笑顔の破壊力 lv.85
オルレアがこちらに向かって走ってくる。
「レイちゃん!」
と叫び、私に抱きつき涙を流した。
私はオルレアを抱きしめて、背中をトントンと軽く叩く。
「オルレア、心配かけたね。ゴウカの外で不安だったと思うけど、皆を守りきってくれてありがとう。オルレアがいてくれたから、私達は安心して戦う事が出来たんだよ」
私が言うと、
「守れませんでした……ルルさんを……守れませんでした……レイちゃんに頼まれていたのに……守れませんでした……私はルルさんを……止めなかったんです」
オルレアは、ルルがいなくなったのは自分のせいだと思っているようだ。
ルルが走り出した時、オルレアはルルを引き止めなかったらしい。
「オルレア、辛い決断をさせてしまってごめんね。私が未熟で、オルレアにも、ルルにも迷惑をかけた。2人は私の命を優先したんだよね。ありがとう……ごめんね」
また涙が溢れる。
あの時の事を悔やんでも、ルルは戻ってこない。
「私は、最後にルルと話せたんだ。私は大丈夫だって言うと、強がりはダメだって怒られちゃった。ルルには全部わかってたんだね」
ルルと話した最後の時。
ルルはいつもの明るい笑顔に涙を浮かべていた。
「また、会えますよね?」
オルレアは小さな声で言った。
「会えるよ。絶対にまた会える」
私は、オルレアの頭を撫でながら答える。
それを聞いたゼンは、驚いたような表情をすると、
「ルル様……もしかしてあの時に……。とにかく、移動しようか。積もる話がある人も多いだろうから、今日はゆっくり寝て、また集まる機会を作ろう」
と言い、少し離れた場所にいる、3体の魔人の後ろに隠れているローズに目をやった。
ローズは、オルレアに会う心の準備が出来ていないようだ。
ゴウカで繰り広げられた全てを、オルレアはまだ知らない。
それは、皆の気持ちが落ち着いた時に、また集まり話す事になるのだろう。
「そうですね。とりあえず今は眠りたいです。オルレア、今日は一緒に寝ようか」
私が言うと、オルレアは上目遣いになり、泣いて潤ませた瞳をこちらに向けて、小さく頷いた。
可愛い。ただただ可愛い。
「ぼくは魔人達とイチノの大神殿に戻って、ハンスに今回の件を報告するよ。君たちの気持ちの整理がついたら連絡くれるかな。解決していない問題もいくつかあるからね」
ゼンはそう言うと、魔人達の元へ行き、大神殿へ行く旨を話した。
「大神殿って……入ったら魔人である俺らは消えちまうんじゃねえのか?」
ジェットは意外と心配性のようだ。
「ジェットさんは心が狭いですね。この方々がそんな事をするわけ無いじゃないですか。不安ならボクが1番に足を踏み入れてあげますよ」
イシスがジェットを小馬鹿にした発言をする。
「心が狭いじゃなくて、臆病なんだろ? グランもこの人間達を信じているんだろ?」
グランがイシスの言葉を訂正し、自身の意見を述べた。
「臆病じゃねえよ! 俺が1番に大神殿に入るからな! 見とけ!」
ジェットはムキになっている。
魔人達も、戦っていた時とは比べ物にならない程、穏やかな雰囲気に変わった。
戦う前に、話し合いを試みていたら、この者達を傷つけずに済んだのかもしれない。
「レイル様が気に病む事はありません。あの状況ですと、誰も彼らに敵意は無いと考える事は出来ませんでした。わたくしも、魔人は悪だと思い込んでいましたので、同罪です」
当たり前のように、私の表情を読んだダンはそう言って、少し悲しそうに笑った。
「そうなんですかね……この短い間に色んな事が起こって、少し疲れてしまいました」
私は、出来るだけ自然に笑って言った。
「では、本日は解散と致しましょうか」
ダンが言うと、
「ぼくとダンとアークは、ダンの部隊と、魔人達とここの後始末をしてから戻るとして、レイルちゃんとオルレアはレイルちゃんの家に送るよ」
と言ってゼンがこちらへ来て、オルレアに、
「ヴェルデはどこにいるのかな?」
