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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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046.ミズル草とは?

 オーガを倒し、ダンジョンを閉じた僕達は無事に王都に戻った。


「あぁ、嫌だなぁ」


「仕方ないだろう」


 クリフさんとノエルさんに連れられてレンレン様の元に向かう。

 ダンジョンの入り口にあった草──ミズル草って言うんだって。ミズル草が魔力を持ってるのか、ダンジョンの入り口に見られるのは何故なのか、レンレン様に質問する為に。


 僕たち三人の姿を見て、レンレン様の顔がパァッと明るくなる。


「どうしたの君達! あ、分かった! 分かってるよ、皆まで言わなくても分かる! やっと魔法薬学に関心を持ってくれたんだね! いやー、ずっと勧誘し続けた甲斐があったよ! 魔法師団、騎士団と兼務出来るか、僕からトキア様には確認するからね、任せて! 大丈夫! 君達に手間は取らせないよ!」


 横でノエルさんが、帰りたい、と呟いた。クリフさんも同感だ、と答える。

 この早口は、何度聞いても凄いって思う。


「レンレン、ミズル草について聞きたい」


「ミズル草? アレがどうかした? あ、食べてみたの? アレは煮ても焼いても粉にしても美味しくないでしょ? だけどね、アレには滋養強壮って言うか、魔力を回復させる効果があるから、ポーションにも入れてるんだよ!」


 レンレン様の言葉に、あの草には魔力があるのだと分かった。


「聞きたい事は聞けた気がするからもう帰ろうよ」


「待て。何故ダンジョンの入り口付近にあるのかは聞いていない」


「いや、さすがにそれはレンレンでも分からないでしょ」


「ノエル、おまえただ単に帰りたいだけだろう」


「その通りです」


 クリフさんとノエルさんが話してる間に、レンレン様に質問をしてみる。


「レンレン様、あの」

「レンレンって呼んで、アシュリー! 君と僕の仲じゃないか!」


 えーと、レンレン様は僕に対して、悪い感情を持ってないって事だよね。


「レンレンさん、このミズル草なんですけど、ダンジョンの入り口の近くに群生していることが多い気がするんで」


 全部言い終わる前に手を掴まれる。

 レンレンさん、の目がキラキラしてる。


「アシュリー! 僕は感動してる! 植生に関心を持ってくれたんだね! いつも僕は王都近辺にしか出向かないからね、ミズル草がダンジョンの入り口付近に群生しているなんて知らなかったよ! これはだいはっけ」

