182.それぞれの始まり
〜〜学内戦二日目〜〜
昨日は特に問題は起こりませんでしたが、本日は個人戦。私たちに宣戦布告をしたネウロ・パテシュムがどう動くのか、彼女の後ろ盾になっている人物も動いてくるでしょう。
「リベア、そちらは任せましたよ」
大賢者として王族の護衛をしなければならない間、わたしの行動は制限されます。
ネウロの相手は弟子に任せ、わたしはこの場でやらなければならない事がありました。
(大賢者という肩書きは多くの国々に畏敬の念を抱かせてしまっているようですね。先代が無茶苦茶してたのもあるんでしょうが、思っていた以上に効果があるようです)
昨日、王国の影を名乗る人と少しだけお話しました。壁越しですけど。
今この国には各国の名のある人達が訪れています。という事は彼らを狙い、王国との関係を悪くしてやろうと考える悪い輩の手下も当然来ているという事。
『優秀な暗殺者は大賢者様の強大な魔力に気が付いてそそくさと退散しているので、非常に助かっています』
『そーなんですか』
壁越しでしたけど、すごい嬉しそうな声でしたね。喜んで頂けて何よりです。
なんでもわたしが会場に突っ立っているだけで、例年より暗殺の数が減っているとのこと。だから明日も頑張って立っててくださいと言われました。
大賢者使いが荒い。まぁ、影の人達もこの時期は大変なんでしょうけど。
(近衛兵以外にも王族の護衛は付いているみたいなので、最悪は彼女達に任せても大丈夫でしょう)
一応何か起こった際の優先順位は王族になりますが、この姉妹ならわたしに国民を守ってくれと頼むでしょうね。
「やはりいませんか……」
会場を見渡し、リベア達を見つけます。その近くにあの人はいませんでした。
「? どうしましたか、大賢者様?」
「いえ、大丈夫です。問題ありません」
ビエンカ様が心配そうな目でわたしを見てきましたが、とりあえず微笑んでおきます。
変に心配をかけさせても仕方ありませんからね。
「そうですか。何か気になった事があったら遠慮なく言ってくださいね」
「はい」
それと視線をいくつか感じます。監視と警戒の類でしょう。
先に手を打っておいて正解でしたね。
わたしが妙な動きを見せれば、きっと相手は逃げてしまうでしょうから。
(頼みましたよ、二人とも。それと“影”の皆さん)
◇◆◇◆◇
個人戦は予選と決勝に分けられており、予選は1グループ10名ずつで同時に戦闘が行われ、最後まで残っていた一人がグループ代表で予選通過となる。
そして決勝は予選を勝ち上がってきた者達による1対1のトーナメント戦だ。
今行われている予選第3グループでは、ドロシーが順調に勝ち抜いていた。この調子なら決勝まで駒を進めるだろう。
「リベアちゃん! そろそろ出番だよ!」
既に予選敗退し、チームメンバーのサポート係となったニーナが控室に駆け込んできた。
彼女のグループには運悪く実技トップクラスのヴァネッサがいたので、為す術なく負けたのだ。
「分かった。今行くね」
リベアは立ち上がり、自身の試合会場へと向かう。
「それと、リベアちゃんが言ってたパテシュムさんの試合観てきたよ」
「どーだったの?」
「――全員が棄権。優勝候補の一人だった子もいたんだけど、急にやる気がなくなったとかで棄権してる」
どう考えても異常だ。師匠に保護魔法を掛けてもらった今ならそうだと認識出来る。
「……周りの反応は?」
「殆どの人がその異常性に気が付いてないみたい。魔法に耐性がある人が少し違和感を覚えてる程度だと思う」
リベアは顎に手を当て考える。ここまでは師匠の予想通りだ。
ティルラが今朝残していった置き手紙の内容が正しいなら、自分がネウロの相手をする事で結果的に彼女の助けになる筈である。
「そっか、情報ありがとうニーナちゃん」
「うん。でもこれってどういう事なの?」
「ニーナちゃんは心配しなくても大丈夫。全部私と師匠で解決してみせるから」
