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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第三章 ダンジョンメーカーのお仕事

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037.海は青くて広い

 公衆浴場の建設には、食堂の裏にお風呂を作ってくれた人たちが受け持つことになったみたい。

 経験の有無は大きいんだって。

 ただ、その人たちだけでは人手が足りないから、広場で毎朝募集をかけて、未経験の人でも出来ることを手伝ってもらい、その日の仕事が終わる時に給金を払う。

 そうすることできちんとお金が手に入って、ちゃんとご飯が食べられる。とても大事なことだと思う。

 おなかが空くと心細くなる。僕はそんな思いをしたことないけど、想像するだけでこんなに辛いんだから、実際にそうなったら……。

 だから、その日その日にちゃんと支払われる仕組みを、ずっと続けて欲しいなって思った。


 女の人や子供、お年寄りや力のない人たち向けの仕事をノエルさんの生家であるオブディアン家が用意してくれたんだって。

 僕も大好きな羽毛布団に使う水鳥を育てる仕事。

 落とした羽根だけを使う。むしったら駄目。

 僕のいた村では昔、水鳥をしめてから羽根を取っていたらしいんだけど、そうすると羽根がとっても傷むんだって。鳥も命を落とすし、羽根も悪くなってしまうから良いことがないということで、水鳥が落とした羽根だけを使うようになった。

 その分とても時間がかかる。村では子供が生まれると布団を作って、身体の成長に合わせて布団を打ち直しして、そのたびに羽根を足していく。

 オブディアン家の人たちは、村と同じやり方をしてくれるらしい。値段は高くなるだろうけど、貴族の人たちからでも広まれば良いな。


 これまで貴族の屋敷で働いていた人たちには、他の貴族の屋敷への奉公の斡旋だとか、ギルドでのお仕事などが紹介されていってるみたいで、国をあげての失業対策が始まった。

 あと、教会も炊き出しなんかをしてくれているみたい。


「広場にいる奴らの表情が少しずつ明るくなってきたな」


 まだ始まって二週間だけど、前のような暗い雰囲気は薄まってきているのだとラズロさんが教えてくれる。


「国が自分達を見捨てないって分かるだけで、気持ちは上向くもんだ」


「そうですよね」


 突然王都のあちこちの井戸に毒がまかれて、それが落ち着いたと思ったら沢山の貴族が処罰されて、仕事を失って……。

 国にとって、自分たちがどうでも良い存在なのだと思ったら、北の国や南の国からの誘惑に負けてしまいそうだよね。

 それでも、不満を持つ人は出て来るんだろうけど……。


「人の事より、アシュリーさんも大分大変だとノエル先生から聞いてますけども」


 ちら、と横目で見てくるラズロさん。僕は笑った。


「これまでいくつのダンジョンを作った?」


「まだ一つだけですよ」


 さすがにダンジョンを作るのは沢山の魔力を使うから、僕の作業は毎日じゃない。

 取り急ぎ海を、と言うことで作ったダンジョンは、とにかく広く、深さがある。

 海のダンジョンは二階層に分けた。

 一つめの階層は、浅瀬って言って、子供の僕でも膝までいかないぐらいの深さしかない。

 岩場を沢山作って、いよいよ明日、海と繋げる。

 その為の術符はナインさんが作ってくれるらしい。もう片方の、深い海?はティール様が。


 海を見たことがない僕に、殿下やトキア様、クリフさん、ノエルさんが沢山の本や絵を持ってきて見せてくれた。

 殿下も見たことがないから楽しみだっておっしゃってた。


「ラズロさんは海を見たことありますか?」


「あるぞ。若い時にな、すこーしだけ旅をした事があってな、その時に見た」


「絵は沢山見せてもらいましたけど、本物ってどんな風なのかな、って思うんです」


「海はな、とにかくでかくてな、空も広くて、高くて、自分がちっぽけに感じる」


「それは、良くない意味でですか?」


 僕の質問にラズロさんは首を横に振った。


「なんつーのかな、あまりに周りのものが大きくってな、自分の悩みなんてどうでも良いって思えてきたんだよな、オレの場合は。それぐらい、海も空も大きくてな。

……うん、上手く言えねぇけどな、寝っ転がって空を見て、打ち寄せる海の、波の音を聞いてたらな、海や空の一部に自分もなったような気になったんだよ」


 …………分からない。

 全然分からない。

 きっと、見たらひと目で分かるんだろうな。

 

 いつか僕も、海を見てみたいなぁ。




 夕食を食べ終えて、お風呂にも入って、自分の部屋のベッドの上で海の絵を見ていた。

 青い海と青い空。

 明日、海とダンジョンが繋がる。なんだかちょっと、想像がつかない。


『おまえは海を見た事が無かったな』


 思い出したようにパフィが言った。


「うん」


『どれ、ちょっと見せてやろう』


 見せる?


