笑顔の破壊力 lv.84
火、水、土、風の属性を選ぶと、どうなるかは予想できる。
恐らく、目からそれらが出るのだろう。
花形の属性が選択肢から消えた……。
そうなると、光か闇のどちらを選ぶかだ。
とりあえず全ての属性に神力を変換してみると、想像以上にスムーズに出来る。
『レイル、どの属性を選んでも出る威力は変わらないぞ。何を真剣に悩んでるんだ?』
頭の中で、アークの声が聞こえる。
アークは、私の神力が色んな属性に変わるのを感じたらしい。
思考まで覗いてはいないようで、アークらしい配慮が少し嬉しかった。
「目からしか魔法を放てないみたいだから、どの属性にするか悩んでるんだよね。光か闇の2択で、おかしくない方を選びたいんだけど」
頭の中で私が答えると、
『そんな事を気にしてたのか。レイルの力は凄い! 何を選んでも誰もおかしいなんて言わないから、好きなのを選べ!』
アークならそう言うと思った。
光を選ぶと……目がピカッと光るのだろう。
今の『目からビーム』は、神力が見える存在には光って見えるようだが、光を選んだら、全ての人が、目が光っているのも、ビームも見えるようになると予想できる。
闇なら……? 闇はどうなるのだろうか。
目が黒くなる? ビームが黒くなる?
……気になる。
「決めた」
私は呟き、目を開けた。
すると、
「おい、本当にこんな結界で、あのバケモンじみた攻撃が防げんだろうな? もっと分厚くねえと安心できねえだろ」
ジェットが、ゼンの結界に文句を言っていた。
「ジェットさん、落ち着いてください。もし何か起きたとしても、それはジェットさんの日課が悪いだけだと思って諦めましょう」
イシスがジェットへ向かい言うと、
「日課じゃなくて日頃の行いなんだろ? イシス、ちょっと間違え方が雑なんだろ? それと、この結界はよく出来てるだろ?」
グランがイシスにダメ出しをし、結界を褒める。
私は3体がいる方を向き、
「大丈夫だよ。絶対に当てないし、ゼン様は魔法使いとしては天才だから安心して」
と言うと、3体がチラッとゼンの方を見て、大人しく頷いた。
先程までの戦いで、ゼンはワープと結界しか使っていなかったが、実力を測るのには十分だったらしい。
ゼンは嬉しそうにニコニコとしている。
結界に入ったローズが、私に向かいニコッと笑う。
「準備できたかい? 『浄化』を発動したら20数えるからね、その間にこいつらを一掃しておくれよ! じゃあいくよ!」
そう言うと「浄化」と言い、両腕を広げ上へと伸ばした。
この世界では、魔法を発動する際の詠唱はいらないはずだが、ローズは、私がわかりやすいように、あえて口に出してくれたようだ。
ローズが『浄化』を発動させると、自身がゴウカに現れた時よりも、大きな光が辺りを包み込む。
『魔の者』が集まるのはオルカラ王国側だけだが、ローズはゴウカ全てを『浄化の光』で覆い尽くした。
「レイル、始めな! 1……2……3……」
ローズが大きな声で私に合図し、数え始めた。
「アークいくよ」
私はアークに声をかけ、ゴウカの空を見上げる。
晴れの日の青い空に浮かぶ時星は、綺麗な紫色をしていた。
ゴウカにいるとわからなくなるが、今は深夜のようだ。
私は今から、初めて魔法を使う。
どんな事が起こるのだろう、ワクワクしながら神力を属性変換し、増幅させる。
アークのおかげで、私は何度も魔法を使っていると錯覚し、魔法を使うまでの、全ての工程を問題なく進める事が出来た。
身体の中を、属性が変わり増幅した神力が巡るのを感じる。
神力が何十倍にも何百倍にも増幅しているが、負荷がかかったり、辛いという事もない。
むしろ、身体は軽く、気分が良い。
今の私なら、何でも出来そうだ。
「最高の気分……」
私は笑った。
すると、ボンッという大きな音と共に、ゴウカが黒に染まる。
夜が来ないはずのゴウカに影が落ち、視界が悪くなる。
目の前が真っ暗で何も見えないが、私とアーク、そして、ゼンが張る結界にこの闇は干渉しない。
ローズの『浄化の光』に闇が覆い被さっていく。
私が選んだのは『闇魔法』だ。
『ぎゃああああ』
魔人の声が聞こえる。
「うるさい」
