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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第2章 護衛依頼と新たな町

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52.朝食と告白と

 アリアと稜真は交代で仮眠を取り、明け方前に瑠璃を起こした。


 前回、朝露を集める瑠璃の姿は、妖艶で美しかった。

 今、本来の年齢で同じように集める姿は、お遊戯のようでなんとも愛らしい。瑠璃が抱えるように浮かべる水球は、前回よりも大きい。

 稜真が開けたガラス瓶に、瑠璃が水を操って朝露を入れる。終えるのを、うずうずしながら待っていたアリアは、終わると同時に瑠璃を抱きしめた。


「どうしてまた、アリアが抱きしめるのですか!? あるじとの交代を希望しますわ!」

「瑠璃が可愛いからいけないのよ~」

「あ、はは。瑠璃、お疲れ様。ありがとう」

 そう言って、抱きしめられている瑠璃の頭を撫でれば、嬉しそうに笑った。


 今回イルゲから預かったガラス瓶は、1本だけを残し、残りは全ていっぱいになった。やはり前回よりも、咲いた花が多かった為だろう。


「稜真! ちょっと2人で親交を深めてくるね!」

「ああ。行っておいで」

 アリアは瑠璃の手を引いて沼の方へ走る。

「アリア。滑って転ばないようにね」

「は~い!」


 仲が良くなって何よりだと、稜真は朝食の用意を始めた。そらは2人の所へ行ったり、こちらに戻って来たりと忙しそうだ。

 今朝のメニューはパンケーキだ。瑠璃はまだ食べた事がないから、きっと喜んでくれるだろう。チーズとベーコンを混ぜた生地と、具を入れないプレーンの生地を用意し、小さめに焼く。

 先日作ったジャムを用意して、付け合わせにサラダも作った。


「そら。2人を呼んで来て」

「クルルッ!」

 そらが呼びに行ってすぐに、2人は手を繋いで戻って来た。


「わぁ! パンケーキだ」

「パンケーキ? いい匂いですわ」

 稜真はパンケーキを2種とサラダを盛り合わせた皿を手渡した。プレーンのパンケーキにはジャムを乗せてある。

 そらの皿にもパンケーキを2種類、ころころに切って乗せた。


「わ~い、いただきます!」

「いただきます」

「クルルルル」

「どうぞ」


「このジャム、甘酸っぱくて美味しい。これってもしかして?」

「そう。例のイチゴ」

「うん! ジャムにして大正解!」


 はくはくはく、もきゅもきゅ、ごっくん、という効果音が聞こえて来そうな食べっぷりの瑠璃は、目を輝かせて食べる事に夢中になっている。


「瑠璃って黙々と食べるよね~。ハムスターみたいで可愛いんだ」

「ハムスター…確かに。ほっぺたふくらまして食べているもんな」

「? どうして2人とも、私を見ているのですか?」

 瑠璃はパンケーキを食べ終わり、ようやく周りを見る余裕が出来たようだ。きょとんとした顔をしている。


「ははっ、おかわりいる?」

「はい! ジャムが美味しかったです」

 瑠璃の皿にプレーンのパンケーキを1枚と、ジャムをたっぷり乗せた。

「稜真、私も欲しい」

「アリアは食べてから言おうね? たくさんあるから、焦らなくても大丈夫だよ」

 多めに焼いた分は、温かい内にアイテムボックスに入れてあるのだ。


 食事と片付けが終わって見ると、瑠璃の姿がない。不思議に思って見回していた稜真は、アリアに手を、そらに髪を引っぱられた。

「なんだ?」

「いいからいいから」


 連れて来られたのは沼のほとりだ。

 そこでは瑠璃が待っていた。何やら照れくさそうに、後ろ手に持っていた物を差し出した。その手にあったのは、節のある地下茎だった。


「これって、ロラクの根?」

「ア、アリアが…あるじが欲しがっていると教えてくれましたの」

 瑠璃の隣に移動した、アリアとそらが胸を張っている。

「瑠璃が採ってくれたのか。ありがとう」

 稜真は受け取った地下茎は、見るからに蓮根である。


(味も蓮根なのかな? すりおろしておつゆ、団子、天ぷらや炒め物、煮物もいいな)

 料理法を考えている稜真の顔は、自然と笑顔になっている。


「アリア、アリア! 主が私に全開の笑顔を向けてくれましたわ!」

「ね~。稜真なら絶対喜ぶと思ったの」


「俺、そんなに笑顔だった?」

「うん。ものすっごく嬉しそうな笑顔だったよ~」

「…はは。嬉しかったんだよ。2人が仲良くしてくれているのも嬉しいな」

 そらがアリアの肩に移動して、頬に頭を擦り付けた。そして、「クゥ!」と鳴き、仲良しでしょ?とばかりに胸を張る。

「そらとアリアもだね。皆の仲が良いと嬉しいな」

 稜真は微笑んだ。


「主の笑顔が見たいと思っていましたけど、こんなに簡単な事だったのですね…。いつも困ったような顔しか、見た事ありませんでしたのに…。もったいなかったですわ」

「稜真がいつも笑っていられるように、が私達のスローガンだね。第1歩が皆で仲良く!」

「仲間のスローガンがそれなの? 俺はどうすればいいんだ?」

「稜真は、私達の真ん中で笑っていてくれれば、それでいいの」

「クルルッ」

「はい、主はそれでいいのです」


(……笑っていればいいって、どこのヒロインだよ…それ。まぁいいか。2人と1羽が仲良くしてくれるなら)


