笑顔の破壊力 lv.93
「間違い無く、サモラ王国は国主導で黒魔術の研究をしているね。黒魔術で周辺諸国を手中に収めようとしているんだと思うよ」
ゼンは、ローズへ向かってニコニコとしながら言うと、視線を皆に変えて続けた。
「魔物がどこにいたかだけど、サモラ王国内ではなく、ゴウカに直接召喚したと考えるのが自然かな。あの魔物は新種だったよね? 黒魔術によって作り出されたとしか考えられない」
ゼンは、空中に50年前の6本足の魔物の絵を描いた。
「魔物を作り出すだなんて、なんて恐ろしい事をするのだろうね。作り出した魔物を使い魔のような形にして、ゴウカに召喚し、侵攻したのだね」
ヴェルデが言うと、ゼンは頷き、
「話は纏まったね。黒幕がわかった所で、これから何を優先に動くのかを考えよう。重要度で言うと、『サモラ王国への警告』と『黒の精霊王ネロの捜索』、後は、『オルカラ王国全域の精神操作の解除』になるかな? どれから取り掛かろうか」
と皆に問いかける。
それを聞いて、
「サモラ王国には警告だけで済ませるんですか? てっきりやり返すものだと思ってました」
私は疑問を口にした。
「ふふ」
ダンの笑い声が小さく聞こえる。ダンは私と目が合うと、
「失礼致しました。オルカラ王国は各国と『無戦協定』を結んでおりまして、それはサモラ王国も例外ではありません。そして、サモラ王国がそれを破りましたので、オルカラ王国側は、戦わずともそれ相応の罰を与える事が出来るのです」
と私を見ながらも、皆に説明するように言った。
すぐに戦闘にもっていこうとする自分が恥ずかしい。
『無戦協定』これもルルに聞いた事がある。
オルカラ王国の武力は、精霊王の独占により強力であるため、周辺の国々への脅威でないと示す為にも、国同士で争わない『無戦協定』を各国と結んでいる。
そして、ルルはそれに、精霊王のいる街は、災厄に見舞われる事なく、平和が約束されると言われているらしいという事を付け加えていた。
だが、オルカラ王国は、数十年前に不衛生な場所から発生した疫病により、国の機能を揺るがす程の深刻なダメージを受けたことがある、とも言っていたため、精霊王がいるから災厄に見舞われない、という事は無いようだ。
「『無戦協定』の事は、前にルルから聞いていましたが、頭から抜けていたようです。あまり考えたくないですけど、凄く重たい罰が下るんですよね」
国一つを落とそうとした罪は重い。それをふまえると、首謀者、関与した者の死罪が妥当だろう。私は、目の前に人の死が迫っている事に恐怖を感じた。
すると、ゼンが私の顔を覗き込み、
「レイルちゃん、凄く重たい罰って何だと思う?」
とニタニタと笑いながら聞いてきた。
「関係者の死罪……ですよね」
と私が答えると、
ゼンは首を振って、この世界での罰について話し出した。
この世界に生きる者には魔力があり、魔力量が少ないと短命、多いと長寿というように、魔力量により寿命が変わる。
魔力量が少ないからといっても、普通に生きていれば100年以上は生きられるようだ。
魔力の質、量ともに親から遺伝する事が多く、王族や貴族は昔から魔力量の多い家系との婚姻を結んでおり、一般的な国民の何十倍もの魔力量があるらしい。
「長寿に死罪は適用しないんだよ。ぼくの様にいつから存在していたかも忘れてしまうような存在に1番効くのが、『何もない所で幽閉』だ。最低限の食事だけを与えて、娯楽も話し相手も何もない場所で何百年も過ごすんだよ。考えるだけで恐ろしいよね」
ゼンは、目を輝かせながら言った。
「何でゼンはこんな嬉しそうなんだよ。おかしいんじゃねえか?」
ジェットが、本人の前で驚いたように声を上げた。
「ゼンさんはずっとおかしいじゃないですか。今に始まる訳でもないですし、驚きすぎですよ」
イシスがジェットに言うと、
「今に始まるじゃなくて、今に始まったなんだろ? グランも、ゼンというエルフがおかしいことには、気付いていたんだろ?」
グランは、ゼンがエルフだという事を知っているらしい。
