笑顔の破壊力 lv.94
「アークさんは、まだお部屋に戻られないのですね」
オルレアが言うと、アークは小さく頷き、
「部屋に戻っても、やる事ないからな。あの部屋は豪華すぎて落ち着かないんだ」
どうやらアークは、昨日も王宮に泊まったらしい。
あの豪華絢爛な部屋が、他にいくつあるのだろう。
「大神官様は、落ち着いたら呼ぶと仰っていましたね。となると、数日はかかると思いますが、その間レイちゃんは何をして過ごすのですか?」
とオルレアが聞いてきた。
数日ここに滞在する事は確定のようだが、何をしたら……。
「それなら、王宮の中を見て回りたいんだけど、大丈夫かな? 私王宮って本でしか見た事なかったから、実際どんな感じなのか気になってたんだ」
と私が答えると、
「王宮なら案内できるぞ」
アークが立ち上がり言った。
「アークさんは剣術の稽古や勉強、社交などは大丈夫なのですか? レイちゃんは私が案内できますし、アークさんはアークさんがすべき事をしても良いのですよ?」
オルレアは笑顔だが、妙に迫力がある。
アークは少し圧倒されたようだが、
「あいにく王宮にいる間は、勇者としてゴウカの問題を全て終わらせる事が優先なんだ。気になる事もあるし、何より……俺もレイルと王宮を回りたい」
と真剣な表情で言った。
「わかりました。アークさんも一緒に行きましょう。その代わり……」
そう言ってオルレアは、少し離れた場所にアークを連れて行き、2人で何やらコソコソと話し出した。
「アークさん、ここにはあのお2人がいるという事はわかっていますよね? 恐らくあの方はレイちゃんに会わせない方が良いと思うので、協力してくれますか?」
「俺も、会わせたくないから一緒に行きたいんだよ。まあ、レイルといたいっていうのが1番だけどな。見つからないように動こう」
オルレアとアークが、ニコニコしながらこちらに戻って来た。
なんの話をしていたのかは分からないが、仲が良さそうでよかった。
「よし、行くか!」
アークがこちらに向かって言った。
私はジェイナが置いていったベルをバッグに入れ、立ち上がった。
私達は、大会議室を出て立ち止まる。
「まずは何処を見ましょうか……レイちゃんと言えば、やっぱり図書館ですかね?」
オルレアが言うと、
「それはダメだ! 図書館は最後にしないと、本好きが本を読み出したら動けなくなるって自警団の奴らが言ってたからな」
アークが、こちらをチラッと見ながら、オルレアの案を否定した。
「それは、盲点でしたね。レイちゃんが好きだからといって、そこにお連れすれば良いという訳ではないのですね……」
オルレアはそう言って、廊下に視線を向けると、
「アークさん! 一度大会議室に……」
と焦ったように言った瞬間、
「あれ? アークじゃないか! こんな所で何をしているんだ……い?」
金髪に金色の目の、アークに負けずとも劣らない美男子が近づいて来た。
「最悪だ……」
アークが呟く。
「レイちゃん、一度私と中に……」
オルレアは私の背中を押し、大会議室に入ろうとした。
「やあ、オルレア、久しぶりだね。そちらの美しいお嬢さんを紹介してくれるかな?」
金髪の美男子は、アークとオルレアどちらとも知り合いのようだ。
私の事を、美しいお嬢さんなどと言っている。この人は視力が悪いのだろうか。
この国で、視力が悪い人など存在しないのはわかってはいるが、疑ってしまう。
「はあ……こんにちは、ヨウリ殿下」
珍しくオルレアがため息を吐いた。
「レイちゃん、この方はこの国の王子殿下であられる、ヨウリ様です」
と言うと、手の平を金髪の美男子に向けた。
私は軽く頭を下げる。
どうやら、美男子は王子様だったようだ。
そう言われてから、髪の色と目の色が王様と同じだという事に気が付いた。
そして、オルレアはヨウリに向き直り、
「ヨウリ殿下、こちらの方はゴウカを救った英雄である、レイル様です」
私を紹介したが、その声は少し不満気だった。
すると、ヨウリが私の前に跪いた。
