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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第3章 再会

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53.レンドル村

この話から、しばらくシリアスが続きます。

お付き合いいただけると嬉しいです。


 早朝に宿を出た2人と1羽は、レンドル村に向かっていた。

 ゆっくり歩いても、夕方前には到着出来る距離にあるので、乗り合い馬車は使わずに、歩く事にした。


「あ~あ。この依頼が終わったら、またしばらく屋敷にいないとね」

 嫌そうな表情でアリアが言う。

「そうだね。この間帰ってから結構時間がたったし、旦那様も手紙だけじゃ心配なさっているだろうね」

「マナーレッスンとか気が重いの~」

「はは…。俺もまた詰め込まれるんだろうなぁ。一緒に頑張ろうな」


 街道には人目もあるので、瑠璃の召喚は出来ない。なるべく一緒にいるようにしようと思っても、こればっかりは仕方がない。稜真が魔獣使いである上に精霊使いだと思われれば目立ちすぎる。ただでさえ、アリアといれば目立つのだ。

 そらはいつものように、稜真の肩に止まっている。


 途中でマシューが持たせてくれた弁当を食べ、また歩き始める。

 今日はいつにもまして、そらが稜真から離れない。何かに不安を覚えているようで、落ち着かない様子なのだ。稜真は肩から腕に移動させて、体を撫でてやりながら歩いている。


 天気も良く、街道はのどかな景色が続いている。


「ねぇ稜真。次に出かける時は、稜真の剣を探しに行こうよ。もう少し、良い剣が欲しいもんね」

「俺は今の剣でも充分だけど?」

「え~!? 強い魔物相手だと切れ味も微妙だし、スキルにも耐えられないじゃない。せめてワンランク上にした方がいいって。稜真の剣の腕も上がってるでしょ?」

 上がっていると言われても、稜真には自覚がない。自分はまだまだだと思っているから、良い剣の必要性を感じていない。


 だが、アリアは探す気満々である。

「…アリアはスキルが見たいだけだろう?」

「そ、そんな事ないも~ん」

 顔をそらす仕草が全てを物語っている。

「…ったく」


「どこかに日本刀がないかなぁ。転生物でチートなら、日本刀使わないとね~」

「俺は転生者じゃないから関係ないよ。それにチートじゃないし…」

「え~? 充分チートだと思うんだけどな~」

「アリアに言われたくない。もし見つかったら、アリアが使えばいいよ。転生者でしょ?」

「私は、太くて大きい剣が好みなんだもん。それに転移した主人公だって、日本刀使う話多かったよ」


 確かにアリアが使っている剣は、その体に見合わない大きさの大剣である。腰に下げられる長さではないので、いつも背中に背負っている。余りにも軽々と片手で振り回しているので気にしていなかったが、12歳の少女が持つ剣ではない。

