笑顔の破壊力 lv.81
「影響範囲が、ただの攻撃の域を超えています。何を考えていたのか聞きはしませんが、少し、セーブしていただけたらと思います」
ダンが言うと、
ゼンがワープしてこちらに来た。
「今の爆発を、人間が1人だけで起こしただなんて感動だよ! 後で色々詳しく聞かせてほしいな、みんなでお茶でも飲みながらさ」
というと、ゼンは指をパチンと鳴らして消えた。
ダンと違い、ゼンは聞く気満々のようだ。
私が神力を撃ち込んだ場所には、大きな穴が開いている。範囲は広いが、そこまで深さはなさそうだ。
地面の形を変えてしまうと、ゴウカの復旧に無駄な時間をかけてしまう事になる。
撃つ時は慎重にならなれば。
「セーブ……か」
私は出来るだけ感情を抑え、遠くにいる魔物を指さし、笑った。
ドッカーーーン!
バラバラバラバラ
この世界に来てから、ずっと一緒にいてくれていたルルを失った。心は絶望に押し潰されそうになっている。
でも、ルルが何の為に私を助けたのか、落ち込む私を見て何と言うだろうか、と考えると、絶望に呑まれている場合ではない。
ルルが、自身の存在をかけて作ってくれた、これから先の未来を、私が捨てるわけにはいかない。
私は大きく深呼吸をする。
落ち着かなければならない……大好きなルルの事で頭を埋めてはならない。
今必要なのは力のセーブだ。
私の力は、自身の感情により威力が変わる。
楽しい、嬉しい等のプラスの感情だと強くなる。
その中でも、大切な人を想う時に、最大火力を発揮する事が判明した。
今は、この戦いに集中する。
それで良いんだよね……ルル。
ここにルルがいたら、
『遠慮などせず、バッタバッタと魔物共をやっつけてください!』
と言って、ニヤッと笑うのだろう。
私は胸に手を当て、自身の感情を鎮める。
もう、相当な数の魔物を倒したはずだが、一向に減る気配がない。皆も魔人を倒してくれている。
数の暴力とはこの事だ。
数千体を相手にするとなると、相当な時間がかかる。
自分達が魔物や魔人に餌を与えてしまった事で、凄まじい数になってしまっている。
楽しもう。これだけ的があれば、どこに撃っても当たる。
「なあ、レイル……俺達が神力や魔法を使うからこんなに敵が増えたんだよな? こいつらをまた同じ方法で倒したら増える一方じゃないか?」
アークが言いにくそうに言った。
それもそうだ。だが、神力を撃ち込む以外に倒す方法が無い。
私は眼鏡をかけた。
「そうだけど……じゃあ、どうしたらいいの?」
ルルを失ったのに、戦う事も出来ないのか。
ここから私が活躍して、ゴウカを取り戻す所をルルに見せたいのに……。
すると、
ゴウカの中心が光った。
その光がだんだん広がっていく。
「……来た」
ジェットの声が聞こえる。
「わあ、神様」
イシスの嬉しそうな声。
「とうとう来られたんだろ?」
最後にグランの歓喜の声。
眩い光が、ゴウカを包み込む。
「ここはゴウカ? だいぶ変わっちゃったんだねえ。この状況は……あんた達、ここで悪さしてんじゃないよ」
気の強そうな女性の声。
ザッという音が聞こえたと思うと、数千の魔物と魔人が一斉にひれ伏した。
光が収まると、声の主が姿を現した。
銀色の長い髪に、赤い瞳の美しい女性。
魔人の特徴である、ギザギザの歯は見当たらないが、小さなツノと、黒い爪が魔人であることを物語っている。
「魔王……」
圧倒的なオーラに、私は思わず呟いていた。
その女性を見たゼンが、
「わあ! ローズじゃないか! 久しぶりだねー。元気だった? 今、魔人として出現したんだから元気だった? という質問はおかしいかな。それにしても、また会えて嬉しいよ」
と、本当に嬉しそうに話しかけた。
知り合いが魔人として現れた事に、驚きはないのだろうか。
ゼンは女性を『ローズ』と言った。
ローズというと、オルレアの母親で、ヴェルデの妻である、あのローズなのだろうか?