私が呟くと、魔人の声と気配が消えた。
ゴウカに静寂が広がる。
闇が晴れ、辺りが見えるようになると、一面に魔力石が散らばっているのが確認できた。
「10……11……あれ? もう終わったの? あの数を本当に1度の攻撃で倒しちゃうなんて! もっとドーンッとかバーンッてなるかと思ってたけど、ボンッだったわね! すごーい!」
ローズは大喜びだ。
もうこっちのキャラでいけば良いのではないだろうか。
「いやいやいやいや、こんなに呆気なく終わんのかよ! 数千体だぞ? どうなってんだよ!」
ジェットが困惑したように叫んでいる。
「今の、ボク達に向けられてたかもしれないんですよね。そう考えると背中が凍ります」
イシスは表情を変えずに、声を震わせて言った。
「背中じゃなくて背筋なんだろ? レイルという人間は敵じゃないんだろ? グラン達に攻撃がくる事はないんだろ?」
グランが言った。
「本当に……凄い子だよ。このぼくが何度も驚かされるなんて……」
ゼンは1番に喜びを爆発させると思ったが、ブツブツと独り言を言っている。
ダンは呆れたように笑い、
「兄さん、もう驚き慣れてしまいましょう。わたくしはもっと派手な攻撃を放つと思っていたので、闇魔法を選択された事に驚きましたが、それもレイル様らしいのかと、納得する事にしました」
ダンがゼンに向かい言った。
これで本当にゴウカでの戦いが終わった。
私は眼鏡をかけ、振り返って後ろにいるアークに向かい笑う。
「サポートしてくれてありがとう。何の違和感も無く魔法が使えたよ。威力のコントロールまで出来た気がする。アークは凄いね」
と私が言うと、アークは目を逸らし、
「俺は何もやってない、レイルが凄いんだ。もっと自分を褒めてもいいと思うぞ」
と言って何故か俯いた。
私はアークの両頬に両手を当てて、顔を上に向け、目を合わせた。
すると、アークの顔が真っ赤に染まる。
私は、アークの頬に手を当てながら、目を真っ直ぐに見て、
「アークのおかげだよ。本当にありがとう」
と言って笑う。
この作戦はアークがいないと成り立たなかった。
感謝を伝えても伝えきれない。
「……わかった、わかったから手を離してくれないか」
アークが小さな声で言った。
私は慌てて手を離す。
「ごめんね! 私は触られるのを拒否してるくせに、嫌だったよね……どうしても目を見て感謝を伝えたくて……」
どうしよう。アークに嫌われてしまったかもしれない。
私は、人との距離感を掴むのがまだまだ下手くそだ。
アークを見ると、
両手で顔を隠してしゃがんでいる。
相当嫌だったのかもしれない。
「アーク、嫌な思いさせてごめ……」
「嫌じゃない!」
私が謝ろうとすると、その言葉をアークは遮った。
そして、私の目を見て、
「嫌じゃないんだ……むしろ嬉し……」
アークが何かを言おうとした時、
「はい! そこまでだよ、アーク! そう簡単に君達の関係は進ませないよー? ぼくもレイルちゃんを気に入っているからね! 応援しようと思っていたけど、やーめた!」
ゼンはアークの言葉を遮り、凄く楽しそうに言った。
「兄さんにここまで気に入られてしまうと、これから大変だと思いますが、何かありましたらわたくしに相談してください」
ダンが私に気を遣って声をかけてくれた。
それを聞いたゼンは、
「ダン! お兄ちゃんに気に入られるのが悪い事だと思っているのかい? それとも、レイルちゃんにお兄ちゃんを取られると思っているのかな?」
ゼンがニヤニヤしながら、ダンに言うと、ダンは心底面倒くさそうな顔をして、
「兄さん、その話し方をやめてください。わたくしは子どもではありませんので」
良い歳の大人が、いつまでこのやりとりを続けるのだろうか。
「あんた達! まだ仕事が残ってるんじゃないのかい?」
そう言ってローズは、自身の後ろにある地面を指さした。
ゴウカの地表には、物凄い数の魔力石が転がっている。
これを全て拾うのは時間がかかりそうだ。
「それならば、わたくしが率いている部隊が結界の外におりますので、こちらで拾わせましょう」
ダンはそう言って部隊がいる結界の外に目を向けた。
その瞬間、『聖女の結界』が解かれた。




