表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/767

72.報酬

 イルゲにオブラートを貰った稜真は、これで薬を飲むのが拷問ではなくなると安堵した。次はギルドへ向かう。この日もジュリアに呼ばれているのだ。


 受付は混み合っていた。

 こちらに気付いたジュリアが、身振りで上を示した。昨日の部屋へ行けばいいのだろう。2人はジュリアの手が空くまで部屋で待つ事にした。


 稜真はそらの羽を撫でながら、これまでの事を思い返して気づいた。

「……うっかりしていたな。巫女様の治療の報酬って、どうしたんだろう?」

 誰かが立て替えてくれていたら、申し訳ない。


「ふえ? ああ、巫女様の報酬ね」

 考え事をしていたアリアは、少し反応が遅れた。

「巡回の巫女はボランティアで、金銭は受け取らないの。その代わり、行く先々で衣食住を提供して貰う。神殿も寄付で運営されているしね。──それに巫女様のあの様子、稜真からのお礼は受け取らないって」


「そうか、と言ってもなぁ。助けて貰ったのに何もお返しをしないなんて気が引けるよ」

「う~ん。お父様に頼んで、今年の神殿への寄付を多めにして貰おっか。私の従者を救って貰ったんだもん。お父様も当然だって言う筈」

「そうして貰えると有り難いけどな…」

 自分からの礼ではないのが気にかかるが、今はどうしようもない。その内お返しできる日も来るだろうと、思う事にした。


「そう言えばアリア、巫女様に何か言った?」

 メリエルが見送ってくれた時、様子がおかしかった気がするのだ。

「別に~。稜真の事を言わないように、念を押しただけ。見送ってくれた様子から、大丈夫だと思うけど」

「念押し、ね」

 何を言ったのやら、稜真の脳裏にメリエルの困ったような微笑みが浮かんだ。


「…それで…ね。…あの…ね、稜真。今回の報酬なんだけど。私、あいつ関係の報酬貰いたくない。どうしても嫌なの」

 アリアはうつむいて、机を見つめた。

 お金を貯めているのは学園に行く為だし、行きたがっているアリアが貰いたくないと言うなら、その意思を尊重したいと稜真は思うが、どうしたものだろう。


「皆のお土産を買うのに使う、とかは?」

「嫌」

「旦那様に渡して、領地の為に使って貰うのはどう?」

「それもヤダ」

 アリアは唇を噛みしめ、今にも泣きそうな表情をしている。


「──それなら、俺が貰ってもいいかな。色々と揃えておきたい物があってさ。きさらの手綱とかも欲しいんだよね」


 稜真はきさらに乗った時、体を支える為に羽を掴んでいた。しっかり掴むので痛くないか、そして綺麗な羽が痛まないかが気になった。手綱の他にも野営の際の食材を買ったり、調理器具を揃えたりもしたい。


「稜真が使うならいい。ごめんね、我がまま言って…」

「いいさ。嫌だと思うのも、俺の事を思ってだろ」

 稜真はぽん、とアリアの頭に手を乗せた。ようやくアリアに笑顔が戻る。



 そうこうしている内にジュリアがやって来た。

「ごめんなさいね。待たせちゃって」

「そんなに待ってないよ、お姉さん」

「ジュリアさん、昨日はお手数かけて、申し訳ありませんでした」

「いいのよ。あなた達には、あいつとの仲を取り持って貰ったものね」

 ふふっと、ジュリアは笑った。幸せそうで何よりである。


「さて、まずは報酬の話よ。魔物退治の報酬が銀貨5枚。魔猿の素材が金貨1枚。使う所が少ないから、高レベルの魔獣だけど素材としては大した事ないの。それと、ギルド長から追加で銀貨5枚が出ているわ。アストン付近の魔獣被害を未然に防いだ報酬ですって。けち臭い金額よね。──合計で金貨2枚よ」

 ジュリアが金貨と封筒を机に置いた。アリアはそれを複雑そうに見る。


「稜真…」

「予想より多いけど、いいのか?」

 依頼を受けた時の金額が銀貨5枚だったので、素材を売っても金貨1枚くらいだろうと思っていた。

「お願い…」

「わかった。ジュリアさん、俺が受け取ります」


 稜真は金貨2枚を受け取る。

「こちらの封筒はなんです?」

「今回の報告書よ。1部はギルド長に渡してあるわ。こちらはご領主様にお渡しする分。ご領主様への報告書は──アリア、分かっているわね?」

「…分かってますぅ」

「ふふっ。きっちりと叱られていらっしゃいな」

 アリアは頭を抱えて机に突っ伏した。

「あ~う~」


「アリア。何が分かっているんだ?」

「お父様の分は、お姉さんに話したまんまの内容なの~」

 父に隠し通す自信がなかったアリアは、ジュリアに話した内容で報告書を仕上げて貰ったのだ。つまり、アリアが暴走した件が書かれている。


「あ、あはは…」

 アリアよりも不安なのは稜真の方だ。──アリアの安全を第一と言われていたのに、側を離れて別行動した。無理はしない、自分の身の安全も考慮するというのも守れていない。

 報告書には書かれていないが、一緒の部屋で泊まった事もあった。


(旦那様との約束、ことごとく守れてないよな俺。ははっ、クビになったらどうしようか…)


