笑顔の破壊力 lv.92
「まさか、精神操作が破られるとは思ってもいないであろう相手方は、オルカラ王国が敵に回ったとわかると、どう動くのでしょう」
ダンがいつもの笑みを浮かべながら言うと、
「ほお? なかなか規模がでかそうな話じゃないか。国を1つ落とそうとしている相手が個人な訳ないだろうから、これは、相手も『国』かい?」
ローズが嬉しそうに話に加わった。
相手が人間なら、魔人であるローズは『従属』を使えないが、これだけ楽しそうにしている所を見ると、能力を使わなくても戦えるのかもしれない。
ゼンは嬉しそうに、
「じゃあ答え合わせといこうか。ここは、勇者であるアークに答えを教えてもらおう。もうわかってるよね?」
と言うと、アークに向かいニッコリと笑った。
「うーん……」
アークは、目を瞑り悩んでいたが、数秒で目を開け、
「黒幕は、ゴウカに接している……『サモラ王国』ですか?」
と不安げに言った。
ゼンはニコニコしながら、
「何でそう思ったのかな?」
とアークに聞き返す。
アークはあまり自信が無いらしい。
「それは……ゴウカに魔物を送れるのは、ゴウカと接している『サモラ王国』だけなのと、『魔の者』が『サモラ王国』側には行かなかったからです」
アークは、すごく当たり前な理由を述べた。
「ははははは! そうだよね! それしか理由無いよね! 何でこんな簡単な事を見逃していたんだろうね? 物凄く腹が立つよ」
ゼンは、顔は笑いながら、声が怒っている。
見た目は少年だが、怒ると中々に迫力がある。
「敵がわかってんなら、攻め込めば良いじゃねえか!」
ジェットが楽しそうに言うと、イシスが、
「ジェットさんはわかっていませんね。国同士の問題はそう軽率ではないんです。ジェットさんは黙っていたほうが良いですよ」
と言ってため息をついた。
「軽率じゃなくて、単純なんだろ? グランもイシスに同意するんだろ?」
グランもジェットの沈黙に賛同した。
それを聞いたジェットは、どかっと大きな音を立てて椅子に座った。
意外に人の言う事を聞く。
だが、実際こういう場合はどうするのだろう。
ここまで大々的に、オルカラ王国を落としにきたという事は、サモラ王国の頂点である、王室も関わった大規模な作戦である可能性が高い。
「『聖女の結界』が解かれた事で、向こうも動き出しているだろうけど、まあ焦らないで良いよ。どうせ『サモラ王国』に出来る事といえば、交渉だけだからね」
そう言うと、ゼンはいきなり静かになった。
そして、こちらを向き、私と目を合わせた。
「レイルちゃん……ぼく、ルル様の心を抉るような嫌味が無いと調子が出ないよ……」
今の今までノリノリだったゼンが、ショボくれている。
今までこういう場では、ゼンとルルが説明係のような役割を担っていた。
ルルの嫌味は鋭い切れ味だったと思うが、無ければ無いで寂しいようだ。
「ルルについても、問題が全て片付いたら話したいと思ってます」
私が言うと、ゼンは私の表情から色々察したらしく、目を輝かせた。
「そうなんだね。それなら尚更、早く全てを終わらせよう」
と言って、うなだれていたゼンは、体を起こし背筋を伸ばした。
「サモラ王国に出来る事は、交渉だけだと言っていましたが、なぜそう思うのですか? 攻めてくる可能性もゼロでは無いと思うのですが……」
オルレアが聞くと、ローズがニコッと笑い、
「簡単な話だ。サモラはオルカラに勝てない。戦力の差がありすぎるのさ。ダン、説明してくれるかい?」
とダンに言うと、ダンは頷き、説明を始めた。
「サモラ王国は小さい国ですが、魔法先進国で、国を挙げて魔法の研究をしています。魔法に秀でてはいますが、こちらとは天と地程の戦力の差がありますので、あちらが仕掛けてくる事はないでしょう」
と言うと、オルレアの方を見た。
「そうなのですね……少し安心しました」
