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前代未聞のダンジョンメーカー  作者: 黛ちまた
第二章 マレビト

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026.魔素

 休息は必要だよね。

 気ままに出かけたい時には、屋台での買い物なんかも考えて、少しお金を持ってお散歩をする。

 そう、僕は今、散歩中です。何故かマグロに入ったパフィと。


『鬱憤の晴らし方が散歩と言うのはおまえらしい』


 しかも、僕が抱っこしてる。どうしてなの。

 散歩に付き合うって言ったから、並んで歩くのかと思っていたのに。マグロになってまで横着だなんて。


「パフィがいるので気晴らしになってないけど」


 理想は一人散歩です。

 フルールも後ろを歩いてるから、そもそも一人ではないんだけど。フルールは良いんです。

 おなかが空いてるのか、フルールははっぱを拾って僕を見る。最近フルールが覚えたのは、食べて良いのかを僕に確認すること。

 でも、フルールは喋れないから、拾ってはじっと僕を見る。

 頷くと、はっぱを口に入れた。うん、なんか、ウサギっぽいです。可愛いです。ウサギになってくれて本当ありがとう、フルール。


『スライムに学習能力があったとはな』


 これは良い、これは駄目、って教えていたら、聞いてくるようになったのは、正直に驚きです。

 トキア様もノエルさんも初めて見る、って言ってたし。

 ラズロさんは、ウサギの姿でいるとおなかが空くし、僕の許可がないと食べられないから、確認することを覚えたんじゃないか、って言ってた。

 それが正解な気がする。


『おまえ、あのノエルから私の事を聞いたのだろう?』


「うん、教えてもらった」

『どう思った?』


 被せるように聞かれた。

 どうって言われても……。


「"混沌"という二つ名がパフィらしいなぁ、って言うのと……あ、国を滅ぼしたのって、パフィでしょう?」


 マグロがにやりと笑った。猫のにやり顔って、結構凄い。


『で?』


「で、って言われても、あぁ、やっぱりパフィは凄い魔女だったんだなぁ、としか」


 ふん、と鼻で笑われた。


『つまらんなぁ、もっと驚かんか。子供らしくない』


 僕が子供っぽくないのは、パフィのきまぐれに振り回され続けたからだと思うなぁ……。言ったら拗ねるだろうから、言わないけど。七歳の時から鍛えられたなって思う。

 本当に、たくさんのことを教えてもらったから。


「だって、その国の話、前に聞かせてくれたでしょう? 怖いって言うより、あぁ、あの国の事かな、って感じだったから」


 まぁな、と魔女──パフィが言った。


「パフィ」


『なんだ? 暇だからここに来てる訳ではないぞ?』


 今、それを聞こうと思っていたんだよね。

 最近やたらこっちに顔を見せてるのは、暇って言うより、何か思うところがあってだと思うんだけど。

 暇だろうな、とも思ってるけど。


『随分と馴染んでいるではないか』


「みんな良い人で良かったなって思ってる」


 これは、本当に。

 マグロの目を通して、パフィはみんなの事を見たと思う。多分、人柄とかも、分かってると思うんだ。

 そうじゃなければ、あんな事言わないと思う。


『あの前世持ちの事なら心配ない、と教えてやろうと思ってな』


「本当?!」


 思わず大きな声で反応してしまって、マグロの二股しっぽに頬をぺちぺちされてしまった。


『うるさい。二日酔いの頭に響くだろうが』


 二日酔いの影響って、使い魔と共有してても残るんだね……。それと、相変わらず飲んでるんだね……。


「ごめんなさい」


『元々胆力はある人格の持ち主のようであるし、保護した者達が良かったのだろう。あれが邪な奴等なら、クロウリーの二の舞だ』


「そういえば、パフィはクロウリーさんの事は知っていたんだね」


 家名まで言い当ててたし。


『おまえに教える気がなかっただけだ』


 僕がダンジョンメーカーのスキルを持っていたから?


