笑顔の破壊力 lv.96
私とオルレアはアークの後ろを歩く。
目的の場所まで少し距離があるようだ。
私は先程出会った、ヨウリとユウニの事を思い返していると、前にオルレアが王、王妃、王子、王女の絵を描いていた事を思い出した。
オルレアは絵心というものが無いようで、その絵は幼稚園児の落書きのようだった。
あの時は、不敬罪にあたるのではと心配したものだ。
実際に王子であるヨウリと王女であるユウニを見ると、オルレアの絵とは似ても似つかない。
オルレアには、人の似顔絵を描かないように言っておかなければ。
歩いていると、たまに人に会ったが、皆忙しそうに働いていた。やはり、何かあるらしい。
「あまり出会わないけど、やっぱり人はいるんだね」
と私が言うと、
「ふふふ、そうですね。王宮内で働かれている方々は忙しそうですね」
オルレアがニコニコとして答えた。
「オルカラ王国の、歴史に刻まれる程の事が起きたわけだからな。もしかすると、これからの展開によっては、世界の歴史に俺たちの名が連なるかもしれないぞ」
そう言って、アークはイタズラっぽく笑った。
世界の歴史とは大きい話になった。
確かに、今回私達がした事は魔物と魔人の討伐に過ぎないが、実際はサモラ王国の陰謀を打ち砕いたのだ。
サモラ王国がこのまま存続するのかは、オルカラ王国の采配によるものになる。
確実にこの世界の歴史が動くことになるだろう。
「それはちょっとドキドキするね」
「私も少し緊張してきました」
私とオルレアは、顔を見合わせて笑った。
しばらく歩くと、アークが立ち止まる。
「ここが俺が連れて来たかった場所だ」
王宮の外れにあるその場所は、騎士の訓練場のようだった。
カキンッキンッキンッカキンッ!
剣と剣がぶつかる音が聞こえる。
特に扉や天井などは無く、塀に囲まれているだけの場所だが、中々の広さがありそうだ。
私達が、入り口として使われているであろう、塀と塀の間から訓練場の中に入ると、騎士たちは手を止めた。
その中のトップらしき、体格の良い男が、
「おっ! アーク様! オルレア様と……まさか、『笑顔の破壊神』様までこられるとは! おい! お前達、訓練は一旦中断だ!」
と言うと、訓練場にいる剣術の訓練をしていた他の男達が手を止めた。
何やら聞き捨てならない『二つ名』が聞こえた。
「『笑顔の破壊神』ってレイちゃんの事ですよね? かっこいいです! レイちゃんにぴったりじゃないですか」
オルレアは大興奮だ。
「ケイ、『笑顔の破壊神』様じゃなくて、レイルだ。ちゃんと名前で呼べよ」
ケイというのは、男の名前らしい。
「失礼しました。レイル様、アーク様、オルレア様、こんな所まで足を運んでいただき、ありがとうございます。私は王室騎士団の副団長を任されている、ケイと申します」
と言うと、右手を上げ敬礼をした。
王室騎士団といえば、ダンが騎士団長を務める組織だ。
ケイは、ダンよりも体格が良く、強そうで、頼りになりそうに見える。
「こんにちは、私はレイルです。それで、さっきの『笑顔の破壊神』とは何でしょうか?」
私は聞き間違いである事を願って聞いた。
ケイはニヤッと笑い、
「うちの騎士団から、300人程がゴウカの戦いに参加したのですが、戦いを見ていた部下全員が、『レイル様は敵を倒す時に楽しそうに笑っていた』、と言っていたのです。それが、破壊の神のように見えたという事で、『笑顔の破壊神様』と呼ばせて頂いてます」
と言うと、後ろを振り返り、こちらを窺う数人の部下を見た。
ゴウカで見た顔が多くいるように見えるが、正直、あの時の私は凄く緊張していたため、本当にゴウカに来ていた者かどうかあまり自信はない。
休憩をするはずの騎士達がこちらに歩いて来た。
ケイが最前列中央に立ち、騎士達が私達の前で整列する。