 マグロのしっぽがぐるぐると回り、僕の目の前で何かがポン、と音をたてて弾けた。

 びっくりして目を閉じてしまった。目を開けると、目の前にはさっきとは違う景色が広がっていた。


「パフィ、これ……?」


『おまえの目と、海鳥の目を同調させた。少しの間しか出来ないからな、よく見ておけ』


 うみどり。


「どうして明るいの?」


『この国と違ってまだ昼間の場所を選んだからに決まっているだろう』


 まだ昼間の場所……?


 うみどり──海の側で生活する鳥のことかな──の目になっている僕の前には、右を見ても左を見ても変わらない景色が広がっている。

 村にあった公衆浴場よりも大きな水がある。こんなに沢山の水、溜めるのも大変そう。パフィみたいな魔女が注いだんだろうか?


 ラズロさんが言ったように、海は大きくて、何処までも続いてて、終わりが見えなかった。

 絵と同じで青いのに、透けていて、でも底が見えない。


 同調してる海鳥が飛び上がったのか、どんどん海が離れていく。飛んだんだろうな。

 海が見えなくなってしまうかと思ったのに、海鳥の目にはまだ、海が見える。

 何処までも広がる海は遠くに見える線まで続いてた。


 ポン、と音がして、僕の視界は突然狭くなった。


『時間切れだ』


 パフィのかけてくれたまじないが切れたみたいで、僕は自分の部屋にいた。ずっと身体はここにあったんだけど、目にしたものは違うものだったから、変な感じ。

 ほんの少しの時間だったけど、海が見れた。

 ラズロさんが言った通り、海は想像よりも大きくて、空は天井が見えないぐらい高くて、広かった。

 自分がちっぽけに見えるという気持ちが、ちょっとだけ分かった。

 僕は目でしか感じられなかったけど、その場に行ったらもっと、色んなものを感じたんだろうな。


「ありがとう、パフィ」


『礼は要らん。これは私の為でもある』


 パフィの為?


