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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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048.冬支度と改良品

 スープにとろみをつけるコツが分かってきた。

 思っていた通り、粉はいっぺんに入れず、少しずつスープに混ぜ込んでいく。

 あと、本当に少しで良いみたいで、多めに入るとプディングより固まるってことも分かった。かちかちではないのに、しっかりしてて、皿の上に出して揺らしても崩れない。

 これはこれで別のものが作れそうだって話にラズロさんとなって、今日の夜、宵鍋に行ってザックさんに相談に乗ってもらう事にしている。


「そう言えばまた、ダンジョン閉じに行くんだって?」


「冬になると行くのも大変だから、今のうちに行ける所に行く、ってノエルさんが言ってました」


「出来るのがアシュリーだけとは言え、こんないたいけな子供を酷使し過ぎだろうよ」


 レンレンさんがよく行く場所のダンジョンにはもう行って、閉じてきた。近場だったし。

 ミズル草はそのままにしておいたから、ポーション作りに使えるってティール様が言ってた。

 その時、ティール様には一週間ぶりに会ったんだけど、あまりにげっそりしててびっくりした。別人かと思った……。


「なんか買ってもらえよ国に、って言いたいんだが、この国、まだ赤字だもんなぁ。その赤字を補填するのにもアシュリーが一役買ってるときた」


 まったく、不甲斐ねぇなぁ、と言ってラズロさんは息を吐く。


「もし、ワガママを言っても良いなら、端肉が欲しいです」


「あれか! 良いな! 今年も大量に買おう! ナインに手伝ってもらえばオレも煮込めるからな!」


 ナインさんとラズロさん、ティール様の三人で、魔力がなくても魔術符を使う方法を編み出そうとしてるのは話に聞いていたけど。

 きっと凄いことだと思うんだけど、そのきっかけが薪を使わずに料理する為、って言うのが、ナインさん達らしいって言うか。


「今回はさ、胡椒とかもたっぷりあるから、より一層美味く作れそうな気がするよなぁ」


 ダンジョン蜂の蜜、胡椒なんかはギルドにも卸してる。胡椒は外から買い付けるしか出来なかったから高値だったけど、今は手に入れやすい値段になったみたいで、感謝されてるって聞いた。


「あー、熟れてないリンゴ、売ってるかな、後で見てくるわ」


 去年、出した料理を思い出したみたいだ。

 リンゴはイモと違って溶けにくいから、煮込みに向いてると思う。


「あ、キノコも見てくるわ。また作るだろ? キノコのペースト」


「はい、お願いします」


 豚の端肉で作ったペーストと、キノコで作ったペーストは便利で使い勝手が良いから、今年も作りたい。


「あ、ラズロさん」


「ん?」


「もし手に入るなら、レンネットが欲しいです」


「レンネット?」


「はい、冬の間は時間があるので、チーズを作ろうかと思うんです」


 村にいた時は、他の人を手伝ってたけど、メルがいるんだし、自分で作ってみたくなった。


「アシュリーさんてば、チーズまでお作りになられちゃうの?」


「村では手伝っていたので、作り方は知ってたんですけど、一人では作ったことなかったので、やってみたくって」


「良いね良いねー、アシュリーさんが色んな事に関心を持つの、オニーサンとしては応援したいね。

レンネットな、探してくるわ」


「手に入らなかったら、良いですから、気にしないで下さいね」


「オニーサンのコネを舐めんなよ、絶対見つけてくるわ」







 日が暮れる前にラズロさんは大量の荷物を持って帰って来た。片付けを手伝おうと近付くと、ラズロさんが手に持てる量以上のものがある。


「何度も買い出しに行ったんですか?」


 それなら言ってくれれば一緒について行ったのにと思いながら言えば、いやいや、と首を横に振られた。


「ギルドに寄って冬支度の注文をしてから市場に寄ったらな、皆にアシュリーは元気なのかって聞かれたんだよ。忙しくはしてるけど元気だし、たまに外に出てるぞと伝えたらな、あれも持ってけ、これも持ってけ、ってな。

あまりに渡されるから、城に届けてくれって言ったんだよ。そうすれば渡すのを諦めるかと思ってな」


 わざわざみんな、届けてくれたんだ。


「まぁ、アシュリーの事は噂になってんだろうし。気になってたんだろうよ」


 ラズロさんの言葉に頷きながら、荷物を手にして厨房に運ぶ。


「端肉は明日には城に届くからな。それと、熟れてないリンゴもな」


 そう言ってにやりと笑う。

 去年、失敗して熟れてないリンゴを沢山収穫したんじゃなかったかな。今年も失敗したのかな?