『おまえはあのまま村で穏やかに過ごすだろうと思っていたからな』


 それは、僕もそう思ってた。


『それが、稀代の天才魔術師であり、災いを生み出すダンジョンを作り出したクロウリーと同じスキルを持ってます、などと教えたらどうなる』


 僕の腕の中からマグロは飛び降りて、先を歩く。それを慌てて追いかける。


 もし、みんながその事を知ったら、どうなったんだろう。僕だけじゃなくて、家族はどんな扱いを受けたんだろう……。

 想像するのがちょっと怖い。


『知らん方が良い事など腐る程ある。あの時、アマーリアーナに呼び出されておらねば、絶対に行かせはしなかった』


 あの日、パフィは村を離れていた。たまにある魔女の集会だとは聞いていたから珍しい事とも思ってなかった。


『スキルを正しく覚えよ』


 マグロは振り向いた。


『あの者も言っていたろう。力の使い方について』


 ノエルさんとクリフさんの事かな。

 二人はあんなに凄い力を持っていても、それを人に見せつけたり、傷つけようとはしない。そこがあの二人の凄いところだと思う。


『私は前にも言ったな。

スキルは人生における指標の一つではあるが、目標にしてはならん。自惚れるな、奢るな、忘れるな』


 ふわり、とマグロの身体が浮いた。


『安心しろ。おまえがあの力に呑まれる時は、私が殺してやる』


 物騒な言葉にびっくりしていると、マグロは笑った。


『もっとも、おまえならそうはならないと知っているがな』


 そう言ってマグロごとパフィは消えた。







 ラズロさんは硬直してる。

 ……うん、無理もないと思うんです。だって僕、大蛇にぐるぐる巻きにされているし……。

 いつもなら食堂に来る時間なのに、いつまで経っても僕が来ないから、心配して部屋まで見に来てくれたんだろうな。

 パフィが帰って、フルールと一緒に散歩をして、部屋に戻ってきた瞬間を襲われて、この状況になってしまった。


 子供の頃からパフィに振り回されているから、大人びている方だ、って言う自覚はあるし、変わったことには慣れてるとは思うけど……。


「あ、アシュリー?!」


「あ、ラズロさん、大丈夫です」


「大丈夫な訳ないだろ!! アシュリーが大蛇に食べられる! ノエルを呼びに……いや、でもその間に食べられたり連れ去られたら……!」


 完全に混乱しているラズロさんは、頭に浮かんだことを全部口に出してる。


「アマーリアーナ様、ご用事はなんですか?」


 白と黒の、僕なんてぺろりと丸呑み出来そうな大蛇は、チロチロ、と赤い舌を出した。

 落ち着きのある女性の声が大蛇からして、ラズロさんが更に目を大きく見開いた。


『パシュパフィッツェから聞いていたけれど……本当に動じないのね』


 するすると僕の身体から離れたアマーリアーナ様……が入ってると思われる大蛇が、ベッドの上にのってとぐろを巻いた。

 僕は起き上がって、床に座る。


『あなたがパシュパフィッツェの庇護下から離れて、ここに来るよう仕向けたのは私なの』


 パフィがアマーリアーナ様に呼び出されたって言ってたけど、偶然じゃなかったのか。でもそれだと、パフィが物凄い怒りそう。


「そうなんですね」


『それで、パフィに滅茶苦茶に怒られてね、謝りに来たのよ。前から彼女のお気に入りの顔を見たいとも思っていたし』


「そうなんですか」


 やっぱり怒られたんだ。


『…………ちょっと、淡白過ぎない?』


「そうですか?」