 僕を見てにやり、とパフィが笑った。


『裏庭のダンジョンに海の層を作ると言ったろう。その為にもより本物に近い海をおまえに見せる必要があったのだ』


「……パフィって、魚介類、好きだったんだね」


『海のものも山のものも里のものも、どれも好きだがな、最近海産物を口にしていない事を思い出した』


 パフィの言う最近は百年単位だから、確かに長い間食べてない。


「あの独特のにおいが、僕はちょっと苦手なんだよね」


『鮮度だ』


「鮮度?」


『野菜も採れたての方が美味いだろう。魚介も同じだ。

あぁ、楽しみだ!』


 そう言ってパフィはベッドでごろん、と横になる。

 これが混沌の魔女と同調してる使い魔、って言ってもみんな信じないだろうなぁ……。


『浅瀬で獲れるものと言ったら、まず、貝だな! 塩焼き、酒蒸し、バター焼き! アヒージョも捨てがたい!』


 実は凄い好きなんじゃないかな、魚介類。







 いつもと同じ時間に目覚めた朝。

 タライに程々の水をはって、タオルを濡らして絞り、顔を拭く。

 着替えて食堂に入ると、ラズロさんがいた。昨日は飲むぞー! と、張り切って出掛けて行ったからさすがに今朝は二日酔いかと思っていた。

 そんな僕の考えを見透かしたのか、ラズロさんがふふん、と得意げに笑う。


「ちゃーんと調整しておりますよー」


 ラズロさんはここの所、毎晩飲みに行ってはいるものの、翌日にあんまりお酒が残っていない気がする。

 多分だけど、この前僕が花を買おうとした時と同じで、一晩で沢山のお酒を飲むんじゃなくて、毎晩色んなお店で少しずつ飲むことにしたんじゃないかと思う。

 ラズロさん一人で店を支えられる、というのはないだろうけど、塵も積もればと言う言葉もあるみたいだし、きっと意味はあると思う。

 僕にも出来ることがあると良いんだけど。


「それに今日は、この前作ったダンジョンに浅瀬を作るんだろう?」


「はい」


「世の中が安定するまではオレたちが魚介を買わないとな! そうすることで金が循環していくんだぞ、アシュリー」


 ……あ、そうだ。ラズロさんも魚介が好きだった。

 前に祭だ、って言って沢山魚や貝を買ってみんなで裏庭で食べたのを思い出す。


「パフィも食べたがっていたので、しばらく魚介尽くしになると思います」


「うおー! 魔女様、気が合うなー!」


 二人だけで食べ尽くしそうだなぁ……。




 ナインさんとティール様、ノエルさん、クリフさんがやって来た。

 今回はトキア様たちは来ない。

 僕はマグロと同調してるパフィをだっこしながら、この前作ったダンジョンのある場所へと向かう。

 隣を歩くナインさんは、海とダンジョンを繋げる術符を作るのは初めてだったけど、前世でも魔術師だったからか作成に苦労しなかったみたいで、ティール様が苦笑いを浮かべていた。

 教える事があまりないんです、って言ってた。


「浅瀬出来たら、アシュリーに美味しいもの、作ってもらう。楽しみ」


 どうやらナインさんも魚介が好きみたい?

 冗談ではなく、魚介尽くしの日々になりそうです。


「そうなると、もっと色んな食べ方が知りたくなります」


 僕は魚介の食べかたを知らないから、どんな調理方法があるのか知りたいな。

 宵鍋のザックさんなら知ってるだろうけど、お店のメニューをいつもいつも教えてもらうのもどうなのかな、ってちょっと思ってて。


『頼んだらどうだ? 王宮の蔵書に一つや二つあるだろう』


 ナインさんの隣を歩くティール様が頷く。


「あぁ、それは良いですね。アシュリー君も以前に比べて色々と読めるようになってきましたからね」


 僕はまた、ティール様から勉強を教わり始めている。

 少し離れていた間に、ナインさんは僕の何倍も出来るようになっていたけど。

 僕は僕、ナインさんはナインさん。

 焦らず本を読んでる。日記は、実はあまり書けてない。

 何を書いたらいいのか分からないから、いつもメルとコッコは今日も元気だったとか、今日のメニューはこれにした、とか、そんなことしか書けていない。

 読むほうが好き。


「帰ったら許可を取りましょう」


「良いんでしょうか? 僕は食堂で働く者なのに」


 本来なら、こうして字を教えてもらったりすることだって、特別扱いを受けているのだと分かってる。


「何も問題ないよ。料理人が料理の本を読みたがる事を嫌がるようなおかしな人間はいないから」


 前を歩いていたノエルさんが振り返って答えてくれた。


「はい、ありがとうございます」


 パフィは鮮度だって言ってたけど、鮮度が良くなくても魚介を美味しく食べられる調理方法を、僕は知りたかったりする。




 海と繋ぐ為に作ったダンジョンは、実はギルドの奥にある。

 魔力がある場合、ダンジョンは実はそこにはないんだって。でも、魔力がなくなると実体化するらしい。

 だから僕が王城の裏庭に作ったダンジョンは、城の下に空洞を作った訳ではなくて、別のところにダンジョンはあって……。

 原理とか、説明してもらったけど、ちんぷんかんぷんだった。

 あと、魔力がなくなってしまったダンジョンが実体化することがどういう問題になるのか、よく分かっていなかった僕に、ノエルさんが教えてくれた。

 あまりにダンジョンが沢山出来て、しかもダンジョンから魔力が失われていったら、地震が起きたり、地盤沈下などが起きる可能性があるし、魔物の住処になってしまうと、地上にあふれてきた時に問題になるんだって。

 アマーリアーナ様が僕にダンジョンメーカーとしてダンジョンを閉じて欲しいと言っていたのは、その所為かも知れない。

 とは言っても、滞留した魔力により自然に生み出されていくから、ダンジョンが生み出された後はその辺りの魔力はなくなってしまうし、そうそう直ぐに魔力は溜まらないらしいんだけど。


 ダンジョンがギルドの奥に作られることになったのは、悪いことが出来ないようにだったり、間違って海に入って危険に遭わないように、という理由からだって聞いた。

 沢山の人が出入りすることになる海のダンジョンは、誰でも入れるように制約がかけられていない。

 裏庭のダンジョンのように、術符を持っている人は入れるようにする案もあったみたいなんだけど、なくした場合や、術符を売られてしまったり、人がいない時に入ってこっそり魚を獲って売る、ということが予想されて、なしになった。その代わりにギルドが雇った人が出入り口を見張るらしい。

