128.背負っているものは……
「……顔を上げなされ大賢者の嬢ちゃん。あんたの師匠がした事は別にもう気にしちゃいないよ。それに恩人の弟子に、そんな態度を取らせる方が申し訳ないよ」
「え、恩人? 師匠が?」
そう言われてわたしは恐る恐る顔を上げると、そこには先程までの怖いお婆さんではなく、優しい表情をしたおばあさんがいたのです。
「あたしはヴィクター。このエルフの里で長老をしている者さ。あの破天荒娘、シャルティアも元気にしてるかい?」
「あっ、師匠はその……もう……」
懐かしそうに師匠の名前を呟く彼女を見て、咄嗟に亡くなったとは言えず、わたしの口から出たのは歯切れの悪い言葉ばかりでした。
「……ふーん、なんだか込み入った事情があるようだね。分かった、詳しい事は話したくなったらでいいよ」
「あ、ありがとうございます」
「いいんだよ。それで、大樹の枝が欲しいんだろ? あたしが直接案内してやろう」
「え、いいんですか? 大樹の枝を頂いても」
「勿論だとも。何度も言うけどね、あんたの師匠はあたし達エルフ族の恩人だ。ま、最初は弟子の為だとか言って、あたし達に喧嘩を売るくらい破天荒な娘ではあったけど」
「うっ、重ね重ね師匠がすみません」
「はははっ、いいんだよ。今となってはいい思い出だからね」
軽快に笑う彼女は、どこか寂しそうに見えました。もしかしたら、さっきのわたしの反応を見て師匠が亡くなっている事に気付いているのかもしれません。
「ついてきな。大樹の元まで案内するよ」
「はい!」
「いい返事だね。とてもあの娘の弟子だとは思えないよ。良い弟子を貰ったんだね……」
「そんな……わたしなんて全然ですよ」
「いいや、あたしには分かるさ。あんたも立派な大賢者になるよ」
優しく微笑むヴィクターさんはまるで自分の事のように嬉しそうにしていました。その様子から、本当に師匠の事を尊敬していた事が分かります。
(こんなに慕われていたんだ……)
少しだけ、師匠が誇らしく思えた瞬間でした。エルフ族に枝よこせって言って喧嘩は売ったけど。
◇◇◇
「リリ達も同行するの!」
ヴィクターさんの先導の元、わたしはリリアナちゃん達一部のエルフの人達に囲まれて大樹へ向かいます。
道中、リリアナちゃんが「やっぱりリリが正しかったの!」と言って腕に抱きついてきました。
その様子をお姉さんが指を咥えて、恨めしそうに見ていたのが印象的でしたね。
大樹に着くまでただ黙って歩いているのもあれでしたので、わたしは気になっていたことを尋ねてみることにしました。
「あの、ヴィクターさん。先程から師匠のことを破天荒娘って言ってますけど、師匠とはどういったご関係で?」
「そうだねぇ〜。簡単に例えると侵入者と守護者という関係になるねぇ。ああ、娘って呼んでるのは、単純にあたしからするとまだまだ子供に見えたって事だよ」
「師匠が子供……あの失礼ですが、ヴィクターさんのご年齢って……」
「600才から数えるのをやめたよ」
「あ、そうですか」
エルフは長命種だということをすっかり忘れていました。そりゃ師匠が子供に見えるわけです。師匠の性格もあるでしょうが、この人はわたし達の何十倍も長く生きてるんですから。
エルフ族は人と時間の感覚が違います。彼女達のちょっとはわたし達の10年です。
だからこそ、師匠と少なからず関わったこの人には師匠が亡くなっている事を告げねばなりません。それがあの人の弟子であるわたしの役目ですから。
「ヴィクターさん」
「……なんだい?」
「先程は上手く言えませんでしたが、師匠は、大賢者シャルティアは既に亡くなっています」
「…………そうかい」
重苦しい空気がわたし達の間を流れていきます。
「……なんとなくそんな気はしてたよ。あたしと初めてあった時から既に魂魄が傷ついていたからね。もう一度くらい会っておけば良かったね。人間の寿命は短いって知っていたのに」
「ヴィクターさん……」
「シャルティアからあたしの事は何か聞いていたかい?」
「いいえ、何も。ただこのエルフの里で大樹の枝を手に入れたとだけ聞いています」
「そうかい。はは、シャルティアらしいじゃないか」
「おばあちゃん! シャルティアって人がこの里を守ってくれた人なの?」
「そうだよリリアナ。彼女が大樹の枝の為にここに来なかったら、長年人間に協力してきたエルフ族は人間の味方として魔王軍に滅ぼされていたよ。その魔王軍を撃退してくれたのが大賢者シャルティア・イスティル様だ。だから我々エルフ族はシャルティア様に、そして大賢者の意思を継いだティルラ様に感謝しなければいけない。彼女達がいなければ我々は今ここにいないんだからね」
「なのー! 大賢者さん、かんしゃかんしゃなの!」
大賢者として、こう言った感謝の言葉を頂くと改めて思わされます。【大賢者】という称号が背負っているものの重さに。
(師匠。貴方がその身に一人で背負っていたものは一体どれほどのものだったのでしょう? 今のわたしではまだ計り知れません……でもいつか分かる時が来ると思っています。それまでは貴方の背中を追い続けますよ、シャルティア)
師匠が来なかったらエルフの里は滅んでいた。それ以前に、わたしが師匠の弟子になっていなければ杖の素材なんて必要なかった。
そう考えると師匠との出会いは必然だったのかもしれませんからね。わたしがこうして大賢者になったのも運命、なんでしょうね。
「リリアナちゃん、すごく嬉しいんですがそろそろお姉さんの方も構ってあげてください。泣いてますよ」
「ん? ほんとなの! しょうがないのー、じゃあちょっとだけお姉ちゃんの方に行ってくるの!!」
「うぅ、リリアナぁ〜」
リリアナちゃんが駆け寄っていくとお姉さんは泣きながら彼女を抱きしめていました。本当にシスコンですね。将来リリアナちゃんは結婚できるのでしょうか? 心配です。
「可愛いだろう。うちの孫娘は」
「ええ、とても」
話しているうちに大樹が見えてきたようです。ヴィクターさんが「ほら、あそこだよ」と指をさします。
「あれが大樹……大きい」
遠目から見ても圧倒的な存在感を放つそれは、まさに大樹と呼ぶに相応しい物でしょう。
目的の物が手に入るまでもうすぐでした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
締めの部分だけ入りきらなかったので、次回でエルフの里での採集は終わります。その後はダイジェストで採集の様子をお届けします。一つ一つ細かくやっていたら終わりませんからね。
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