笑顔の破壊力 lv.8
ゴウカという街に、私にしか倒せない魔物がいる。恐らく、一匹やニ匹ではないだろう。
私は一人しかいないのに、魔物が数十、数百いたら……勝ち目はあるのだろうか。
ルルは目を輝かせている。気になる事は聞いておいた方が良いだろう。
「魔物がどれくらいの数いるのかはわかってるの? 魔物にはどんな能力があるのか、もし複数いる場合に、私一人で対処できるのかとか、不安な事が多いよね」
と私が言うと、
「魔物の数は恐らく数十匹だと言われています。その辺にいる雑魚とは違い、圧倒的に強いので【ゴウカの魔物】と呼ばれ、区別されています! 【ゴウカの魔物】は、記録の無い種類の魔物で、殆ど何もわかっていません」
とルルは気まずそうな顔をして続けた。
「五十年前に現れてはいたのですが、対応できる者がいないので、結界の中で放置している状態です! ご主人様お一人で倒せるのか、と聞かれますと、ぜひ倒していただけたら幸いです! とルルは答えるしかありません」
ルルはしゅんとして言った。
問題しか無いのでは……。
私以外倒せない魔物が数十匹いて、魔物の中でもどんな種類かもわからなくて、この五十年間ただ放置されていただけ……。
それは国の怠慢としか言いようがない。
報告の件といい、ルルは国に雇われているわけではないようだけれど、なんでこんなにオルカラ王国に肩入れしているのだろう。
私の様子を伺っていたルルがまた話し始めた。
「能力ですが、【ゴウカの魔物】が作り出す毒のようなものは、何もかもを砂に変えてしまいます。建物や生物、あらゆる物全てをです! よって、ゴウカは砂漠と化しています。魔法も物理攻撃も効かない以上、今のところ唯一効果が見られた、『聖女の結界』で防ぐしかありませんでした。しかし、結界には追加効果も無く、国民は魔物が結界を破って出てこない事を祈るしかできないのです」
そう言うと、ルルは私にお願いするように、両手を前に出し、指を組んでこちらを見た。
お願いされなくても、もう私は魔物を倒す役割を受け入れると決めているけれど、一人で、というのはどう考えても無理だ。
「わかった。私がやらないと、ゴウカの問題は終わらないんでしょ? 【ゴウカの魔物】はこの国での生活に慣れて、準備が整い次第、ちゃんと作戦を練って対処しよう。流石に問題点が多すぎるから。今すぐは無理だけど、絶対に魔物討伐には参加するって約束する」
私は今ではない事を念入りに伝えた。
「ご主人様あああ」
ルルが号泣しながら抱きついてきた。
「ルルは正直言いにくかったのです。ご主人様はずっと自由のない人生を歩まれていたのに、異世界に来てなお、自由な人生を約束して差し上げられないのが辛くて、ルルは……ルルは………」
私は、泣いて言葉が出ないルルの頭をなでた。
「もう一度言うけど、『今』ではないからね? これから、この世界での人生は、普通の人生では経験できないものになりそうだし、今は最低限のやりたい事とやるべき事をさせて」
と言い、私は立ち上がる。
「ルル! 早く支度して買い物に行こう!」
今の不安を打ち消すように、出来るだけ明るい声で言った。
私は急いで部屋に戻り、身支度を整え、動かない時計を持ち、リビングへ行くと、ルルがワンポイントに眼鏡の刺繍がしてある、白いショルダーバッグを手渡してきた。
「このバッグはご主人様のためにルルが手作りした物です! 一見ただの小さいバッグですが、見た目の数百倍もの収納力があるという優れ物になっております!」
物凄く得意気な顔をしているルルにお礼を言い、バッグを受け取った。
これは……異世界でも一、ニを争う優秀なレアアイテム、『マジックバッグ』だ。基本的に手に入れるのに苦労するはずの代物をまさか手作りで貰えるとは……。
「ルルは多才なんだね。でも、この眼鏡の刺繍は、いらなかったかな」
と私は刺繍を指さして言うと、ルルは興奮ぎみに、
「何を言っていらっしゃるのですか! ご主人様といえば、世界でただ一人、『神力』を扱える方! そのご主人様と肌身離れず、神力をコントロールするその眼鏡こそ! ご主人様のトレードマークになるのです!」
と言った。
眼鏡がトレードマークは最悪だ。
そもそも私は、目が悪いわけではない。
いずれ、世論が私=眼鏡になりそうになったら、反対声明を発表するしかない。
私の名前が知られることがあれば、だが。
私は、今もらったバッグに部屋から持って来た時計を入れて、
「そっか。まあ、皆がどう思うかはわからないから、ルルは他の人に眼鏡がトレードマークなんて事を言いふらさないようにね。思う事は自由だけど、自分の中に留めておいて」
一応、ルルに口止めをした。
「じゃあ行こっか」
と言い、私は、異世界に来て初めて、買い物に出かけた。
家を出たら、昨日植えた植物達にたっぷり水をやり、
「いってきます」
と声をかけた。
丘を下り、ルルの案内で森を抜けて、相当な距離を歩き、私達が住む街、ニライの中心部へ辿り着いた。
元の世界では、車や公共交通機関を使わないと行けないであろう距離を歩いたが、早歩き程度の速度で、体感は二十分程しかかかっていない。
