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189.裏切り者

――嫌な予感、というものは、えてして当たるものです。


 ネウロさんの最後の足掻きを読み切り、弟子の勝利に沸く会場を、わたしは来賓席から見下ろしていました。


 歓声。拍手。

 安堵と興奮が入り混じった、勝利の空気。


 けれど――わたしは、その喧騒とは裏腹に、静かに感覚を研ぎ澄ませ、ある人物の魔力を探っていました。


(……やはり、いない)


 今回の催しが始まってから、ずっと警戒していた相手。


 その存在が、いつの間にか完全に消えている。


 何かの魔法を使っているのか、感知にも引っかからない。


 まるで、透明になったかのように。


――リベアは無事。


 ネウロさんは、限界を迎え、これ以上の足掻きはできない。


 王族席も、護衛の配置も、表向きは問題なし。


 それでも――わたしの胸の奥で、嫌な予感だけが、膨らみ続けていました。


 だからこそ、無意識に視線を巡らせていたのです。


 それを、この部屋の外へ向けようとした――その瞬間でした。


 背後の空気が――裂けた。


「っ――!」


 来賓席の扉が轟音と共に開き、同時に、詠唱を省略した高出力魔法が、室内全体へ叩き込まれます。



(これは――殺しに来ている)



 わたしが防ぐことを見越した、容赦のない一撃。

 非戦闘員であるメイドまで巻き込み、まとめて消し飛ばすつもりなのでしょう。


 判断は一瞬でした。


 座席を蹴り、前へ。

 部屋全体を覆うように、防御障壁を展開します。


――ですが。


「まずいっ……!」


 完全には、間に合いませんでした。


 入り口側にいた三人の近衛兵が重傷を負い、その近くにいたメイドたちも軽傷を負って床に倒れ込みます。


「ティルラさん!」


「ぐはっ!」


 魔法そのものは防ぎましたが、衝撃までは殺しきれず、わたしの身体は壁へと叩きつけられました。


 来賓席全体が大きく揺れ、無事だったメイドたちの悲鳴が響きます。


 すぐに立ち上がりましたが――その時には、すでに姫様方との距離が、わずかに開いていました。


 そして姫様たちの間でも、分断されてます。


 その一瞬の混乱。

 その“隙”を、相手は正確に突いてきます。


 今度は、第二王女ユリア様へ向けての攻撃。

 爆裂魔法。


「姫様っ!!」


 普段なら即座に自衛態勢を取れるアリスちゃんが、動けずにいました。


 襲撃者が“誰か”を、理解してしまったからでしょう。

 誘われてると分かっても動くしかありません。


 わたしは、ビエンカ様を追い越し、彼女の前に出ました。


「くっ!」


 爆裂魔法を打ち消す。

 けれど、今ので――完全に、位置を分断させられました。


「――動くな」


 低く、冷たい声。


 視線を向けた先で、わたしは息を呑みます。


 ビエンカ第一王女殿下。


 ユリア様の姉であり、この場で最も守られるべき存在の一人。


 その身体を、フィルレスム魔法学院の学長が背後から拘束し、脳天に杖を突きつけていたのです。


「……()()


 思っていた以上に、声が低くなりました。


「あなたは――自分が何をしているのか、分かっているのですか?」


 ゆっくりと一歩、前に出ます。

 視線は外さない。魔力も緩めない。


 その瞬間――学長は、ビエンカ様の首元へ、杖を深く押し込みました。


「あぐっ」


 ビエンカ様が苦しそうな声を上げ、わたしは歩みを止めるしかありません。


「やめてくださいっ!!」

「動くな、と言ったはずだ」


「……わたしが、あなたの部屋に、不法侵入した時とは、訳が違いますよ」


 あの時は、まだお互いに冗談で済まされる問題でした。


 ですが、今は違う。


 これは王家に対する明確な敵対行為。


 国家反逆と断じられても、弁解の余地はありません。


 学長は――苦笑しました。


「分かっているさ」


 その声には、震えも迷いもない。


「私が、誰に刃を向けているのかも。これが、どれほど愚かな行為なのかも」


 杖を握る手に、力がこもるのが見えました。


「……それでもだ」


 学長は、静かに言い切ります。


「全ては覚悟の上だ。こうするしか――道は、なかった」


 その瞬間。

 わたしは、ようやく理解しました。


(……ああ)


 これは、突発的な裏切りではない。最初から、ここまで含めた計画だったと。


(やられましたね……)


 歯を噛みしめます。


 騒ぎに気付いたリベアが、来賓席の下からこちらを見上げていました。


 必死に、こっちの状況を理解しようしているようです。


「……杖を、彼女から離してください。学長」

「嫌だと言ったら?」


 ユリア様を背に庇いながら、視線は学長から逸らさない。


「あなたが望んでいるのは、“交渉”でしょう」

「“交渉”には、もう遅いよ」


 魔力を、静かに高める。


 同時に――会場の奥で、別の“異変”が、蠢き始めているのを感じました。


(……何か、来ますね)


 会場の各所から、凶悪な魔素が溢れ出す。

 つい最近、接敵した存在と同じ気配。


「あちらも始まったようだな。元より、リベア・アルシュンを手にかけられなければ、私と“彼ら”が動くしかない事は、分かっていた」


 学長は、淡々と告げます。


「犠牲は……私も、できれば多く出したくなかったのだが」


 最悪の、第二幕。


 会場には、今までどこに姿を隠していたのか分からないほどの数の――キメラが、次々と姿を現しました。


「……キメラ。なるほど、ネウロを入学させ、彼女達に協力していた裏切り者はあなたでしたか」


 すべてが、一本の線で繋がる。


「全て、納得です」


 わたしは、静かに息を吐きました。


 弟子は、下にいる。


 王女は、人質に取られている。


 学院は、怪物に包囲されつつある。


――それでも。


(ここで、引くわけにはいきませんね)


 教師として。


 師匠として。


 この場を、守り抜くと決めたのです。


 それがシャルティアから受け継いだ大賢者という称号。


 わたしは皆を守る大賢者ティルラ・イスティルなんですから!


 

ここまで読んで頂きありがとうございます!


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