『うるさい』


 ちりん、と鈴が鳴ったのと同時にパフィがやって来て、レンレンさんの口にまた紙を貼り付けた。

 むーっ! むーっ! と叫びながらレンレンさんは紙を剥がそうとする。


『戻ったと聞いたのに中々食堂に戻らんと思えば、こんな所で油を売りおって。さっさと厨房に戻って料理を作れ、腹が減ったぞ』


 話はまだ途中だけど、あの紙、一日は剥がれないって聞いたんだよね。だからこれ以上レンレンさんから話は聞けないね……。


「レンレン、貴重な情報ありがとう、またね」


 笑顔のノエルさんに押されて部屋を出た。

 クリフさんもノエルさんも、早く部屋から出たがってたもんね……。




 食堂に入ると、ラズロさんとナインさんが厨房に立っていた。

 僕たちに気付いてラズロさんが手を上げる。真似してナインさんも手を振って来たので、手を振り返す。


「おぅ、ご無事のご帰還なによりだ」


「帰りましたー」


「おまえらが帰った時に腹が減ってんじゃないかと思ってな、簡単なもの作っといてやったぞ」


 ありがとうございます、と言おうと思ったらおなかが鳴った。


「ラズロ、アシュリーのおなかがいただきます、だって」


「座って待ってろ」


 椅子に座ってラズロさんとナインさんを見る。

 魔法を使えないラズロさんを、魔術師のナインさんが手伝ってる。食堂に入った時からとても良い匂いがしていた。なんだろう、とっても良い匂い。


 少しして、ラズロさんが料理を持って来てくれた。

 僕たちの前に置かれたのは、黄色くてだ円のもの。


「オムレツだ」


 オムレツ? いつものオムレツはたいらなんだけど、なんだかふっくらしてる。


「余った具材をみじん切りにして放り込んだら結構美味くてな」


 僕の知ってるオムレツは、卵をときほぐして塩で味付けをして、フライパンで焼いて半分を折り畳むものなんだけど、目の前のオムレツは卵の表面にも具材が見えるぐらいだ。


「卵とトマトが余って捨てるしかないって相談を受けて買い取って来たはいいものの、使い道に困ってなぁ。それでオムレツにしたは良いがそれだけって訳にもいかんだろ」


 確かにいつもはオムレツに湯がいたイモや、酢漬けの野菜なんかを添えていたけど。


「ナインが卵に具を入れたものを食べたことあるってる言うんでな、試しにやってみたんだよ」


 納得して、スプーンで卵をすくって口に入れる。

 一緒に入った具材は味付けして炒めてあるみたいで、卵の甘さとちょうど良い。

 オムレツの上にかかったトマトソースの酸味もある。


「食べ応えがあるね」


 ノエルさんがひと口食べて言った。クリフさんは無言で食べてる。パフィもいつの間にか食べていた。


「これ、とっても美味しいです」


 そうだろ、と言ってラズロさんが嬉しそうに笑う。


 おなかが空いていたのを抜きにしても、とても美味しい。

 中に入ってる具材が色々だから、ちょっと固いものとか、柔らかいものとか、色んな食感がする。

 次にオムレツを作る時、僕もやってみよう。


 横に座るフルールが鼻をひくひくさせているのに気付いて、ダンジョンの中の部屋に行った方がいいんじゃないかと思った。数日とは言え、日々のことだから、結構あるんじゃないかと思って。


「フルール、ダンジョンでごはん食べて来て良いよ」


 ぴょこぴょこ、と耳を揺らすと、フルールは跳ねながら食堂を出て行った。おなか空いてたんだね。

 旅の間はいつものように食べられないから、フルールにとっては辛いよね、きっと。


「おー、そう言えば街の連中から、廃棄に関する相談みたいなもん、受けたぞ」


 ノエルさんとクリフさんがラズロさんを見る。


「アシュリーがここを離れると、フルールもいないだろ。当然廃棄物が溜まる。今は夏じゃねぇからまだ良いけどな」


「やっぱりそうだよねぇ」とノエルさんがため息を吐く。


「スライム、用意した方が良いかな」


「フルールと同じ消化速度を持つスライムを用意するとして、どなたがテイムを?」


 後ろから声がして、びっくりして振り向くと、ティール様がいた。


「それよりも、廃棄物が転送されるダンジョンのあの部屋を大きくしておけば良いのでは? この旅も永遠に続く訳ではないでしょうし、廃棄物を無料にする施策も暫定対応だと伺っております」


「そうだね、ティールにしては、まともな意見だね」


「いつもまともな事を言ってると思うんですけれどねぇ」


 ノエルさんの言葉にあはは、と笑うティール様。


「アシュリーくん、手が空いた時で結構ですから、部屋の拡張をお願い出来ますか?」


「はい」


 その日、フルールは部屋から戻って来なかった。

 ……おなか、本当に空いてたんだね。







 翌日、僕たちは殿下とパフィに旅の報告をする事になった。

 本当なら殿下の部屋に行くべきなんだけど、殿下が休憩がてら話を聞きたいって言ったらしくって、殿下とトキア様が食堂に来てくれる事になった。


 僕とラズロさんはコーヒーやらミルク入りコーヒーを入れる当番。

 ノエルさんが旅についての報告をしてくれる事になった。その方が正しく伝わると思うので、とてもありがたい。


『なるほどな。ミズル草は確かに魔力を帯びているが、あの草とダンジョンの関係性については着目した事がなかったな』


 ゆらゆらと尻尾を揺らしながら、パフィはノエルさんの話を聞いている。

 殿下はミルクコーヒーを飲んでから言った。


「水晶が群生していたミズル草を萎れさせた……か」


 ちらりと僕の方を見たので、頷く。

 トラス──魔力水晶がミズル草を萎れさせた事を気にしてるみたいだ。


 一瞬でミズル草が萎れてびっくりした。フルールは萎れた草もおかまいなしに食べていたけど、美味しさは変わったんだろうか。

 フルールはダンジョンで食事中。一応、ティール様に言われた通り部屋は大きくしておいた。あんまり広くすると必要とする魔力も増えるって事だったから、少ししか広く出来なかった。広すぎてもフルールが困るかなと思って。