「欲を出し過ぎて実を間引かなかったらしくてな、甘くならなかったらしいぞ」


 甘さを出す為に、成った実を間引いて、間引かなかった実に甘さが行き渡るようにするらしいんだけど、その人はそれをやらなかったみたい。


「だから今年も甘くないリンゴが大量にあるぞ」


 木の実ひとつ育てるのも、大変なんだなって思う。

 時間もかかるし、木につく虫だっているだろうし、天気もあるし。


「安値とは言え、廃棄せずに済んだんだから、アシュリーに感謝すべきだな」


「さすがにそれはちょっと可哀想です」


 はは、とラズロさんは笑うと、手際よく荷物を棚や氷室に片付けていく。

 僕とラズロさんだと手に持てる量が全然違うから、僕ではどうしてもお手伝い程度になっちゃう。


 メルもリンゴは好きだったから、喜ぶだろうな。

 コッコも食べるかなぁ。ネロはどうだろ?


「レンネットはギルドが持って来てくれるってよ」


「ほんとですか? 手に入ったんですね」


「ご機嫌取りだろうよ」


 ご機嫌取り?

 よく分かってない僕を見て、ラズロさんは苦笑いする。


「アシュリーにだぞ?」


「僕ですか?」


「当然だろ」


 ギルドの人は僕が人と違うスキルを持ってる事を知ってるし、ダンジョン蜂の蜜の事もあるから、そういうことなんだろうな。


「チーズって買ったことしかねぇけど、出来上がるのにどのぐらいかかんの?」


「うーん……水分の抜け方とかによっても違うんですけど、ひと月はしないぐらいで食べられます。

ものによってはもっともっと時間をかけて、半年とか寝かせるものもあるんです」


「気安く食ってたけど、チーズってなぁ手間がかかってんだな」


 反省してじっくり味わうわ、としみじみと言うものだから笑ってしまう。


「ミルクとビネガーだけで作れるチーズもあるんですよ」


「おっ、ちょっと今日、ザックから分けてもらおうぜー。

絶対、出来上がりを要求されるけど」


「でも、渡したもので美味しいものを作ってくれますよ?」


 それなんだよ、と言ってラズロさんは頷くと、最後の荷物を片付けた。


 レンネットが手に入ったし、ミルクからヨウルトを作らないといけないな。







 すっかり日が暮れるのが早くなった。あっという間に空は暗くなって、寒くなる。

 ラズロさんとノエルさん、パフィ、フルールと一緒に宵鍋にやって来た。

 扉を開けた途端に良い香りがして、おなかが鳴る。スパイスと油と何かが一緒に焼ける良い匂いと音。


 ザックさんは僕たちにすぐ気付いてくれて、空いてる席を指さした。それ以外の席は埋まってて、賑わっていた。席が空いてて良かった。

 席に着いて飲み物を頼む。


「賑わってますね」


「そうだね。皆のおかげで、順調に進んでいるからね」


 店内を見回しながらノエルさんが言う。

 前に来た時よりも客で賑わっている店内は、笑い合う声があちこちでしていて、楽しそうだ。

 つい、ほっとしてしまう。


「職を失くした奴らの大多数も新しい職に就けたらしいしな、日雇いの仕事も多く斡旋されてる。

良い傾向だな」