そう言われると、どことなくオルレアと似ている。
オルレアとヴェルデの性格を考えると、ローズは穏やかな人だったのだろうと勝手にイメージを膨らませていたが、実際は豪快で、気の強そうな、あの2人とは似ても似つかない性格の持ち主のようだ。
ローズと呼ばれた女性が、ゼンの方を見た。
「その声はゼン? はっはっは! あんたは何も変わらないねえ。ずっと子供のままじゃないの。そろそろ成長したらどうなのさ?」
ローズも嬉しそうにゼンに言った。
どうやら、2人は仲が良いらしい。ゼンとヴェルデの仲を考えると頷ける。
見た目は、お淑やかな女性といった雰囲気を漂わせるローズは、性格とのアンバランスさで、ギャップが凄い。
「今ローズって言ったか? ローズってオルレアの母親の名前だったよな。どうなってんだ? 何でオルレアの母親が魔人になって現れたんだよ」
アークが混乱しながら言った。
何故魔人になっているのか、何故魔物と魔人がローズにひれ伏しているのか。
「ぼくは大神官なんだ。見た目の成長なんて小さな問題だよ。それにしても……君が魔人としてここにいるという事は、魔人に取り込まれる時に、逆に君が魔人を取り込んだんだね」
ゼンは何を言っているのだろう。
魔人を取り込む? ローズは人間だったはずだ。
人間が魔人を取り込めるはずがない。
「話は後にしないかい? まずはこいつらをどうにかしないとねえ。あたしが『従属』でこいつらを止めておくから、その間に一気に倒しな」
ローズが綺麗な顔で、恐ろしい能力を口にした。
今、魔物や魔人がローズにひれ伏しているのは、『従属』という能力のおかげらしい。
50年前にこの能力は使わなかったのだろうか……。
「それには問題があります」
アークが口を開いた。
「ほう……問題? どんな問題があるのか教えてくれる? カッコいいお兄さん」
ローズがアークを見て、からかうように言った。
アークは、顔を真っ赤にして、
「俺は、アークといいます。ゴウカの大地は、魔力を吸収し、その魔力をもとに魔物や魔人の『核』が発生します。なので、もし、今ここにいる者全てを倒したとしても、その時に放った魔法により、また大群が出現してしまいます」
と言って、ローズの目を見た。
「アーク、今の勇者ねえ……こいつらに魔法は効かないのを分かって言っているんだろうね? 本当に魔法で倒せるとして、今言った問題点をどう無くすか……」
ローズは聖剣を見て、アークが勇者だと分かったらしい。
「あたしの能力なら、その問題を無くしてあげる事は出来そうだ。だが、1度しか使えない上に、すぐに効果が切れる。1発で全てを倒すくらいしてもらわなきゃいけないかもねえ。どうだい? あんた達に出来るのかい?」
ローズは笑っているが、言っている事が嘘だとは思えなかった。
チャンスは1度、そして、ここにいる数千体の敵を一気に倒さなければならない。
「おい! さっきのやべえ奴を最大にデカくしたら、ゴウカくらい吹き飛ばせんじゃねえのかよ!」
ジェットが、楽しそうに大きな声で言った。
先程の爆発の大きさが気に入ったらしい。
正確には、ゴウカの半分だ。
何故か魔物や魔人は、ゴウカの中でも、オルカラ王国側にしか存在していない。
ゴウカの中心から線が引かれているかのように、いる側といない側に分かれている。
ゴウカと接している、『サモラ王国』側には1体もいない事で、明らかに誰かの陰謀である事が推測される。
「んん? なんだか威勢の良いのがいるねえ。魔人……? 『記憶持ち』が3体もいるのかい。あんた達が、人間と争っていないようで安心したよ。もし、あたしの家族の敵なら殺しちまう所だった」
そう言うと、ローズは舌なめずりをした。




