笑顔の破壊力 lv.86
「新しいキュインが欲しくてさ、次は1年もつのを何種類か買おうかなと思ってる。後は、オルレアとルルと3人でお揃いのアクセサリーを買いたい……かな」
私が買い物に行きたい理由を伝えると、
オルレアは胸の前で両手の指を組んで、
「私も3人でお揃いの物を持ちたいです。ルルさんにお渡しする時には、『何で聖女とお揃いなんか!』と嫌がられてしまうでしょうけど……私は、ルルさんが大好きだからですって言いたいです!」
と言って笑った。
ルルも同じ気持ちだったはずだ。
最後にルルは、皆の事を大切な仲間だと言っていた。
からかったり、変な絡み方をしていたのは、皆とのコミュニケーションが取りたかっただけだったのかもしれない。
……いや、ただ本音を言っていただけか。
「それにも、照れ隠しで皮肉が返ってくるんだろうね」
と私が言うと、オルレアはニコッと笑って、
「私もしっかり言い返します」
と言った。
2人のやりとりが好きだった。
ケンカする程仲の良い2人が、小さな事で言い合っている姿は面白くて、ずっと見ていられた。
朝ごはんも私が用意して、オルレアと食べた。
キュインをして、着替えて外出の準備をする。
ルルにもらった白いバッグを肩からかけた。眼鏡のワンポイントが嫌だったが、今では少し愛着が湧いている。
私もオルレアも、あまり口数が多い方では無いから、時折家の中が静まり返る。
それにより、気まずいという事もなく、ただ静かな時間が流れているだけだ。
「静か……ですね」
オルレアが涙声で言った。
当たり前にこの家にいたルルが、今はもういない事を痛感する。
「ルルはいつも騒がしかったからね。1人でもずっと喋ってたよね」
私は、ルルとの日々を思い出す。
「前にさ、ルルが王宮に行く準備で家にいない日があって、その時はたまには静かなのもいいなって思ったんだよね。でも、静かなのはたまにで良いんだよ……」
寂しさが胸に広がるが、涙は流さない。
「……そろそろ行きましょうか。今の私たちには、涙じゃなくて、笑顔が必要だと思います」
オルレアは私の手を取り、家の外に出た。
相変わらず空気がきれいで、気持ち良い風が吹いている。
私とオルレアは、植物達に水をあげ、少し庭を歩いた。
ゴウカの事にかかりきりで、あまり植物達の世話をしていなかったが、植物達は元気そうだ。
睡眠をとる必要は無いと言っていたルルは、毎晩『父親』にその日の出来事を報告した後、植物達の様子を見たり、世話をしていた。
その後は何をしていたのだろうか。
知らない事がまだまだ多い事に気付く。
空を見上げると、オレンジ色の時星が浮かんでいる。
「時星って不思議な存在だよね。この世界に来た時にも、自然物じゃないように見えて、すごく違和感があったんだ」
私が言うと、
「時星は気付けばあった、という感覚なので、特に何も感じた事はなかったのですが、不思議な存在と言われると、確かにこの国の上だけを回るのは不思議かもしれません」
オルレアも時星を見上げながら言った。
何故か時星はオルカラ王国だけに存在している。
5人の精霊王といい、オルカラ王国は少し独り占めが過ぎる気もする。
「そうだよね。次にゼン様に会ったら、時星はいつからあるのか聞いてみようかな」
ズームで覗くと、見てはいけない物を見てしまいそうで避けてきた時星。
何となく、関わりたく無いと思ってしまう。
「大神官様なら知っているかもしれませんね。では、そろそろ中心街へ向かいましょうか」
オルレアは、ニコッと笑って私の手を引いた。
丘を下り、森の中を歩く。
丘から運んだ大量の土が、大きな山のようになっている。
ヴェルデは出かけているようで、大きな木の周辺にはいなかった。
森の木々の間から漏れる光が綺麗で、葉の揺れる音や鳥の声も素晴らしいものに感じる。
オルレアの歩く速度に合わせて、ゆっくりと進む。
「中心街まで結構距離があるから、私がオルレアを背負おうか?」
