152.魔法使いなら決闘で
魔王軍と戦争していた時は、魔物の上位種である魔族と対等に戦える協会所属の魔法使い達はとても重宝され、その数は今よりもずっと多かった。
(師匠と肩を並べるくらい強く、それでいて差別的感情を持たない本物の魔法使い達は戦争で大きく数を減らしてしまいました。今協会に残っているのはエリート意識だけが肥大化した、実力を伴わない傲慢な者ばかり……)
協会が保有する戦力に、英雄級と呼べる実力者はほとんどいません。
仮に今魔王軍と戦ったら最前線に立てるのはオルドス含めた、上位三名と全属性魔法の使い手さんくらいでしょう。
(……だからといって、この国の魔法技術が他国より劣っているというわけではないんですよね。リベアが通う学院もそうですが、王国では他国より優れた魔法使い達が日々研鑽を積んでいます)
そうでなかったら、今頃帝国に攻め込まれていたでしょう。
あと実戦経験の少ない貴族を中心とした王国側の魔法使い達は、戦場では協会の人間に頼りきりになっていたと師匠は言っていました。
それが良くなかったのでしょう。
『そいつは弱者だ。魔法もろくに使えず日々を怠慢に過ごしているだけのな』
いつかの協会の人間が言っていた言葉です。
平民に大きな顔をする魔法使い達。協会が腐敗した要因は政治的な問題もありました。
数多の魔族を倒し、王都を守ったという功績は魔法使い至上主義を謳う彼らを付け上がらせる結果となり、王国に強く根付く存在になったのです。
(その結果が、これか……)
戦争が終わってからも立場は変わらず、協会側の発言力が高いままでした。
そのせいで魔法が使えない平民は彼らによって議席から排斥され、一部の傲慢な貴族は彼らと手を組みました。
(そこら辺は陛下も頑張ったんですよね)
このままでは王政が脅かされると判断した王家は、実力のある有力派貴族達と協力してなんとか協会の手綱を取ろうとしました。
極めつけは第一王女と勇者の婚約です。
魔王を討ち果たした平民出身の勇者を王族に加える事によって平民の支持を獲得し、協会に圧力を掛けたのです。
そうしてようやく両者の力関係が拮抗していた所に、次期大賢者として現れたわたしが王家側に与した事で両者の立場は完全に逆転したのが王都の現状でした。
そこに結界魔道具の追い打ちも加わったことで、今の彼にとってわたしの存在は目障り以外の何物でもないのでしょう。
(まぁ、それはこちらも同じなのですが……)
「ティルラ・イスティルー!!」
「おっと、人が考えごとをしているのに危ないなぁ」
わたしの思考を中断させたのは、激昂し、魔法を発動させた序列三位さんでした。
身体強化で一気に距離を詰めたオルドスは杖剣を振るい、わたしはそれを杖で受け流します。
魔力の込められた一撃は中々に重く、身体強化を使っていても手が痺れました。
(ふむ……ですが、この程度なら問題ないですね)
この人には昔、一度戦って勝利しています。
彼もその時より強くなっているでしょうが、先の一撃でそれ以上に自分が強いと確信できました。
「くそっ!」
一度はわたしを捉えたオルドスでしたが、初撃以降は掠る事すらできません。
それもその筈。わたしの方が彼よりもっと速く動いているのですから。
「なぜだ! 何故こんな小娘に追いつく事が出来ない!!」
その事実に彼は更に怒りを募らせています。
冷静さを失っている相手を倒す事は容易いです。しかしそれでは意味がありません。
「ねぇオルドス。魔法使い同士で揉めた時にやることは決まってるよね?」
相手から距離が出来た事で一旦冷静になったのか、わたしの言葉にオルドスは動きを止めてこちらを見据えてきます。
「…………決闘か」
「そ。正直貴方のことは屋敷を追い出された時から嫌いだったし、いい機会だからここで決着をつけようよ。大丈夫。わたしは優しいからハンデをあげる」
「そんなもの私には必要ない」
不機嫌そうにしながらも、彼の顔には笑みがありました。
プライドの高い彼の事です。そう言うのも分かっていました。
「じゃあルールを決めようか。どちらかが戦闘不能になったら終了。わたしが勝ったら、魔法統率協会は【大賢者】に関わるもの全てに関与してはならない」
「ふむ、いいだろう。では私が勝った時は?」
「あなたが望む物や知識を全て提供する事を誓います。興味があるよね? だって大賢者から直接伝授された物や魔法、技術はわたししか知らないんだから」
「…………」
彼はわたしの提案に少し考える素振りを見せた後、ニヤリと口元を歪めました。
「良いだろう。その提案に乗ってやる。だが貴様など私の敵ではない。せいぜい足掻いて見せろ」
「うーん。そうやって人を見下す態度は好きじゃないけど、まあいいかな。だって―――今回でもう顔を見なくてもよくなるんだし」
「ッ!? 調子に乗るなよ、ガキが!!!!」
再び感情を昂らせたオルドスは、先程よりも速い速度で踏み込んできました。
「遅い」
「ぐぅっ!」
一瞬にして、背後を取ったわたしは彼の背中に蹴りを入れます。
地面に転がったオルドスはすぐに立ち上がり、悔しそうな表情を浮かべながらこちらを見てきます。
乙女の顔をまじまじと見るんじゃねーですよ!
「素の身体能力では私が勝っているはず……」
頭良いんだから自分で考えて理解してくださいよ。いや、理解はしてるけど、認めたくはない感じですかね。
だったら指摘してあげませんとね。あの日、わたしの胸を指摘したように。
「だから、その程度の身体強化でわたしに勝てると思ってるの? まだ子供だった頃のわたしにも負けた癖に」
「黙れ黙れ黙れー!!」
挑発するように問いかけると、オルドスは杖剣を構え直してお得意の火属性魔法を乱射してきました。
その数、およそ25発。
平均的な魔法使いの連続限度が10発くらいなので、彼は相当優秀な部類に入るでしょう。
しかしその程度では、わたしは倒せないのです。
「そんなのは喰らわない」
迫り来る魔法の数々に対して、わたしは詠唱もせずに杖を前に突き出しました。
するとどうでしょう。
全ての魔法がわたしに触れる直前で軌道を変え、あさっての方向へと飛んで行ったではありませんか。
「なっ! ならこれならどうだ!!」
「無駄ですって」
得意でもないのに、自分の使える属性魔法を繰り出してきますが、先程と同様に散らすか、魔法で相殺します。目指すは魔力切れによる気絶。
オルドスは魔力量が多い方ですが、それでも無尽蔵というわけではありません。
「くそ! ちょこまかと!!」
「そんなよわよわな攻撃じゃあ、いつまで経っても当たらないよ? 霧散するだけ。本気だしなよ? わたしは出さないけど」
「き、貴様ぁああああ!!」
周囲を焼き尽くすような業火が上がる。彼のギアが一段上がったのを感じました。
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