笑顔の破壊力 lv.76
こういう時、物語では必ず助けが入る。イシスが何処からかグランを助けに来るはずだ。
私は眼鏡をかけ、左手で丸をつくり、左目で周囲を観察した。
ダンのすぐ近くの地中にイシスがいる。
「ダン、真下にイシスがいます」
私が言うと、ダンは真下に剣を突き立てた。
「……」
悔しそうなダンの表情を見るに、避けられたようだ。イシスは地中で素早く動けるらしい。
すると、イシスは倒れたグランの背後の地中から顔を出し、頭に爪を突き刺した。
黒い針は骨のようだと思ったが、イシスの爪だったらしい。イシスの能力なのか、爪に毒を仕込み、針のように細くして飛ばすようだ。
面白い。
今、グランに突き刺したのは解毒薬だろう。
ダンに声をかけたのは失敗だった。
あのままダンにグランを倒してもらって、私がイシスを倒すべきだったか……いや、あの位置のイシスを狙うと、ダンに当たっていた。
「レイル様。あの判断は正しいです。教えていただかなければ、わたくしはイシスにより倒されていたでしょう。ありがとうございます」
ダンが言った。
相変わらず私の考えている事が分かるらしい。私はダンに向かって笑い、小さく頭を下げた。
グランが起きる気配はない。解毒薬に即効性はないようだ。
その時、
「おいクソ虫、俺が見えるか」
ジェットの声だ。
「何だよ。見えるに決まっ……てる。クソ……」
どうやら、アークはジェットと目を合わせたらしい。
グランが動けなくなった事で、こちらの人数も削る事にしたようだ。
素直な性格は戦いにおいてマイナス要素が多い。特にアークは純粋すぎる
ジェットも目を逸らせない状況だが、アークと違って、目以外は自由に動かせるようだ。
「ごめん、皆が敵を追い込んでいる時に、俺が捕まってしまった」
アークが悔しそうに言った。
「おいゴミ虫共、交換だ。このクソ虫とそこのデブに今から5秒間お互いに手を出さないと約束しろ」
ジェットが言った。
どうやら、動けないアークを見逃す代わりにグランを解放しろと言いたいらしい。
確実に倒される寸前のアークと、もしかすると今にも目覚めるかもしれないグランを天秤にかけて、交渉に持っていったという事は、解毒薬を打ってもなお、起きるのには時間がかかるのだろう。
どれだけ強力な毒だったのか。
睡眠薬のような効果だと思っていたが、グランだから眠っているだけで、魔人でなければ即死する代物だと考えると合点がいく。
もしかしたら、私がやれば、グランとイシスを同時に倒せるかもしれないが、私は今眼鏡をかけている。
眼鏡を外して笑うまでの間に何かしらのアクションを起こされてしまうだろう。
「おい、そこのクソチビ動くな」
ジェットが叫ぶと、ゼンが両手を上げニコッと笑った。
ワープでアークを動かそうとした事がバレたらしい。
ジェットは怒鳴り散らすだけの俺様ではなく、中々頭が切れるようだ。
「そこの毒虫とクソチビはそのデブから離れろ」
ジェットが指示を出す。
毒虫はダン、クソチビはゼンのようだ。ネーミングセンスに笑いそうになる。
「約束を守るのかぼく達にはわからない。レイルちゃんどうする?」
ゼンが困った表情で言った。
私はアークを見た。首に刃物のように変形した腕を当てられている。……これは詰んでる。
「2人はグランから離れてください」
私が言うと、ゼンとダンは頷き、グランから離れた。
ジェットもアークと目を合わせながら離れると、
「よし、数えるぞ」
と言い、「1・2」と数えだした。
その間にゼンが指をパチンと鳴らし、アークを私の隣にワープさせ、ジェットは走ってグランの元へ行き、巨体を蹴り飛ばし、私達との距離をとった。
「4・5だ。今から改めて殺し合いといこうぜ」
ジェットは意外にもしっかりと約束を守った。
「俺のせいで……」
アークは落ち込んだ様子だが、両手でパンッと自身の頬を叩き、
「もう騙されないぞ。ごめん皆、俺の失態は俺が取り返す」