 瑠璃が採ってくれた地下茎は1本ではなかった。集めてくれた地下茎は20本程。屋敷に持ち帰り、料理長と一緒に料理を考えようと、今から楽しみにしている。

 何よりも、今回の依頼では皆の関係が改善された事が1番の収穫であった。


「私、主の為に、たくさん勉強しておきますわ」

 町が近くなるまでは瑠璃と一緒に歩いて来たが、そろそろ別れねばならない。

「無理はしないように、ね?」

 そう言って、稜真は瑠璃の頭をくしゃっと撫でる。


「あう~。このもちもちの感触が名残惜しい~」

「早く離して下さい! 私は主に抱っこして貰うのです!!」

「もう少し堪能させて~~」

「……アリア……」


 ぷくぷくにふくれた瑠璃からアリアを引き離すのに、少々時間がかかったのだった。






 町へ帰ると、まず薬屋でイルゲに朝露を納品した。

「ガラス瓶を多めに渡したつもりだったのに、まさか、1本しか残らないとは驚いたね。助かった、ありがとよ」


 薬屋から出ると、今度はギルドに向かう。今回の依頼はイルゲからの指名依頼になっている為、ギルドへ依頼終了の報告に行くのだ。

 今日のギルドはどこか騒がしい。

 騒がしさの元はジュリアの受付だった。1人の冒険者と何やら揉めている様子である。その冒険者は背が高くがっしりとした体つきで、精悍な顔の茶髪の男だ。


「──何よ! あんたと違って、私には愛してるって言ってくれる人、いるんだからね!」

「なっ!? どこのどいつだ、それは!!」

 言い争っている2人を、ギルドにいた人達は遠巻きにして見ている。


「痴話喧嘩か~」

「…なぁ、ジュリアさんが言っている、愛してるって言った人って…もしかして、俺?」

「そうだと思う」

 稜真の頬にひと筋の汗が流れた。

「……近づかないでおこう…」


「俺だって…。くそっ。ジュリア、カウンターから出て来てくれないか」

「どうしてよ…」

「頼む」

 渋々立ち上がったジュリアは、カウンターを回って男の元へ行った。そして背の高い男を見上げて睨みつける。


「次の依頼が終わったら、今度こそ言うつもりでいたんだ。でも、そんな事してたら、お前が取られちまう。ジュリア、愛しているんだ。俺にはお前しかいない。結婚してくれ!」

「ば…馬鹿! 遅いのよ! ずっと待っていたのに、断る訳ないじゃないの!」

 ジュリアは男の頭を引き寄せると口づけた。男の目が丸くなる。男は照れくさそうに離れたジュリアと見つめ合い、その背に手を回して抱きしめた。

「ありがとう」

 そして男は熱烈な口づけを返した。


「うわぁ、お姉さん情熱的~」

 周りでは、悔しそうにその様子を見る男が多く見られたが、それでも祝福の拍手がわいた。

 男の仲間だろうか。2人の冒険者が、男の背中をバンバン叩いている。カウンター内に戻ったジュリアが、男達の依頼を受ける。3人は仲間なのだろう。一緒に仕事を受けるようだ。

 ジュリアの恋人であろう男は、「後でな?」と言って、もう1度ジュリアに軽く口づけた。


「お前! 見せつけるのもいい加減にしろよ!」

「そうだぞ! 俺らは彼女もいないんだからな」

「それを言うなよ…。寂しくなるから」

「悪い。どこのどいつか知らないが、ジュリアに愛してるなんて言った奴に、あいつが誰の物か分からせておこうと思ってな」

「気持ちは分かるが──」

 ギルドから出ようとする男達の、そんな会話が聞こえて来た。


 アリアは依頼板へ行くと適当な依頼を選んだ。

「アストンから離れた場所の依頼も受けたいの。これ、受けてもいい?」

「いいんじゃないか」

 基本稜真は、依頼選びはアリアに任せている。アリアは依頼書を剥がすと、顔がにやけているジュリアの受付へ行った。


「お姉さん、やったね!」

「ありがとう。ある意味、アリアとリョウマ君のおかげよね。愛してると言ってくれる人がいる、って言った時のあの焦りようったら。アレがなければ、未だにのらりくらりと、はぐらかされていたわ」

 稜真は天をあおいだ。

「俺の名前は出さないで下さいよ…」

「分かってるわよ」


 終始にこやかなジュリアに、稜真は言う。

「ちゃんと言葉に出して言ってくれる人だったじゃないですか。おめでとうございます」

「そうね。愛してるには、びっくりしたわ。一生アイツから言われる事はないって、思ってたもの。ふふ、ありがとう」

「おめでとう、お姉さん」


 ご機嫌なジュリアに、アリアは指名依頼の終了を告げた。

「はい、お疲れ様でした。では、こちらが依頼料です」

 依頼料の金貨1枚を受け取った。今回の依頼完了で、稜真のランクがDに上がった。

「リョウマ君はランクが上がったのね。アリア、そろそろランクアップ試験受けない?」

「う~ん。学園に行くまでには上げようと思うけど…。考えとくね」


 アリアは屋敷への手紙と依頼書を渡した。この依頼を終えたら屋敷に戻る予定をしており、手紙にはその旨が書いてある。


「手紙はいつもの配達ね。依頼はレンドル村の魔物退治か。この村は小さな村よ。宿もないから、依頼終了まで村長の家に滞在する事になるわ。依頼の詳しい内容も村長に聞いて。魔物の種類が分かってないから、くれぐれも気をつけて。あなた達なら大丈夫でしょうけど」


「うん、気をつけるよ!」

 アリアは元気よく答えた。




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