表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第二章 マレビト

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

34/77

034.同じ思いをすべきです

 朝、いつものようにメルとコッコのお世話をする為にダンジョンに向かおうとしたら、パフィに止められた。

 ノエルさんとクリフさんがやって来て、ダンジョンの中に入って行くのを見送る。

 いつも通りに見えたから、何も考えずにダンジョンに入ろうとしたけど、昨日、あっち側の人たちが入れるようにしたんだった。


 僕はラズロさんとパフィと一緒に二人が戻ってきた時用に朝食の準備をする。


『まあ、釣れて一匹ぐらいだろう、今日のところはな』


 意地悪な言い方をするパフィに、なんとも言えない気持ちになるけど、僕の中にちょっとずつ諦めみたいな気持ちも湧いてきてたりする。

 第二王子たちは良い王様になる可能性を自分から捨ててるんだよね。自分たちだけが良い思いをする為に王様になろうとしてる。その為に半分血のつながった兄さんの命を狙って、自分の立場を安定させる為に、いずれ戦争することまで考えてる。関係ない、沢山の人たちが命を落としたり、怪我をするのに。そんなこと考えない。自分たちはその場に行かないから気にしないんだろうな。


「あっち側の食事にも毒が入れば良いのに」


 思わず呟いてしまった。

 僕の心無い言葉にラズロさんがぎょっとした顔をする。パフィの、マグロのしっぽまでぴん、と立ってる。

 酷いことを言ってるなって、自分でも思う。


「……アシュリーさん、怒ってらっしゃるの?」


「実際にそうしようという気持ちはないんですけど、自分たちがしていることを逆にされたら、少しは気持ちが分かるって言うか、目がさめるのかと思ったんです」


 だって、ダンジョンでジャッロたちに襲われて痛い思いをするのは第二王子でも、第二妃様でも、伯父という人でもないから、被害が出ても止めないんだろうなって思って。


 なるほどなぁ、と答えてマグロの二又のしっぽが揺れる。


『面白いかも知らんなぁ』


 目を閉じ、何かを考えている様子のパフィ。


『あちら側を誘発して配下の者たちを始末し、おまえに矛先が向くように仕向けてから魔女の弟子に手を出したと暴れようかとも思っていたのだがな』


 パフィの弟子になった記憶はないけど、そこは否定しないで話を聞く。


『混沌の魔女が、受け身と言うのも、つまらんものな?』


 あ、これ、やばい事になる奴だ。

 にやりと笑うマグロを見てラズロさんが引きつった顔になる。

 余計な事を言ってしまった気がする。


「でもそれじゃ、パフィの名を悪く言われるかも知れないから、僕は嫌だよ」


『そんなものは第一王子派の力でなんとでもなるだろう』


 止めようと思ったんだけど、駄目だった。

 目がキラキラしてる。楽しいことを思い付いた時にさせる目。マグロの目までキラキラになるなんて。


『むしろ、奴らの本当の姿を暴露する機会なのではないか? 受け身よりもそちらの方が好みだしな』


 ……こうなったパフィを止められる人っていたっけ?