「う、うん。でも何か手伝える事が言ってね! 私、リベアちゃんの味方だから。試合頑張って!!」
「うん! すぐ終わらせてくる!」
結果は語るまでもない。開始1分も掛からず、リベアの範囲攻撃により全員が場外に飛ばされるのであった。
驚くべきはその魔法密度である。元々魔力を溜め込みやすい性質だった彼女は、師であるティルラの“魔弾”から構想を練り、日々魔法の練習をしていたのだ。
そうして単体攻撃の“魔弾”ならぬ、全体攻撃の魔弾、“魔弾漣”を開発した。
一つ一つの威力はティルラに比べれば劣るものの、全方位に魔弾を放つその攻撃は味方を伴わない集団戦において、リベアをほぼ無敵状態にたらしめるものだった。
この物量ゴリ押し技によりリベアは個人戦予選を1分足らずで突破し、チーム【師匠大好きクラブ】からは三人が決勝進出を決めるのであった。
◇◆◇◆◇
学内戦に出払い、殆ど人がいなくなった学院内を歩く人影が二つ。幼馴染に頼まれて厄介ごとに駆り出されたソフィー・グラトリアとケイティ・スレミアンである。
彼女達はとある人物に会う為、学院に赴いている。場合によっては戦闘になる事も考え、相応の準備も済ませていた。
「まったくティルラはボクたちの事をなんだと思ってるのかな。幼馴染は便利な小間使いじゃないんだよ?」
不貞腐れるケイティをソフィーが嗜める。
「大事な役目を任されるくらい信頼されているのよ。それに暗部の人達と交渉して、私たちの護衛としてつけてくれるくらいには大切にされているわ」
「それにしても過保護すぎる。ボクはソフィーと違って弱くないのに……」
「まぁ、確かに過保護だと思うけど……って私が弱いのは余計よ!」
べしっ、べしっとケイティの頭をソフィーが叩く。
「暴力反対! ボクはか弱い女の子だぞ!」
「どの口が言うのよ。変態錬金術師!」
「あははっ! ごめんごめん、犯人さんと交渉する時は頼りにしてるよ」
「もう……遠方からケイティまで巻き込んで、私一人じゃ頼りないのかしら」
ソフィーは不満そうに口を尖らすが、その足取りは軽やかだ。幼馴染に頼られるのが嬉しいのだろう。
「いいよ別に。暇してたしさ。それにソフィーが真っ先にこの話を持ちかけられたんでしょ? 自信を持ちなよ」
そんなソフィーを見て、ケイティも微笑ましく思う。
「そうよね。ふふっ、ここで大きな手柄を立ててお母様達をびっくりさせてやるわ」
「無茶はほどほどにね。あと分かってると思うけど危なくなったら逃げてね。ボクはティルラ程じゃないけどそこそこ戦える。シャルティア様に死ぬほど鍛えられたからね。けどソフィーは違うでしょ?」
ソフィーもまたシャルティアから手解きを受けているが、それは一般的な護身術程度だ。魔法を扱えないソフィーにとって魔法使いと敵対する事は自殺行為である。
「自分の実力は嫌というほど分かっているわ。それより危なくなったら貴方も逃げるのよ?」
「ボクも?」
「そうよ。当たり前でしょ? 私だって嫌よ、自分のせいで幼馴染が犠牲になるのは」
「そうだね。善処する。ボクだって死にたいわけじゃないし――っとここ?」
彼女達が着いた先は学院の食堂であった。
「ええ。非番の時は朝早くからここに来て、仕込みの手伝いをしていると聞いてるわ」
「非番……ね」
魔力譲渡のキス事件から訓練を続けていたソフィーはある程度まで魔力探知が出来るようになっていた。
「いるわね……」
「うん。じゃあ開けるよ」
「お願い」
ギイっと音を立て、扉がゆっくりと開く。
中には一人、仕込み作業に勤しむメイドの女性がいた。
「? おや、この時間にお客様とは珍しいですね。まだ食堂は開店前ですよ。何用でしょうか?」
「こんにちは。シェラ・イルラスンさん。少しお話を伺ってもよろしいですか?」
シェラ。シェラ・イルラスン。彼女はドロシー・エルドレッド公爵令嬢専属のメイドである。
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