 お姉さんが持って来てくれたエールを、器を軽く合わせてラズロさんたちは飲み始める。僕はリンゴジュース。


「問題は山積みだけど、とにかく生きていかなくちゃならないからね。

衣食住、これは最低限必要なものだし、これまでこの都はそれなりに豊かだった。そこから生活の質を下げるのはなかなかに難しくって」


 ため息を吐くノエルさんに、ラズロさんが頷く。


「一度知っちまったもんを忘れるのは難しいもんだ」


 知らなかったら、確かに前の生活を懐かしんだりは出来ないもんね。


「生活が安定してきてからの方が難しいよな」


「そうなんだよね……」


 ため息を吐く二人を見ていたら、パフィが言った。


『自分と同じだと思っていた隣人が豊かな生活をし始めるとな、人は簡単に嫉妬する』


 料理が運ばれてきて、テーブルがいっぱいになる。

 パフィは僕の横に座って、専用の皿に僕が料理を入れる。


 美味しい料理を前にしているのに、なんとも言えない気持ちになる。

 落ち着かない気持ちになって店内を見回すと、空っぽのステージが見えた。吟遊詩人のエスナさんを思い出す。

 聞いたことのない歌を沢山聴かせてくれた。

 懐かしくなって、エスナさんのことを話す。


「エスナさん、今は何処にいるんでしょうね」


「それだ!」

「それだよ、アシュリー!」


 ノエルさんとラズロさんが同時に声を上げた。


 何のことだかさっぱり分からないでいると、さっきまで暗かった二人の顔は嘘みたいに明るくなっていた。

 不思議に思っている僕の横で、パフィが次はあの料理を寄越せ、と言ってくる。


『思い付いたんだろう』


「何を?」


『あの様子だ、明日にでも早速動き出すだろう』


 まぁ、楽しみにしていろ、と言ってパフィは大きな肉に齧り付く。


『うん、この店の味付けは本当に良い』


 ぺろりと平らげるとおかわり、と言う。

 猫の小さな口なのに、あっという間に食べてしまう。


 吟遊詩人を他の街や国から呼ぶのかな。


『おまえの分も食べてやろうか?』


 パフィの言葉に慌てて僕も料理を口にした。




 おなかがいっぱいになったから、ザックさんの手伝いに厨房に入る。


「どうだった、プディングは」


「美味しかったです。ザックさんの故郷で食べるものだって聞きました」


「なんでもプディングにしちまうんだよ、アイツらは。パンが余っても、コメが余っても」


 嫌そうな顔でナッツを木槌で砕いていく。


「プディングが好きな土地なんですか?」


「面倒くさがりなだけだろうがな。ミルクや卵でなんでも煮ちまうんだ。何でもかんでもだぞ?」


 その言い方に笑ってしまう。


「嫌で堪らなくてな、世の中にはもっと美味いもんがある筈だって思って飛び出したんだ」


 ザックさんが故郷を出た理由がプディングだなんて……。


「しかも適当だからな、作り方も」


 色々とザックさんとしては許せないんだってことは分かった。

 ザックさんの料理に対する情熱は、プディングによって作られたものみたい。ザックさんには申し訳ないけど、故郷の人たち、ありがとうございます。ザックさんの料理、本当に美味しいです。