「ミズル草はダンジョンの周辺に群生すると思われます。道中、野原に群生したものを見つけましたが、ダンジョンは存在しておりませんでした。

現時点では憶測の域を出ませんが、魔力の滞留する場所にミズル草は根を張り、その後ダンジョンが発生しているのではないかと思料します」


 殿下は頷いて、「魔法薬学長に因果関係を調べさせよう」と言った。


 全員分の飲み物も用意したので、僕とラズロさんは端っこに座った。


「もしそれが本当なら、なんで知られてないんだよ?」


 ラズロさんがノエルさんに訊く。


「レンレンの本に書いてある。焼き払え、って」


 ラズロさんはガリガリと頭をかく。


「つまりアレか、群生して邪魔になるから大抵は焼き払っちまって分からないってことか。

ノエルの考えている通りなら、草を焼き払った所で魔力の滞留は止まらねえんだろ?」


 そう言う事になるね、とノエルさんが頷く。


「オブディアン」


「はい、殿下」


「魔力の滞留は、目には見えぬものであろう?」


「はい、その通りです。その場所に行けば私達魔法師団の者や魔術師団の者なら分かるでしょうが、離れた場所にいて認識出来るものではございません」


「そのミズル草からポーションが作れると魔法薬学長は言っていたと。ポーションはそこそこに値の張るものだ。もし国内で魔力が滞留する場所に群生したミズル草を採取し、ポーションの原料とするなら、国内のポーションの値段も下げられる。それをどう現実にするかは、魔法薬学長に考えさせるとしよう」


『問題は、そこに出来てしまうダンジョンだな』


 パフィの言葉に殿下とノエルさん、トキア様も頷いた。


「それについてはミズル草とダンジョンの関連性が解明されてから本格的に決める事とする」


 言い終えると殿下は立ち上がった。みんな一斉に頭を下げる。


「ではまたな、アシュリー」


「はい」




 メルにはベトベトになるまで舐められて、コッコには突かれすぎて袖に穴が空いてしまった。

 ネロは膝の上から動かない。


「ごめんね、寂しい思いをさせて」


 普通の鶏のコッコと、猫のネロは旅に連れていけない。メルは一応魔物だけど、のんびりやさんだから、僕の事をちょっと見かけないなーぐらいにしか思ってない気がする。


 フルールが裏庭のダンジョンから戻って来たのは、ついさっき。心なしかご機嫌に見えるフルールの小さなおでこを撫でる。


『水晶を見せろ』


 ポケットから取り出し、パフィの前に置く。


『ふむ。順調に魔力を蓄えているようだな』


「これ以上大きくなったりする?」


 あんまり大きくなると、持ち運びが大変そうで、それが心配。


『いや、それ以上は大きくなるまい』


「そっか、良かった」


 ほっとした。大きくなったトラスを持ち運ぶのもそうだし、馬車に乗ったとき、一緒に乗るクリフさんやノエルさんに狭い思いをさせたくないし。


『あのおしゃべり、王子の命を受けて一目散に王都から出て行ったぞ』


「レンレンさん?」


『そうだ』


 ポーションを作るのにミズル草を使うのは、どうやらこの国だけらしい。

 いつもミズル草を採集しに行く場所に向かったのかな?