と聞くと、
「お父様なら、途中でお疲れになったようで、よりしろへ帰りましたよ」
オルレアは不思議そうに答えた。
それを聞いてゼンはニコッと笑って、
「ありがとう。それなら安心だ」
と言って私達から離れて行った。
恐らく、ローズがまだヴェルデと会えないとでも言っているのだろう。
「お父様に何か用でもあったのでしょうか」
オルレアが呟いた。
「レイル!」
アークがこちらに駆け寄って来た。
「美味しい物を食べて、いっぱい寝るんだぞ。悲しいなら沢山泣けば良い。いつでも俺が胸を貸すから」
と言って、右手で自身の胸の辺りをトンと叩いてみせた。
「レイちゃんに胸を貸すのは私ですので、アークさんの出番はありませんよ? 私は今日、レイちゃんと一緒のお布団で眠りますし、心配なさらないでくださいね」
オルレアが笑顔でアークに言った。
アークは少し落ち込んだ様子で、
「そうだよな……また落ち着いたら集まろう。俺はレイルからなら、いつ連絡が来ても絶対に気付くから! じゃあ、大神官様達の手伝いしてくるよ」
と言って、離れて行った。
「レイルちゃん! オルレア! 何も無ければ家に送るけど、もう大丈夫かい?」
少し離れた場所からゼンが聞いてきた。
私とオルレアは顔を見合わせ頷き合い、
『大丈夫です、お願いします』
と言った。
ゼンはニコッと笑い、指をパチンと鳴らした。
「なんだか、久しぶりな気がしますね」
オルレアが言った。
ゼンのワープで、私達は家の前にいた。
「凄い1日だったね。さっきまで命を賭けてたのが嘘みたい……」
私はホッとすると同時に、力が抜けてその場にへたり込んだ。
「大丈夫ですか?」
オルレアがこちらに手を差し出し、声をかけてきた。
私はその手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
「ありがとう……ねえ、オルレアの花の歌が聴きたいな」
と私が言うと、オルレアはニコッと笑い、オルレアの花にお願いをしてくれた。
『ラーラーラーラララーラーララー』
『ラララーララーラララーラー』
久しぶりに聴くオルレアの花の歌声は、前に聴いた時よりも少し落ち着き、悲しそうに聞こえる。
それでも、相変わらず綺麗な声に聴き入ってしまう。
しばらく聴いていると、少し気持ちが楽になってきた。
「ルルに会いたいね……」
「はい……会いたいです」
少し、しんみりとした空気が流れる。
私はオルレアの花の前にしゃがみ、
「ありがとう。あなたのおかげで元気が出たよ」
と言って、立ち上がった。
「今日は私が何か作るよ」
私は家に入り、オルレアに手料理を振る舞った。
メニューは、ゴウカの戦いに勝利した、という事でカツ丼にした。
本当は、戦いの前に食べる物だと説明すると、オルレアは笑った。
料理をした事は無かったけれど、眼鏡の機能で料理本を見ながら作ってみると、それなりのものが出来上がった。
ご飯を食べている時から同じ布団に入って眠るまで、オルレアと話す全てがルルとの思い出話になった。
1年にも満たない間だったが、ルルの強烈なキャラクターと、私への惜しみない愛情を思い出し、話しても話しても話題が尽きなかった。
些細な出来事が浮かんでは、その全てを忘れないように言葉にした。
最後はオルレアと2人で沢山泣いて、眠った。
朝起きると、身体強化で疲れにくいはずの私でさえ、少し身体が重かった。
私は眼鏡をかけて立ち上がる。
「ううーん」
大きく伸びをした。
モゾモゾと隣のオルレアが動き、起き上がった。
「レイちゃん、早いですね……おはようございます……」
まだ眠たそうなオルレアは、目を瞑りながら言った。
「おはようオルレア、今日は、ニライの中心街に買い物に行かない?」
私は、気分転換ができたらと、オルレアを誘った。
オルレアはハッとしたように目を開け、
「中心街ですか? レイちゃんとお買い物、行きたいです!」
と元気に答えた。




