160.大賢者がやってきた日
「――という事で、これから我が校で教鞭を取っていただく事になった大賢者ティルラ・イスティル様だ。みな失礼のないように」
煙草を吸ってそうな見た目の強面女学長さんの挨拶と共に、壇上に上がった一人の女性魔法使いさん。
キリッとした目と、少し癖毛が目立つも緩く伸びた銀髪の女性でいかにもお淑やかで高貴な雰囲気を醸し出しています。
その人の名は大賢者ティルラ・イスティル。私の師匠でした。
師匠は目立つのが嫌いなので、普段はローブを着て帽子を深く被っていますが、今日は特別講師として学院に赴くため、正装に着替えています。
お揃いのローブと帽子はしていません。代わりに講師用のスーツとローブを着ています。そこはちょっと残念です。
(でも、よく似合ってる。流石は師匠! まさに麗人です!!)
師匠は綺麗な人なので、正装するともう完璧です。祝典が開かれた時のドレス姿なんて最高でした。普段の姿とは比べ物にならない程美しいのです。
でも師匠には自分が超絶美少女の自覚がないみたいです。
本人は普通より可愛いいくらいだと認識してるみたいですが、私からみれば神々しさを感じるくらい美しかったのに……。
(本当に無自覚な人ですね)
師匠は自分の風貌なんて二の次なんでしょう。きっと今も心の中では慣れない服や状況に面倒くさそうな顔をしているはずです。
「学長よりご紹介に預かりましたティルラ・イスティルです。今日から特別講師として一年間みなさんと過ごす事になりました。ここには大変優秀な生徒達が集まっていると陛下から聞いています。なのでわたしもとても楽しみにしていました。みなさんと一緒に成長していけたらと思っています。一年間よろしくお願いします」
師匠は息を吐くようにスラスラと嘘をついていました。
何が楽しみにしていました(笑み)、ですか! 直前までごねていたのソフィーさんから聞いて知ってるんですからね!!
綺麗な所作で腰を折る師匠を見て、歓声が上がります。
私も一瞬もしかして人違いだったかな? と思ってしまうほど師匠は大賢者モードでした。
……いえ分かってはいました。分かってはいましたけど、普段のアレコレを見ていると目の前で起きてる光景が信じられないのです。
「すごい、あれが大賢者様……魔力量が段違いだ」
「お優しそうな方ね」
「あのお姿、まさに御伽噺に出てくる聖女様なのでは?」
(いや、師匠はそんなタマじゃないですよ?)
確かに見た目だけなら聖女かもしれませんけど中身が違いすぎます。師匠は確かに美人ですけど、中身は引きこもり気質のダメダメ人間です。
どうやらこの学院には師匠を過大評価する人が多いみたいですね。師匠も逞しい生徒達に舐められないようにか、魔力を普段より少しだけ解放していました。
それでも宮廷で魅せた魔力量の半分にも届いていません。
師匠はまだまだ力を隠していますが、おそらく学院の生徒達の殆どは気付いてないでしょう。
(はぁ……相変わらず、猫を被るのがお上手ですね)
私だって師匠の本来の魔力量を知らなかったら気付けなかったでしょう。
でも、学院生からすれば今分かっている師匠の魔力量だけでも自分達とは雲泥の差なので勘違いするのも仕方ないですね。
「大賢者ティルラ・イスティル様……なんて素敵なお方なのかしら」
「是非お近づきになりたいですわ」
天然人たらしな大賢者様に魅了されるのはやっぱり女性が多いです。男子は師匠を見て唖然としています。
たぶん実力差が目に見えて分かって、落ち込んでいるでしょう。これでも国の最高峰の魔法使い候補達ですからね。
「ティルラ様……♡」
隣の生徒の目がとろんとしています。周りを見渡すとそういった生徒が他にもちらほら。
どうやらもう既に何人かは落ちてしまっているみたいです。これはいけません!! 師匠は私のですっ。誰にも渡しませんからね!!
(というか師匠、こんなに期待されて大丈夫でしょうか?)
生徒一同が会する機会は限られています。
入学式や卒業式を抜いて殆ど全員が揃う事なんてありません。つまりそれだけ大賢者の登壇は貴重であり、大賢者様に教鞭をとってもらえるなんて奇跡のような事なのです。
そして授業が始まりました。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
中編はわりとリベア視点が多めです。
宮廷で魅せた魔力というのは、「118.特別な存在」で感情と共に一瞬出た魔力です。
あの時、近衛騎士団がビビるくらいの魔力を放出していました。
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