「おいグラン、その変な呼び方やめろ。別にどんな種族でもいいだろうが!」
ジェットはグランが誰かを呼ぶ際に、最後に種族名を言う事を注意した。
「ううう。確かに失礼だったんだろ? これからはちゃんと名前だけで呼ぶんだろ?」
グランは反省しているようだ。
おかしい奴だと言われただけのゼンは、ダメージを受けたようでガクッと項垂れたが、すぐに頭を上げた。
「フッ……ルル様の毒舌に比べれば君らなんて可愛いものだよ……よし、話を戻そう。とりあえず、サモラ王国でゴウカの件に関わった者は、その者に相応しい罰が与えられる……でいいんだよね? ハンス」
ゼンがいきなり、ここにはいない王様の名前を呼んだ。
『ああ、それで良い。余は最終決定を下すが、上がってきた決定を覆す事はないだろう。前代未聞の国への制裁だ、周辺諸国に舐められぬよう、厳しい決断をしてくれ』
部屋にポツンと置かれた、蓄音機のような物から王様の声が聞こえる。
会議に参加しないのかと思っていたが、ちゃんと話は聞いていたらしい。
『無戦協定』を結んだが、罰に関して明確に決めている訳ではないようだ。
そもそも『無戦協定』自体が、オルカラ王国に攻め込まれないための協定であり、オルカラ王国がこの協定を適用する事態になるなど誰も思っていなかったのだろう。
「だってさ! て事で、サモラ王国への警告が先かな? 精神操作に関しては、サモラ王国を詰める内に解き方がわかるだろうからね。ネロには悪いけどそっちを優先しよう」
とゼンが言うと、
「ネロ君は……いや、まあ今は良いかな」
ヴェルデが何かを言いかけたが、途中でやめた。
これは気になるが、誰も気に留めていないようだ。
「今日の会議はこの辺で終わろうか。オルレア以外は家が遠いだろうから、王宮で部屋を用意してくれているよ。ぼく達はしばらくサモラ王国の対応で忙しくなるから、落ち着いたら執事かメイドを通して知らせるよ。その時にネロの話をしよう」
と言ってゼンがパチンと指を鳴らすと、ダンとヴェルデとローズと共に消えた。
他の者も呼び、別室でサモラ王国についての議論をするのだろう。
すると、ガチャッという音と共に、執事とメイドが部屋に入って来た。
1人につき、1人がつくらしい。
魔人達は、手厚いもてなしを受けるとは思っていなかったらしく、楽しそうにギャーギャーと騒いでいる。
私にはジェイナが付いてくれた。
「レイル様、お部屋へご案内致しましょうか?」
ジェイナが私に聞いてきたが、オルレアはまだ、聖女の塔へは帰りたくないようで、こちらをチラチラと見ている。
「少しオルレアと話したいから、ジェイナは下がってて大丈夫だよ。終わったら呼ぶね」
私がジェイナに言うと、
ジェイナは、ピンク色の小さなベルをテーブルに置いた。
「何かありましたら、こちらのベルを鳴らして下さいね。レイル様が何処にいらっしゃっても私には聞こえますので」
そう言うと、ジェイナは部屋を出た。
私はオルレアに笑いかけ、
「真剣な話をしてたから、お菓子あまり食べれなかったね。食べながら話そうか」
と言うと、オルレアは嬉しそうに笑い、
「ありがとうございます。私も小腹が空いていたところです」
と言ってクッキーをつまんだ。
そして、たわいもない話をしながら、オルレアとお茶とお菓子を楽しんでいた。
それでも、先程の話が頭にチラつく。
「……サモラ王国はどうなるんだろうね」
私が言うと、
「大神官様が仰る通り、関係者達には1番重たい刑が下されると思います。その後、サモラ王国をどなたが動かす事になるのかはわかりませんね」
と、オルレアは答えた。
刑が執行されると、サモラ王国に王族がいなくなるかもしれない。
その穴埋めはどうするのだろうか。
「俺たちが考えても、どうしようも無いだろ? 今は考えなくて良いんじゃないか?」
アークが話に入って来た。
確かに、これだけ話した後に、人数が欠けたまま話を続ける必要は無い。
「つい気になっちゃった。そうだね、今ゼン様達が色々決めてるだろうし、もっと明るい話をしようか」
私は少し反省した。