「お姉さん。私達、明日帰るね」

「明日? リョウマは大丈夫なの?」

「薬も飲んでいますし、問題ないです」

「クゥ…」とそらが鳴いた。稜真は肩のそらを膝に乗せ、安心させるように撫でてやる。

「休み休み行くから大丈夫。明日はギルドに寄らないで出発するね!」

「そう。──また顔を見せに来なさい。特にリョウマ」

「はい。お世話になりました」





 2人と1羽は、ギルドを出てのんびりと宿に向かう。

「何日で帰れるだろうね」

 護衛しながら、10日程かかった道のりだ。きさらに乗ると、どのくらいで着くのだろう。稜真にもアリアにも、全く予測がつかない。

「寄り道しないんだし、来る時よりは絶対早くなるよね~。休み休みゆっくり帰ろうよ」

「そうだね。瑠璃も呼んであげたいしな」


 アイテムボックスの食料が心もとないので、途中で買い物をした。果物、野菜、小麦粉等々。後はパンを多めに買い込む。


「稜真。この間女子会で行ったお店に行こうよ。喫茶店みたいなお店なの」

「それは行ってみたいな」

「すぐそこだよ!」

 アリアは稜真の手を引く。買い物に時間がかかったので、稜真の体調が心配だったのだ。そらには申し訳ないが、店の外で待っていて貰った。


「へぇ、まんま喫茶店なんだね」

 稜真は店内を興味深げに眺めた。メニューには各種ケーキ、紅茶、コーヒー。サンドイッチやサラダなどの軽食もあった。

 2人はサンドイッチを注文する。アリアだけ、デザートにケーキを頼んだ。前回ジュリアが食べていた、フルーツタルトが気になっていたのだ。


 ひと足先に食べ終わった稜真は、ため息をついて薬を2つ取り出した。増血剤はそのまま口に入れて水で飲んだ。そして嫌そうに茶色の包みを開く。


 アリアは、稜真が綺麗な青い粉薬をオブラートで包むのを見ていた。

「オブラートって、そんな風に使うんだ~」

 稜真はふぅっ、と息を吐いてから、包んだ栄養剤を口に入れ水を飲んだ。

「あの味はしない。……良かった」

「うんうん、良かったね~。今朝の稜真、辛そうだったもん」


 にこにことしながら、アリアはフルーツタルトを食べる。

「それ、持ち帰りって出来るのかな?」

「どうかな? 聞いてみよっか」

 店員に尋ねてみると、持ち帰りもしていると言うので、今日のおすすめケーキ4種を2個ずつ頼んだ。足りないよりは余る方がいいだろう。フルーツはそらも食べるだろうし、何よりも瑠璃に食べさせたかったのだ。

 稜真は購入したケーキをアイテムボックスに入れた。



 宿に戻ると、マシューから食堂を手伝った時に使った食材を渡された。米や調味料等、稜真が提供した分よりも多かったが、メニュー開発のお礼だと言われたので、ありがたく受け取った。


「俺は部屋に戻るよ」

 店の外で留守番していたそらに、おやつをあげたい。

「はいは~い」


 稜真の姿が見えなくなってから、アリアはマシューに2~3日分の料理を注文した。1日では帰れないだろうし、用意しておかなければ稜真が料理をするのが目に見えている。移動以外で疲れさせたくなかったのだ。

 マシューは快く引き受けてくれた。食堂の夜営業があるので、終わってから仕込みをし、明日の朝までに用意すると約束してくれた。





 夕食が終わり、アリアは稜真の部屋にいた。

 稜真は増血剤を飲んでいる。アリアは手伝おうと思い立ち、テーブルに置かれていた栄養剤をオブラートで包もうとしたのだが、どうにも上手くいかない。


(私、どうしてこんなに不器用なのかなぁ…)


 一応包めてはいるのだが、オブラートが破れてしまって、中の薬がこぼれたのだ。小さく包もうとして、何度も触っていたのが不味かったのだろう。

「……アリア?」

 稜真の視線と声が冷たい。


「つ、包んでおいてあげようと思ったの。失敗しちゃって、ごめんね?」

 稜真なら優しいから、それでも飲んでくれると思って、てへっと笑いかけた。稜真はにっこりと笑い返して、アリアが包んだ薬をこぼさないように指で摘まむと、アリアの口元に持って行く。

「あーん」

「り、稜真?」

「あーん、して?」

「私はどこも悪くないし、飲む必要ない…でしょ?」

「栄養剤だからね。元気な人が飲んでも、なんの問題もない。だから、ね? あーん」

 にっこりと微笑む、その目が笑っていない。


(ううっ…怖いよぉ。飲むまで許してくれなさそう…)


 アリアは恐る恐る口を開け、稜真はその口に薬を入れる。アリアは口の中にこぼれた薬は凄まじいものだった。

「んむぅ~~!!」

 涙目のアリアに、稜真は水をなみなみと入れたコップを渡す。アリアは一気に水を飲み干して、ようやくひと息ついた。

「はぁ~。ものすごい味……。稜真ったら、よくあの薬を2回もオブラートなしで飲んだね。尊敬する」

「…………嬉しくない」

 改めて稜真は栄養剤を包み、水を飲んだ。


「そうだよ、包み直せば良かったんじゃない!」

「オブラートが足りなくなったら、どうするんだよ。せっかく包んだ物を無駄にしたくないじゃないか」

「……1つ減って、ラッキーって思ってない?」

 アリアにじとっとした視線を浴びせられ、稜真は目をそらした。


(仕方ないじゃないか…。小袋一杯貰ったから、まだまだあるんだよ…)




おまけ

 後日、ジュリアにグリフォンの話をした時の事。

「あの時に、まだやらかしていたとはね……」

「あはは、やらかしてって………」

「正直、アリアよりも始末に負えないわ、リョウマって」

 稜真は思い返してみた。魔獣を倒して、アリアを止めて、ジュリアにした話ではドラゴンに、本当は女神から刀を貰って、グリフォンをテイム。

「反論出来ません……」


思いついたネタ。使い忘れそうなので、こちらに乗せました~。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