131.憂鬱な時は終わりを迎える
「はぁ〜……」
ため息が漏れる。
僕、ケイティ・スレミアンは今とても憂鬱な気分になっていた。
理由は分かっている。先日放浪していたボクの元に届いた父からの呼び出し状だ。
「うげっ、まーたお見合いか……最近多いなぁ」
こういうのが嫌で家を飛び出し、錬金術師を学んで好き放題していた訳だが……何処からボクの所在が漏れたのだろうか?
どういう訳か最近になって足取りを掴まれたらしく、とうとうこの間父の部下に捕まってしまった。
厳密に言えば早く家に帰って来いとの勧告だったのだが、ここで帰ると言わねば無理矢理領地に連れ戻される事は明白だった。
「お父様もお母様も両親としては子供に寛容的な人達だけど、貴族としては頭が固いからなぁ〜」
ボクは歴とした貴族家の令嬢であり、スレミアン家の一人娘である。だから貴族の責務がある事も理解している。
「でもなー。お見合いかー……メイー、良い物件あった?」
「こちらをお読みください」
「ん、ありがと。いつも悪いね。お父様とお母様に内緒で調べてもらっちゃって」
「私はお嬢様のメイドですので」
「うんうん! メイがボクのメイドで本当に良かったよ」
「……恐縮です」
自室に戻り、メイから渡されたお見合い相手の資料を捲る。今回もバッチリ仕事してくれたみたいだ。
相手の犯罪歴や金銭トラブル。友人関係や懇意にしてる相手まで、ささいな事柄を含めて事細かくそこには記されていた。
「おっ、伯爵家もいるじゃん。あーでもこの伯爵家、屑と噂のケビス子爵と付き合ってる。じゃあ無しだな。あーあー、揃いも揃ってろくでもない奴ばっかだわ」
途中まで読んでいて、面倒臭くなったので適当にその辺の資料と丸めてゴミ箱へ投げ捨てる。
そんな時だった。コンコンっとノックの音が響く。
「誰?」
「私ですよ。ケイティ様」
今日は他に予定が入ってなかった筈だけどと思いながら、メイに入室を促す。
「どうしたの?」
「お嬢様にお客様がお見えになっておりますがお通ししますか?」
「ボクに? 名前は?」
「ティルラ・イスティル様です」
「ティルラ?」
――ケイティー。いますかー? いますよねー? そこにいるのは知ってますよー。
聞き覚えのある声が聞こえてきた。
あの大賢者の弟子が今何をしているのか。彼女の友人として少し気になった。
(あの子と会ってないのは、シャルティア様が亡くなってからだよね……)
最後に会ったのはいつだったか、確か3年前の夏だったような気がする。ティルラがシャルティア様から杖を貰って珍しくはしゃいでいたのを良く覚えていた。
「メイ。ボクのいない間どれくらい溜まってる?」
「ケイティお嬢様宛てのお手紙が206通――」
ずっと家を空けていた為、ボク宛ての手紙も当然の事ながら溜まっている。その中にティルラやソフィーからの手紙もあるかもしれない。
「それと錬金術師ケイへの決済書類が20ほど」
「ふーん。分かった。後でやっとく。ティルラは呼んで来ていいよ。客間にお通しして」
「……畏まりました。手紙の返事はともかく、書類へのサインは私には出来ませんからご自分でやってくださいね」
「うん」
ケイとは錬金術師でいる時の偽名だ。まあ宛先をスレミアン家にしてるから殆どの人にバレてるんだけど。
「ティルラと会うのも久しぶりだし、ちょっと楽しみだなー。あ、少し見ない間にぶくぶく太ってたらどうしよう。よし、その時はめっちゃ笑って痩せる薬を渡せばいいか」
親友と呼べる友人はティルラとソフィーの二人だけだ。彼女達はボクの事を馬鹿にしたりなんかしない。
宝の持ち腐れ、女に生まれなければ、錬金なんてなんの役にも立たない。大人しく婿を迎えろ。そんな事を言う貴族共とは違う。
だから私は二人には心を許している。メイにもだけど。
「ソフィーは今どうしてるのかなー」
ティルラとはもちろん、ソフィーとも暫く顔を合わせていない。今度こっちから連絡してみるのもいいかもしれない。
そんな事を考えながら、ティルラがやって来るまでの間、ボクは椅子に座って待つ事にするのだった。
◇◇◇
「…………マジで? ティルラが大賢者を継いだ??」
彼女の第一声はある意味でわたしの予想通り。そう、予想通りになってしまいました。
「そうだろうとは思っていましたが、やっぱり知らなかったんですね」
彼女は知りませんでした。わたしが師匠の遺志を継ぎ、大賢者となっていた事を。
「いやいや全然知らなかった。え、今世間ではティルラは大賢者になってるの!?」
「はい。こちらの紙面に大きく載っております」
お付きのメイドが王都に住んでいる人なら誰もが一度は読んだ事のある出版社からの掲載記事を持ってきます。
「わっ、本当だ! メイも知ってるなら先に教えてよ。びっくりするじゃん」
「……大切なご友人の事なら流石に把握しているかと思いまして。話題性も高いですし」
「わたしの方からも手紙を何通か出したんですけどね……」
「うっ、ごめんティルラ。見てないや」
申し訳なさそうに手を合わせる彼女の部屋の端には、山のように積まれた手紙の山が置かれていました。きっとわたしの手紙もあそこにあるのでしょう。
見ていないのならしょうがないですね。
「ま、いいですよ。それより今日はケイティに頼みたい事があって来ました」
「あーそうだよね。ティルラがこのタイミングでボクの所に来るのも珍しいもん。で、なに?」
長い話になると思ったのか、「どうぞ」と暖かい紅茶が入ったコップが置かれます。気の利くメイドさんにお礼を言って、わたしはここに来るに至った経緯を話す事になりました。
わたしが大賢者になった事を含めて。
「実はですね――」
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