172.大賢者の系譜
引き続き三人称視点となります。
「あなたいつからそこに……」
「最初からです。師匠に止められてて」
つまりティルラとのやり取りは全て彼女に聞かれていたということ。ドロシーは恥ずかしさのあまり、この場から逃げ出したかった。
そもそもリベア・アルシュンという少女が、約束の時間に遅れるのにも関わらず連絡の一つも寄越さないという事がありえないのだ。
だが大賢者の登場によって動揺していた事もあって、そこまで思考が回らなかった。そして今ようやく、彼女の思惑通りに事が進んでしまったことを理解するのだった。
「なんかすいません全部聞いちゃって。ドロシー・エルドレッドさん、改めて私からも。あの時助けて頂きありがとうございました」
リベアは丁寧に頭を下げた。
「それは……お互い様ですわ」
話を聞かれていたなら、ここで何か余計な事を言っても墓穴を掘るだけだと悟ったドロシーは、素直に感謝を受け止めた。
「……あの時の怪我はもうよろしくて?」
「はい! この通り!! 優秀な人達が治療してくれたお陰で傷跡も残りませんでした!!」
「そう……それならよかったわね」
「ドロシーさんの方こそ大丈夫でしたか?」
「私はただの擦り傷だから全然……ってそういう事じゃないわ。あなた、私に何か言いたい事があるのでしょう?」
「あ、そうでした! ドロシーさん、私と友達になってくれませんか? 師匠も言ってましたが、ドロシーさんが根はいい人なのは分かってましたから。基本的に礼儀正しいですし、平民に対する意識や偏見も貴族全体で見ればそこまで酷くない。むしろ正しく理解している。私に対して意地悪を言ってこなかったらもっと良かったんですけど……それでですねー私気付いちゃったんです! 身近な人でいうとドロシーさんはソフィーさんにそっくりなタイプだと。そう思うと可愛いなーって」
何を言われるのかの見当はティルラの発言から大方想像がついていたが、期待を裏切らぬ返答……それ以上であった。
「かわっ!? な、何を言ってて、私が意地悪をした事忘れましたの?」
「そういうツンデレ? なところが似てるんですよねー。私に対する牽制は大方上位貴族としての体裁と私怨ですよね? それにあんなのは意地悪でもなんでもありません。村に師匠が来る前の腫れ物扱いに比べれば全然です!! あとドロシーさんは他の貴族みたいに影でコソコソしていないので逆に好感がもてました!」
「そ、そう。強いのね。へいみ……アルシュンさんは」
気圧されるドロシーだが、リベアはそんな事はお構いなしに続ける。
「はい! だからドロシーさん、お友達になりましょう? ダメですか?」
リベアの押しの強さには、流石のドロシーも敵わなかった。そして今のやりとりでわかったことがある。リベア・アルシュンは紛れもなく大賢者の後継者だ。
大賢者の弟子。つまり自分の考えを曲げない人間なのだと……先のティルラの態度からもこればかりはもう受け入れるしかないようだと悟ったのだった。
「……分かりましたわ、アルシュンさん」
「やったー! あと私のことはリベアでいいですよ、ドロシーさん。あ、ドロシー様か!」
「もういいですわ、平民であるリベアに敬称を求めた事が間違いでしたわ」
「そうですか。では遠慮なく」
リベアは満面の笑みでドロシーと握手する。リベアの勢いに圧倒されながらも、ドロシーも素直に好意を受け取り握手に応じた。
こうして二人は仲直りを経て、晴れて友人関係となったわけだが、リベアにはどうしても聞きたい事があった。
「それで、あるんですよね? 師匠を、大賢者を特別視する理由が」
「……そうですわね。あなたには話して置いても大丈夫でしょう。私の家は先代大賢者であるシャルティア様に多大な恩があるの。彼女がいなければ一族は潰えていた程に。そして恩を返し切る前に彼女は国に、民に尽くして最後を迎えた。魔族との戦争があったとはいえ、自分のために生きていればもう少し長生きできたでしょうに……」
ティルラにはそうなって欲しくない、もっと自由であって欲しい。その為なら協力は惜しまないとドロシーは続ける。それがたとえ自分勝手な想いだとしても。
「でも、結局私もあの人に助けられてしまったわ。それにその弟子であるリベアにも」
