表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

65/767

65.グリフォン

 朝食を終えた一行は、ドラゴンの背に乗って稜真が歌う場所へやって来た。麓からドラゴンの洞窟辺りまで、アリアが作ってしまった道の、ちょうど真ん中辺りだ。

 その場所はちょっとした広場になっている。ドラゴンは稜真達を下ろし、再び人型に変化した。


 どこから聞きつけたのか、歌を聞く為に集まった魔獣達が思い思いの位置につき、きらきらした目で稜真を見つめている。見慣れない魔物も混じっている。穏やかな性質の魔物なのだろう。魔獣と争う様子もなく、静かに座っている。

 そらを頭に乗せたアリアと瑠璃も場所を確保しようと、それに混じる。


 稜真には、どことなく見覚えのある場所に思えた。ここは魔猿が死んでいた場所ではなかろうか。

ぬしさん、ここって……」

「猿共がおった場所じゃ。死体の跡はコボルトに片付けさせたから、綺麗なもんじゃろ?」

 戦闘の形跡は残っているが、それはどこも同じだ。死体や血の跡が無ければ、他と変わらない。

「そう…ですね」


 稜真はチラリとアリアを見たが、気づいていないようだ。アリアはあの日の記憶がはっきりしないと言っていた。いかに我を忘れていたのかが、うかがえる。

 道の中央にあたるこの場所から、上と下に歌が広がるように意識して歌えば良いと、ドラゴンは言う。意識して効果の調整が出来るのだろうか?


「もし効果が足りなければ、何度歌っても良いではないか」

「……」

 それだけは勘弁願いたい。こうなったら全力で頑張ろう、と思いつつ、集まった魔獣や魔物の数に引いていた。

 ただでさえ数が多いのに、それに加えて屋敷のコボルトも揃っているようだ。


「……昨日よりも、観客が増えていませんか?」

「リョウマが歌うと、皆に知らせたからのぅ。昨日聞いた者共は、勇んでやって来おったわ。興味津々で来ておる者もおるようじゃがな」

「どうしてでしょう…ね。アリア達が喜ぶのは分かりますけど、そんなに俺の歌が聞きたいものでしょうか?」


 稜真の言葉を聞いたドラゴンは、呆れたように目を見開いた。

「おぬしは分かっておらんのう。昨日歌った折りに、声に魔力が乗っておったと言ったであろうが。リョウマの思いが魔力となって、大地に広がって行ったのじゃ。自然を元に戻したいという、愛にあふれた思いがな。この山に住まう魔力に敏感な者共が、その思いを受け取ったのじゃぞ? 愛にあふれた歌をもう1度聞きたいと思うのは、自然な事じゃろうよ」


「稜真様の愛の籠もった歌かぁ。皆きっと、全身で感じ取ったんだよ。うんうん。それは愛されるよね~」

 最前列に陣取ったアリアが気楽に言うが、稜真はそれどころではない。


(愛、愛って、言わないでくれないかな…。ただでさえ昨日より観客が増えてハードルが上がっているのに。この視線の中で歌うのか、俺? ……ううっ、逃げたい。で、でもまぁ、俺が愛されている訳じゃないもんな。きっとアリアと同じで、声が、歌が好かれたって事だろうし。それも微妙ではあるけど…)