「ザックさん、その砕いたナッツは何に使うんですか?」


「これか?」


 叩くのを一瞬止めて、砕けたナッツを指さす。

 頷くと、また叩き始めた。


「コクと、とろみをつけたくてな」


「あ、とろみと言えば、王都の外でアダの根を手に入れたんです」


「なに?! アダの粉か? 売ってくれ、アシュリー!」


 ものすごい食いつきに驚く。


「そんなに貴重なんですか?」


「山の方まで行かないと手に入らないからな」


「そうなんですね。ザックさんにはいつもお世話になってるので、お金はいいです」


 駄目だ、とザックさんが首を振る。


「もし他の奴が欲しいって言って来たらどうする? そいつには売るのか? 不公平だと騒がれるぞ?」


 そう言われてしまうとその通りで、困ってしまう。


「アシュリーはもう少し欲を持てよ」


「うーん……じゃあ、チーズを使ったレシピが知りたいです」


 皿を洗いながら答えると、チーズ? と聞き返される。


「チーズを自分で作ってみようと思うんですけど、何か新しいのが知りたくって」


「なるほどなぁ」


 ザックさんの店では皿を洗うのにスポンジを使わない。

 へちま、ダンジョンで育てたら便利なんじゃないか、って急に思い付いた。スパイスを育てている所でならいけるんじゃないかな。

 そうすれば皿洗いにも、風呂掃除にも使えるし。


「クロケットの中にチーズを仕込んでおくのも美味いぞ」


「あ、美味しそう」


 齧ったら中からチーズがとろりと出てきたら、幸せな気持ちになれそう。


「定番なのは、チーズをかけて焼く奴だが、肉にかけても美味いし、魚や貝も相性が良いぞ。

白身の魚の上にのせてな、切ったトマトを横に添えて一緒に石窯で焼くんだよ」


 あっ、それ、絶対に美味しいと思う。


「チーズが出来たら絶対作ります!」


「アダの粉が手に入ったらテリーヌを作るか」


「テリーヌ?」


「味見させてやる」


「はい」


「そう言えばアシュリー、ヨウルトはあるのか?」


 チーズ作りにはレンネットとヨウルトが必要。


「いえ、作ろうと思ってるんです」


「あれをいちから作るのは失敗もするだろうし、時間がかかるだろう。オレが持ってるヨウルトを分けてやるから持っていけ」


「ありがとうございます!」


「それから、少しくれ」


「分かりました」


 思っていた通りの言葉に笑顔になってしまう。







 ザックさんからヨウルトを分けてもらったので、メルのミルクで増やすことにした。

 肉を柔らかくするのに使えるし、そのまま食べても美味しいらしい。村では濾して水気を切って、チーズ代わりに使ってたけど。


 メルとコッコの身体を拭いてキレイにしてから、桶に新しい水を入れる。

 ジャッロたちにも話しかけて、巣箱を確認すると、四つのうちの半分が蜜が詰まっていた。そろそろだろうと言われて持ってきた、新しい木枠と交換する。

 働き者なジャッロたちは、せっせと巣箱を蜜でいっぱいにしてくれる。


「いつもありがとう。大切に食べるからね」


 広間で売られている花も大分少なくなってきていた。本格的な冬になる前に、もう一回ぐらいジャッロたちに花をあげたいな。


 蜜の詰まった木枠を金ダライに入れてダンジョンから出て、厨房の台の上に置いておく。

 もう一度ダンジョンに戻って、メルのミルクを絞ってから戻ると、ある筈の蜜がなかった。金ダライごとなくなっていた。


 氷室にとりあえずミルクをおいて、金ダライを探すけど、見つからない。


「アシュリー、どうした?」


 戻って来たラズロさんに、蜜を入れた金ダライが何処かに行ってしまったと説明する。

 ラズロさんはため息を吐くと、心当たりがある、と言うと、「魔女は何処だ?」と聞いてきた。


『ここにいるぞ。丁度暇だから付き合ってやろう』


「こてんぱんにしてやってくれ。二度とそんな気が起きないようにな」


 パフィもラズロさんも、誰が持って行ったのか分かってるみたいだ。

 誰だろう?

 …………あ、もしかして。


「行ってくるわ、アシュリーはミルクの処理でもして待っててくれ」


 ラズロさんの肩の上にパフィが飛び乗る。


「……ほどほどにしてあげてね」




 予想通り、蜜を持って行ったのはレンレンさんで、怒ったラズロさんとパフィにこてんぱんにされたらしい。

 レンレンさんと一緒にミズル草の研究をしていたティール様が食堂にやって来て教えてくれた。


「いやぁ……ラズロはあれで怒ると怖いんですよー」


 幼馴染みのティール様は、多分誰よりもラズロさんに叱られている気がする。


「魔女様はお怒りと言うよりは、楽しそうでしたけどねぇ」


 うん、そんな気がする。


「レンレンさんはどうなったんですか?」


「これまでは口だけだったでしょう、封じられるのが」


 頷く。


「今度は目も封じられてましたよ」


 目が見えなくなって、口も塞がれちゃったのか……。


「あれぐらいで済んで本当にレンレンは運が良いですよー、二人ともなんだかんだ言って手加減してくれました」


 ティール様……一体今までどれだけラズロさんに怒られて……。


「蜂蜜は残念でしたね」


 レンレンさんは、パフィやラズロさんの怒りを買うことを百も承知で、持って行った蜜を直ぐに使ってしまった。

 ただ、そのお陰でミズル草の改良種が出来たんだって。だから目隠しと喋れなくなるだけで済んだみたい。


 ミズル草の改良品の完成の為、って言えば、普通に受け取れたと思う……。


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