『魔法使いと騎士も一緒にな』


 にやりとパフィが笑う。


 ノエルさん、クリフさん……頑張って……。


『そういえばおまえ、とろみの根を持って帰って来ていたな』


「あ、パフィも知ってるんだね」


 粉にして水に溶かせばとろみになると言う根っこ。

 レンレンさんの本にはアダの根と書いてあった。


『あれは薬にもなるからな』


「スープに入れてみたいと思ってるんだ。温かさが長持ちしそうじゃない?」


『そう思ってやって見た事があるがな、固まってしまって上手くいかなかったぞ』


 ふん、とパフィが鼻を鳴らす。

 粉もミルクに溶かす時に少しずつやらないと固まってしまう。粉状のものと液体を混ぜるときは少しずつ、が良いのかも知れない。


「ちょっと試してみるね。もしかしたら上手くいくかも知れないし」


『失敗したら許さんぞ』と言ってパフィはにやりと笑った。


「頑張ります」


 食堂に戻って、アダの根を洗う。

 マイロさんたちが結構取って来てくれたので、たっぷりある。粉にすれば日持ちもするし、これから寒くなるから温かさを長持ちさせられるとみんなもよろこんでくれるかな。


「翌日にはすぐに料理なんて、アシュリーは真面目だな。少しは休んで良いんだぞ?」


 ラズロさんがやって来て言った。ちょっと呆れ顔だ。


「僕がいない間、ラズロさんとナインさんが頑張ってくれたんですから、休むんならラズロさんたちじゃないですか?」


 なんだかんだ言っても、僕は馬車に乗ってるだけだったし。


「ありがとな、アシュリー」


 嬉しそうに笑ったラズロさんは、僕の頭をわしわしと撫でた。


「それで? なんだこれ?」


「アダの根、と言うものだそうで、乾燥させて粉にすると、液体にとろみを付けられるんだそうです」


「アダ粉の元か!」


 ラズロさんも知ってるのか。


「若い頃に行った街で、とろみのついた料理を食った事があってな、何が入ってるのかと聞いたらアダの粉だと教えられたんだよ。あんまり見かけねぇし、見かけても手間がかかるからってんで、それに値が張るからな、好んでは買わない」


 根っこを持ち上げて、これがなぁ、と呟くと、「よっし、二人でやろうぜ。そうすりゃ早く終わって休めんだろ」と言って腕まくりする。


「あ、そうしたら、出店に行きたいです」


「決まりだな」







 アダの根を洗って、千切りにしたものを干しておく。

 乾いたらすり潰して粉にする。結構な量があるから、手でやるには多いし、風魔法で粗方細かくして、後は手ですり潰す感じかな。


「よぉし、出かけるぞー」


 ぐるぐると腕を回しているラズロさん。随分と機嫌が良いみたいだ。


「アシュリーが帰って来たからなー、心置きなく宵鍋に行けるぜー!」


 あぁ、そう言う事。


「風呂はな、魔女様が入れてくれたから問題なかったし、料理もナインが手伝ってくれていたんだがなぁ、夜食用意したりと色々やってるとなぁ、行き時を失っちまうんだよ」


「そうだったんですね、ごめんなさい」


 いやいや、と首を横に振って僕の頭をラズロさんが軽く撫でる。


「違う、感謝してんだよ。

もうすっかりアシュリーは城の一員だって皆で話してたんだぜ? それからあまりにアシュリーに頼りすぎだから、自分たちで出来る事はしないとな、って話になった」


 僕がしている事は食事と風呂ぐらいだけど、必要だと思ってもらえるのはやっぱり嬉しい。


「俺なんかアシュリーに洗濯もしてもらってるからな、本当困った。あぁ、俺も魔法使えるようになんねぇかなぁ。遅咲きのスキルとか言ってさ」


 戯けたようにラズロさんが言う。

 こんな風に言っても、器用なラズロさんは問題なくやれていただろうと思う。

 ラズロさんの優しさが、嬉しい。


「腹がいっぱいになっても美味いもんは美味いけどな、空腹の時に食ったら何倍も美味いだろ!」


 僕たちは目当ての屋台までやって来た。

 この屋台の串焼きの肉は、何度も食べたくなってしまう。独特のタレが肉によく染み込んでいて、脂身と肉が程よくて、口に入れるとじゅわりと肉汁が溢れる。


「よっ、お二人さん。今日は新メニューがあるぜー」


 屋台のおじさんに話かけられた。


「新メニュー? この白い奴か?」


 そうだ、さすがお目が高いねぇ、とおじさんが笑う。


「貝の身をいくつも串に刺して塩を振って焼いたもんだ。美味いから食ってってくれよ」


 貝!