ルルと歩くとすぐに着いたが、オルレアには少しきついかもしれない。
「いえ、今日は歩きましょう。疲れてしまったら、風魔法で背中を押して歩きます」
そう言って、オルレアは楽しそうに笑った。
道中に生えている植物の話や、お揃いにするアクセサリーをどんな物にするか、この国の娯楽について等を話しながら歩くと、中心街に着くのはあっという間だった。
「思ったよりも楽に歩けちゃいました。レイちゃんとのお話が楽しかったからですね」
オルレアが言った。
「話してると、そんなに歩いた気がしないよね。じゃあ……まずは魔道具屋に行ってから、アクセサリーを見に行こうか」
と私は言って、2人で魔道具屋へ向かった。
「いらっしゃいませ!」
魔道具屋に入ると、店主の大男が大きな声で来店を従業員に知らせる。
「明るくて良い雰囲気のお店ですね。少し店内をくるっと回ってきます」
とオルレアは言うと、入り口付近の商品から一つ一つ眺めている。
私はキュインの売り場に行き、どの色にしようか考えていると、今使っている物と同じ、薄いピンク色のキュインだけが売り切れていた。
同じ物を買うつもりは無かったが、少し残念に思った。
この店で初めて買い物をした日、私はまだ前髪が目にかかっており、自分に自信もなく、ピンク色の物を所持する事にドキドキしていた。
少し前の出来事が遠い過去に思える。
今回は……白にしようかな。オルレアの花と同じ色。
昨日のオルレアの花の歌声を思い出し、口角が上がる。
フレーバーは、爽やかなミントにした。
もう1本は、オレンジ色のキュインに、色と同じオレンジのフレーバー。
ルルをイメージした。
ルルは茶色の髪に茶色の目で、オレンジ色がよく似合う。
キュインはどちらも1年用を選んだ。
今回、ピンク色のキュインが無くなっていた事で、買いたい時にお気に入りがない可能性がある事がわかり、安心を買う事にした。
「レイちゃん、決まりましたか? 私は目移りしてしまってだめです……今日はアクセサリーに集中しようと思います」
オルレアは、意外と買い物では優柔不断のようだ。
「私はこの2本にするよ。じゃあ買ってくるから少し待ってて」
そう言って、キュインをカウンターへ持って行く。
1年用のキュインが2本で24000ラルだ。
カウンターに置いてある小さな四角い水晶に、私の赤い財布の黒い丸を当て、『24000ラル』と頭の中で考える。
店長が金額を確認し、
「完了! ありがとうございました!」
と元気な声で言った。
私は軽く頭を下げ、買ったばかりのキュインをバッグに入れて、オルレアと共に店を出た。
おぼろげな記憶を頼りに歩く。
「初めて中心街に来た日に少し寄ったお店が、確かあの辺に……」
あった。
店自体はさほど大きくはないが、高級感の漂う店構えだ。
店内に入ると、ショーケースにアクセサリーが並べられている。
「あの……レイちゃん、ここ凄くお高そうですね」
オルレアがコソッと私に耳打ちした。
「確かに、高そうだけど、大きな宝石を選んだりしなければ、私達でも十分手が届くと思うよ」
と言って、私は色とりどりの小さな宝石がついたアクセサリーを指さした。
1番安い物で10万ラル程だ。
「これくらいなら、何とかなりそうです」
オルレアは嬉しそうに言った。
聖女という仕事は、ボランティアというイメージがあるが、この世界ではしっかりと給料が出ているらしい。
私はホッとして笑い、またショーケースに目を戻した。
アクセサリーといっても種類が多い、3人でお揃いにするなら、目立ち過ぎず、チラッと見えるような物が良い、と先程オルレアと話していた。
オルレアはここでも目移りしているようで、物凄く悩んでいる。
「どう? 何か良いのあった?」
私が聞くと、
「私たちは皆タイプがバラバラなので、難しいですが、私はこれが気に入りました」
と言ってオルレアは、ショーケースの奥を指さした。




