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羞恥心の限界に挑まされている  作者: 山口はな
第1章 出会いとスキル

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28.野菜と果物の利用法 その2

 収穫祭は1週間後と決まった。

 場所は屋敷の庭を解放する事になり、伯爵は被害者が確実に参加出来るよう通達を行った。もちろん参加費は無料である。

 

 イベントが行われる庭は、元々ガーデンパーティー用の広いスペースだ。もっとも、アリアが物心ついてから、行われた事はなかったが。

 庭師のラリーが主導して、草むしりや木の剪定作業が行われている。庭の作業と料理の手伝いに、町の人が何人も雇われた。




 釈放されたピーターは、すぐに屋敷の人全員に謝って回った。

「迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした!」

 稜真が説教した事は知られているので、皆は一応許してくれた。ただし2度目はないと厳重に注意された。


 ──ピーターにとって、1番恐ろしかったのはアリアだ。


「…稜真の信頼を裏切ったら、絶対に許さない。それと、稜真に手を出したら私、何をするか分からないからね…?」

 ピーターは震えあがった。魔物に対する時の殺気を叩きつけられながら言われたのだ。一部意味の分からない所があったが、背筋を伸ばして即答した。

「はい! 約束しますっ!!」




 準備期間が短い中、屋敷中が準備に追われている。特に忙しく、また騒がしいのは厨房だった。


 膨大な数の野菜の下ごしらえをどうするか、料理の手順や保存などの話し合いが行われている。料理長とエルシーが中心になり、スタンリーはなんにでも手を貸す予定で話を聞いている。

 収穫祭の言い出しっぺであるアリアと、ピーターの友人である事で責任を感じていた稜真は、出来る限り手伝うつもりで話し合いに参加していた。


 ピーターはと言うと、何か手伝う事がないか、あれこれと手を出そうとしては空回りしている。


「あ、これ向こうに運びますね。これはどうしたらいいんだ? そっちに運べばいいんですね! はいどうぞ!! あー、もう終わっちまった。他にやる事は…掃除でもするか? あの! ……え? 掃除はいらない? はい、分かりました。──なぁリョウマ、やる事くれよ~」

「あー、もう! ピーター!!」

「はいっ!」

「しばらく黙って座ってろ!」

「だってよぉ…。なんかしてないと、落ち着かないんだよ…」

「分かっているから、黙る! ……それとも? 用事が出来るまで正座して待つか?」

「すいませんでした!!」


 余程、正座がトラウマになったらしい。自分よりも大きな男に抱きつかれた稜真も、ある意味トラウマになっていたが。


「「「ぷっ、…あはははは!」」」

 揃って吹き出したのは、料理長、エルシー、スタンリーだ。


「皆さん、どうして笑うんですか?」

「だって、リョウマ君のそんな顔、初めて見たもの」

「だよなぁ。お前、いっつも走り回って気を張ってたからよ。お嬢様と違って張りっぱなしではなかったから、心配はしなかったけどな。いやぁ、実に新鮮だ」

 笑いながら言うのは、エルシーとスタンリーである。料理長はメニューをメモした紙を見ながら、肩を震わせている。


「あれだけ、次々に色々と詰め込まれたら、必死になるのも当たり前じゃないですか。詰め込んだ皆さんに言われたくはないですよ」

 稜真は憮然として反論したが、そんな顔をするのもおかしいと、笑いを誘っただけだった。


 笑う一同の中、アリアだけが憮然として口を尖らせている。


(せっかく稜真が怒鳴るって貴重なシチュエーションなのに、ピーターさんが相手だと、いまいち萌えないのよね…)


「お嬢様。こちらはいいですから、収穫祭の内容を決めて頂けますか? 1番大切な部分でしょう? こちらは人手が増える予定ですし、お嬢様とリョウマに頼むのは、ある程度進んでからの料理の保存になるかと思います」

 屋敷内のアイテムボックス持ちは、アリアと稜真だけなのだ。


「そうね。うん、私の部屋で相談しようか」




 先頭に立って行くアリアについて歩きながら、ピーターは不思議に思っていた事を尋ねた。

「そう言えば嬢ちゃん。なんで屋敷の人にお嬢様って、呼ばれてるんだ?」

「ふふん、この屋敷のお嬢様だからよ」

「領主様の親戚の子か?」

「どうしてそうなる? ピーター、アリアは領主様の娘、伯爵令嬢だよ。普通はそう考えるだろ?」


「いやだって、これが伯爵令嬢だって誰が思うよ…」

「……まぁ、それは俺も常々思っていたけどな」

「2人して酷い!! 私だってちゃんとした格好したら、化けるんだからね!」

「アリア、化けるって自分で言わないで…。エルシーさんが泣くよ? それにしたって、ピーター。もっと早い内に気付こうよ」


 稜真は、自分がアリアの従者である事も説明した。アリアが伯爵令嬢である事を口外しないように釘を差す。

「おう! 了解だぜ!」




 アリアの部屋は寝室と勉強部屋に分かれており、勉強部屋にはテーブルと4人が座れるソファーがあった。稜真はお茶を入れ、大皿に盛った例の果物も乗せた。ピーターの隣に座ろうとしたら、アリアがぷっくりとふくれたので、アリアの隣に座る。