 大蛇がため息を吐く。なかなか見られない不思議な光景だよね。こんなに大きな蛇に会ったら、普通なら丸呑みされてしまうだろうし。ため息とか吐かないだろうし。


『そうよ。パフィの使い魔は猫でしょ? 私の使い魔は大蛇なんだし、驚くとか、恐れるとか、反応が色々あるでしょ?』


 驚いて欲しかったのかな。それなら、ラズロさんが凄い驚いてるから、それで良いんじゃないかなーって思うんだけど。


「パフィはよく姿を変える魔法を使ってたので……」


 人を驚かすのが好きなのはパフィの性格なんだと思ってたんだけど、アマーリアーナ様も好きなのかな……。

 古の魔女がみんな驚かせるのが好きだったら、ちょっと困った性格だよね……。


『つまらないけど、あっちの坊やが良い反応をしてくれてるから、まぁ良しとするわ。あまりいじって今度こそパシュパフィッツェの怒りを買うのは避けたいしね』


「そうしていただけると、大変助かります」


『……なんかあなた、良いわね。私の弟子にしたいわ』


 はは、と笑って誤魔化す。

 僕だとあんまり驚かないからつまらないと思うけどな。


『あなたをパシュパフィッツェの元から離れるようにしたのはね、暇つぶしもあるんだけど』


 魔女って、みんな言葉を包むってことをしないよね。


『あなたにしか出来ないことをお願いする為なのよ』


 お願い……?

 予想もつかなかった言葉に驚く。


『そう、お願いごと』


 赤い舌がチロチロする。

 分かってるんだけど、なんとなく居心地が悪い。僕はごはんじゃないですよーって言いたくなる。


『まず、ダンジョンメーカーについて少し教えるわね』


「ありがとうございます」


 ほとんどよく分かってないから、素直に嬉しい。


『クロウリーの記憶を継承している前世持ちがいるみたいだから、スキルの使用方法なんかは、割愛するわ』


「はい」


『そもそも、ダンジョンがどうやって出来るか、知っている?』


 首を横に振る。


『あれはね、自然に出来るものなの。魔素が作り出すものなのよ』


「まそ?」


 初めて聞く言葉だ。


『魔法を使用するのにエーテルを使用する事は知ってるだろうけど、魔素は純粋な魔力の元となるものよ。魔素が一定値を超えるとダンジョンが出来ていくのよ』


 魔力の元……まそ……魔素、かな。

 エーテルは火、土、水、風といった自然の元素で、精霊の力の元。魔素は魔力の素?


『魔素は力そのもの。溜まれば歪みが出来る』


 その結果が、ダンジョン?


「魔女ってもしかして、魔素を使うんですか?」


 突然、そう思って、素直に聞いてみた。

 大蛇の目が細まったような気がする。


『勘の良い子は好きよ、話が早いわ』


 魔法使いと魔女は違うと言うのは知っていたけど、どう違うのか、僕はよく知らなかった。


『ダンジョンを作って欲しいのよ、アシュリーに。

ダンジョンの魔素を吸収する事で作られる物が、どうしても必要なの』


 魔素が集まると魔力になって、歪みを生んで、それがダンジョンになる。だから、ダンジョンの中は魔力がある訳で、その環境でしか出来ないものが、アマーリアーナ様は必要。その為に僕をパフィの元から離した、ってことなのかな……?


『ダンジョン内の魔力は無限じゃないの。魔力を失ってただの魔物の住処になり果てていくだけよ』


 ふむふむ。


『それとね、ダンジョンを閉じて欲しいの。これもまた、ダンジョンメーカーにしか出来ないことよ』


 閉じる……!