「……ドロシーさんの気持ち分かります。私も師匠に助けられた一人ですから。憧れていたんですよね。師匠に、いえ大賢者に。だから入学試験の時、大賢者にそっくりな衣装を着た私に噛みついた。尊敬しているからこそ許せなかった。今なら分かります。私だって中途半端な気持ちの人が大賢者の真似事をしていたら許せませんもの。でもドロシーさんが心配する事は何もありませんよ。師匠は自分の意思でこの場所を選び、楽しんでいます。あなたが私を助けてくれたように」
そこまで言い切って、リベアは照れくさそうに笑う。それにドロシーも感化されたのか、リベアにつられて笑った。
「――ええ、その通りですわ。きっと私は羨ましかっただけなんでしょう。シャルティア様の後継者であるティルラ様が。そして好きな人に一途でそれを隠そうともしないあなたの事も。大賢者というその身に重くのしかかる重積に目を瞑って。あの方達は貴族、平民関係なく常に等しく私達の事をみていましたわ。そう、大賢者は全てを愛していた。そこに優劣はなかったのでしょう。唯一の弟子を除いて」
彼女もそれは知っていた事だ。
「私もそう思います! シャルティア様は弟子である師匠の事を心の底から愛していたと思います。でもそれは恋愛的なものというより親心に近いやつですね。そうでなければ自分が死んだ後の事を心配していないと思います。まあ王家に根回ししていたり、お墓に細工なんてしてるくらいですから! そこは過保護だった気はしますが……あ! 今の私と師匠との関係と似ていますよね。えへへ、私も師匠に愛されている自信があります!」
「この色ボケ……こほん。失礼、失言でしたわ。ですが大賢者のファンである私の前で良く言いますこと」
「事実なので仕方ないです!」
「はぁ、もうあなたに何を言っても無駄ね」
リベアのあまりにも真っ直ぐな生き方にドロシーは毒気を抜かれて、苦笑する。
「ティルラ様は……いいえ、ティルラ先生はとても寛大な方ですわね」
「はい、なんたって私の師匠ですから!!」
「寛大の意味分かってます??」
屈託のない笑顔を向けられてドロシーはため息をつく。
「あの方も大変な弟子を持ちましたこと……これからよろしくお願いしますわ。ファンクラブ会長さん」
「はい、よろしくお願いします。副会長さん!」
「え、私副会長ですの!?」
「今決めました!!」
「……勝手な方ですね、あなたは」
「師匠にもよく言われます!! それが私の強みだとも」
「それは……そうですわね。本当にティルラ先生はリベアの事を良く見ていますわ」
「私は師匠から愛されてますので!!」
「ふふっ。それは師弟愛? それとも親子愛ですの?」
「いいえ、純愛です!」
「そう言うと思ってましたわ」
「私のことよく分かってきましたね、ドロシー」
分かりきっていた答えに、二人は顔を見合わせて笑うのであった。
【フィルレスム魔法学院襲撃事件】
後世の歴史で、王都襲撃に関する一連の事件を“王都魔騒乱”と名付けられた。
学院襲撃は王都を混乱させる事件の始まりに過ぎなかったからだ。
◇◆◇◆◇
――魔法統率協会本部。執務室
さっさと報告書を纏めろ。と国のトップから酷く責められた。だがそれも仕方ない。王都に魔物が侵入したのだ。これは重大な過失である。
「どこからだ……どこから魔物達は王都に侵入した。我々の検問は完璧だった筈」
魔法統率協会所属、序列三位オルドス・プラッド。
新聞には彼らの名誉や尊厳を傷つける内容が数多く寄せられていた。中には協会の職員によって行われた蛮行を告発するインタビュー記事まであった。
その一つ一つに付箋が貼られていて、執筆に関わった記者の名前と告発した者が記載されていた。
(魔法を使えず、騒ぐことしかできない弱者共め。あとで我々魔法統率協会を侮辱した罪で一斉に摘発して後悔させてやる)
ガチャリと音がして執務室が開けられる。入ってきたのは自分の背よりも高く積み上げた資料を両手に持った期待の新人アーティー・ストゥルトゥスであった。
「マスター! 頼まれてた資料持ってきたっすよー」
「よし、そこに置いておけ!」
彼もまた魔法統率協会に課せられた汚名を払拭するために動き出すのだった。
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