オルレアは、ニコッと笑い言った。
「もう少しサモラ王国についてお話しします。サモラ王国は、裕福な国ではありますが、今の王室は国民の支持を得られてはいないようです」
ここからダンは、サモラ王国の外側と内側の話を始めた。
サモラ王国は、周辺諸国の中でもダントツで魔法技術が発達している事から、小さな国ではあるが、国としては裕福なようだ。
その一方で、貧富の差が大きく、50年前に王国内の貧民が集団失踪したという噂があるらしい。
裕福な国にも関わらず、税が他国よりも高く、国民の不満は年々募っているようだ。
そして、サモラ王国には、魔法師団という、魔法に秀でた者を集めた組織があり、国主導の魔法の研究は、魔法師団が中心となり行われている。
「魔法師団には、何度か勧誘された事があるけど、相手をするのが毎回煩わしくて困ったよ。自国より大きな国の大神官を引き抜こうとするなんて、サモラ王国の連中は命知らずだよね」
ダンの話が一区切りつくと、ゼンは、自身がサモラ王国からスカウトされた事があると告白した。
これは、表に出したら大問題になるのではないだろうか。
そもそも、滅ぼそうとしていた国に、陰謀がバレたサモラ王国からすると、それ以上の問題は無いのだろうが。
「クックック」
イシスが笑い出した。もちろん無表情だ。
「何だよイシス、今、何かおもしれえ話してたかよ?」
ジェットがイシスに聞くと、
「いえ、ボクは記憶の中でさえ、ここまで考え無しの馬鹿に出会った事が無かったので、おかしくて」
そう言って自身の右手の平を見て、
「そんなのがボクらの間接的な創造主なんですよね……」
イシスは言葉に怒気を含ませた。
あまりにも杜撰な計画で、オルカラ王国に魔物を送りこみ、自業自得で窮地に陥っているサモラ王国が、自身を生み出したという事実を認めたく無いらしい。
「『間接的に』だろ? じゃあいいじゃねえか! 実際、その馬鹿共がいなきゃ俺らは存在してねえんだ。あと、普通に感謝してやった方が奴らは嫌だろ」
ジェットがイシスに言い返した。
確かに、落ち込むよりも、開き直られた方が相手は嫌だろう。
ジェットは人が嫌がる事をちゃんとわかっている……わかっているからこそ、挑発的な暴言を使っているのだと考えると、ある意味恐ろしい。
ジェットの言葉を聞いたイシスは、無表情でハッとした動きをした。
「そう言われると、感謝されるほうが嫌ですね……ボクも感謝する事にします。やはり、ジェットさんは犯人が良く似合いますね」
イシスは明るい声で返事をし、ちゃんと言葉を間違えた。
「イシス、犯人じゃ無くて、悪役なんだろ? それもわかりにくいんだろ?」
グランがイシスにツッコミをいれた。
「そういえば、サモラ王国はどうやって魔物をオルカラ王国に放ったんだ? 何十体もの魔物がサモラ王国にいたら国民も気付きそうだよな」
アークがボソッと呟いた。
そう言われるとそうだ。いくら魔法に精通しているとしても、魔物を匿う場所などあるのだろうか。
マジックボックスやマジックバッグに、生物は入れられない。
ならばどこに隠していたというのだろう。
「アークは鋭い所を突くじゃないか。あたしも詳しくは知らないが、サモラでは魔法師団が魔法の研究をしていると言っていただろう? 実際は魔法の研究なんて表向きの理由で、他にも研究しているものがあるのさ」
アークの疑問にローズが嬉しそうに答えた。
何故かローズとゼンとダンは楽しそうだ。物凄い報復でもしようとしているのだろうか。
「黒魔術……ですね」
ダンが言うと、ローズは頷き、
「ああそうさ。この世界の禁止事項である、黒魔術の研究を奴らはしている。噂で囁かれる程度だったが、魔物や魔人が放っていたのは黒魔法だったんだろう? これは確定でいいんじゃないのかい?」
とゼンを見て言った。




