147.受験生リベアと決闘騒ぎ
リーダー格の金髪美少女は口元に手を当てながらクスリと笑いました。
それが嘲笑にも見えるのは、気のせいではないのでしょう。
私が黙っていると彼女は続けてこう言いました。
「あら、口が利けないの? それなら早くどこかに行ってくださらない? “平民”がいるだけで目障りなの」
ふわりと漂う甘い香りが鼻腔をくすぐります。
彼女の容姿は誰が見ても息を飲むほど美しく整っており、身に着けている衣服からも裕福な家庭出身である事が窺えました。
しかしそれとは反対に、内面の方は最悪なようです。
思わずカチンときてしまった私は、その挑発にニッコリ笑って返してしまいました。師匠の悪癖が移ったみたいですね。反省、反省。
「こんにちは。私の名前は“平民”ではなくリベア・アルシュンです。差別発言はやめてください」
少女は一瞬目を丸くして驚きを示しましたが、すぐに「はぁ?」とでも言いたげな様子で眉間にシワを寄せました。
私の言葉を聞いた周りの取り巻き達もざわめき出します。きっと彼女達は私が何も言い返せず、萎縮すると思っていたのでしょう。
ですが私はこれくらいの口喧嘩で負けるような鍛え方をしていません。
(尊敬すべき先生方から色々教わりましたから!)
話術の先生。それは無論、ソフィーさん、フィアさん、そしてリーナさんといったメンバーです。
とにかく今は少し強引になってでも、ここを切り抜けるべきでした。何故なら試験の時間が刻一刻と迫ってきているからです。
「もういいですか? 用がないのなら私は試験を受けに……」
そう言おうとした所で彼女に遮られます。どうやら私は彼女にとことん嫌われているようです。
初対面の筈なのにどうしてでしょうか? 平民だからなんでしょうか? なんとなく違う気がします。
「まぁいいですわ。用はありますもの。ではリベア・アルシュン。これだけは言わせてもらいます。どうせあなたのような平民がこの学園に入るなんて無理でしょうが、精々学園の恥にならないよう、“記念受験”を楽しみなさい」
なるほどね……!
このくらいなら我慢できる。このくらいなら我慢できる。だって私は大賢者の弟子だから!!
「…………はい、私もそれは重々理解しております。しかし意図的に手を抜く事は私の事を援助なさってくださっている家名を汚すことになります。なので試験には全力で挑ませて頂きます」
「そう、貴族の顔を立てるのは大事な事ですものね。そこら辺は凡庸な頭でも理解しているようで安心しましたわ。それと人聞きの悪い事を言わないでくださいな。誰も手を抜けだなんて言っていないわ。なにせ本気で受けたって受かりっこないもの」
「……はい。それでも頑張らせていただきます」
その後も細かい事を詰められましたが、彼女も試験を控える身。これ以上突っかかるのも自分のマイナスになると判断したのか、取り巻きを連れて退散していきます。
これなら試験に間に合いそうでした。
ですが最後。彼女が去り際に指摘した言葉に心臓がドクンと大きく脈を打ちます。
「ああ、あとその外套。大賢者ティルラ・イスティル様の物と似ているわね。もしかして同じ物かしら?」
「……そうですが、これが何か?」
なるほど、読めました。私に突っかかってきた本当の理由はこの師匠から貰ったローブなのでしょう。
「貴方のような平民が着ていい物ではないわ。模造品だとしてもあなたには過ぎた代物。今すぐ着替えなさい」
「は?」
これには流石に堪忍袋の緒が切れました。師匠から貰った服を脱ぐ? そんなの死んでもあり得ません。
「ししょ――大賢者様と似ている服だから脱げ? それは横暴ですよお貴族様。そもそもあなたの許可が必要なものでもないでしょう? 貴方の方こそ今すぐに脱げなど貴族の癖に品性が欠けていらっしゃいますね? まあ私が名乗ったのにも関わらずご自身の身分さえ明かそうとしませんもの。さては実家の名を出すのは何か不都合がおありなのですか? どうなのですかお貴族様?」
気づけば私と彼女の距離はゼロに近く、私は胸ぐらを掴みかけていました。
「上位貴族である私に逆らうつもり? 平民のくせに生意気な」
「学院ではみんな平等ですよ、貴族も平民も。そんな事も知らないんですか? “上位貴族”様は?」
「学院では確かに身分関係なく平等よ。だけどそれはあくまで学園の生徒という前提があってこそ適応されるの。あなたのように落ちる事が決定している者。ましてや分不相応な者には適応されませんわ」
「そっちこそそんな差別的発言をして、民の上に立つ貴族としてあるまじき姿なんじゃないですか? 上位貴族様はご自分の姿をお鏡で見た事がおありで?」
その発言の直後、彼女のこめかみに青筋が浮かびます。
あらら、怒っちゃいましたか。器の小さい人ですね! と師匠なら言っていたでしょう。
「――リベア・アルシュン。どうやら貴方は一度痛い目を見ないと分からないようですね。いいでしょう。私にも貴方と同じく誇れる名前がありますとも。この私、ドロシー・エルドレッドは貴方に決闘を申し込みます」
「へぶっ! これは……」
ペシっと勢いよく私の顔に何かがあたりました。それは彼女の左手に着けられていた手袋でした。
(やる気ですね、この人)
エルドレッド公爵家。その名は王都に住んでいる者ならば誰もが知っている程有名な名前です。
曰く。その領地は王国一の広さを誇り、そこに住まう領民は皆裕福で幸せだと。
王国で王家に次ぐ二番目の権威の持ち主。その次期当主ドロシー・エルドレッド。
そんな超が付くほどの名家の令嬢が、無名の村娘に喧嘩を売ってきたのです。
「受けますわよね? まさか断らないわよね? ねぇ?」
「謹んでお受け致します! ドロシー様!!」
「泣いても簡単には許しませんわよ?」
決して揉め事を起こしてはいけない相手だとソフィーさん達から言われていましたが、師匠の贈り物を紛い物だと侮辱された私の心は止まりませんでした。
「はっ、出来るんですか? 筋金入りのお嬢様に?」
一歩下がり、腰に手を伸ばします。
彼女も私の意図に気付き、一歩下がりました。
「……クソ生意気な平民さんにはどうやら自分の立場を分からせる必要があるようですね。貴方達は下がりなさい」
取り巻きを下がらせ、近くにいた受験生にも距離を取るよう呼びかけます。暫くしないうちに私とドロシーの周りだけポッカリ空いてしまいました。
これで心置きなくヤレるわけです。
「むっ」
彼女は私の間合いにいました。そして私もまた彼女の間合いにいるのです。
お互いの手が杖に伸び、その機会を待ちます。ドロシーもまた、私から視線を逸らさず利き手は杖に触れていました。
まさに一触即発の雰囲気。
(ソフィーさんごめんなさい。でも意図せずとも師匠を侮辱された事は許せないんですっ!)
時は来たれり。
「フッ――」
怒りのまま行動を開始しようとした時、横合いから声がかかります。
「おいおいやめとけって公爵家のお嬢様と特待生ちゃんよう。他の奴らも見てる所で問題を起こしたら試験や次期当主の評価にも関わってくるんじゃねぇか?」
観衆の中から一人歩み出てきて、まさに戦闘……いいえ非公式の決闘が始まろうとしていた私たちの間に入って止めたのは赤髪の活発そうな肌色をした女の子でした。
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