 それから、ダンジョンが実体化しない為に、専用の術符をティール様たち魔術師からギルドは購入することで、海のダンジョンを独占する権利を手にしたみたい。


 村から出て城で働き始めてからも、あんまり悪い人に出会ったことがなかったから、他の人から酷い話を聞くたびに、僕は恵まれているんだと感じる。


 広場には、その日の仕事を探している人たちが大勢いたけど、表情は暗くなくて、ほっとした。

 何かしらの仕事につけているからかな。

 まだいっぱい問題はあるってわかってるけど、それでも。




 ギルドに到着した僕たちは、ダンジョンに向かう。

 ティール様はローブの大きなポケットから術符を取り出して、一緒についてきたギルドの人に二枚、手渡した。


「これがこのダンジョンを安定させる為の術符になります、何処でも良いので貼って下さい。

あ、一度貼ると剥がせないのでご注意下さいね」


 ギルド職員の人は、受け取った術符をじっと見つめている。


「効力を失効すると途端にダンジョンが実体化を始めてしまうので、常に注意しておいて下さい。

効果を発揮している場合は光を発します。色は濃い青です。だんだん色が薄まっていきますので、城にて購入後、貼って下さいね。

なんでしたら、色が薄まってきたら新しいのを購入いただいて、横に貼っていただいても問題ありません」


「承知致しました」


 職員さんは頷き、ティール様に質問する。


「二枚並べた場合、どちらが先に使用される、というのはあるのでしょうか?」


「この術符はその場の魔力がダンジョンを維持する一定量になるよう、必要に応じて魔力を発するものです。

ですから、二枚貼り付けた場合は二枚とも効果を発するでしょうが、一時的にこの場の魔力量がいくらか増えるだけです」


「理解しました。ありがとうございます」


 職員さんは頷く。


「さ、どうぞ」


 次回からはギルドの職員さんたちがティール様たち魔術師がいない所で術符を貼ることになる。

 僕も裏庭のダンジョンで貼ったことがあるけど、ただぺたって貼るだけだから、問題ないと思う。

 恐々とした様子で、職員さんは壁に術符を貼った。振り返ってティール様を見る。頷くティール様。

 術符は青い光を発してる。


「これで大丈夫です」


 ティール様がナインさんの方を向くと、ナインさんが頷いた。

 ポケットから術符を取り出して、低くなっているダンジョンの奥に向かって歩き出す。


「最奥に海と繋げる術符をダンジョンに吸収させるんですよ」


 かなり広い空間で、ナインさんの姿がどんどん小さくなっていく。

 一番奥に到着したナインさんは、術符を壁に貼ったようで、小走りで戻って来た。

 ナインさんを追い掛けるようにして、水が奥からあふれてきて、あっという間にいっぱいになった。


 水が引いて、またこっちにやってくる。

 貸してもらった本の中に、海のことが書かれていて、海には波というものがあるって知った。

 満ちて、引く。

 海から遠く離れたこのダンジョンと繋がったことで、目の前に波が迫るのは、なんだか不思議な気分。


「浅瀬と繋げてますから、これ以上水が上がってくることはないのでご安心下さいね」


 ぼんやりと海水を見ていたらパフィに頰をぱんちされた。痛くはないけどびっくりした。


『何をぼけっと突っ立っている。ここを浅瀬らしくせんか。その為に海を見せてやったろう』


 あ、そうだった。


 少し見せてもらえた海を思い出す。

 ダンジョンの天井が空に変わり、浅瀬に模して低くなった場所にいくつもの岩場が出来ていく。


「わ……っ!」


 職員さんが声を上げる。


『少し時間はかかるだろうが、岩場に生き物が住み着く。まぁ、浅瀬だなんだと言っても、それなりの深さはある。貝類が獲れるだけの深さにはなっているからな』


 どれ、と言ってパフィは僕の腕から飛び降りると、しっぽをぐるぐると回した。

 岩場に藻みたいなものがくっついていく。


『住処と餌がなくば、小さき者たちも来ないからな』


 さっきの藻みたいな奴が住処になるのかな。それとも餌?


「少しずつ生き物が増えていくよ」


「それだと、貝はいつから食べられるようになるんですか?」


 ノエルさんが笑って、「ここは少し時間がかかると思うけれど、下の層は沖と繋げるんでしょう? そうしたら魚が釣れるようになるよ」


 そうなのか。

 裏庭のダンジョンにも海を作ったら、釣り、出来るかな?