そう言うと、深く深呼吸をした。
だが、3体の魔人とは距離がある。
「アーク、急がなくても良いんだよ。向こうもこちらの出方を伺っているからね」
ゼンが言うと、アークはホッとしたような表情になった。
責任を感じ、緊張していたのだろう。
「ああーよく寝たんだろ? あれー?グランなんで寝てたんだろ? 確か、イシスの針がグランに当たって……イシス! なんであんな……うは! グランの顔がおかしいんだろ?」
グランが起きたようだ。今の間にジェットに何度も蹴られていたグランの顔はパンパンに腫れ、誰かわからない。
だが、すぐに回復し、元の顔に戻った。
「うるせーよデブ、寝起きくらい大人しくしとけや」
ジェットがダルそうにグランに言った。
「あの回復力はわたくしではどうにもなりませんね。レイル様とアーク様にしかトドメは刺せないかもしれません」
ダンが残念そうに言った。
ダンの毒では削っても、すぐに回復されてしまう。
「今、魔人は1箇所に集まっていますね」
私が言うと、風魔法により3体の魔人にも聞こえたらしく、三方に散った。
「はははっ本当に面白いな」
ゼンが笑い出した。
するとジェットが、
「おいイシス、あの女の能力は何だ? どうやってあの爆発を起こしてんだよ」
と言ってイシスを見た。私にあだ名はつけていないらしい。
「そんなのボクにもわかりませんよ。あれはボク等を絶やす為に生まれたんですよ」
イシスは表情は無いが、口調は恐怖を滲ませている。
「絶やすじゃなくて倒すなんだろ? あれ? 絶やすでも間違いじゃないんだろ? まさかイシスがおかしくなったんだろ?」
グランが混乱しだした。話している言葉の意味が合っているほうがおかしいらしい。
「能力がわからないんじゃ無闇に近寄れねえだろ。イシスの針は、あの女の目の前で落ちた。爆発は離れたところで起きる。化け物かよ」
ジェットが言った。
「あーあの、いかにも狙ったようなポーズをした時に、爆発してましたが、ポーズが無くても技が発覚していましたね」
イシスが無表情で、声に感情をのせながら言った。
「発覚じゃなくて発動なんだろ? 何もしなくても発動するって事なんだろ? それはズルいんだろ?」
グランが不満そうに言った。
どうやら私の能力を把握しきれていないらしい。ポーズありきだと思っていたのだろう。実際、笑ったら目からビームが出るだなんて誰も思わない。
「だからあれと戦いたくないって言ってるんですよ。グランさん手をください。どうやって攻撃しているかわからないです」
イシスは1人で戦いたくないらしい。まだそんなに凄い戦いを繰り広げてはいない。イシスは慎重なのかもしれない。
「手を貸してくださいなんだろ? イシス、言葉をちゃんと使うんだろ?」
グランがツッコミを入れる。
ゼンを見ると、魔人のやり取りを聞いてニヤニヤと笑っている。
「レイルはあんな強い魔人に恐れられてるのかよ。さすが英雄……なのか?」
アークは、何が起きているのかわかっていないようだ。
「早く終わらせてルルとオルレアの所に帰ろう」
そう言って私は眼鏡を外した。
空気が変わる。
ピリピリとしたこの空気……攻撃するのを許されているような気がする。
この戦いが始まってから何発神力を撃っただろう。
足りない。
「ねえアーク。戦うのってなんでこんなに楽しいんだろうね」
私は隣にいるアークに言った。
アークは驚いたような顔をした後に、
「確かに楽しい……俺は自警団で悪い奴を捕まえたり、団員や師匠と模擬戦をするくらいしか戦いの経験が無かったんだが、今回初めて殺し合いをしてる」
そう言ってジェットを指さし、
「そして相手が奴だ。これ以上無いくらい強い。自慢じゃないが俺は強い、その俺と対等の相手と本気でやり合えるなんて思ってなかった……最高だよ」
言い終わると、アークはこちらを向いてニカっと笑った。




