笑顔の破壊力 lv.91
ゴウカでゼンが言っていた通り、ローズは本当に魔人を取り込んだらしい。
「お母様……砂に変えられてからも意識があったのですか?」
オルレアが不安そうな顔をして言った。
「レア、お母様だなんて……そんなレアも可愛い……」
ローズはオルレアにデレデレとした後、表情をキッと引き締めた。
「はっきり意識があった、というよりは、身体が消えてしまってからも、砂の魔力の中に、少しだけ自我が残っていたんだ。あたしの精神力と膨大な魔力量と『従属』が合わさって偶然出来たのさ。幸運としか言いようが無いねえ」
このローズのキャラクターの変化に、オルレアもヴェルデも何も言わない。
昔から、2つの性格がある事は認識していたようだ。
「ゴウカで砂になった他の人達はどうにもならなかったという事ですね……残念です」
ダンが呟くと、
「それで、ローズが中々顕現できなかったのは、ゴウカの魔力が足りなかったからだって言っていたけど、今ここにいるって事は、どこかのタイミングでそれだけの魔力を取り込めたんだよね?」
とゼンがローズに向かい言った。
「ゴウカの魔力は広範囲に薄く広がってたんだ、回収は出来ないだろうさ。だが、突然2度に渡って、強大で澄んだ魔力がゴウカに落ちた。その1度目で覚醒して、2度目で顕現できたって訳だ」
ローズは、その時の事を思い出すように、視線を少し上に向け考えながら話している。
2度に渡る強大な魔力……。
それって……。
「ルル……だよな。あの時ルルが、レイルを守る為に放った神力と、その後にレイルが放った神力。ローズさんが言った2度ってその事だよな……」
アークが辛そうに言うと、ジェットが反応した。
「ルル? そういや、ゼンが他に3人仲間がいるって言ってたよな。1人はオルレアで、2人目がヴェルデさんって事は、ルルって奴が3人目か。そのルルはどこにいんだよ?」
そう言ってジェットは、部屋を見回した。
ヴェルデ『さん』と呼ぶのは、ローズの夫であるヴェルデを呼び捨てにするわけにはいかなかったからだろう。
オルレアは呼び捨てにしていたが……。
「レイルさんのような人がまだ居たなんて……ルルさんですか……きっかり挨拶をさせていただきます」
イシスが緊張した様子で言うと、
「きっかりじゃなくて、しっかりなんだろ? ルルという者はこの部屋にはいないみたいなんだろ? 今日は来ないかもしれないんだろ?」
グランも部屋を見回している。
ゼンは、魔人達にルルの事は話していないらしい。
皆の視線がこちらに集まる。
私は、ルルについて説明をした。
まず、私がこの世界に転移してから、ルルがお世話係として一緒に暮らしてきた神の子であるという事。
戦いに参加すると消えてしまうので、ゴウカの外で応援していた事。
私が、魔人と目を合わせてしまい、身動きが取れなくなった時に、助けに来てくれたルルが消えてしまった事。
必要だと思う情報を、大まかにまとめて話した。
私が転移者で、ルルが神の子である事を知った魔人達は驚いたような表情をしていた。
イシスは無表情で驚きの声を上げていた。
私が話し終えると、部屋がシーンと静まり返った。
「あの時の2度の魔力は、そのルルとレイル、2人の魔力だったのか。あたしがここにいるのは、ルルの犠牲の上なんだね」
と気まずそうにローズが言った。
私はローズと目を合わせる。
「ルルは自分で選んで私の所に来てくれました。その選択に後悔は無いはずです。ローズさんがいなければ戦いは終わらなかったですし、私はこうなる運命だったのかも、と思っています」
こんな事を言うと、薄情だと思われるかもしれない。
私は、ルルを呼び戻すと決めてから、ルルがあの瞬間に神力を放ったのは、運命だったのではないかと思い始めていた。
ルルが私を想い放った一撃と、私がルルを想い放った一撃。
どちらが欠けてもローズは顕現できず、ずっとゴウカの大地に眠っていただろう。
「ぼくも今の話を聞いて、ルル様がこうなる事をわかっていた、とまでは言えないけど、運命はあるんだと思ったよ。この一連の出来事は、世界が決めた流れだったんじゃないかな」