 自分で言い出してしまったことに後悔する。

 悪いことは、少なくともパフィの前では言っちゃいけなかった……。

 僕の気持ちを分かってくれたのか、ラズロさんにぽん、と肩を叩かれた。




 ノエルさんとクリフさんがダンジョンから戻って来て、ご機嫌なパフィは何処かに出かけて行った。

 用意しておいた朝食を四人で食べながら、ノエルさんとクリフさんに謝る。


「僕の余計なひと言で、大変なことになりそうです、ごめんなさい……」


「いや、あそこからあの発想には普通はならんだろ……」


 ラズロさんが僕を慰めてくれる。


「ごめん。最初から話してもらって良い?」


 クリフさんも頷いていた。

 とりあえず謝らなくちゃ、と思って謝ったけど、パフィとの間にどんなやりとりがあったのかまでは話せてない。


「大方、アシュリーはダンジョンに入り込んだ奴らに同情して、高い所から命令だけしてる奴らに腹が立ったんだろう。

それで、奴らも同じ目に遭えば目が覚めるんじゃないか、ってアシュリーが言った事に魔女が反応してな」


「珍しいね、アシュリーがはっきりと怒るなんて」


「あんまり、そう言ったことは口にしないようにしてるんですけど、うっかりしてて……」


 反省してます……。


「反撃ではなく、最初から打って出る、と言う事か?」


 クリフさんの質問に、ラズロさんが頷く。


「多分な。元々受け身体質じゃないだろ、魔女はよ。

それに可愛がってるアシュリーが危険な目に遭うって事も気に食わなかったんだと思うぜ?」


 ノエルさんが眉間に皺を寄せる。

 どうしよう、パフィが動いたら絶対大事になる。

 きっとノエルさんもトキア様も騎士団長も、大きな話にしないで片付けようとしていたと思うのに。


「良いんじゃないか?」


 クリフさんから予想もしなかった反応が返ってきた。ノエルさんとラズロさんがびっくりした顔でクリフさんを見た。僕も思いもしなかった言葉にびっくりしてる。


「むしろパシュパフィッツェ殿が動いてくれた方が禍根を残さないのではないか」


「どう言う事?」


 クリフさんの言葉にノエルさんが反応する。


「この国は今、過渡期にある。貴族と平民の関係性は変わりつつあるだろう。ギド殿下もその母親である妃殿下も、青い血を好む傾向にある」


 ギド殿下は、第二王子の名前だったよね、確か。


「ギド殿下が王位に就けば、陛下が時間をかけて進めてきたこの国の改革は逆行する。逆行だけでは済まんだろう。そうなればおまえもティールも無事では済まない」


 ノエルさんもティール様も平民出身だ。そのことを言ってるんだと思う。青い血は貴族のことを言うんだって。

 クリフさんの言葉にノエルさんの眉間の皺は更に深くなっていく。


「隣国を見ていても分かる筈だ。貴族制度も時と場合によっては使いようがあるが、不満を生み出しやすい構造でもある。だがな、急激な変革は良薬にはならない」


 ノエルさんは、深いため息を吐いた。


「隣国は共和国とは名乗っているけれど、結局の所従来と似たような身分制度を生み出したものね」


 そうだ、とクリフさんは答える。


「いずれ隣国国内の不満は高まる。そんな時にこの国が貴族制度により平民を抑圧していたなら、彼らは平民の解放を掲げて攻めてくるだろうね」


 ラズロさんがバリバリと頭を掻き毟る。


「なんだってそんな身勝手な事ばかり考えやがんだよ!」


「王位継承を巡る争いは禍根を残すのが常だ。だからこそ、我らの及びもつかない絶対的な力が働いた方が、この国にとっては好都合だろう」


「でも、それだと、パシュパフィッツェ様が悪者になってしまう」


 自分が悪者と呼ばれても、パフィなら気にも止めないだろうけど。でも、それは僕も嫌だな。

 パフィが帰って来たら、話をしよう。







 夕方になってようやく帰って来たパフィを捕まえて、逃げられないように抱っこする。


『随分熱烈な歓迎をするではないか』


「パフィに逃げられないようにする為です」


 ふふん、と鼻で笑うパフィ。

 もう、人の気も知らないで。


「何をするつもりなの?」


『朝に言ったろう。奴らの本当の姿を見せた方が面白いと』


「暴露するとは言ってたけど、面白いまでは言ってなかったよ……」


 更に良くない方向に進みそうだから、本当に止めて欲しい……。


『細かいことばかり気にするから、おまえは歳の割に老け込むのが早いのだ。もっと楽しめ』


 老け込ませている張本人からの、容赦ない言葉にどっと疲れが……。


「ねぇ、パフィ。何をやろうとしてるのか僕には全然分からないけど、嘘じゃなくて、僕はパフィが悪者のように扱われるのは嫌なんだよ。本当はそうじゃないから良いとかそういう話じゃなくて」


 生意気を言ってるのは分かるんだけど、はっきりと言葉を選ばずに言うなら、第一王子の後見をしている人たちが、第二王子派の人たちと面と向かってどうにかするのが良いんだと思う。そんな簡単じゃないって言うのも分かってるんだけど。

 僕の事はおいといて、パフィは一番関係ないのに。解決する為に行動して、パフィが悪く言われるのはおかしい。

 クリフさんはあぁ言ってたけど、ノエルさんは納得出来ないって顔をしてて、ラズロさんも不愉快そうな表情だった。勿論、クリフさんも喜んでそれを言ってる訳じゃないのは分かるんだけど……。


『おまえを怒らせる事はしないから安心しろ』


「本当?」


 マグロの目を通してパフィを見つめる。

 何故だかパフィはご機嫌で、二又のしっぽが楽しそうに揺れている。


『おまえは怒るとしつこいからな。下手な事をして怒らせて、好物を食べ損ねさせるあの嫌がらせ……地味に意地が悪いと思うぞ』


 嫌がらせなんだから、そう思って下さい。


『ダメ王子派を単純に潰すだけでは、火種が残るだろうと思ってなぁ』


 火種が残る?

 一回では終わらないってこと?


 下ろせ、と言われたのでベッドにマグロを下ろして隣に座る。


『この国はな、難しい状況にある』


 クリフさんもそんな事を言っていたような?