 大剣が好みなら、日本刀は対象外だろう。


「もしこちらに日本刀があってもさ、俺は剣道経験がないんだからね。使いこなせる訳がないよ」

「ん~? 稜真、日本刀の役、やってたよね?」

「──ああ、刀の擬人化ものね。やったけど…」

 実在する刀を擬人化したゲームだった。その中のひと振りの役をやったのだ。


「武将とか武士の役もたくさんやってたよね!」

「やったなぁ」

「現代物で刀を使って戦うお話も、色々やってたよね!」

「そう言われてみると色々あったけど、スキルで技を使うならともかく、役でやっていたからと言って、刀が使えるとは限らないだろう?」

「そうかなぁ」

「そうだよ」


 そんな話をしている内に、レンドル村が見えて来た。


 村は簡単な塀で囲まれており、入口に男が立っていた。

 魔物退治を請け負った冒険者であることを伝えると不満げな顔をされたが、中に入れてくれた。

 通りがかった村人に、村長の家まで案内して貰った。

 村長の家は2階建ての、村では1番大きな建物だ。村長は優しげな老人だった。案内してくれた村人に何事か頼んでいた。


 家へと招き入れてくれた村長は浮かない顔である。

「あなた方が…魔物退治を引き受けた冒険者、ですか…」

 やって来たのが12歳と15歳の子供なのだから、仕方ないだろうと稜真は思う。


「村長、私はアリアよ。ギルドランクはC。分かるかしら?」

「ギルドランクCのアリア……これは、アリア様でしたか!? 大変失礼いたしました。あなた様が引き受けて下さったのなら、安心です」

 村長の表情が、一転して晴れやかになった。


 村長ならば、アリアが伯爵令嬢である事も知っている筈だ。それにしても、領民のアリアへの信頼度の高さがうかがえる。

「俺は従者の稜真と言います。よろしくお願いします」

「クルル」

 稜真の肩のそらも挨拶するように鳴いた。

「この子はそらです。索敵が出来るので、お役に立てるかと思います」


「アリア様の従者様ですか。お2人ならば信頼出来ます。もちろん、そちらのそら様も。こちらこそ、よろしくお願いします」

「早速だけど、依頼の魔物について教えてちょうだい」

「はい」


 村長の妻が茶を入れてくれた。村長はひと口飲むと、魔物の話を始めた。


 その魔物は、ふた月ほど前から村に現れるようになった。闇夜に家畜を襲いにやって来るのだ。

 月の出ない夜。雲の厚い夜に。

 2~3日に1度、月の具合によっては、もっと間が開く事もある。反対に連日訪れる事もあったそうだ。

 昨夜現れたばかりで、今日は天気も良い。次にやって来るのは、早くても明日だろうとの事だ。

 闇夜を選んでやって来る為、魔物の姿をしっかりと見た者はいない。たまたま、その姿を見かけた村人によると、小山ほどの大きさの黒い魔物だったそうだ。


 村の西側に共同の牧草地がある。

 この村は、住んでいる人の数で言えば小さな村だ。宿はなく、店もなんでも取り扱っている雑貨店が1つあるだけ。だが牧草地を含めれば広さはある。

 たくさんの家畜を飼う家は、牧草地近くに集まっている。それぞれの家の母屋に隣接して、家畜小屋が建ててある。家畜は、昼間は共同の牧草地に放牧して、夜は家畜小屋に入れるのだ。


 村で飼われている家畜は山羊である。

 乳を絞り、その毛で織物が作られ、肉も取れる。村にとって、なくてはならない家畜なのだ。

 これまでは、何頭も飼っている西側の家々の山羊が被害に会ってきた。だがどこの家でも1~2頭は飼っているのだ。次はどこが襲われるのか、人も襲われるのではないか。村は恐怖に怯えていた。


 そこまで聞いた所で男が訪ねて来た。どうやら先程の村人が呼びに行ってくれたらしい。

「アリア様、リョウマ様。紹介いたしましょう。この男はアーロン。狩人をやっております。村の周辺に明るく、魔物の事も調べていたので、お力になれると思います。アーロン、こちらはあのアリア様と従者のリョウマ様だ。魔物退治を請け負って来て下さった。力になって差し上げておくれ」


 アーロンは、30代位の長身で細身の男だった。紺色の瞳で、長めの黒髪を1つに束ねている。弓矢を持ち、背には矢筒を担いでいた。

「アーロンだ」

「村長さん、アーロンさん。俺の事は稜真と呼んで下さい。様はいりません。よろしくお願いします」

「私の事も呼び捨てで構わないけど、村長さんは無理そうね…。好きに呼んで」




 早速アーロンに、昨夜襲われた家畜小屋へ案内して貰う。

 アーロンは途中の家に声をかけ、若い男を1人連れて牧草地まで歩く。その男は、魔物を見た唯一の人間だった。


 共同の牧草地には山羊達の姿が見える。何頭いるのか、ざっと見ただけでは数えきれない。

 以前倒した山羊の魔獣とは違い、稜真が知っている普通サイズの山羊だ。毛足が長く、色は白や茶色、黒やブチの山羊も見える。

 今歩いている道から左側に牧草地が広がっており、右側に家畜小屋と家が見える。牧草地は柵で区切られていて、山羊が出られないようになっていた。

 その柵も昨夜壊され、朝から急いで直したそうだ。


 男は身振り手振りで、話を聞かせてくれた。

「あの夜はなぁ、友人の家で飲み明かして、帰りが遅くなっちまったんだよ。朝から雲の厚いどんよりした日で、月も見えなかった。手に持ったランプの明かりだけが頼りだったな。まぁ通い慣れた道だ。迷う訳もない。ちょうど…そう、この辺りまで来た時だ。山羊どもが騒がしいんだよ。なんだろうと思って、騒がしい家畜小屋を見たんだ。──あそこの家畜小屋な」

 男はすぐ近くの家畜小屋を指さした。


「最初は暗くてよく見えなかったんだが、たまたま雲が切れてよ。月の光で明るくなって、あいつが見えた」

 その時の事を思い出したのか、男は身震いした。


「……見ちまったんだよ。大人の山羊をくわえて立つ、あいつをな。でかかった。2本足で立ち上がった姿は、小山のように感じたんだ。真っ黒でよ…。情けない話だが、俺は一目散に逃げ出しちまった。朝んなって素面しらふになったら、夢を見たと思うじゃないか。だがな…その日の朝、そこの家畜小屋が荒らされていたと聞いたのさ」

 その夜襲われた家畜小屋は、横壁が破られていたそうだ。他の被害でも、必ず壁が破られていた。


「あの夜の話はこれで全部だ。役に立ちそうかい?」

「ありがとう、助かったわ」

「アリア様の役に立てるなら、何よりさ。それじゃあな」

 男は帰って行った。


「アーロンは、魔物の見当はついてるの?」

「黒い魔物ではなく、赤い魔物だ。以前襲われた家畜小屋で、これを見つけた」

 アーロンはふところから布を取り出し、包んであった毛を取り出した。長さは15センチから20センチ程。赤い獣の毛だ。

「月明りで影になり、黒く見えたんだろうよ。正体に関しては分からんが、多分魔物ではなく魔獣だ」

 総称は魔物だが、人型の魔物に対して獣型の魔物を魔獣と言う。

「2本足で立つことが出来る、赤い魔獣、ね」


「次は、昨夜襲われた家畜小屋へ行くぞ」

 アーロンはさっさと歩き始め、2人は急ぎ足で後を追った。




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