40.消えた少女
新たな出会いは人を良い方向に変えるものです。
馬車に向かったソフィーが悲鳴を上げたのは、それからすぐの事でした。
「ソフィーさん!?」
「ソフィー、大丈夫!?」
「あ、ティルラ、リベアちゃん。フィアが……フィアがぁ……」
駆けつけてきた私たちに気付いたソフィーが、私にもたれかかってきます。
彼女を腕の中に抱きとめつつ、馬車の中に目を向けます。
「なっ」
「え?」
慌ててやってきた私たちが目にしたのは、馬車の座席に横になり、目を閉じたフィアさんの姿でした。
(まさか……)
一瞬、最悪な未来が頭をよぎりました。ですが幸いな事に、フィアさんはしっかりと呼吸をしていました。
「師匠。フィアさんは――」
「ええ分かっています」
弟子に言われるまでもなく、ソフィーをリベアに預けると私は足早にフィアさんの元へ向かいます。
「失礼します」
馬車の中に横になるフィアさんの隣にしゃがみ、その首にピトッと手をあてます。すると「ん……」と彼女の口からか細い声が漏れました。
冷え性の私の手は、彼女には少し刺激が強かったみたいです。
「どう?」
その声色は震えておりました。
「ソフィー落ち着いてください。呼吸も脈も正常です。フィアさんは単に寝ているだけです」
「え、ほんと?」
彼女が無事な事を確認すると、泣きそうだったソフィーがリベアの腕の中から顔を覗かせます。
「本当です。だから安心して下さい」
「よ、よかったぁ〜」
へなへなへなーと身体の力が抜けるソフィーをリベアが後ろから支えます。
「っと、ソフィーさんって使用人を大切にする方なんですね。私、貴族ってもっと横暴な人ばかりだと思っていました」
実は少し疑ってました、ごめんなさい。とリベアが謝ります。
素直に謝れるのはいい事です。私は最後まで謝れませんでしたから。
「気にしないでちょうだい。それは本当の事だから。一部の貴族は使用人を自分たちの道具だと思ってる。そしてそいつらの行いが悪いせいで、貴族全体の印象が悪くなってるのよ。フィアもうちに来る前の勤め先は、とても酷いものだと言っていたわ。だからここに来てよかったって。グラトリア家では使用人は家族の一員のようなものだから」
「いい所……なんですね」
「そうよ。リベアちゃんもティルラの弟子をやめてうちに来る? お給料弾むわよ」
「うぬぬ……とても魅力的なお話ですがお断りします」
「今ならティルラもセットで付いてくるけど?」
「行きます!」
即答でした。
「勝手に私を巻き込まないで下さい!!」
場の雰囲気が、二人のお陰でとても良くなりました。流石コミュ力抜群の二人組です。どこかの引きこもりとは違って、話がコミカルに続きますね。
「それにしてもフィアが無事で本当に良かったわ」
「ええ。眠らされていただけでしたから」
ソフィーが彼女の頭を自分の膝に乗せます。
自分の家出に付き合わせるくらいですから、それくらい信頼もしているし、可愛がっているのでしょう。
(フィアさんはじきに起きますが、私の師匠はもう眠ったまま起きないんですよね……)
自分と近しい者が亡くなるという恐怖は計り知れません。
ある一人の少女もそうでした。
彼女は長年育ててくれた親代わりの女性が亡くなったその日から、新しい事に挑戦するといった物事に対する情熱を失いました。
それまで三日に一回は外に出ていましたが、それもなくなり、以前から交流のあった同い年の少女とも距離を置きました。
それから彼女の事情を知っている男性に家を追い出されるまでの間、彼女はずっと部屋に引きこもって研究とは名ばかりの自堕落な生活を送っていました。
一年の準備期間を終えて、屋敷を追い出され、元より新たに旅立った少女は、昔のような情熱は鳴りを潜めていました。
――楽に生きたい。
そう考えるようになっていたのです。
彼女のそういった内面の変化は、昔馴染みの者には分かるものなのです。
彼女の友人である貴族の少女もその一人でした。
今の彼女は表面上は取り繕っていても、どこか陰があり、迷子になっているようでした。
ですが、そんな彼女を導いてくれる太陽のような存在が彼女の前に現れたのです。
その子は言いました。「私を弟子にして下さい」と、少女は戸惑いながらも、彼女を弟子に迎え入れました。
どうしてか分かりませんが、その時、彼女から親代わりであった女性と似たようなものを感じたからです。
それを確かめるために、少女はその太陽のような女の子を弟子にとりました。
そして立場こそ変わりましたが、その弟子は少女が長年求めていたものを持っていたのです。
「ししょう! ししょう!」
弟子は自分に対する好意を包み隠さずぐいぐいと伝えてきます。昔の自分がそれを出来たらどんなに喜ばしい事だったでしょう。
それは少女に取って初めての経験であり、当初想定していたよりも、ずっと上をいくものでした。
なので初めは困惑していました。
ですが少女にとって、好意全開の弟子と過ごす時間は意外にも居心地が良かったのです。
長年空いていた穴が埋まった――そんな感覚を少女は覚えました。
かくして少女は再び生まれ変わります。
――なんの為に魔法を使う?
誰かのために行動し、新しい物を作り、人々の生活を豊かにする。そんな魔法使いになりたいと。
親代わりの女性に問われ、弟子になる際に誓った言葉を少女は今一度思い返します。
そしてその誓いを嘘にしない為に、今日も彼女は行動するのです。
◇◆◇◆◇
「それにしても一体何が……」
私は失礼して、フィアさんの身体を拝見します。外傷は特にありません。
薬か魔法のようなもので眠らされたのでしょう。
「ふむ……」
そこである人物が居なくなっている事に、リベアが気付きました。
「あれ? 師匠、あの子がいません」
「あの子とは?」
「フィアさんと一緒にいた筈の薄緑色髪の女の子です」
「あ。まさか彼女が……」
辺りを見渡します。騒ぎに乗じて、一人の魔法使いの女の子がその場から姿を消していました。
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