笑顔の破壊力 lv.77
「戦闘狂だね。英雄と勇者がやる気なら、ぼく達、サポーターも頑張らないとね」
ゼンが言うと、
「先程から手は抜いておりませんが、もう少し、戦いを楽しんでも良いのかもしれません」
そう言ってダンは、ポーションを取り出し飲んだ。
魔人の方を見ると、無くなっていたグランの右腕が治っている。この間にイシスが断面に魔力石を当てていたのだろう。
グランの攻撃が殆ど口を使うものであった事から、右腕が無いから弱い、という事は無さそうだった。
「イシス、グラン、やるぞ」
ジェットが言った。
凄い……ここから本気を出そうとしているのがわかる。
本に出てくる敵も、何故か始めから本気を出さず、後から強くなる。この3体も少し見た目が変わったりするのだろうか。
この世界で身体強化はレアな魔法だと聞いた。だが、魔人なら出来るのか。
アークとジェットとの間に力の差は無い、ゼンとダンもグランと余裕をもって戦っている訳では無かった。
「……止めるか」
私は呟いた後、魔人3体の位置を確認した。
私は右腕を上げ、左目を閉じ、右目で照準を合わせた。
「ジェット、イシス、グラン、撃つよ!」
そう言って笑う。
強化なんてさせない、進化なんてさせない。ここは本の中ではない。私が現実を教えてやる。
「はははははははっ! 避けてみて!」
「は?」
とジェットの声が小さく聞こえる。
ドッカーーーーーーン!!!
「え、ちょっと待……」
イシスの声だ。
ドッカーーーーーーン!!!
「グランは避けれないんだろ?」
最後はグランに向かい笑う。
ドッカーーーーーーン!!!
3箇所で大きな爆発が起こり、砂煙が上がっている。一応宣言して撃ったが、あの3体は生きているだろうか。
「レイル、何で撃つ事を教えたんだよ?」
アークが不思議そうに聞いた。
戦場で殺し合いをしている相手に、今から攻撃をすると声をかけたことが相当変に映ったようだ。
「私、あの3体を倒したいけど、簡単に倒れてほしくないんだよね。なんか、あまり悪い奴らじゃ無い気がして」
私は眼鏡をかけてから、アークに向かって笑った。
アークは呆れたように笑ってから、
「この国の運命はレイルが握ってるんだろ? たぶん、その判断も世界の必然なんだろうし、俺は、レイルがしたいようにするべきだと思う」
アークは真っ直ぐな人だ。
「いつも私を肯定してくれてありがとう」
そう言って私は、左手で丸を作り、左目で覗く。砂で悪くなった視界の中から、魔人の色を探す。
ジェットとグランの色が見えた。
意外にもまだ生きているようだ。イシスがいない……。
私は高くジャンプし、アークは後ろへ飛び退いた。
イシスが地中から、私達を狙っていた。
「イシス、こんな所にいたらだめでしょ」
私は足元からイシスが頭を出すタイミングで笑……。
「イシス! 下がれ!」
ジェットが叫ぶ。ならば……。
私は地中に戻ったイシスを放置し、ジェットに向かい指をさし、笑った。
「あああああああ!」
ジェットの声がする。
すると、ゼンとダンがワープでこちらに来た。
「何でだろう、『我らが英雄』が悪役に見えてしまうね」
ゼンが満面の笑みで言った。
ダンは「フッ」と笑って、
「いつの時代も、強い者にひれ伏せられる弱者が可哀想に見えるものです」
そう言って、私を見た。
「レイルは意外と容赦ないからな」
アークは、ジェットがいた方向を見て言った。
「ジェットさん大丈夫ですか?」
イシスがジェットの元まで辿り着いたようだ。
損傷がひどいのか、焦ったような声だった。
「グランがあいつらを止めるんだろ? その間にジェットを頼むんだろ?」
グランが私達の前に現れ、口を大きく開けて、黒いヘドロと、黒い小さな球を広範囲に撒いた。
グランは体の中で作った毒を、体外に排出する事ができるようだ。技自体は、あまり他の魔人と変わらない。
すると、グランが大きく息を吸い込み、シャアアアアアアッと吐き出すと、黒い毒の霧が発生した。