 ダンジョンを消すってこと? そんなの、考えたこともなかった。


「ダンジョンが増えると、どんな問題があるんですか?」


『魔力が溜まって出来たダンジョンはいずれは魔力を失って、ただの魔物の巣窟になるの。まぁ、それは大した事ではないのよ。魔物にだって住む場所は必要だもの。

クロウリーが作ったダンジョンはね、彼が作った魔術符により、魔力が途絶えないようになっている事なの、結果として強い魔物が生み出され続けるって事なのよ』


「……まさか、ここ数年増え続けてる魔物の数や強さはその所為なのか?」


 突然ラズロさんが会話に加わった。

 あ、そうだった、ラズロさんもいたんだった。すっかり忘れてた。


『そうよ、ぼうや』


 大蛇はラズロさんの方を向いて頷いた。

 ただ、とアマーリアーナ様は話を続ける。


『クロウリーはダンジョンから魔物が出ないように封印していた筈なのよ。それを誰かが解いてしまった』


 僕の方に向き直った大蛇は、真っ直ぐに僕を見据えた。


『手伝ってくれるかしら?』


 僕は知ってる。


「魔女の問いには意味がない、ってパフィが言ってました」


 ほほほほほほ、と大蛇が身を捩らせて笑った。


『物分かりの良い者は可愛いわ』


 何で意味がないかって言うと、魔女は意思を曲げない。必ずその通りにするし、そうさせるだけの力を持つから、逆らうだけ無駄だ、って意味で、僕はパフィにそう教えられたし、実体験でもあったりする。


「ただ、パフィと、僕を保護してくれてる人達が許してくれなかったら、手伝えません」


 大蛇はチロチロと赤い舌を見せるだけで何も言わない。

 沈黙が少し続いて、大蛇が息を吐いた。


『この国で貴方を保護している者達に許可を取る気はないわ。魔女は人に頭を下げないの』


「はい」


『でも、同じ魔女のパシュパフィッツェには頼む事にするわ。彼女との付き合いはこれからも続くもの』


 パフィは全部分かってて、僕に力の使い方を覚えろと言っただろうから、そのへんは大丈夫かな、とは思うんだけど、魔女同士の関係性については分からないから、話し合って欲しいな、と思う。


「はい、パフィが良いと言うなら、僕は問題ないです」


 ふふふ、とアマーリアーナ様は笑って、『また来るわ』と言って、泡が弾けるように大蛇ごと、アマーリアーナ様は消えた。


 さすがにちょっと緊張した。

 パフィは長い付き合いで、変なことを言っても大目に見てくれるけど、アマーリアーナ様がどう感じるかは分からない。何に怒るか分からない。だから、僕はパフィのものなんです、と言っておくことで、アマーリアーナ様は気分で僕を傷付けることは出来なくなる。


「アシュリー、おまえ、すげぇな」


 ラズロさんが言う。


「この前の魔女とは違う魔女だろう? 今の」


「そうです」


「きまぐれに人の国を滅ぼしちまう魔女に、あんな堂々と言い返せるなんて」


「いえ、あれは違うんです」


 僕は苦笑した。


「あれは、昔、パフィに言われたことなんです」


「言われた事?」


 まだ僕が村にいて、魔女のパフィともさほど親しくなかった時。スキルを授かった僕は、魔女のパフィの元を訪れた。

 もしかしたら、魔女の力で、中途半端な魔法の力を強く出来るんじゃないかって思って。

 答えは、無駄だ、と言う言葉で、がっかりしていた僕に、パフィは言った。


 "おまえのような半端なスキルでは、将来困るだろう。

 だから私の元で学べ"


 それから、僕はパフィの元で、色んな事を教えてもらったり、振り回されていく。

 もし、僕を言いなりにさせようとする者が現れたなら、魔女パシュパフィッツェの許可を取ってくれと言え、と言われた。

 聞き返した僕に、私の側にいると言う事は、私に守られる事でもあるが、目立つと言う事でもあるからな、と。

 その時はその言葉の意味が分からなかったけど、今なら分かる。


 僕は魔女たちに知られてしまってる。

 たぶん、僕の持つスキルの内容も。

 本当ならスキルをパフィは使わせたくなかったんだと思う。でも、ダンジョンの魔素を吸収したものが、魔女は欲しい。

 その為に、同じ魔女に嘘を吐いてでも。


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