「リョウマよ。お主、勘違いしておらんか? 歌だけではなく、お前が愛されておるのじゃぞ。ほれ、集まっておる者共の目を、良く見てみよ」


 つぶらな瞳が、きらきらと稜真を見上げていた。そんな瞳をして前の方に陣取っているのは、昨日聞いていた魔獣達だろうか。後ろにいるのは昨日見かけなかった魔獣や魔物だ。


 中でも稜真の目を引いたのはグリフォンである。体の大きなグリフォンは、邪魔にならないように後方にいる。

 黒や茶色いグリフォンが4~5頭おり、その中に1頭だけ白いグリフォンがいた。片方の羽が折れているようで、だらりと垂れ下がり、地面を引きずっている。

 痛みはないのだろうか。白いグリフォンは興味津々といった体で、稜真をじっと見ている。



 竪琴を運んで来たコボルトの執事が、いそいそと稜真の隣にやって来た。

 稜真が覚悟を決めると、竪琴は静かに前奏を奏で始める。弦が独りでに弾かれて音楽を奏でるのは、不思議な光景だ。


 稜真は、アリアが造ってしまった道を見る。

 荒れた光景が痛々しい。その光景を目に焼き付け、稜真は目を閉じた。脳裏に思い浮かべるのは、同じ惨状が広がっている筈の、山の入り口から洞窟までの道。


 前奏が終わり稜真は歌う。

 山が元に戻りますように、緑が蘇りますように、想いを込めて。


 稜真の歌声が、甘く優しく響き渡って行った。意識して歌っている為だろう。歌は魔力を乗せて、道にそって流れ、観客達はうっとりと聞き入る。


「これは……」と、誰かがつぶやいた。



 稜真は間奏でひと息つく。

 ハミングをしながら、グリフォンの怪我を思う。羽を引きずる痛々しい姿。あの怪我も治ればいいのにと思うが、そんな効果はないだろう。

 ハミングのパートが終わる。せめてグリフォンの痛みが和らぐように、怪我が治るようにと、願いを込めて歌った。


 優しくのびやかに、すべてを包み込むように。


 稜真の思いを乗せた歌が、広がって行った。




 歌が終わり、竪琴は伴奏を奏で終えた。ふぅ、と息を吐き、稜真は目を開け「うわっ!」と声を上げた。

 観客達がすぐ近くまで移動していたのだ。後ろの方にいた者までもが。驚かされたが昨日と同じ光景ではある。

 それよりも、歌の効果を確かめねばならないと思い、辺りを見回して絶句した。


 大木が折れたり、切られたりしていた筈なのだが、全くその様子はない。生命力あふれる大木は天に向かって健やかに延びている。アリアが粉砕した大岩までもが元に戻っていた。


 上下に道になるように荒れていたのが、自分が登って来た道がどこなのか、全く分からなくなっている。

 どこから見ても美しい、森の中の広場だった。


 せいぜいが赤茶けた地面に植物が生え、折れた木に芽が出ている程度の光景を想像していた稜真は、ぱちくりと目を瞬く。

「……何が起こったのでしょう?」

「リョウマよ。昨日と今日、何を思って歌ったのか、聞かせてみよ」

 ドラゴンが尋ねた。


「荒れ地に緑が戻りますように、木が蘇りますように、ですね。今日はそれに加えて、怪我が治ればいい。そう思いながら歌いました」

「ふむ…。昨日も、枯れた木や焦げた木は蘇っておったな」

「岩まで戻ったのはどうしてでしょう?」

「岩が元に戻ったのは、土の精霊がお主の意思を汲んだからじゃな。あれを見るが良い」


 ドラゴンが指さした先では、地面からぴょこんと頭を出した小人が、稜真に手を振っていた。稜真が手を振り返すと、満足そうに消えて行った。


 他に前日と違うのは、折れた木や岩が、その場に残っていた点だろうか。昨日の場所は、ドラゴンのブレスでほぼ更地になっていた。ゼロからの回復ではないからだとしか、考えられなかった。


あるじ、綺麗でしたのよ! 折れた木が光ったかと思うと、宙に浮かんで元の大木にくっつくのです。あちこちで光っていましたわ。私の主はすごいのです!」

 瑠璃が感動して、宙に浮きながら稜真に抱きつく。

「クルルルルゥ」

 そらも、稜真の肩に乗り頭を擦りつけた。

「はは、誉めてくれてありがとう」


 アリアはどうしたのだろう。真っ先に飛び付いて来そうなものなのに。不思議に思った稜真が見ると、最前列に座ったまま頬を染めて、目を潤ませて固まっていた。どうやら意識がこちらの世界に戻っていないようなので、このまま放置しておく事にする。