 今日は浅瀬を作るところまでで終わり。浅瀬は出来たんだけど、みんな、何も言わずに繋がったばかりの海を見ていた。

 作り物だけれど、空は青くて、浅瀬に打ち寄せる波は青くて透き通ってた。キレイだった。

 岩だけだったのに、少しずつ砂も波に運ばれてきて、小魚が波にのってやってきた。


「小魚だ。パフィ、あれは食べちゃ駄目だよ」


 稚魚は釣っちゃ駄目って村で教わった。


 頰に猫ぱんちされる。


『それぐらい知ってる』


「今、マグロと同調してるから、小魚に襲いかかりたくなるのかなと思って」


 僕がパフィと話をしている間に、ティール様が職員さんへの説明が終わったみたいで、ダンジョンを後にした。


「問題ないとは思うんですが、第二層の沖合は一週間後になります」


「分かりました」


 ギルドを出て広場に戻ると、いくつもの屋台が並んでいた。


『肉が食べたい』


 本当に肉が好きだなぁ……。

 パフィに野菜を食べさせるのに苦労して、色んな料理を覚えたんだよね……。


「僕も食べたい」とノエルさん。


「肉、良いな。ここの肉は焼き加減が絶妙なんだよな」とラズロさんまで。


 聞いていたら僕も食べたくなってしまった。

 みんなで屋台に並んで、焼きたての肉にかぶりつく。

 隣に座るナインさんは目をきらきらさせながら肉を食べている。

 僕の視線に気付いて、首を傾げた。


「アシュリー、食べない?」


「食べますよ。美味しそうに食べるなーって思って見てたんです」


 ナインさんは頷く。


「美味しい。肉、柔らかい。しあわせ」


 そう言って嬉しそうに笑うナインさんに、僕も嬉しくなって、「美味しいものを食べると幸せですよね」と答えて肉を頬張った。


 それからもパフィがあれが食べたい、これが食べたいと言うものだから、すぐに僕はおなかがいっぱいになってしまって、フルールに食べてもらった。

 フルールが串を食べているのを見たのか、屋台のおじさんに食べてもらえないかと言われたので、ありがたくもらった。串も捨てるとなったらお金がかかるんだろうし、フルールはいくらでも食べられそうだし。


「廃棄の税がかかるのが、悩みどころだよなぁ」


 ラズロさんが言う。


「かと言って、フルールはアシュリーから離れないよ」


「廃棄物を城に持ってきてもらうのも現実的じゃありませんしねぇ……」


「僕と同じテイマーの人がスライムをテイムして、食べてもらうのはどうでしょう?」


 名案だと思ったのに、うーん、とノエルさんに首を捻られてしまった。


「あのねアシュリー、フルールはとても分解吸収速度が早いけど、他のスライムはこんなに早くないんだよ。

だから大量のスライムが必要になってしまう」


「そうなんですね」


 トキア様もフルールの速度は早いって言ってた。


「フルールならいくらでも食べられますけど、フルールだけを外には出せませんし、さっきの海みたいに、裏庭と繋いで、運ばれてきたものをフルールが食べるとか出来れば良いんですけどね」


「それですよ!」と、突然ティール様が叫ぶ。


 皆が驚いた顔でティール様を見る。


「廃棄物処理場と裏庭をつなげて、フルールが分解吸収すれば良いんです。その際には廃棄物を燃やす為の燃料なども不要なんですから、無料で回収が可能になります。

そうすれば誰にも負担がかかる事なく減税が可能です」


 おぉ、とラズロさんが感心する。


「ただの研究馬鹿かと思ってたぞ、ティール」


 幼馴染だからか、言いたい放題です。


「悪くないかも知れないね」


 ノエルさんが頷く。


「廃棄の為の税を払うのを惜しむ者が最近現れていて、不法に投棄されたゴミが散見されてるんだよ。その為に夜間の見回りをしてるぐらいなんだ」


「人を雇用してまでやる事ではないと城の兵士が巡回を担当しているが、勤務時間が長時間化している。

もしその案が通れば、店を営むものにとっても、城の兵士にとっても利点が大きい」


 クリフさんがフルールを撫でる。


「実に建設的です。戻り次第殿下に奏上します」


 フルールがおなかいっぱい食べられるようになるのは良いことだと思う。いつ見てもフルールはおなかが空いているみたいだから。


「フルール、ごはん沢山食べられるようになるって」


 僕の言葉に、フルールは鼻をひくひくさせた。

 心なしか、嬉しそうに見える。


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