175話 学内戦に向けて
「師匠、なんであの子がここに来てるんですか! 彼女は元盗賊団の一人ですよね!? それに貴族でもないのにどうやって」
「リベア落ち着いて。そんなに大きな声を出すと他の人に聞かれるから」
師匠タイムで返答すると、弟子は即座に「はい♡」となんか語尾にハートマークがついてそうな、甘ったるい声でお返事してきました。
「師匠、許してください〜」
そして私の椅子のすぐ後ろからぎゅっと抱き着き、頭をスリスリと擦り付けて来る。猫みたいで可愛いけれど、わたしの心がもたないからやめてほしい。
「調子に乗らない」
「あうっ!」
デコピンを一発。リベアは額を抑え涙目で訴えかけるような視線を向けて来ました。
うん。可愛い。
私はリベアのサラサラの髪を優しく撫でると、彼女は目を細め嬉しそうにしています。
なんだか飴と鞭みたい……というかまんまそれですね。思えばシャルティアもわたしの事をぞんざいに扱ったり、かと思えば「お前のことが一番大切なんだ」みたいな態度示してましたっけ。
いや〜教育って、怖いですね。
「んんっ、今日は師匠タイムで話してくれるんですね」
「他に人いないでしょ? 最近は二人きりの時間なんて中々作れないし」
「えへへ、私とっても嬉しいです!!」
まあリベアと二人きりの時は、今後もこんな感じでいきましょうかね。毎回過剰な反応されても困りますし、いずれは一緒になるんだろうから今から慣れてもらわないと。
ネウロ・パテシュムという名の転校生が来る事を聞いたのは学長の口からです。
それがあの時逃げ出した少女だった事には驚きましたが、今の所はただの転校生。一応警戒はしていましたが、初日に怪しい動きは見られませんでした。
(リベアのクラスに編入されたと聞いていましたが、ネウロさんの事はリベアも覚えていたようですね)
案の定、放課後になってすぐに飛んできましたし。
「さっきの話に戻るけど、おそらくわたし達以外は彼女が盗賊団の一員だった事実を知らない。証拠もないし、今はまだ動くべき時ではないと思う」
「師匠が言えば、みんな信じてくれるんじゃないですか?」
「んー、もしかしたら盗賊業から足を洗ってくれてるかもしれないし」
「師匠は甘ちゃんですね」
「自分でもそう思います」
お互いにうんうんと頷くと、リベアはちょっと背伸びしてわたしの顔を両手で優しく包み込んできます。
「でもそんな師匠だから好きなんです」
「ありがと」
そのまま顔を近付けてこようとしたので、丁寧に手のひらで押し返します。
「えー」
「えーじゃない」
リベアは頰を膨らませ、少し不満そうにしていましたが、わたしは心を鬼にしてそれ以上の行為を許すことはありませんでした。
「……まだダメ、だから」
「むぅ、じゃあいつかはいいって事ですか?」
「ご自由に解釈して」
◇◆◇◆◇
「やっぱり私おかしいと思います」
「おかしいって?」
「みんな昔からネウロさんがいたみたいに接している所とか」
リベアが真剣な眼差しで訴えかけてきます。
ネウロさんが学校に通い始めてから早くも1週間が経とうとしていました。今のところ怪しい動きは見せませんし、本当に更生してただの転校生として生きているのかもしれません。
「彼女の方から何か言ってきた?」
「ええっと確か転校初日に――初めまして大賢者の弟子様。学内戦ではお手柔らかにお願いしますって言ってました」
「学院祭の一環で行われる学内戦ですか。この前の学院襲撃といいきな臭い……というより」
「?」
――リベアが狙われている? わたしは言いようのない不安を覚えました。
「とりあえず彼女の動向に気を付けつつ、学内戦までは普段通りに過ごしてください」
「はい……分かりました。あんまり意味はないと思いますがドロシー達にも言っておきます」
「うん。それがいいと思う。あと学内戦に姫様は参加しない。わたしも大会中はずっと姫様の護衛についてるから」
「アリスちゃんに何かあったら大変ですからね……って師匠浮気するんですか?」
「浮気じゃないし、陛下からの勅令なので断れない。それにリベアの事はしっかり見てるから安心して」
「っ、そういう所がズルいんですよね師匠は」
わたしがニコッと微笑むと、リベアは拗ねたように口を尖らせました。
◇◇◇
「……とは言ったものの気になりますし、わたしの方でも少し調べますか」
その夜、魔法で学長室に忍び込んだわたしはネウロ・パテシュムに関する資料を探していました。
(ない。面接を担当したのが学長と聞いていたのでてっきりここにあると思ったんですが……)
見当はずれだったかと思い、念のため別の部屋も調べようかと踵を返した瞬間でした。
背後に気配を感じます。
「こんな時間に何かお探しかね」
振り向くとそこには――扉の前に寄りかかった学長がいました。
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