 リスのような魔獣が、ドラゴンに駆け登り耳元で鳴く。

「ほほぅ。こやつの家まで、ちゃんと元通りになっておるそうじゃぞ。それとな…」


 ドラゴンが手招きしたのは、稜真が歌う前に気になっていた白いグリフォンだ。

 鷹の上半身、ライオンの下半身を持つグリフォン。実は稜真はドラゴンよりもグリフォンに憧れていたので、近くで見られてこっそり感動していた。


 白いグリフォンは、上半身の羽の1部に金色の羽が混じっており、丸いつぶらな瞳はルビーのような赤だ。

「こやつは避難する時に怪我をしたのじゃが、怪我が治ったと言っておる」

「クォルル~」

 どこかそらに似た、歌うような声で鳴き、稜真に頭を擦り付けてきた。そっと触れると胸元辺りの羽はふわふわだ。


「怪我した子が…いたんだ…」

 意識がようやく戻ったアリアが沈んだ声で言った。

「何。皆、かすり傷じゃ。1番ひどい怪我をしたのはこの者じゃが、慌てて避難しようとして自分から木にぶつかったのじゃ」

 ドラゴンが呆れたように言うと、白いグリフォンは、てへ、っという感じに首をかたむけた。

「ほんにリョウマの歌は、規格外じゃわ」



 木の上には小さな魔獣達が鈴なりになり、広場には隙間なく魔物がいる。その数は歌う前よりも増えていた。


「あの…。皆が揃っているみたいだし、えっと……」

 口ごもったアリアだが、思い切ったように言葉を続けた。

「山を荒らしてしまって、ごめんなさい!」

 そう言って、深々と頭を下げた。集まっていた者達は、ざわざわと戸惑った様子を見せている。


 稜真はアリアを優しい目で見つめた。

「俺からも。アリアが迷惑をかけて悪かった」

 隣で共に頭を下げると、ざわざわと慌てた気配が伝わってくる。

 てしてし、と小さなウサギの魔獣が稜真とアリアの足を叩く。気にしないで、と言っているようだ。

 アリアは泣き笑いの表情を浮かべている。


「皆、気にするなと言っておるぞ。被害はリョウマが回復してくれたし、厄介者もいなくなった。怪我も治り、元凶が謝ってくれた。なんの問題もないわ」

「そう言って貰えるとありがたいです」

 稜真の言葉に、アリアはうんうん、と泣きながら頷いている。


「俺達はそろそろ帰ります。色々とお世話になりました」

「リョウマには残って欲しかったがの。村まで送ろうか」

 私、私!という感じで、白いグリフォンが稜真にすり寄る。


 グリフォンは馬よりも大きな体躯をしているが、この白いグリフォンは他の個体に比べて、やや小柄だ。


「君が送ってくれるの?」

 ぶんぶん、と、ものすごい勢いで頷く。

「稜真ファンがたくさん増えたね~」

 このグリフォンだけではなく、他にも熱の籠った視線が集まっているのを感じるのだ。

「あ、はは……」


「愛されておると言ったじゃろうが。たまには山に来て、歌って欲しいものじゃの」

「……いや…それは」

 アリアとドラゴンだけなら、いくらでもねつけられるが、可愛らしい魔獣が、つぶらな瞳で稜真を見上げて来るのだ。駄目なの?といったふうにうるうると。

「…くっ。……善処…します…」


 押しに弱い自分を自覚した稜真であった。


「よし! 待っておるからな。ああ、お嬢は来んで良いぞ」

「うふふふふ。稜真様の歌が聞ける機会を、この私が逃す訳がないでしょう?」

「主の歌は何度も聞きたいです!」

「クルルゥ!」


(……ははっ…逃してくれて…構わないんだけどなぁ…)





グリフォンへの愛があふれてしまいました。

予定よりも長くなる長くなる…(^▽^;)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