「この度は、ゴウカでの魔人討伐、お疲れ様でした! そして、オルカラ王国を救っていただき王室騎士団一同、心から感謝しております! ありがとうございました!」
とケイが大きな声で言うと、
『ありがとうございました!』
と騎士達が続けて、全員で敬礼をした。
アークが、こちらを見てニコッと笑う。
もしかしたら、騎士団に頼まれたのかもしれない。
実際の所はわからないが、大勢の騎士達が目の前で感謝を伝えてくれるなんて思っておらず、恥ずかしい気持ちと、誇らしい気持ちで胸が熱くなった。
「まさか騎士団の方々が、ここまでなさるなんて……やっぱりレイちゃんはすごいですね」
オルレアが小さな声で言った。
私は、騎士達の視線が私だけに向いているわけじゃない事に気付いていた。
「違うよ。この人達は私達3人に向けて言ってくれたんだよ。皆で勝利を掴み取ったんだよ」
私が言うと、オルレアの表情がパアッと明るくなり、嬉しそうに頷いた。
皆の視線が私に集まっている。
何か言わなければいけない雰囲気……。
「あ、あの……こういうの慣れてないので、何て言ったらいいのかわからないんですけど、本当にあの戦いに参加した人全員のおかげなんです。だから、私からもありがとうございます」
私は頭を下げた。
訓練場が静まり返る。
間違えたかもしれない。ここは、手を挙げて、明るく笑顔で応えるべきだったのか。
すると、騎士達は皆、楽な姿勢になり、
『うおおおおおおおお!』
と耳が痛くなるほどの声が、訓練場に響き渡る。
騎士達は私を囲み、
「僕らは何もしてませんよ。 逆にお礼を言われるとは思いませんでした」
「笑顔の破壊神様! 腰が低すぎますよ!」
「本当にありがとうございました。笑顔の破壊神様は救世主です」
私より何倍も歳を重ね、何十倍も努力をしているであろう騎士達が、惜しみなく賛辞を送る。
それだけで、この人達の懐の深さを感じる。
アークとオルレアは、ニコニコしながらこちらを見ている。
私は戸惑いながらも、騎士達に笑顔を向けた。
「笑顔の破壊神様の笑顔は美しいですね……」
と1人が呟くと、アークが割り込んできた。
「少し離れてくれ。レイルが戸惑ってるだろ」
急に私を騎士達から引き離した。
「アーク様にようやく……ああ、これは私が口を出す事じゃないですね」
ケイが何かに気を遣ったように呟くと、こちらを見た。
「私は待機を命じられていたので、ゴウカでの戦いに参戦出来ませんでしたが、レイル様の戦いぶりは部下達の話題の中心となっており、騎士団の士気も上がっております。改めて感謝を」
そう言ってケイは軽く頭を下げ、ニコッと笑うとその場を離れた。
そこからは、ゴウカに来ていたらしい騎士達の質問を受けたり、戦い方を教えてくれと弟子入りを志願する者に丁寧に断りをいれたりと、賑やかな時を過ごした。
大人数の中にいる事で緊張はしたが、嫌だとは思わなかった。皆が笑顔なのを見ていると私も嬉しくて沢山笑った。
時々アークが割り込んできたが、最後の方は疲れたのか、近くに腰掛けこちらを見ているだけになった。
質問に答えるのも疲れて来た頃、オルレアがこちらに来て、私と腕を組み、
「長い間、皆さんの訓練を中断させてしまいましたね。私たちはそろそろ失礼します」
ペコリと頭を下げた。
私は、残念そうにしている騎士達に挨拶をしてオルレアとその場を離れた。
アークも立ち上がり、一緒に歩き出す。
「いきなりどうしたの?」
と私がオルレアに聞くと、
「失礼かとは思いましたが、レイちゃんが疲れていそうだったので」
オルレアはニコッと笑い言った。
その優しさが嬉しい。
「ありがとう。今まで、沢山の人と話す事なんて無かったから緊張もあって少し疲れちゃったよ。でも、嬉しかったな」
心が温かい。私には、この世界でしか味わえない感覚なのだろう。