『貴族や平民と言った身分制度を残しつつも、能力のあるものを、努力や才能に応じて引き上げていき、国力を高めようとしているのだ』


 血筋も必要なんだろうな、って事はなんとなく分かったけど、それだけではきっと駄目なんだろうと思う。

 ナインさんの生まれた国の話を聞いててそう思ったし、ノエルさんはあんなに凄い人なのに、平民だからと言うだけで凄さを否定されるのはおかしい事だって分かる。


『それが上手く行くかどうかの瀬戸際にこの国は立たされているのだ。なにしろ北の大国は貴族第一、魔法一辺倒の国。南は形ばかりの共和国となり、せっかく手に入れた利益を手放さず、民の不満を何処かに逃したいと上層部が考えているような国。そんな中でこの国が逆行すれば間違いなく、北と南の双方から介入される』


 ラズロさんじゃないけど、頭をわしわし掻きたくなってきた……。


『第一王子派は貴族も平民も混じっている。そしてどちらも才能のある者を取り揃えている。

第二王子派を押さえ込めたなら、次の王は血筋ではなく、才能を見てくれるのだと思わせられる。

その為の小細工を用意するのを手伝ってやろう。直接暴れてやろうとも思ったがな、いつもいつも魔女が正面から暴れるだけと思われるのも面白くないからな』


 なるほど。

 貴族と平民が身分に関係なく協力しているって思わせて、どっちの国からも介入されないようにするんだね。


「大人って、大変だね」


『それでそこに結論を持っていくのか、おまえは……』







 夏の前に必ず訪れる雨季がいつもより早くにやって来た。

 ジメジメして、凄く不快になる季節。

 カビが発生しやすくなるから、夏とは違う気遣いが必要になって、正直苦手。

 洗濯物も外に干せないし。


 ダンジョンに第二王子派の人達が入り込むようになって一週間。毎朝ノエルさんとクリフさんが入って、大丈夫と言われてからじゃないと中には入れない。

 ノエルさん曰く、情操教育として大変よろしくない物をアシュリーの目に触れさせない為、なのだそうです。

 なんとなく分かるのと、僕も見たくはないので、お言葉に甘えてる。ごめんなさい……。


 メルとコッコは無事なので良いんだけど、ジャッロ達は毎晩のように巣が襲われるから苛立ってるのかと思いきや、思ったより怒ってない。不思議。


「もっとジャッロ達がイライラしてるのかと思ってたんだけど、そうでもないんだね」


 その事をパフィに話しながら、僕とパフィ、フルールはダンジョンに向かう。


『まぁな。でもそろそろ奴らも道具を使い始めるだろう』


「今までは使ってなかったの?」


 あの大きさの蜂に素手で?


『おまえが想像しているのとは違う。これまでも直接的な道具は用いていただろうがな、そうではなく、近付かずとも巣を攻撃出来るような物を用いるだろう、という事だ。村の男達も使っていただろう』


 みんなは煙の出るような物を持って巣を取りに行っていたような気がする。

 煙に慌てた蜂達が巣を離れてから、巣を取っちゃうんだよね。


「うーん……煙とか、ジャッロたちには苦しいよね」


 息が出来なくなりそう。

 いくらテイムしてる僕が特定の人達を攻撃しないでとお願いしても、人間たちに襲われ続けて、巣が被害を受けたらその怒りは凄い事になっちゃうんじゃないかな。

 仲良くならなくても良いと思う。野生に生きる動物や虫たちと人間は相容れない部分が大きいから。

 住み分けって言うか、距離が離れていれば排除しようとは思わない、攻撃対象にしないって言うのは大事だと思う。

 でも、このまま続けば、ジャッロたちが人間そのものを、目にしたらすぐに攻撃すべき、って認識すると思う。


『だろうな』


 ダンジョン内で火を使えない制限をかけるとか?


『外で火を付けてから持ち込めば良いだろう』


 確かに。


「じゃあ、ダンジョン内で雨を降らせるとかも……駄目そうだね」


 夜にだけ雨を降らせる……って、これも濡れないようにして持ってくれば良いもんね……。

 ジャッロ達を守りつつ、侵入して来た人達を何とかする方法、ないかなぁ。


『一週間程引き延ばせれば良いからな、おまえが思う妨害策を日々施してみるのも良かろう』


 一週間?

 この前パフィが言っていた案だろうか?

 誰にも内容は教えないって言ってたけど。


 とりあえずパフィが言うように、ダンジョンにあれこれと罠をしかけてみる。

 夜には雨が音をたてる程降るとか、強風が吹いて飛ばされそうになるとか、火を付けても消えちゃうとか。




 一週間後、王都内は原因不明の症状を訴える人が続出した。命に影響を及ぼすようなものではないけど、体調が優れない、と言う人達で診療所が溢れ返るようになった。

 雨季だったから食あたりかと言われていたけど、診療所が出した結果は、毒物だった。

 毒物が王都のあちこちの井戸で検出された。

 しかも、王城でも。


 僕やラズロさんは、僕が水魔法で出してる水を使ってるから被害を受けなかった。第一王子が口にするものも全部僕が作ったものだったから大丈夫だった。

 王族の人達や上級官達向けの料理を出している厨房は、井戸の水を使っていた所為で、被害を受けたんだって。

 でも、第二王子とその母親には症状が出なかったらしく、そこから第二妃の生家に調べがいって。


 しかも聖女が災いの元凶は第二妃の生家であり、そこに解毒剤もある、と言ったらしくって。

 ……聖女って、確かアリッサだったよね……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