「美味そうだ! 二つくれ」


「あいよっ」


 貝の串焼きを受け取って、さっそく口に入れる。

 肉のように噛んでも肉汁のようなものは出ないけど、コリコリしてる。噛めば噛む程甘みと、塩味がして、美味しい。

 前に食べたのとは違うのかな。臭くない。


「どうだい、美味いだろ」


 おじさんに声をかけられて、口に貝が入ってたので、頷いた。


「これは美味いな。飲みたくなっちまう」


「日が暮れたら行って来いよ」


 そうするわ、と答えて他の屋台に向かう。


「貝の串焼き、美味しかったですね」


「あれは美味いな。貝のまま焼くのもいいが、あれもまた美味い。ギルドに海が出来たからな、前より鮮魚が手に入りやすくなったとは聞いていたが、貝も良いもんだな」


「また食べたいです」


「おうよ。

さぁて、次は何を食」

「アシュリー! ただいまああああああ!!」


 突然横から突撃された。

 倒れそうになったのを慌ててラズロさんが支えてくれて助かった……。


「れ、レンレンさん……」


「ミズル草とダンジョンの関係に気付いたのはアシュリーだって聞いたよ! ミズル草が群生したあ」

「パラーリジ」


 ノエルさんの声がして、レンレンさんがぱたりとその場に倒れた。

 ……ぴくぴくしてるけど、大丈夫なのかな……。


 ノエルさんとクリフさんがやって来て言った。


「寝かせた方が良かったんじゃないか?」


「それでも良かったね」


「おかえりなさい、ノエルさん、クリフさん」


 足元のレンレンさんのことも気になるけど、先に挨拶をしておく。


「ただいまー」


 二人とも笑顔を見せてくれた。

 ……心なし、疲れがにじんでるけど。


「戻った」


「これを運んだら食堂に行こうと思うんだけど、二人はまだ見て回る?」


 これ、と言って倒れているレンレンさんを指差す。うつ伏せにはなってないから、呼吸は大丈夫そう。


「今日はこの後にギルドも行くからな、早くはないぞ」


「僕達も報告をしなくちゃいけないし、丁度良いかもね」


 クリフさんがレンレンさんを持ち上げて、脇に抱える。クリフさんは騎士であんな重い剣を振り回しているぐらいだから、小柄なレンレンさんを抱えて歩くぐらい、なんて事ないのかな。凄いなぁ……。


 またね、と言って二人がいなくなって、僕たちはギルドで買い物をしてから城に戻る事にした。




 広場の花売りの屋台でジャッロたちにあげる花を買って帰る。

 ダンジョンに入ってジャッロたちに花をあげると、花の周りをぐるぐる飛んでいた。喜んでくれてるみたいで、僕としても嬉しい。


 少し蜂蜜をもらってから食堂に戻ると、ナインさんが座って待ってくれていた。


「アシュリー、おかえり」


「戻りました、ナインさん、蜂蜜入りのミルク飲みますか?」


 勢いよく頭を縦に振るナインさんに、ラズロさんが笑う。

 僕の腕の中の金ダライを覗き込んでナインさんが言った。


「蜜、取った巣、どうする?」


「巣? フルールが食べてます」


「巣、溶かすと蝋燭に出来る」


「へぇー!」


 村だと大人達が持って行ってしまうから、巣を使って何かをした事がなかった。


「やってみたいです」


「簡単。明日教える」


 頷いて、厨房に入る。

 蝋燭作りはした事ないから、ちょっと楽しみ。


 片付けをしていると、ノエルさんとクリフさんも食堂にやって来た。


「ノエルさん、蜂蜜入りミルク飲みますか?」


「ありがとう、いただきます」


「クリフはコーヒーで良いな?」とラズロさんが尋ねると、クリフさんが頷いた。


 腰掛けてミルクを飲む。


「早速だけど、レンレンがいつもミズル草を採取しに行ってた場所に、ダンジョンが出来ていたんだ」


「これまではなかったらしいから、一定の魔力がそこに滞留したんだろう」


「レンレンが大興奮しちゃって」


 それであの状態になったのかな?


「後日、アシュリーに閉じてもらう必要があるね」


 頷いた。


 ダンジョンそのものは問題がなくても、モンスターが住み着いてしまうと問題だもんね。


「モンスターは魔力を好むからね、ミズル草の匂いに誘われてやって来て、ダンジョンに住み着くんじゃないかな」


 ミズル草の匂い……。


「ダンジョンを閉じたとしてもその地は魔力が滞留しやすい土地だと言う事は変わらないからね、また出来てしまうだろうけど、被害が発生する前に気付けるのは大きいね」


「ダンジョンメーカーが作ったダンジョンの近くには生えないんですね」


「そうだね。魔力が滞留する場所に作ればミズル草も繁殖するんだろうけど、ダンジョンメーカーの持つ魔力で以ってダンジョンを作るから、扱いが違うんだろうね」


 なるほど。


「ミズル草とダンジョンの関係性について、国内の村や街に知らせる事になったよ。

ダンジョンはこれまで閉じる事が出来なかったからね、同じ場所にまたダンジョンが出来る事についても伝えて、注意喚起出来るのはとても重要な事だね」


 モンスターに住みつかれる前に何とか出来るって事だもんね。


「問題は、出来てしまったダンジョンを、ダンジョンメーカーしか閉じられないって事だけど、その地に滞留した魔力を集めてダンジョンの生成を防ぐ手立てはティールがなんとかすると思う」


 ……ティール様、頑張って。


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