第53話 お引っ越しです ②
「これで最後っと! 終わりましたよ!」
一部始終一緒に行動していたプシュケに町長さんと奥さん。後は何人かずつ入れ替わり立ち替わりで物珍しそうに見学をしては畑に戻り痕跡を少しでも無くすように工夫してくれています。
後で草なんかを生やすのでと言った事から動き出した皆さんは、草木の根っこ付きを森にまで取りに行き、畑のあちらこちらに植樹していってくれました。
そして僕の肩の上で耳たぶを掴みながらテラはよく通る声でみんなの方に話しかけます。
「ぬふふふ! みんな集まってる!」
「「おお~!」」
「もっと元気よく! みんな聞いてる!」
「「うおぉぉぉぉ~!」」
「うんうん! その調子よ! 今から私の力を見せ付けてあげるわ!」
「「「頑張れよぉぉぉぉ~!」」」
声援を受け手をふり答えるテラを地面に下ろしてしまうとほとんどの人は見えてないでしょうね。
ほんと~に近くにいる人達しか見え無いでしょうが、テラは満足そうな顔でニヨニヨしています。
そして僕の手に乗り肩から下ろして地面に。そしてニヨニヨから急に真剣な顔つきに変わってしゃがみこみ、テラはそっと地面に手をついて一言。
「さあ! 頑張んなさい!」
そう言った途端開墾されたこの広い土地の茶色の部分が無くなり、僕達の足元からも新たな草が芽吹き、辺り一面を緑に変えていきます。
「「おぉぉぉぉぉー!」」
そして木もずんずん太く高くなり見上げるほどに。それを見て皆さんの驚く声が辺りを包みしばらくの間止むことはありませんでした。
「テラ凄いよ! 神様みたい!」
「そうでしょそうでしょ! もっと褒め称えても良いのよ! おーほほほほ!」
「ほんとに凄いです!」
満足そうな笑顔のテラを手のひらに乗せ肩に乗せてあげます。
「うんうん。上から見ても良い具合に木も育ったみたいだし良いわね」
肩の上からなら遠くを見えるし、畑だった場所に十メートルくらいある木がそこかしこに見えていますもんね。
「うん。良い感じだよね~、元が畑だなんて分からないよ。そうだ町長さん、もうすぐお昼ですがお昼ごはんは向こうで食べますか?」
みんなと同じで、畑だった場所を眺めている町長さんに尋ねてみました。
「あ、ああ。すいません。見とれていました。素晴らしいお力ですね。う~むお昼ごはんですか。そうですねそうしましょうか。あちらは草原だとお聞きしたので気持ちよくお昼にできそうですな」
「はいもちろんです。じゃあ僕がお引っ越しのお祝いにオークを提供しますので焼いてみんなで食べましょう♪」
町長さんと、周りで聞いていた人達もうんうんと頷いてくれます。
「ところであの者達はどうしますか?」
そうでした。ハイエルフの人達の事をすっかり忘れていましたね。
「ん~と、思ったより早く町の全てを収納してしまえましたので、もうあの人達は森に戻しておこうかと思っています。戻して少し魔力を戻せば気が付きますので後は町を探して歩き回って貰います」
「くふふふ。ライったら意地悪ね」
「うんうん。でも賛成ですよ」
テラとプシュケはそんな事を言いました。その後に続くように周りの町長さんや、見える範囲の人達も
「「賛成!」」
声を上げ、聞こえてなかった人達には聞こえていた人達に伝言ゲームさながら伝わってゆき、「賛成!」「いいぞー!」など賛同の声が沸き起こりました。
あはは。奴隷にされて、食べる物を取られ、食べれずに死んじゃった人達もいたのですからハイエルフ達の自業自得ですよね。
「じゃあ先に皆さんをサーバル男爵領に送っちゃいますね~。すぅ~、行きますよ! せ~の! 転移!」
パッ
「到着ぅ~! ここがサーバル男爵領の皆さんの町になる場所です! どうでしょうか?」
「おっ! 角ウサギが子連れでいるぞ!」「手がつけられていない証拠だわ!」「おお~! 早く農具を出してくれないか!」「屋台も出して!」「それよりお昼ごはんだろ!」「土が柔らかいぞ!」「この土地なら沢山の作物が採れる!」
それはもう興奮のるつぼです。
そして父さんに聞いてあった比較的平らなところをさくっと土地の表面を収納してまっ平らにしました。
いきなり現れた茶色の部分を見て皆さん喋るのを忘れたように静かになりました。
「ぬふふふ。それじゃあ行きますよ! せ~の! ほいっと!」
一番最初に土を押し固めるイメージで土魔法を。さらに収納した石畳を一気に敷き詰めていきます。その際この間やったように土魔法で滑り止め加工もしておきましたよ。