「さてとピーター。どれでもいいから、1つ食べてみてくれるか?」

「……食えるの?」

「専門家の保証付きだから安心しろ」

 ピーターが迷って手に取ったのは、紫のチェックのイチゴだ。アリアがニヤッと笑った。


 ピーターはイチゴを口に入れ、咀嚼する。表情も変えずに食べ終わった。

「へ~、えらく酸っぱい果物なんだな」

「個人差があるのかな? アリアは半泣きだったのにね」

「ピーターさんがおかしいんだと思うの」

 当てが外れたアリアは悔しそうだ。稜真はピーターに、味がそれぞれ変わっている事。微妙な味の物も混じっているのだと説明した。



「それで? アリアはどんな収穫祭を考えているの?」

「果物を使ったゲームをしたらどうかなって。例えば、じゃんけんで負けた人が1つ食べて、美味しかったらいち抜け。不味かったら居残りで、もうひと勝負。で、最下位を決めるのはどうかな?」

「美味しい不味いは、食べた本人にしか分からないよね」

「あ、そっか」

「でも、面白そうかもな」


 ピーターも何か案を出そうと考え込んでいる。稜真はピーターに聞こえないように、アリアに小声で尋ねた。

「じゃんけんって、あるの?」

「あっちと一緒」

「そうか、じゃあ問題ないね」


 う~ん、う~ん、とうなっていたピーターが顔を上げた。

「なぁ、大食い大会は? あなたは何個食べることが出来るか!ってな」

「何個? 数で勝敗を分けるの?」

「そうそう。食べる分量じゃなくて、単純に数を数えるんだ。そんで、参加者が自分で食べる果物を選ぶ」

「そっか! 美味しい物が当たれば、たくさん食べられるし、小さい果物には、さっきのイチゴみたいな物もあるもんね」

「単純に小さい物ばかり選んでも勝てない…。面白いな」


 他に出されたのは、単純にくじ引きだった。1回銅貨1枚なら、子供でも楽しめるだろう。




 色々な案が出た。そうして決まったのは、会場にステージを作り、順番にイベントを行う事だ。


 1番最初に行うのは、『大食い大会』。

 参加者が自分で食べる果物を選び、食べた数を競う。優勝賞金は金貨1枚。


 2番目は『じゃんけん大会』。隣の人とじゃんけんをして、負けた人が穴をあけた箱に手を入れて、果物を1つ取る。必ず食べきる事がルールだ。美味しい果物が当たれば抜けて、不味かったら居残り。居残った人同士で、もう1度じゃんけん。これを繰り返して最下位を決める。美味しくても抜けない人が出る可能性もあるが、たくさん食べてくれるのだから、そこまで厳密にしなくても良いだろう。

 最下位の人には、銀貨5枚か果物盛り合わせか選んでもらう。


 3番目は『くじ引き』。紐を引いて当たった果物が貰え、1回赤銅貨5枚。最初に銅貨1枚と稜真が言ったが、より何度も挑戦できるように値段を下げた。赤銅貨1枚は10円だ。

 料金を取るのは最後まで迷ったが、お祭りで貰ったお小遣いを使うのも楽しみの1つだろう。


 参加費を取るのは、くじ引きだけだ。

 元々伯爵は収穫祭のようなお祭りを開いて、領民達に楽しんで貰いたいと考えていたそうだ。予想外の出費ではあったが、税収も増えているし構わないと言ってくれた。

 被害額についてはピーターが気にしていたが、その分働いてお返しすると決めたようだ。



「内容はこれでいいんじゃないかな。準備が必要なのは、大食い大会用にお皿。くじ引きに使う紐。中身が見えないように、穴をあけた箱をいくつか用意する。こんなもんかな?」

 稜真が確認しながらメモを取る。


「1番大事な物忘れてるよ~。イベントの司会。進行役がいないと、面白くならないよね? もちろん稜真がやるでしょ?」

「いや。司会はピーターにやって貰う」

「俺が!?」

「商人なら、しゃべりが上手くないとな。いい経験になると思うよ。会場の隅々に声が聞こえるように、発声法教えてやるから。なんでもやるって、約束しただろ?」

「そうだったな。よし、任せてくれ! ──って、なぁ…嬢ちゃんの視線が痛いんだが…」


「アリア」

 稜真はぽん、っと、アリアの頭に手を置いた。

「だって……稜真の司会が聞きたかったのに…」

「はいはい」


(最近よくふくれるなぁ。困ったお嬢様だね)


 仕方ないなぁと頭を撫でている内に、いつしか機嫌は直ったようだ。




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