私達は、今いる場所より前に進めない。
「魔人でも毒霧を使えるとは……技を総動員しているようですね。それ程仲間を守りたいのでしょうか」
ダンは、そう冷静に言った後に、白い毒の霧を発生させた。
白い霧に当たると、黒い霧と黒い球がジュワッと消えていくが、グランは霧を排出し続けている。
「魔人が仲間を守る所なんて見たくない……」
アークが呟いた。
「アーク、騙されないでって言いたいけど、こんなに必死にジェットを守る所を見てると、私何やってるんだろうって思えてくる」
私は、目の前に広がる光景に違和感があった。
そもそも、あの3体に目的を感じない。オルカラ王国を滅ぼそう、勇者を倒す等の明確な意思が見えないのだ。
「魔人は何の為に戦ってるんだろう。これって、私が攻撃したから始まった戦いだよね」
不安だった。
もし、こちらが侵略者のような事をしているのなら……。
「ぼくも少し変だと思う。あれだけ仲間を想える魔人が、ぼく達を相手になぜ戦っているのか。不完全だった魔人達と仲間という感じでも無かったよね」
ゼンもわからなくなっているようだ。
「そんな事を考えてしまうと、こちらに隙が出来てしまいます。わたくし共も仲間を守りたい気持ちは同じです」
ダンが真剣な表情で言った。
そうだ、この戦いは大切な人達を守るための戦いだ。この国で生きた人達が愛した街を取り戻すための戦いだ。
「そうだったね。ぼくは、歳で少し感情が動きやすくなっているみたいだ」
少年の見た目をしたゼンが言うと、物凄い違和感がある。
「俺も、覚悟を決めます。俺は皆を守りたい。俺がジェットを倒す」
アークが力強く言った。
ダンが透明の玉を右手に持ち、グランのヘドロに投げ入れたと同時に、私はグランに照準を合わせた。
「あなた達がどんな理由で戦っているにしろ、こっちにも守りたい物があるんだよ」
私が神力を撃とうとした瞬間、すごい数の針がこちらに飛んできた。
ゼンが物理結界を張ってくれなければ、危なかった。
針が飛んできた方を見ると、イシスがいた。イシスがグランを助けに来た。
「お前の相手はボクです。グランさんから離れてください」
イシスは地中に潜らずに戦うつもりらしい。
「イシス! その人間は強いんだろ? イシスだけじゃ勝てないんだろ? グランも手を貸すんだろ?」
グランは先程の小さな黒い球を出すと、黒い球が物凄いスピードで大きくなっていった。
空中に浮かぶ大きな黒い球。直感でこれはやばいとわかったが、逃げられない。
「ダン、頼むよ」
ゼンが言うと、指をパチンと鳴らした。すると、ゼンとダン、グランと黒い大きな球が目の前から消えた。
離れた場所にワープしたようだ。
パアアアアアアアアアン!
という大きな破裂音が響いた。
毒の雨。
遠くの、ゼンとダンがいる一帯に黒い雨が降っているのが見える。
ダンを見ると、透明な傘をさしている……傘?
形状は元の世界の傘と少し違うが、明らかに傘だ。
どうやら、大きな黒い球がどんな能力なのかを事前に予想し、『打ち消しの毒』を硬化させ作った透明の傘をさしているらしい。
傘に黒い雨が当たる度にジュワッと雨が溶ける。
ゼンは雨の届かない場所に物理結界を張り、どこからか出したらしい椅子に座っている。
だから「ダン頼むよ」だったのか……。
だが、ここで破裂していたら、全員やられていただろう。ゼンの冷静な判断に感謝しなければならない。
雨は、ダンでも流石に打ち消すのが難しいらしく、止むのを待っているようだ。
それなら、ゼンとダンがグランと一緒にワープする必要は無かったのではないか。
グランだけワープさせれば、1人で雨を降らしていただろう。
そんな事を考えて、自分の甘さを痛感する。私の考えはただの憶測だ。
まだ奥の手があり、ダンがいないと対処できない事が起こるかもしれない。
かもしれない、は悪い方に考えなければならない。楽観的な考えは自らの命を脅かす。