いきなり現れた新品みたいな綺麗な石畳の通りにができて、それに合わせて家々を設置して行きましょう。
おっとその前に。
「町長さんオークを二百匹分、ここは豪勢に三百匹出すので調理をやりかけて貰って下さい。それから僕は家々を出していくので、間違っていたら教えて下さいね」
「う、うむ。そうですね。ではおまえ、解体できる者と調理できる者を集め準備を進めてくれるか」
「うふふ。三千人分のお料理、任せておいて下さい。あなたは町をよろしくお願いします」
話は纏まったようなので屋台とオークを出して、僕は村長さんと町をくまなく回ります。
そして一時間ほどした時良い匂いが漂ってきました。
「ライ君。そろそろお昼が出来そうですね」
「そのようですね。では僕はハイエルフの六人を元の場所に戻しに行ってきますね」
「はい。ではお待ちしています」
僕はテラとムルムルとプシュケを連れてエルフの町の跡地に転移して戻り、ハイエルフ達六人を拾って六人を気絶させた場所にもう一度転移しました。
「ん~と、ちょっとだけ様子も見たいよね。プシュケはまた背負子に乗ってくれるかな?」
「はい。どんな動きをするのか見ておきたいですしね」
「くふふふ。本当に意地悪なライね。ほらさっさと準備して木の上にでも上がりましょうよ。ちょうど良い枝もあるしね」
「うん」
背負子を出してプシュケを乗せて頭上の木の枝に飛び上がります。
「この枝なら下から見られてもすぐには気づかれないよね。じゃあ起こすよ」
辺りから魔力を集めてきて、六人に補充していきます。
ほんの少しの時間で回復したのか一人また一人と目を覚まし飛び起き辺りを警戒しながら様子をうかがっています。
「ふう。狩り用の眠り罠か何かに掛かったのか?」
「それしか考えられん。この辺りにはリスくらいしか動物はいないだろうからオーク辺りを狙ったのかもしれんな」
そんな事を話していますが、違うんですよね~。
「すると何か? 奴らオークを持っている可能性があるな。好都合ではないか。あははははは! 今回は村長の孫の誕生祭。豪勢な肉をいただけるのだからな」
「そうだな。しかし寝ている間に襲われなくて助かったな。クソッ、奴らからいつもの倍いただくぞ!」
「それは良い考えだ。よし行くぞ! 目印の岩を越えたから後少しだ」
そして進む六人をそ~っと枝から枝に飛び移り見付からないように追いかけていきます。
そして、そこそこ進んで既に町が見えていた所まで来ました。
「おかしいな。もう見えてきても良い場所なんだが」
「そうだよな。あの目印の木があるんだからもう見えてなければおかしい」
「ふむ。見間違いかもしれん。もう少し進むぞ」
進んでも無理なんですよね。町はないから見付けることは出来ないのです。
『くふふふ。ライほらもう畑の場所に到達したわよ』
「そうだね。念話僕も覚えなきゃこういう時不便だよ」
気付かれないように小声で返事をします。
『今晩教えてあげるわ。まだ進むようね』
その後もずんずん進み、町の中心地辺りまで到達しています。
「なんだよ、迷っちまったか?」
「うむ。寝ている間に方向を見誤ったようだな。仕方がない。寝てしまったところに戻るか、昨晩の夜営地に戻るかだが」
「夜営地なら転移で帰れるぞ。寝ていた場所は明確には覚えていないから無理だな」
「では夜営地に戻り明日に取り立てを行うか。では頼む」
「はぁぁ、一日予定が延びちまったが仕方がないな」
「行っちゃうよ。帰ろうか」
「え~と、夜営の邪魔はしちゃいませんか? 転移を村近くに変えて飛ばしておいてあげるとか? ライならできそうですし。くふふふ」
「うんうん。出来ちゃいそうですよ、あの人の転移の魔力とイメージを僕の魔力とイメージに置き換えちゃえば! プシュケそれ採用!」
小声でプシュケが良いこ事を言ってくれました。
転移を出来る人が魔力を込め始めましたのでそれに便乗して同調させていきます。
そして転移先のイメージは僕達が入った村の門前にしちゃいましょう。
これはもう僕があの人達を転移させているみたいなものですね。
おっと、詠唱が始まりましたね。……な、長いですね。もう一分近いですよ? こんなに長いと戦闘中には使えないんじゃないですか?
「――時と空間を司る精霊よ! 我の思う場所へと誘うがよい!」
おっ、結局魔力を込め出してから五分くらい掛かってますよね。さああなたの発動の言葉と同時に飛ばしてあげますからね!
「転移!」
パッ
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