187.魔法使いとしての強さ
お久しぶりです。水篠ナズナです。最終更新から一年も……お待たせしました。少しずつ更新を再開していきたいと思います。
巨大な閃光が収束し、会場に残ったのはざわめきと、焼け焦げた魔力の残滓。わたしは特別来賓席から会場全体を見下ろし、小さく息を吐きました。
「な、何が起こったの?」
魔力をちっとも感じ取れないソフィーとは違い、大賢者であるわたし、ティルラ・イスティルには分かります。
――魔力の流れが、はっきりと変わりました。
「ふむ……溜めていたものを放出しましたか。リベア」
あの子は今まで、明らかに出力を抑えていました。
正面から派手に撃ち合っているように見えて、実際には魔力を外へ逃がさず、体内で循環させ続けていたのです。
それは、リベアの生まれ持った性質によるもの。
――魔力を、溜め込みやすい。
普通の魔法使いであれば、危険極まりない体質です。
制御を誤れば、魔力暴走を起こし、下手をすれば自分だけでなく、周囲の命まで奪いかねません。
……強大すぎる魔力量を持つわたし自身が、かつてそうであったように。
親しい人を傷つけてしまうのです。
けれど彼女は違いました。
(この子は……わたしが偶然、村に行くまで、ずっと一人で耐えていた。あの時の爆発も巻き込まれたのがわたしでなければ、おそらく死んでいたでしょう)
誰にも教わらず。
誰にも知られず。
それでも壊れないように、溢れないように。
魔力を抱えたまま、生き延びるために、必死でコントロールし続けてきた。
それはつまり、魔力操作の精密さが常人とは比べものにならない程、優れているということです。
(初めて彼女と会った時は、正直驚きました。内側はすでに魔力で満ち満ちていて、今にもはち切れそうだったのに……それを一切、表情に出していなかったのですから。わたしも気付くのが遅れた。けれど“大賢者”という言葉を聞いた瞬間、緊張の糸がほどけた。あの時、確信しました)
だからわたしは、あえて彼女の“欠点”を矯正しませんでした。
抑えるのではなく、活かす。
溜める力を、自分の性質をそのまま武器へと昇華させる。
それが、わたしの教えです。
シャルティアも、そうでした。
有り余るわたしの魔力をどう扱えばいいのか、自分が怪我をしてでも教え、決して諦めなかった。
そのおかげで、わたしは魔力を制御できるようになり、今の自分があります。
――さて。
ここから先は、もう完全にリベアのターンですね。
舞台の中央で、リベアは杖を掲げ、静かに息を整えていました。
ネウロ・パテシュム。
あの子も確かな才能はあります。魔法構成は巧みで、戦闘経験も豊富。
ですが――決定的に足りないものがありました。
“自分の力を信じ切る心”です。
他人から与えられた歪な愛に縋り、その力を借りている限り、いずれ必ず限界は来ます。
きっと彼女は、誰かや何かに縋らなければ生きてこられなかったのでしょう。
盗賊団にいた頃も、同じだったはずです。
そういう生き方しか知らない。
一方で――。
「……来ますよ」
わたしは、思わず微笑んでいました。
リベアの周囲に、目に見えない圧が生まれます。
空気が震え、魔力が一点に収束していく。
あの子は今、溜め込んだ魔力を“解放”しているのではありません。
“編み直している”のです。
防御、攻撃、補助、回復。
すべてを瞬時に切り替えられる、極めて安定した魔力配分。
ええ、そう。
「リベアはわたしとは違うタイプの超万能型魔法使いです」
リベアはわたしのように全属性を扱うことはできず、多彩な技を持たない。
ですが、その安定性により、どんな状況でも確実に対応できる。
「フッ!」
「ッ――」
ネウロが焦り、魔法を重ね撃ちした瞬間。
リベアは、迷いなく一歩前に出ました。
溜めた魔力を、最短距離で。
最小限の動作で。
最大効率で。
光が、一直線に走ります。
次の瞬間、ネウロの魔法は完全に崩壊しました。
構築されていた術式は内部から破壊され、魔力の流れを完全に断ち切られたのです。
今の一撃で、審判や生徒たちへの記憶操作や洗脳も解けた事でしょう。
なにせ、術者にそれを維持できる余力はもうありませんから。
勝敗は、決しました。
場内が、爆発したかのような歓声に包まれます。
今起きた事を正確に理解できたのは、一部の魔法使いだけでしょう。
わたしはその光景を見届けてから、ゆっくりと立ち上がり、隣で息を呑んでいるソフィーに向き直りました。
「な、なによ」
そこで、思いきりドヤ顔をしてあげます。
「言いましたよね。ソフィー。わたしの弟子は強いって。だから心配する必要はないと」
ニヤリと笑い、胸を張って告げました。
リベアは、わたしが誇る一番弟子です。
過去を耐え抜いた強さを、正しく伸ばした結果――彼女は今、立派に一人前になったといえます。わたしから見ればまだまだ子供ですが、及第点でしょう。
「師匠ー!!!!」
会場の向こうから、大きく手を振る弟子の姿が見えます。
……本当に、うちの弟子は可愛いですね。
それに成長していく姿というものは、こんなにもウルっとくるのですね。
「あんた今ババ臭い事考えてない?」
「……さぁ」
こほんっ。
だから、ええ、これは当然の勝利でした。
「おめでとうございます、リベア。あなたの勝利です」
遠くからでも、彼女の地獄耳なら、きっと聞こえたはずです。
わたしの、心からの賛辞が。
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