ゼンは真剣な表情で言った。
「世界が決めた流れって……この世界に意思があるという事ですか?」
アークがゼンに聞くと、
「いや、そんなに大それた事では無いよ。確信があって言っている訳じゃないんだ。ただ、何となく、ぼくがそう思っただけなんだよ」
いつも確信をもって話すゼンが、何となくで意見を述べるのは珍しい。
それでも、いつものように、自信がありそうな表情をしている。
「ローズ様が現れなければ戦いは終わらなかった。ルル様が能力を使わなければローズ様は現れなかった。偶然としては出来すぎていますが、これが世界が決めた流れなのか、本当にただの偶然なのかは誰にもわかりません」
ダンが言った。
それを聞いたヴェルデが、
「わからないからこそ、僕は運命はあると思っているよ。もしもの未来なんて訪れないんだ。起こることはそれが全てなのだから」
と言って、ローズの肩を抱いた。
「真実は神のみぞ知る、だね。とりあえず、ローズがゴウカで顕現出来たきっかけはわかった訳だ。じゃあ次は、50年前のゴウカへの魔物侵攻は、誰が黒幕なのかを考えていこうか」
ゼンは、口元に笑みを浮かべながら言った。
もう黒幕の検討はついているが、私達に考えさせたいのだろう。
すぐに答えを教えてくれた方が、早く解決策をだせるかもしれないが、聞いて答えてくれるタイプではない。
ここでアークが口を開いた。
「黒幕か……全然わからないな。そうだ、魔人である君達なら、黒幕を知っているんじゃないか?」
と言って、アークはジェット達を見た。
ジェットは、面倒くさそうに頭をかいた。
「んなもんわかるわけねえだろ! 俺らは存在で言うと、魔人側じゃなくて人間側なんだよ! アークてめえ、ちゃんと話聞いてたか?」
ジェットが言う事はもっともだ……にしても口が悪い。
他の魔物や魔人は、ただオルカラ王国に侵攻する為だけに動いていたようだが、ここにいる魔人達には、ゴウカの住人だった人々の記憶しかなく、魔人としての目的や使命のようなものが無かった。
「そうだったな、ごめん。今までの話を聞いていたらわかる事だよな。俺は君達が向こう側だと言っている訳ではなくて……」
アークが頭を下げて弁明をする。
「ああああ! だらだらとうるせえ! もういいから、てめえは座っとけ!」
ジェットが、イライラした様子で言った。
アークは大人しく椅子に座る。
「ジェットさん、そんな言い方をせずに、『そんなに謝らなくても、俺はもう許してるんだぜ』と率直に言えば良かったのでは?」
イシスがジェットに言うと、
「ジェットはそんな話し方しないんだろ? 率直にじゃなくて、素直になんだろ? ジェットは真剣に謝られて、どうしたら良いかわからなくなったんだろ?」
グランがイシスの言葉を訂正して、ジェットの気持ちを代弁した。
「うるせえ! お前らも黙って座っとけ!」
ジェットは顔を真っ赤にして言った。
「今回の件で、明らかに不自然な事といえば何かな?」
ゼンが切り出した。
50年前に黒の精霊王が消えた事。
突然魔物が現れた事。
魔物が、オルカラ王国を砂に沈めるのを目的としていた事。
ゴウカの半分を過ぎた辺りから魔物がいなかった事。
考えると、不自然な事ばかりが起こっていた。
オルレアが考える素振りをして、
「今までお話をしてきて、不自然な事は沢山見つかりましたが、私が1番不自然だと思うのは、オルカラ王国側にしか『魔の者』がいなかった事です」
と言って私達の反応を見て続けた。
「全ての魔物がオルカラ王国だけを狙うなんておかしいです。そもそも、ゴウカに魔物がいきなり出現する事も不自然ですし……こんなにおかしいのに気付かないことが恐ろしいです」
オルレアの声には恐怖が滲んでいる。
その恐怖を和らげるるためか、ゼンはオルレアに向かいニコッと笑った。
「そうだね。完全にぼく達は舐められているよね。精神操作が解けたら、誰が仕組んだのかが1発でわかるような幼稚な作戦だよ」
そう言ったゼンは、悪い顔をした。




