます師匠!」
「いえいえ」
一人一人の席の間隔が広いのも、貴族特有の食事風景ですね。
家族揃って食事をするのは当たり前ですが、庶民の家ではこんなに距離をとって座ったりしませんから。
ちなみに夕飯を食べているのは私、リベア、ソフィー、フィアさん、リーナさんです。アラン様は仕事の為、どうしても来れなかったそうです。
私とリベア、フィアさんの後ろにはメイドが三人付いていました。他にも執事が部屋の隅で待機しています。
昔、お世話になったメイドのカルラさんが私に付いてくれて、食べ終わった料理のお皿を取り下げたりしてくれました。
カルラさんとは、後でゆっくりお話ししたいですね。
「あの、フィアも同席してよろしかったんでしょうか? フィアはただのメイドですし……」
「いいのよ。あなたは私と一緒に家出してくれて、よく頑張ったんだから。ご褒美が必要でしょ? ね、お母様?」
「そうよ。今日は遠慮しないでいっぱい食べなさい」
「お嬢様、奥様……ありがとうございます!! フィアは幸せ者です!」
「フィアさん、フィアさん。このエビの入った料理とっても美味しいですよ」
「本当ですか!? では私も一口……んんっ、とっても美味しいですね」
「ですよね!?」
フィアさんは隣に座るリベアと、楽しそうにお喋りをしながら食事を進めていきます。
(そういえば二人は同い年でしたね。失念してました)
年がある程度近いと、仲良くなるのは当然です。私とソフィーもそうでしたから。
楽しそうに食事をする二人とは反対に、私とソフィーは、リーナさんと向かい合う形で黙々と食事を進めていました。
先に話を切り出したのはリーナさんでした。
「それで? ソフィーは何か話があって、ティルラちゃんを連れて帰ってきたのよね?」
「ええ、そうです。今日はお母様に大事なお話があって来ました。手紙は読みましたよね?」
「今はティルラちゃんとリベアちゃんの家に住んでるんでしょ? ティルラちゃんがソフィーを囲ってくれてるなら安心ね」
別にソフィーを囲っているつもりはないんですけどね。というか、魔法瓶とかの販売関係で私がソフィーに囲われている気がします。
「仕事がずいぶん上手くいっているみたいね。今はグラトリア家として交渉しているみたいだけど。ティルラちゃんから見て、ソフィーはどう映る?」
「え、あ、はい。彼女には貴族としての活動より、そっちの方の才能があると思います」
「あら、それはうちの娘は貴族としては相応しくないと言っているの?」
「い、いえ。そんなつもりで言ったわけではなく、えっと、つまりソフィーは貴族としても商人としてもとても優秀だという事です」
急に話を振られた私は、あたふたしながらもなんとか会話を続けます。
「そんな事知っているわ。親なんだから……」
「へ?」
小さな呟きでしたが、確かに聞こえました。
親は子をよく理解しているものです。私に本当の親なんていませんでしたが。
生まれた時から、捨て子として孤児院に前に置かれ、それから成長しても師匠に拾われるまでは忌み嫌われていましたから。
おそらく両親は私の髪が銀髪だから捨てたんでしょう。そして師匠に拾われなかったら、きっと私はこの世界を恨んで、悪い魔法使い――愚者になっていたと思います。
でも今の私は賢者の正統後継者です。
そう思うと、やっぱり子供には間違った道を歩まぬよう、正しい道へ導いてくれる親が必要なんですね。
「…………」
先程の台詞は、ソフィーには聞こえていなかったようですが……ソフィーの為に、今なんて言いましたか? なんて聞いても、はぐらかされるだけだと思いました。
「ごめんなさい。別に責めたつもりはないし、冗談だから気にしないで。意地悪言いたくなっちゃっただけだから」
「は、はぁ……」
「それでソフィー。単刀直入に聞くけど何がお望み」
そう問われると、ソフィーは長い髪の結び目を解き、一本に纏めて結いました。俗にいうポニーテールという髪型です。
「私は、今はまだ結婚について前向きな考えを持っていません。お母様、私は商人という仕事が好きです。相手と直接接し、話し合い、お互いの妥協点で物の取引をする仕事。値切り交渉をするのが楽しいんです。そしてその仕事をして得る対価と、一から新しい商品に携わり、自分自身がその商品の広告塔となって世界に発信することが出来るこの仕事が好きなんです。だからどうか、私の満足がいくまでこの仕事を続けさせて下さい!!」
勇気を振り絞り、テーブルの上に額をつけたソフィーに掛けられた言葉は短いものでした。
「――いいわよ」
「「「「え!?」」」」
即答された肯定の返事に、その場にいた全員が驚きの声を上げたのでした。
ここまで読んで頂きありがとうございました。
もしもティルラが師匠に拾われなかったら、というifルートのお話も実は書いていたりします。