その瞬間、アークがヨウリの背後から両脇に腕を入れて立ち上がらせる。
「ヨウリ、今何をしようとしたんだよ! この子だけは絶対にダメだ! 俺が許さない!」
アークが怒っている。
本の世界では、跪いて相手の手を取る、という事が貴族の挨拶という事もあったが、大体は好意を持った相手に対しての行動だった。
初対面である私に対して、王子様が好意を抱く等という事はありえない。この世界では初対面の挨拶として、跪くこともあるのだろう。
「何を言ってるんだ? レイルこそが僕の運命の人じゃないか」
ヨウリがアークに反論すると、アークの腕を振りほどき、再度私の前に跪いた。
「僕はヨウリ・オルカラだ。レイル、君に一目惚れしたよ。僕と結婚を前提に交際してほしい」
そう言うと、私の手を取った。
驚いたが、こういうタイプのキャラは誰にでも告白し、誰にでも求婚する。
「申し訳ありませんが、お断りします」
と私が言うと、ヨウリは少し悲しそうな顔をして、
「とりあえず今は引き下がろう……最近は少し忙しくてね。でも、僕は誰でも良いという訳ではない。それは覚えておくんだよ。じゃあ、またねレイル」
ヨウリは意外にもすぐに引いて、来た方へ戻って行った。
すると、
「アーク様は何故女性を2人も連れているのでしょうか?私というものがありながら何を考えておられるのです。何度お手紙をお送りしてもお返事をくださいませんし、私がどんな思いでアーク様へお手紙を書いているのかわかっていないのでしょうか、それに……」
金髪の巻き髪に、金色の目の少女がアークの後ろに隠れるように立ち、何かをボソボソと呟いている。
本人の真後ろで本人への愚痴を言う、新しいスタイルだ。
その顔は先程立ち去ったヨウリにそっくりだった。
「ユウニ! どうしたんだ? 迷子か? ヨウリなら向こうに行ったぞ! あっ、そうだユウニ、紹介するよ。俺の……友達のレイルだ」
変な間があったが、アークは、ユウニと呼ぶ少女に私を紹介した。
ユウニはアークの後ろに隠れながら、
「あ……ユウニ・オルカラです……」
と言うと、私をキッと睨み、ヨウリが歩いて行った方へ走って行った。
「ユウニは迷子じゃなかったのか……?」
アークがぼそっと呟いた。
「レイちゃん、今の方はヨウリ様の妹のユウニ殿下です。お二人は双子なんですよ」
オルレアが、走るユウニの後ろ姿を見ながら言った。
男女の双子は顔が似ないイメージだったが、ヨウリとユウニはよく似ていた。
男でも女でも美形に見える顔があるのか……。
「ユウニ様に睨まれた気がしたんだけど……」
と私が言うと、
「それは、ユウニ様がアークさんをお慕いしているからですよ。その事は殆どの方が知っています。私の事はご存知なので気にされていないようですが、知らない女性とアークさんが一緒にいたので、ヤキモチを妬かれたのですね」
オルレアはそう言って嬉しそうに笑った。
オルレアの目には、その様子が微笑ましく映ったのだろう。
「レイル! 俺とユウニは何でもないんだ! 信じてくれ!」
アークは、ユウニとの関係を疑われていると思っているようだ。
「前にも言ったが、俺は別に魔力量が多い訳じゃなかったから、1年ずつ歳をとってただろ? ユウニが、今何歳かは知らないが、俺が赤子の頃に俺を抱っこしてたんだぞ? だから、弟みたいなものなんだと思う!」
何故か、必死に否定しているアークの真剣な目を見ていると、本当にアークの言う通りなのだろうと思わされる。
だが、ユウニがボソボソと早口で呟いていたのを聞くと、あれは恋なのだと簡単に予想できた。
「別に私に言わなくても大丈夫だよ。ふふふ。ユウニ様は、可愛い方だね」
ユウニがアークの後ろに隠れている姿は、小動物のようで、守ってあげたくなった。
実際どれだけ生きているのかはわからないが、まだ、見た目で年齢を測ってしまう私には、同年代の可愛い女の子だ。
王子様であるヨウリ、王女様であるユウニ。
どちらも、あの王様の子供だとは思えない程に整った顔立ちだった。
いつか仲良くなれるだろうか。