『身体強化』が凄すぎる。
ルルが私と同じくらいのペースで動けるのはもう何も疑問に思わなくなった。ルルは、完璧超人だ。多分、出来ない事は、ほぼ無いのだろう。
中心部に位置するここには、沢山の建築物や沢山の店があり、何より、沢山の人がいた。ルルからニライは田舎だと聞いていたから、少しの市場がある程度だと思っていたが、ここまで賑わっているとは予想外だ。
ここが王都だと言われても、受け入れてしまうだろう。
これで田舎なら、王都はどれほどの街なのか、凄く興味が湧いた。
「オルカラ王国には、五つの街以外の場所の名称は無いのですよ。今いるこの場所にも名前はなく、国民は皆、ニライの中心街と呼んでいます、ここはニライで一番賑わっている場所ですよ!」
ルルは楽しそうに説明してくれた。
それからしばらく、私とルルは、ニライの中心街の主要なお店を周り、予め欲しい物の値段や質感を確認したり、ルルのおすすめの店で昼食をとった。
そして、少し休憩してから、何でも買い取ってもらえるという雑貨屋のような店に入った。
雑貨屋の中には、様々な商品が所狭しと置かれていた。だが、商品は見やすく、店内は清潔感がある。
少し店内を見回っていると、奥から店主と思われる女性がこちらに近づいてきた。
グレーの髪を綺麗に後ろにまとめ、皺一つ無い落ち着いた色のワンピースを着ている。雑貨屋の店主というよりは、貴族の奥様といった風貌だ。
「いらっしゃいませ。私はこの店の店主で御座います。何かお探しですか?」
店主は丁寧な口調で私に言った。
私はバッグから時計を取り出し、
「これを買い取っていただきたいのですが」
と言い、差し出した。
時計を見た店主の目つきが変わり、
「そちらは! 触らせていただいても宜しいですか? お二人共お座りください!」
と言い、私が差し出した時計を、持っていたハンカチ越しに受け取り、丁寧に店の奥のテーブルに置くと、小さな丸いテーブルと、椅子を二脚用意してくれた。
「少々お待ちいただいて宜しいですか? お茶菓子をご用意させていただきますので、ごゆっくりお過ごしください。狭い店ですが、見て回っていただいて結構です」
と言うなり、店主はてきぱきと、ティーポットをテーブルの真ん中に置き、二客のカップに紅茶を注いでから、高そうなお皿に乗せた美味しそうなケーキを持ってきて、私とルルの前に置いてくれた。
「私は、先程のお品物を鑑定させていただく為、失礼致します。何か御用がおありでしたら、ベルでお呼びください」
店主はそう言って、ベルをテーブルに置いて、店の奥へ行った。
私とルルは美味しい紅茶とケーキを味わいながら、店主に渡した時計について話した。
「あれが異世界の物って気付いたのかな? やっぱり異世界の物は価値が高いの?」
私がルルに聞くと、
ルルは、
「当たり前じゃ無いですか! この世界には無い技術、素材なのはもちろん、店主には異世界の物かというよりも、あれが何なのかすら、わからないはずです!」
と言い、ふふんっと笑った。
「この世界に時計は無いの? 時間はどうやって知るの?」
時計が無いだなんて、不便にも程がある。何をするにも時間がわからなければ、細かい予定も立てられない。
私の質問に、
「この世界では、太陽と月の他にもう一つ、『時星』というものがあります。この『時星』は、毎日、空を一周するんですが、一周の間に四回色が変わります!雨の日も、雪の日も、どんな天気でもはっきり見えるんですよ!」
そう言って、ルルは持っていたカップをテーブルに置いた。
「時星の色と位置で今の時間が簡単にわかります! 外を見れば子供でも今の時間がわかるので、時計を必要としないのです。時星を見るだけでは、ご主人様の元いた世界のように、何分、何秒という細かい単位はわからないので、皆、大まかな時間で日々の生活を送っていますが、特に不便だという話は聞いたことが無いですよ!」
そう答えるルルは、本当に何でも知っている。
この話を聞いた感じ、時計に価値はあまり無さそうだ。少しでも値段がつけばありがたいと思っておこう。
それにしても時星か。そういえば、この世界にきて空を見上げていない。余裕だと思っていたけれど、本当はいっぱいいっぱいだったのか。この店を出たら、時星を見てみよう。
「星が時間を知らせるって凄くファンタジーだね。元の世界でも、太陽の位置で時間を知る、とかはあったけど、時星はそれの上位互換なのかも」
私は元の世界で読んだ本を思い出した。日時計という、太陽が作る影により時間が知れる仕組み。
あれは、太陽が出ている時にしか使えない。時星は雨でも見えると言っていたけれど、どうなっているのだろう。
そんな話をしていると、店主が高そうな布に時計を乗せてこちらに戻ってきた。
「お待たせ致しました。こちらのお品物の鑑定が終了致しました」
そう言って店主は頭を下げた。
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